
上期末を迎え、下期の数字と体制をどう整えるか考え始める時期ではないでしょうか。会社を譲る決断がまだ先だとしても、「株主が誰で、何株持っているか」を今のうちに正確に把握しておくかどうかで、いざという時の動きが大きく変わってきます。
第三者承継(M&A)で買い手が最も嫌がるのが、譲渡後も社外の少数株主が残る状態です。買い手企業から見ると、経営の自由度が下がるため、譲渡の話が進む前に株主構成を整理してほしいと求められることが少なくありません。とはいえ、少数株主から株式を買い取るにはまとまった資金が要ります。「そのお金をどう用意すればいいのか分からない」——そんな状況ではないでしょうか。
この記事では、第三者承継を見据えた自社株の買取資金を、法人保険の役割を再設計しながら準備する考え方を、中小企業診断士・事業承継士の立場から整理します。保険は商品を売るためのものではなく、承継のフェーズに合わせて役割を組み替えるものだという前提で解説します。決断がまだ固まっていない段階でも、株主構成と保険契約を早めに把握しておくことが、後々の交渉の余裕につながります。
- 会社を第三者へ譲る選択肢を考え始めた社長
- 社外の少数株主・名義株が気になっている経営者
- 買取資金の準備方法が分からず止まっている方
- 加入中の法人保険の目的があいまいな方
- M&Aの相談先をまだ決めていない後継者
- 第三者承継で少数株主の整理が必要になる理由
- 自社株買取資金を整える3つの手順
- 法人保険の解約返戻金を買取資金に充てる際の考え方
- 自社だけで進める場合の限界と専門家の関わり方
ご相談いただいても、保険への加入や乗り換えを前提にした営業は一切ありません。会社の状況をお聞きしたうえで、いま何を整理すべきかを一緒に考えます。
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第三者承継M&Aで自社株の買取資金が壁になる理由

中小企業のオーナー企業の多くは、社長や親族が9割以上の株式を持ち、残りの数パーセントを役員や元従業員、取引先などが持っている状態です。創業時の付き合いや相続の過程で株式が分散し、誰がどれだけ持っているのか社長自身も正確に把握していないことがあります。
買い手は少数株主が残ることを嫌う
事業承継のM&Aでは、買い手企業が発行済株式のすべてを取得したいと考えるのが一般的です。社外の少数株主が一人でも残ると、株主総会の運営や重要事項の決議に手間がかかり、買収後の経営の自由度が下がるため、譲渡条件の交渉で不利に働きやすくなります。
買い手からは「譲渡の前に株主を整理してほしい」と求められることが珍しくなく、対応が遅れると交渉自体が止まってしまうこともあります。
買取資金の準備には時間がかかる
少数株主から株式を買い取るには、まとまった現金が必要です。会社の運転資金や設備資金と同じ口座から出そうとすると、資金繰りを圧迫してしまうことがあります。買い手候補が現れてから慌てて資金を用意しようとしても、金額の見立てや交渉には相応の時間がかかり、間に合わないケースもあります。
自社株評価の考え方(類似業種比準方式・純資産価額方式など)を理解したうえで、いくら必要になりそうかを早めに見立てておくことが、譲渡の話が具体化したときの余裕につながります。
法人保険が「誰のためのものか」あいまいなまま残っている
多くの会社では、役員退職金や万一のときの備えとして法人保険に加入しています。しかし、契約から何年も経ち、当初の目的が忘れられたまま解約返戻金だけが積み上がっている契約も少なくありません。事業承継の前に見直せば買取資金の原資として使える契約でも、放置していると、いざという時にその存在自体を思い出せないこともあります。
先送りするほど株主はさらに分散する
