
下期がスタートし、来年の事業計画とあわせて身の回りの整理を考え始める経営者の方も多い時期ではないでしょうか。
「自社株は子どもに継がせるつもりだが、遺言は書いていない」——親族内承継を予定する社長に、こうした状態は少なくありません。日々の経営に追われるうちに、自社株の行き先という一番大切な備えが後回しになってしまうのです。
遺言がないまま万一のことが起きると、自社株は法定相続人全員による遺産分割協議の対象になり、後継者に確実に渡る保証がなくなります。この記事では、親族内承継を予定する社長に向けて、自社株を遺言書で確実に後継者へ残すための3つの注意点を整理します。
- 自社株を誰にどう残すか決めていない社長
- 遺言を書くべきか迷っている親族内承継予定の経営者
- 相続できょうだいがもめないか不安な後継者
- 自社株の分散を防ぐ具体策を知りたい方
- 遺言がないまま親族内承継を進めるとどうなるか
- 自社株を遺言書で確実に残す3つの注意点
- 遺言による備えを終えた先に手に入る未来
- 遺言だけでは対応しきれない場面とKICKの支援
私たちは中小企業診断士・事業承継士として、法人支援150社以上に携わってきました。その経験から、親族内承継における自社株対策の考え方をやさしく解説します。
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遺言がないまま親族内承継を進めるとどうなるか

親族内承継では「子どもに継がせる」と口約束していれば十分だと考えている社長が少なくありません。しかし、遺言がなければ、自社株を含む財産は民法の原則どおり相続人全員の話し合いで分けることになります。口約束は法的な効力を持たないため、いざというときに約束どおりに進む保証はありません。
自社株が「準共有」になり議決権が止まる
遺産分割協議が整うまでの間、自社株は相続人全員の準共有という状態に置かれます。議決権を行使するには、原則として相続人の中から権利を行使する代表者を1人決めて会社に通知する必要があります。
話し合いがまとまらなければ、代表者を決められず、株主総会での意思決定そのものが止まりかねません。経営判断が止まっている間に、取引先や金融機関の信頼が揺らぐリスクもあります。
後継者だけが自社株を相続する保証はない
相続人が複数いる場合、法定相続分にもとづく分割協議では、自社株が後継者以外の相続人にも分散して渡る可能性があります。事業に関わっていない相続人が株主になれば、経営に無関係な立場から議決権を持つことになり、将来の意思決定に支障が出かねません。
さらに、遺産分割協議が長引くほど、相続人同士の関係がこじれやすくなります。「まだ早い」と先送りした結果、家族の間に深い溝ができてしまったというケースも実際にあります。
遺留分の問題も残る
仮に生前贈与や種類株式の設計で後継者への集中を進めていても、遺言がなければ、それ以外の財産の分け方が定まらないままになりがちです。後継者以外の相続人には遺留分という最低限の取り分が民法で保障されており、これを侵害する分配は遺留分侵害額請求というかたちで争いに発展する場合があります。
遺言そのものは遺留分を消せる制度ではありませんが、財産の分け方と理由をあらかじめ明確にしておくことは、こうした事態への備えになります。
| 項目 | 遺言がない場合 | 遺言がある場合 |
|---|---|---|
| 自社株の行き先 | 遺産分割協議で決まる(未確定) | あらかじめ確定している |
| 議決権の行使 | 代表者選定まで止まりうる | 後継者がそのまま行使できる |
| 相続人間の関係 | 分割協議で対立しやすい | 想いを共有し理解を得やすい |
表のとおり、遺言の有無は自社株の行き先だけでなく、承継直後の経営そのものの安定にも影響します。次の項目では、遺言を検討する前提として見落とされやすい「名義株」の問題を確認します。
名義株がある場合はより複雑になる
創業から年数が経った会社では、税務上の理由や資金の都合で、実際の出資者と株主名簿の名義人が違う「名義株」が残っていることがあります。名義株が整理されないまま相続が発生すると、誰が本来の所有者で、遺言の対象になる財産なのかがあいまいなまま、相続人の間で議論が始まってしまいます。
遺言を作成する前提として、まずは自社株の名簿上の名義と実際の所有者が一致しているかを確認しておくことが欠かせません。名義株の整理そのものは、また別の切り口で詳しく扱う必要がある論点です。
