【経営者必見】出版社の事業承継で編集ノウハウを残す5つの手立て

創業のときから、企画も著者との付き合いも、社長ご自身が引き受けてこられた。編集長に継がせたい気持ちはある。

けれど「あの企画を通す勘」や「あの著者との呼吸」まで渡せるのか——そんな不安をお持ちではないでしょうか。

結論から申し上げます。編集の勘は才能ではなく、判断の積み重ねなので、記録すれば渡せます

渡せない理由の多くは、才能の差ではなく、判断の中身が一度も言葉にされていないことにあります。

言葉にしないまま代を替えると、企画も著者も、社長の引退と一緒に会社から離れていきます。

この記事はこんな方におすすめです

  • 編集長への承継を考えている出版社の社長の方
  • 企画の判断が自分にしかできない経営者の方
  • 著者との関係が個人に付いている会社の方
  • 後継者の育て方が分からない経営者の方
  • 社内承継の進め方を知りたい後継者の方
この記事で分かること

  • 出版社の編集ノウハウが属人化しやすい5つの領域
  • 暗黙知を形式知に変える5つの手立てと、その順番
  • 事業の棚卸しで属人化の度合いを測る見方
  • 役員・従業員承継で株式・資金・個人保証をどう扱うか
  • 中小企業診断士・税理士・弁護士の役割の切り分け

KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士として、法人支援150社以上の実績で承継の全体設計に伴走してきました。

読み終えるころには、来週の企画会議で何を記録し始めればよいかが分かります。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは編集現場の現状をお聞かせください。

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出版社の事業承継で編集ノウハウが失われる理由と、属人化を放置した先に起きること

結論を先に述べます。編集ノウハウが失われるのは、後継者の力量が足りないからではありません。

判断の理由が一度も記録されていないため、渡す中身そのものが会社に存在しないからです。

この記事が前提にする承継の形

本記事が前提にするのは役員・従業員承継です。親族ではなく、編集長や幹部社員へ会社を引き継ぐ形を指します。

出版社では、この形が選ばれる場面が多くあります。事業の中身が人の判断に強く結びついているため、現場を知る人に託したいと考える経営者が多いからです。

役員・従業員承継とは、社内の役員や従業員が後継者となり、経営権と株式を引き継ぐ承継の形のことです。親族内承継や第三者への譲渡とは、必要になる準備が異なります。

違いは大きく3つあります。株式を買う資金を後継者が用意する必要があること、個人保証の引継ぎが論点になること、そして現場の実力を社内の誰もが知っているため、納得を得やすいことです。

属人化とは何か、暗黙知とは何か

属人化とは、特定の個人にしかできない状態で仕事が回っていることをいいます。担当が変わった瞬間に品質や速度が落ちるなら、その仕事は属人化しています。

暗黙知とは、本人が身体で覚えていて、言葉になっていない知識のことです。「この著者には電話より手紙がよい」といった判断が、これにあたります。

形式知とは、文書・表・手順書などの形になり、他人が読んで再現できる知識のことです。承継で渡せるのは、この形式知だけです。

つまり承継の準備とは、暗黙知を形式知に置き換える作業そのものです。

出版社の編集ノウハウが属人化する5つの領域

編集の仕事は幅が広いのですが、属人化が起きる場所はおおむね決まっています。次の5つです。

領域個人にたまっている判断失われたときに起きること
企画の通し方どんな企画なら勝負できるかの見立て会議が長引き、決まらない企画が増える
著者との付き合い方連絡の頻度・言い方・任せる範囲著者が離れ、次の依頼が来なくなる
部数の決め方初版部数と重版の判断の根拠返品が増える、または機会を逃す
進行管理入稿から見本までの逆算と無理の効かせ方刊行が遅れ、販売の計画が崩れる
校正の基準どこまで直すか、何を残すかの線引き品質がぶれ、書き手や読者の信頼を損なう