「まだ譲る決断はしていないから」と株主整理を後回しにしている間にも、時間は進みます。少数株主のうち誰かが亡くなれば、その株式は相続によってさらに複数の相続人へ分かれることがあります。1人だった少数株主が、相続を経て3人・4人に増えてしまうと、後から全員の同意を得るのはさらに難しくなります。第三者承継を選択肢として持っておくなら、決断を先延ばしにするより先に、株主構成だけでも早めに把握しておくことに意味があります。
第三者承継を考え始めたら、株主構成の把握と法人保険の点検を早めに始めることが、後の交渉をスムーズにする土台になります。
自社株買取資金を法人保険で整える|事業承継M&Aの3つの手順

自社株の買取資金を法人保険で整えるといっても、いきなり保険の見直しから入るわけではありません。株主構成の把握、資金の設計、実行と名義の整理という3つの手順で進めると、無理のない準備ができます。
手順1:株主構成の棚卸し
まず、株主名簿を確認し、誰が何株持っているかを一覧にします。名義株(名前だけを借りている株式)が疑われる場合は、実際の出資者や経緯を確認する作業も必要です。この段階で、買い取る必要がある株式のおおよその数量が見えてきます。
創業時からの付き合いで株式を持ってもらった役員や、退職した元従業員が株式を保有したままになっているケースもよくあります。連絡先が分からなくなっている株主がいないかも、この段階で確認しておきたい点です。時間が経つほど連絡が取りにくくなるため、早めの棚卸しが後の交渉をスムーズにします。
手順2:買取資金の設計
次に、必要な資金をどう用意するかを設計します。法人保険に解約返戻金がある契約が残っていれば、その活用を検討する余地があります。ここで断っておきたいのは、解約返戻金の金額や返戻率をあらかじめ約束することはできないという点です。契約内容や経過年数によって受け取れる金額は変わるため、契約書や保険会社からの通知で個別に確認する必要があります。保険だけで足りない部分は、金融機関からの借入や自己資金と組み合わせて考えます。
この段階では、金額の設計だけでなく、契約そのものを点検する視点も欠かせません。次のような項目を一つずつ洗い出すと、いま何が過剰で何が足りていないかが見えてきます。
- 契約目的(役員退職金・買取資金・保障のどれを目的にした契約か)
- 被保険者・契約者・受取人が、承継後の体制と合っているか
- 保障額と解約返戻金の水準が、想定する買取資金の規模に見合っているか
- 財務への影響(解約時の益金・保険料の損金算入の扱い)
こうして一つひとつ点検していくと、目的があいまいなまま契約だけが残っている保険と、逆に保障が足りていない部分の両方が見えてきます。過剰な部分と不足している部分を同時に可視化することが、この手順のねらいです。
手順3:実行と契約の名義整理
資金のめどが立ったら、株式の買取を実行します。あわせて、保険契約の契約者・被保険者・受取人が承継後の体制と合っているかを確認し、必要であれば名義変更の手続きを進めます。被保険者が退任予定の社長のまま放置されている契約は、承継のタイミングで整理し忘れやすい点なので注意が必要です。
この3つの手順を、実際にどんな検討項目で進めるかを整理すると、次のようになります。
| 手順 | 主な検討項目 |
|---|---|
| 1. 株主構成の棚卸し | 株主名簿の確認/名義株の有無/連絡が取れない株主の有無 |
| 2. 買取資金の設計 | 必要資金の見立て/解約返戻金の活用余地/借入との組み合わせ |
| 3. 実行と名義整理 | 買取の実行時期/契約者・被保険者・受取人の確認/税理士への相談事項の整理 |
会社の自己株式として買い取るのか、後継者個人が買い取るのかによっても、必要な資金や手続きが変わります。個別の税務上の取扱いは、税理士に確認しながら進める領域です。詳しい進め方は、次のページでも紹介しています。
事業承継専属の保険代理店という考え方 中小企業の事業承継において、法人保険は長年にわたり「とりあえず加入してきたもの」になりがちです。創業期、成長期、拡大期と、その時々の経営判断の積み重ねで保険は増え、気づけば保険料負担が重くなっているケースも少なくありません。 一方で、「保険をやめ...