次の章では、自社株を遺言書で確実に残すための3つの注意点を見ていきます。
自社株を遺言書で確実に残す親族内承継3つの注意点

事業承継を見据えた遺言には、一般的な財産分けの遺言とは違う配慮が要ります。自社株という換金しにくく、かつ議決権という経営権を伴う特殊な財産をどう扱うかが焦点になるためです。押さえておきたい注意点は次の3つです。
注意点1.公正証書遺言を基本にする
遺言には自筆証書遺言と公正証書遺言があります。自筆証書遺言は手軽に書ける一方、日付や署名など形式の不備で無効になるリスクがあり、遺言者の死後は家庭裁判所での検認という手続きも必要になります(法務局の自筆証書遺言書保管制度を使えば検認は不要です)。
公正証書遺言は、公証人役場で公証人と証人の立ち会いのもとに作成し、原本を公証役場が保管します。形式不備で無効になる心配が少なく、内容の実現力も高いため、自社株のように金額が大きく紛争になりやすい財産を扱う遺言では、公正証書遺言を基本にすることをおすすめします。作成には遺言者の戸籍謄本や印鑑証明書、株式の評価資料などの準備が必要になるため、公証人役場への相談は早めに動き始めるとよいでしょう。
注意点2.付言事項で想いを言葉にする
遺言書には、財産の配分を定める本文とは別に「付言事項」として、相続人へのメッセージを書き添えることができます。付言事項そのものに法的な効力はありませんが、なぜ後継者に自社株を集中させるのか、後継者以外の子にどのような想いを抱いているのかを言葉にしておくことで、遺された家族の納得感が変わります。
詳しくは事業承継コンサルティングのページでまとめています。
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付言事項は法的な拘束力を持つものではないため、遺留分の請求そのものを止める力はないという前提を理解したうえで活用することが大切です。
注意点3.定款の売渡請求条項とあわせて設計する
会社法には、相続などによって株式を取得した人に対し、会社がその株式の売渡しを請求できる制度があります。これをあらかじめ定款に定めておけば、遺言でカバーしきれなかった部分(相続人が想定外の形で株式を取得した場合など)への備えになります。
ただし、この制度で会社が株式を買い取れるのは、会社法上の分配可能額の範囲内という上限があります。分配可能額とは、会社が株主に配当できる財源の上限のことで、会社の利益や資本の状況によって変わります。買取りの原資をどう準備するかも、あわせて考えておく必要があります。
定款の変更には株主総会の特別決議が必要です。遺言の内容を検討するタイミングで、あわせて定款の見直しが必要かどうかも点検しておくと、後から手戻りが少なくなります。
| 注意点 | 内容 | 押さえどころ |
|---|---|---|
| 遺言の形式 | 公正証書遺言を基本にする | 自筆証書遺言は形式不備・検認の手間に注意 |
| 付言事項 | 配分の理由と想いを書き添える | 法的効力はないが紛争予防の一助になる |
| 定款の手当て | 相続人への売渡請求条項を検討する | 買取りは分配可能額の範囲内という上限がある |
この3つは、どれか1つだけでは十分に機能しません。遺言・付言事項・定款という3つの備えを組み合わせて、はじめて自社株を確実に後継者へ残す土台になります。
実行までの4つのステップ
実際に遺言を整えるまでの進め方は、一般的に次の流れになります。架空の事例ではなく、あくまで一般的な進め方の目安として参考にしてください。
- 現状の棚卸し:自社株の保有状況、名義株の有無、相続人の範囲を確認する
- 遺言の内容の検討:誰にどの財産を渡すか、付言事項に何を書くかを整理する
- 公正証書遺言の作成:公証人役場で証人の立ち会いのもと手続きを行う
- 定期的な見直し:会社の状況や家族構成の変化に応じて内容を点検する
特に見落とされやすいのが4番目の「定期的な見直し」です。一度書いた遺言を、その後の状況変化に合わせて更新しないまま放置してしまうケースは少なくありません。株主構成や後継者の状況が変わったときは、内容が実情に合っているかを確認する機会を持ちましょう。
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親族内承継|遺言による備えを終えた先に手に入る未来