どれも決算書には出てきません。それでいて、会社の稼ぐ力の中心にあります。

この5つが社長ひとりの頭の中にある会社は、実質的に「社長という設備」で動いていることになります。

属人化を放置したまま代を替えると起きること

準備をしないまま承継すると、次のような状況が生まれます。

  • 後継者が企画の可否を決められず、判断が社長に戻り続ける
  • 著者が「担当が変わるなら」と他社へ移り、刊行点数が落ちる
  • 部数の根拠が引き継がれず、返品率と在庫が同時に悪化する
  • 進行の遅れが常態化し、書店の販促計画に乗せられなくなる
  • 校正の水準がぶれ、既刊の評判にまで影響が及ぶ

最も重いのは、社長が完全に離れられなくなることです。

代表印は渡したのに、企画の相談だけは毎週かかってくる。この状態が続くと、後継者は自信を持てず、社内も誰に従えばよいか分からなくなります。

属人化は、社長が現役のうちは長所として働きます。決断が速く、責任の所在も明確だからです。だからこそ気づきにくく、承継の直前になって初めて問題として現れます。

要するに、この章の要点は1つです。編集ノウハウは失われるのではなく、はじめから会社の形になっていなかった、ということです。

出版社の事業承継で編集ノウハウを形式知化する5つの手立て

結論を先に述べます。編集ノウハウを残す手立ては、次の5つです。

  1. 著者台帳と契約の一元化
  2. 企画会議の判断基準の言語化
  3. 部数決定の根拠の記録
  4. 進行フローの標準化
  5. 見習い期間の設計

形式知化とは、人の頭の中にある判断を、他人が読んで同じように動ける形に書き換えることをいいます。マニュアルを作ることと同じではありません。

手順だけを書いても、判断の理由が抜ければ再現できないからです。残すべきは作業ではなく、判断の理由です。

順番にも意味があります。1と3は記録が中心なので、日々の業務を止めずに始められます。2と4は会議と工程に手を入れるため、少し準備がいります。5は最後に置きます。前の4つがそろって初めて、見習い期間が意味を持つからです。

全体の設計と各手立ての落とし込みは、出版社の事業承継を支えるコンサルティングの中で扱う領域でもあります。

着手の前に、事業の棚卸しで属人化の度合いを測る

手を動かす前に、いまの属人化がどの程度かを測っておきます。ここを飛ばすと、直す必要のない場所に時間を使うことになります。

事業の棚卸しとは、会社の事業そのものの中身を調べ、稼ぐ力の源泉と将来性を明らかにする作業のことです。決算書には出てこない企画力や著者との関係まで含めて、いまの姿を確かめます。

出版社の承継では、次のものさしで測ります。

ものさし具体的な見方
売上の集中度直近3期の売上を著者別・シリーズ別に並べ、上位数名で何割を占めるかを見る
接点の集中度各著者の窓口が誰か、社長しか連絡先を知らない相手が何名いるかを数える
判断の集中度直近1年の企画のうち、社長の一言で決まったものの割合を数える
記録の有無契約書・原稿料の条件・重版の履歴が、同じ場所で探せるかを確かめる
再現の可否社長が1か月不在でも刊行スケジュールが回るかを、実際に想定してみる

この5つを見れば、どこから手をつけるべきかが決まります。売上の集中度が高く、記録が無い会社ほど、手立て1の優先度が上がります。

測った結果は、後継者にも見せてください。現状が数字で見えると、育成の目標も具体的になります。

手立て1 著者台帳と契約の一元化

最初に取り組むのは、著者台帳と契約書を1か所にまとめることです。編集ノウハウの中で、最も早く形にできて、失うと最も痛い部分だからです。

著者台帳とは、著者ごとの契約条件・連絡経路・過去の刊行実績・やりとりの要点を1枚にまとめた記録のことです。

入れる項目は、次のとおりです。

  • 契約の種類と締結日、期間、更新の有無
  • 印税や原稿料の条件と、支払いの時期
  • 電子・翻訳・二次利用の取り決めがあるか
  • 連絡の窓口(本人か、事務所か、代理人か)と、望ましい連絡手段
  • 過去の刊行実績と、その部数の推移
  • 進行上の癖(原稿の入り方、赤字の量、確認に必要な日数)