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少数株主を整理した先に、事業承継M&Aで手に入る未来

株主構成と法人保険の整理は、地味な作業に見えるかもしれません。しかし、これを済ませておくかどうかで、譲渡の交渉の進み方が大きく変わります。3つの軸で、その先にある未来を見てみましょう。
交渉の主導権を握れる
株式がすべて自社と経営陣に集約されていれば、買い手候補との交渉を自社のペースで進めやすくなります。買い手側から「まず株主を整理してください」と足止めされる場面が減り、話が具体的に進んだときにスムーズに次の段階へ移れます。
逆に、株主整理を後回しにしたまま買い手候補との話が進んでしまうと、交渉の途中で急いで少数株主を回らなければならず、足元を見られた条件を提示されることもあります。早めの準備は、交渉の入り口に立つ前の備えとして意味を持ちます。
従業員の雇用を守りやすくなる
株主整理が済んでいる会社は、買い手にとって引き継ぎやすい会社です。交渉が長引いて破談になるリスクが減れば、それだけ従業員の雇用や取引先との関係を維持したまま次の経営者へ引き継げる可能性が高まります。
交渉が長引けば長引くほど、社内に「会社が売られるらしい」という噂が広がりやすくなり、従業員の不安につながります。準備を整えたうえで交渉に入れれば、話がまとまるまでの期間も短くなり、従業員に余計な不安を与えずに済みます。
社長自身の資産と生活の見通しが立つ
買取資金や譲渡対価をどう受け取り、退任後の生活設計にどうつなげるかが早い段階で見えていれば、社長自身も安心して次の一歩を考えられます。法人保険の役割も、在任中の備えから、退任後の生活を支えるものへと切り替わっていきます。
会社の保険と社長個人の保険が、それぞれ何のために存在しているのかを整理しておくことも欠かせません。法人契約は会社の資金繰りや退職金の準備を担い、個人の保険は社長自身や家族の生活を守る役割を担います。この役割分担が明確になっているほど、譲渡後の生活設計を具体的に描きやすくなります。
株主構成の整理と法人保険の見直しは、会社を次の経営者へ渡すための土台づくりです。この土台を整えた先にある、交渉の主導権と従業員を守れる安心を、共に手に入れましょう。
自社だけで進める限界と、法人保険も含めた事業承継士の伴走支援

株主構成の把握、自社株の評価、法人保険の点検、買い手候補との交渉——第三者承継の準備は、扱う領域が多岐にわたります。社長がすべてを自分一人で抱え込もうとすると、日々の経営との両立が難しくなり、どこから手をつければよいか分からないまま時間だけが過ぎてしまいがちです。
専門家がバラバラに動くと話が噛み合わない
税理士は税務、保険担当者は保険、M&A仲介は譲渡交渉と、それぞれの専門家が別々の窓口として動くと、全体の整合性が取れないまま話が進んでしまうことがあります。誰も他の専門家を否定しているわけではなく、単に「全体を見ている人がいない」状態が問題なのです。
例えば、保険担当者は保険の話だけを、税理士は税務の話だけを説明してくれますが、「株主整理と買取資金と保険の見直しを、どの順番でどう組み合わせるか」という全体の設計まで面倒を見てくれる相手は、意外と見つかりません。社長が一人で情報を集めて組み立てようとすると、時間もエネルギーも取られてしまいます。
中小企業診断士・事業承継士としての立ち位置
KICKコンサルティング株式会社は、中小企業診断士・事業承継士(認定経営革新等支援機関)として、株主構成の棚卸しから買取資金の設計、法人保険の役割の再設計までを一体で整理し、税理士や保険の実務担当者と社長の間をつなぐ役割を担います。KICKは事業承継専属の保険代理店でもありますが、商品ありきの提案ではなく、事業承継の計画との整合性を優先して保険の役割を組み立てます。個別の税務判断や申告は税理士の領域であり、KICKが代わって行うものではありません。あくまで全体の設計図を描き、各専門家と社長をつなぐ伴走者として関わります。
支援の進め方
実際の支援は、大きく3つの段階で進めます。最初に会社の現状(株主構成・保険契約・財務状況)を一緒に把握し、次にどの手順から手をつけるかの対策を設計し、最後に税理士など他の専門家と連携しながら実行に移します。最初から結論を急がず、まず現状を正確に把握するところから始めるのがKICKのやり方です。
| 段階 | 主な内容 |
|---|---|
| 現状把握 | 株主名簿・保険契約・財務状況の棚卸し |
| 対策設計 | 買取資金の設計、法人保険の役割の再設計、優先順位の整理 |
| 実行・連携 | 税理士・保険の実務担当者・M&A仲介など各専門家との連携、実行支援 |