自社株を遺言で確実に残す備えを終えると、親族内承継は次の3つの軸で変わります。
自社株の行き先が確定し、経営に空白が生まれない
万一のことが起きても、自社株の行き先はあらかじめ決まっています。遺産分割協議がまとまるまで議決権が止まる、という状態を避けられ、経営の意思決定が滞らずに続く安心につながります。
金融機関や取引先から見ても、経営者が変わる場面で意思決定が止まらない会社は、信頼を保ちやすいという副次的な効果もあります。承継のタイミングは、会社の内部だけでなく、社外からも見られているという意識を持っておくとよいでしょう。
相続人同士の関係を保てる
付言事項で配分の理由と想いを伝えておくことで、後継者以外の子も「なぜこの分け方になったのか」を理解しやすくなります。財産の話だからこそ、気持ちの行き違いを減らす準備が家族の関係を守ります。
兄弟姉妹の関係は、相続をきっかけに大きく変わってしまうことがあります。事前に想いを言葉にしておくことは、後継者だけでなく、後継者以外の家族への配慮でもあります。
後継者が経営に専念できる
株式の行き先や相続人との関係に不安を抱えたままでは、後継者は経営に集中しきれません。備えが整っていれば、後継者は承継後の経営そのものに気持ちを向けられるようになります。
先代が元気なうちに備えを終えておけば、後継者は就任した初日から、家族間の調整ではなく、会社の未来に意識を向けられます。
自社株の行き先を確定させ、家族の関係を保ちながら、後継者が安心して経営に専念できる状態を、共に手に入れましょう。
自社だけで進める限界と、事業承継士による伴走支援

遺言書の文案そのものを作成し、公正証書として仕上げるのは公証人・弁護士の領域です。遺留分をめぐる紛争が起きた場合の法的な対応も、弁護士の領域になります。自社株の評価や税負担にかかわる個別の判断は、税理士の領域です。KICKがこれらの専門家に代わって手続きを行うことはありません。
一方で、遺言・付言事項・定款の売渡請求条項という複数の備えを、事業承継全体の計画(自社株評価の考え方、後継者の育成、他の相続人への配慮)と整合させながら組み立てる作業は、誰か1人の専門家だけでは全体像を描ききれないことがよくあります。税理士・公証人・後継者の話がそれぞれ噛み合わないまま、時間だけが過ぎてしまう状態です。
私たちは中小企業診断士・事業承継士として、他の専門家を否定するのではなく、全体の設計図をつなぐ役割で伴走します。認定経営革新等支援機関として、公的な支援策の活用にも道筋をつけられます。
具体的には、自社株の保有状況や相続人の範囲といった現状の棚卸しをご一緒したうえで、遺言に盛り込みたい内容の方向性を整理し、公証人・税理士・弁護士など、必要な専門家へおつなぎします。誰に何を相談すればよいか分からないという状態そのものを解消することが、私たちの役割です。
「まだ元気だから」「まだ早い」と感じている今の状態こそ、落ち着いて選択肢を検討できるタイミングです。体調を崩してからでは、選べる対策の幅がどうしても狭まってしまいます。
遺言の作成は、財産の分け方を決める作業であると同時に、先代自身が経営から退く準備を頭の中で整理する機会でもあります。誰にどう引き継ぐかを自分の言葉で書き出すことで、日々の経営判断の中でも、後継者に何を任せ、何を自分が担うかの線引きが見えやすくなります。
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事業承継のよくある質問|親族内承継と遺言の疑問を解消

Q.遺言を書けば、事業承継税制(特例承継計画)の対策は不要になりますか?
A.いいえ、別の制度です。遺言は「誰に何を渡すか」を確定させる備えで、事業承継税制(特例承継計画)は自社株の贈与・相続にかかる税負担を猶予する制度です。特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日、実際に株式の贈与・相続を実行する期限は令和9年12月31日で、こちらは延長されない見込みとされています。「提出期限が延びた=まだ余裕がある」わけではない点に注意してください。制度は猶予であり、要件を満たさなくなれば打ち切られる可能性もあるため、遺言による備えとあわせて、両方を検討する必要があります。
Q.生前贈与ではなく遺言を選ぶ理由は何ですか?