最後の項目が、実は最も価値があります。ここに書かれるのが、まさに社長の暗黙知だからです。

「初稿は必ず遅れるが、その分だけ質が上がる」といった一文が、後継者の焦りを防ぎます。

注意点があります。台帳には個人情報が含まれます。閲覧できる人の範囲と保管の方法を先に決めてください。契約書の解釈や条項の有効性に迷いが出た場合は、弁護士の領域です。

作り方は簡単です。まず契約書の原本を集め、有無を確かめます。次に、直近3期に取引のあった著者から着手します。全員を一度に埋めようとすると、続きません。

手立て2 企画会議の判断基準の言語化

次は、企画を通す基準を言葉にします。ここが5つの中で最も難しく、同時に最も効きます。

やり方は、新しい基準を作ることではありません。すでに社長が行っている判断を、後から言葉にするのが正しい順番です。

手順は次のとおりです。

  1. 直近1年で通した企画と、見送った企画を並べる
  2. それぞれについて、社長が「なぜそう決めたか」を口頭で語る
  3. 後継者か担当者がその場で書き取り、文章にする
  4. 集まった理由を似たものごとにまとめ、判断の軸に整理する
  5. 次の企画会議で、その軸を使って議論してみる

3の「本人以外が書き取る」ところが肝です。社長が自分で書こうとすると、当たり前すぎて言葉になりません。

整理すると、軸はおおむね次のような形に落ち着きます。読者が誰か。その読者に届く経路があるか。既刊との関係はどうか。著者と長く組めるか。採算の見込みはどうか。

大事なのは、軸に点数を付けて機械的に決めることではありません。議論の言葉をそろえることが目的です。

言葉がそろえば、見送るときの説明もできます。後継者が「なぜ通らなかったのか」を著者や社内に説明できることは、それ自体が引き継ぐべき力です。

手立て3 部数決定の根拠の記録

3つ目は、初版部数と重版の判断を、根拠つきで残すことです。

部数は数字なので記録しやすいのですが、多くの会社では結果だけが残り、理由が残っていません。理由がなければ、後継者は前例をなぞるしかなくなります。

残すのは、次の3つです。

  • 決めた部数と、その時点で見ていた材料(類書の実績、事前の反応、配本の見通し)
  • 実際の結果(初速、返品、重版の有無と時期)
  • 振り返って、どこが読み違いだったか

3つ目を必ず入れてください。外した判断の記録こそが、最も教育の力を持ちます。

1点あたり数行で構いません。刊行のたびに書き足していけば、1年で相当な蓄積になります。

補足です。この記録は、承継後の資金繰りの説明にも使えます。在庫と返品の見通しを根拠つきで示せる会社は、金融機関との対話がしやすくなります。

手立て4 進行フローの標準化

4つ目は、企画決定から見本出来までの流れを、標準の形にすることです。

標準化とは、すべてを同じにすることではありません。基準となる型を1つ決め、そこからどれだけ外れているかを見えるようにすることです。

決めるのは、次の点です。

  • 各工程の担当と、引き渡す成果物(原稿、ゲラ、指定、データ)
  • 工程ごとの標準の日数と、締切の考え方
  • 校正をどの段階で何回行い、誰が最終責任を持つか
  • 直しの範囲の線引き(明らかな誤りと、好みの問題を分ける)
  • 遅れが出たときに、どこを詰めてどこを詰めないか

最後の項目が、進行管理の暗黙知そのものです。「印刷の日程は動かせないが、著者校の日数は交渉できる」といった判断が、ここに入ります。

校正の基準も同じ考え方で整理します。表記の統一は表にできますが、文体をどこまで残すかは判断です。判断の例を数件、実際のゲラで示すのが最も早く伝わります。

標準の型ができると、外注や新人にも仕事を渡せるようになります。後継者の負担が減り、育成に使える時間が生まれます。

手立て5 見習い期間の設計

最後は、後継者が社長と一緒に動く期間を、きちんと設計することです。

後継者育成とは、役職を与えることではなく、判断の機会と、失敗しても取り返せる余白を用意することをいいます。

設計するのは、次の3点です。

  1. 期間と段階(見て学ぶ、一緒に決める、任せて見守る、の3段)
  2. 各段階で後継者が単独で決めてよい範囲
  3. 社長が口を出さないと決める領域と、その開始時期