法人支援150社以上の実績の中には、株主構成が複雑なまま長年放置されていた会社もありました。「まだ早い」と思っているうちに動けなくなるのが一番もったいないため、譲る決断がまだ固まっていない段階からの相談も歓迎しています。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは現状をお聞かせください。
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事業承継M&Aと法人保険のよくある質問

Q. 少数株主が買取に応じてくれない場合はどうすればよいですか。
A. まずは丁寧に事情を説明し、買取価格の考え方についても納得を得られるよう話し合うことが基本です。どうしても合意に至らない場合の法的な手続きもありますが、専門的な判断が必要になるため、弁護士など専門家への相談が必要な領域です。
Q. 法人保険の解約返戻金は、必ず買取資金に使えますか。
A. 契約の種類や経過年数によって、受け取れる金額は大きく異なります。「必ずこれだけ戻る」と断定できるものではないため、現在の契約内容を確認したうえで、使える範囲を見立てる必要があります。
Q. 保険料はどこまで損金にできますか。
A. 2019年の法人税基本通達の改正により、法人向け定期保険等の保険料は、最高解約返戻率に応じて損金算入できる割合が区分されるようになりました。契約の種類や加入時期によって扱いが異なるため、「保険料は全額損金になる」と一律に考えるのは誤りです。具体的な区分や割合は、契約内容をもとに税理士に確認してください。
Q. 自社株の評価はどう考えればよいですか。
A. 非上場株式の評価には、類似業種比準方式や純資産価額方式など複数の考え方があります。会社の規模や状況によって使われる方式が変わるため、評価額を引き下げる具体的な手法をこの場で断定することはできません。自社の場合にどう評価されるかは、専門家に確認しながら考える必要があります。
Q. M&Aの相手はどうやって探せばよいですか。
A. 取引先や金融機関からの紹介、M&A仲介会社の活用など、いくつかの経路があります。KICKでは、相手探しそのものよりも、その前段階である株主整理や企業価値を高める準備の部分を中心に支援しています。
Q. 買取資金は融資で用意してもよいのですか。
A. 金融機関からの借入と自己資金、法人保険の解約返戻金などを組み合わせて用意する会社が多くあります。どの組み合わせが適切かは、会社の財務状況によって異なるため、個別に検討する必要があります。
Q. 役員退職金の準備と自社株買取資金の準備は同時に進められますか。
A. どちらも法人保険の解約返戻金を原資として検討されることが多いため、目的ごとに契約を整理しながら同時並行で進めることは可能です。ただし、一つの契約を複数の目的に無理に当てはめようとすると、いざという時に金額が足りなくなることがあるため、目的ごとの優先順位を整理しておくことが大切です。
Q. 従業員が持つ少数株式も整理の対象になりますか。
A. 対象になります。持株会などの形で従業員が株式を持っている場合は、制度の設計や買取のルールをあらかじめ確認しておく必要があります。福利厚生としての意味合いもあるため、単純な買取だけでなく、制度全体の見直しとあわせて考えることをおすすめします。
Q. 株主整理と法人保険の見直しは、どちらから始めればよいですか。
A. 会社によって状況が異なりますが、まずは両方とも「現状を把握する」ところから同時に始めることをおすすめしています。株主構成の棚卸しと保険契約の点検は、別々の作業のように見えて、実は買取資金の設計という一つの目的でつながっているためです。どちらか一方だけを先に進めると、後になって計画の見直しが必要になることがあります。
Q. 相談すると、保険の加入や乗り換えを勧められますか。
A. いいえ。KICKの相談は、現状の株主構成と保険契約を整理するところから始まります。加入や乗り換えを前提とした営業は行いません。整理した結果、保険以外の方法が適していると分かることもあります。
まとめ|自社株買取資金を法人保険で整える
第三者承継(M&A)では、少数株主が残ったままだと交渉の主導権を握りにくくなります。株主構成の棚卸し、買取資金の設計、実行と名義整理という3つの手順で早めに準備を進めておくことが、いざという時の交渉を有利に進める土台になります。
法人保険は、承継のフェーズに合わせて役割を組み替えるものであり、加入したら終わりではありません。役員退職金のための契約が、いつの間にか買取資金の候補にもなっていた、ということもあります。今の契約が、今の目的と合っているかを、一度点検してみる価値があります。決断を急ぐ必要はありません。まずは現状を正確に把握するところから、始めてみませんか。
ご相談いただいても、加入や乗り換えを前提とした営業は一切ありません。まずは株主構成と保険契約の現状を、KICKに聞かせてください。
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