A.どちらか一方を選ぶというより、性質の違う備えとして組み合わせるものです。生前贈与は、先代が元気なうちに計画的に自社株を移していく対策で、後継者の準備状況に合わせて段階的に進められます。一方で遺言は、万一のことが起きた際にどう分けるかを定める備えです。生前贈与だけでは対応しきれない財産や、贈与のタイミングが間に合わなかった部分をカバーする役割があります。
Q.自筆証書遺言ではダメですか?
A.無効というわけではありません。ただし形式の不備で無効になるリスクや、原本の紛失・改ざんの不安があります。法務局の自筆証書遺言書保管制度を使えば紛失や改ざんの不安は軽減できますが、内容の有効性まで公証人が確認してくれるわけではない点に注意が必要です。
Q.遺言はいつ書けばいいですか?
A.「まだ早い」と考えているうちに書いておくのが理想です。健康なうちであれば内容をじっくり検討でき、会社の状況や家族構成が変わったときは何度でも書き直せます。
Q.遺留分をゼロにすることはできますか?
A.遺言だけで遺留分をゼロにすることはできません。遺留分は民法で保障された最低限の取り分だからです。遺留分の民法特例(除外合意・固定合意)という別の制度を使えば、自社株を遺留分の計算対象から外す、または評価額をあらかじめ固定するといった対応が可能になりますが、推定相続人全員の合意や経済産業大臣の確認など要件が多く、時間もかかります。個別の状況に応じた検討が必要です。
Q.遺言の内容は生前に家族へ話しておくべきですか?
A.必須ではありませんが、付言事項で理由を書くことに加えて、可能な範囲で生前に方針を伝えておくと、相続発生時の驚きや反発を和らげやすくなります。
Q.自社株の評価はどう決まりますか?
A.非上場株式の評価には、類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式といった考え方があり、会社の規模や株主の立場によって使う方式が変わります。遺言で「誰にどれだけ渡すか」を検討する際も、評価の考え方を理解しておくと、他の相続人との公平さを考えるうえで参考になります。ただし、具体的な評価額の算定は税理士の領域です。
Q.経営者保証はどう扱われますか?
A.遺言は自社株や財産の分配を定めるものであり、金融機関との間の経営者保証契約そのものを書き換える効力はありません。保証の引継ぎや解除は、経営者保証に関するガイドラインにもとづき、金融機関との別の交渉が必要です。
Q.遺言があれば相続税の申告は不要になりますか?
A.いいえ、遺言の有無にかかわらず、相続税の申告や納税の要否・金額の判断は税理士の領域です。KICKが税務代理を行うことはありません。
Q.遺言の内容を実現する人(遺言執行者)は誰にすればよいですか?
A.遺言執行者は、遺言の内容にもとづいて自社株の名義変更などの実際の手続きを進める役割です。相続人の中から選ぶことも、専門家(弁護士や司法書士など)を指定することもできます。相続人同士の関係が複雑になりそうな場合や、後継者以外の相続人が手続きに協力的でない可能性がある場合は、専門家を指定しておくと、手続きが滞りにくくなります。
Q.KICKに相談すると何をしてもらえますか?
A.自社株の現状把握、遺言・付言事項・定款の手当てを含めた事業承継全体の設計、そして公証人・税理士・弁護士など必要な専門家との連携を、事業承継士として伴走しながら整理します。
まとめ
親族内承継では、遺言がないまま万一のことが起きると、自社株が遺産分割協議の対象になり、後継者へ確実に渡る保証がなくなります。
公正証書遺言を基本にする、付言事項で想いを言葉にする、定款の売渡請求条項とあわせて設計する——この3つの注意点を押さえることが、自社株を確実に後継者へ残す土台になります。
「まだ早い」と感じている今こそ、落ち着いて準備を始められるタイミングです。遺言の文案づくりや相続税の申告そのものは公証人・税理士の領域ですが、自社株評価や後継者育成といった事業承継全体の設計とあわせて考える視点は、私たちがお手伝いできます。自社株の行き先を、一緒に整理していきましょう。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは現状をお聞かせください。
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