2段目の「一緒に決める」が、形式知化と最も相性のよい時期です。手立て2で作った判断の軸を使い、同じ企画を2人で評価し、違いが出た理由を話す。この往復が、言葉になっていない部分をあぶり出します。

3段目に移る時期は、あらかじめ決めておいてください。決めておかないと、いつまでも社長が最後の判断を引き受けることになります。

著者への引き合わせも、この期間に計画的に行います。同席から始め、次に後継者が主で社長が同席し、最後は後継者だけで会う。段階を踏んだ引き合わせが、著者の不安を最も減らします

この5つを終えたとき、会社には「読めば動ける記録」が残ります。それが、承継で本当に渡せる資産です。

ここまで読んで、自社はどこから手をつけるべきか迷われたかもしれません。その順番を決めるだけのご相談でも構いません。売り込みや、その場でのご契約はありません。

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編集ノウハウの形式知化で手に入る3つの未来

5つの手立てをやり切ると、会社の姿は変わります。手に入る未来は、大きく3つあります。

後継者が自分の判断で企画を通せるようになる

1つ目は、後継者が自分の責任で企画を決められる状態です。

判断の軸が言葉になっていれば、後継者は自分の答えを軸に照らして確かめられます。社長に電話をかける前に、自分で結論を出せるようになります。

これは後継者の自信の問題であると同時に、社内の秩序の問題でもあります。誰の判断が最終かがはっきりすれば、現場の迷いも消えます。

社長にとっても意味があります。相談の電話が減れば、本当に相談すべきことだけが届くようになります。

著者との関係が、個人ではなく会社の資産になる

2つ目は、著者との関係が会社に根づく状態です。

台帳があり、引き合わせが段階を踏んで行われていれば、担当が変わっても関係は続きます。著者にとっても、会社として自分を理解してくれている実感は安心につながります。

結果として、刊行点数が読める会社になり、来期の計画が立てられるようになります。

この安定は、金融機関や取引先への説明にも効きます。人に依存していない事業だと示せることは、それ自体が信用です。

株式・資金・保証の話を、落ち着いて進められる

3つ目は、承継の実務が前に進む状態です。

役員・従業員承継では、後継者が株式を取得する資金や、社長の個人保証の扱いが必ず論点になります。これらは事業の見通しが立っていないと、話が進みません。

編集ノウハウが形式知になり、刊行の計画が読める会社になれば、返済の見通しも説明できます。個人保証の扱いを話し合う際にも、経営の透明性は判断材料になります。

逆にいえば、事業の中身が社長個人に張り付いたままでは、株式の話だけを先に進めても足元が固まりません。

編集の力が会社に残り、後継者が自分の判断で本を作り、承継の実務が落ち着いて進む状態を共に手に入れましょう。

自社だけで役員承継と後継者育成を進める限界と、KICKの支援

ここまでの5つは、自社だけでも始められます。それでも途中で止まる会社が多いのには、理由があります。

自社だけで進めるときにぶつかる3つの壁

1つ目は、社長自身が自分の判断を言葉にできないことです。当たり前すぎて説明の対象にならず、「そういうものだ」で終わってしまいます。外から問いを立てる人がいると、ここが動きます。

2つ目は、日常業務に飲まれることです。刊行は毎月やってきます。締切のある仕事が優先され、締切のない承継準備は後回しになります。

3つ目は、株式・資金・保証・保険・税務の話が同時に来ることです。それぞれ相談先が違うため、話が噛み合わないまま時間だけが過ぎます。

共通の敵は、人ではなく「バラバラのまま時間だけが過ぎる状況」です。

誰が何を担当するのかを、先に決める

専門家の領域は、はっきり分かれています。ここを取り違えると、遠回りになります。

領域担い手
個別の税務判断・税務申告・税額計算税理士
契約の解釈・労務や紛争の法律判断弁護士
株式の移転などの登記司法書士
許認可に関する手続行政書士
承継全体の設計と伴走、事業の可視化と後継者育成中小企業診断士・事業承継士

KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)の立ち位置は、最下段です。中小企業診断士・事業承継士(認定経営革新等支援機関)として、承継全体の設計と伴走を担います。

編集ノウハウの棚卸し、判断基準の言語化、後継者育成の設計は、まさにこの領域の仕事です。他の専門家の役割を置き換えるものではなく、つなぐ役割だとお考えください。

株式と、法人保険の役割の再設計

役員・従業員承継では、株式の引継ぎ方も設計します。自社株の評価には、類似業種比準方式や純資産価額方式といった考え方があります。

ただし、評価の具体的な計算や個別の税務判断は税理士の領域です。KICKは、承継計画の全体像と整合しているかという観点から関わります。

KICKは事業承継専属の保険代理店でもあります。役員退職慰労金の準備や、自社株の買取資金という目的に対して、いまの契約が合っているかを点検します。

ここで大切にしているのは、減らすための見直しではなく、守るための再設計という考え方です。

削りすぎれば、万一のときに事業の継続や家族の生活に影響が出ます。逆に、目的の変わった契約が残り続けていることもあります。いまの目的と合っているかを点検する価値があります

法人保険の保険料の取扱いは、2019年(令和元年)の法人税基本通達の改正後、最高解約返戻率に応じて損金に算入できる割合が区分されています。「保険料は全額損金になる」と一般論では言えません。出典は国税庁『法人税基本通達』です。

制度を使うなら、期限の意味を取り違えない

事業承継税制(法人版・特例措置)を検討する会社もあります。役員・従業員承継でも検討の対象になりますが、期限の理解に注意が必要です。

特例承継計画の提出期限は令和9年(2027年)9月30日で、省令改正により延長されました。一方で、贈与や相続を実際に実行する期限は令和9年(2027年)12月31日で、延長されない見込みです。

計画を出しただけでは足りません。実行が間に合わなければ、特例は使えません。「提出期限が延びたから余裕がある」という受け取り方は危険です。

また、この制度は納税を猶予するものです。要件を満たさなくなれば猶予が打ち切られる場合があります。使えるかどうかは会社ごとの要件次第で、必ず使えるとは限りません。適用の可否と税額の判断は税理士にご確認ください。

なお、個人版事業承継計画の提出期限は令和10年(2028年)9月30日で、法人版とは別の期限です。混同しないようご注意ください。

ご相談の場で、契約をお勧めすることはありません。保険への加入を勧めることもありません。準備が何も進んでいない段階でも構いません。まずは現状をそのままお聞かせください。

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出版社の事業承継と編集ノウハウのよくある質問

Q. 出版社の事業承継は、いつから準備を始めればよいですか

A. 引退を考え始めた時点が始めどきです。編集ノウハウの形式知化は、数か月で終わる作業ではないからです。

著者台帳と部数の記録は、承継の予定がなくても価値があります。まずは直近3期に取引のあった著者の一覧を作るところから始めてください。

Q. 編集ノウハウの形式知化には、どれくらいの期間がかかりますか

A. 会社の記録の残り方によって変わります。契約書がそろっていて刊行データを取り出せる会社は早く、紙の資料から拾う会社は時間がかかります。

期間を短くしたいなら、着手前に契約書の保管場所を1か所にまとめておくことです。探す時間が最も大きな負担になります。

Q. 編集長への役員承継で、株式はどのように渡せばよいですか

A. 売買・贈与・段階的な移転など、いくつかの方法があります。どれを選ぶかは、後継者の資金力と、社長の生活設計の両方で決まります。

税額の計算や課税関係の判断は税理士の領域です。まずは承継計画の全体像を描き、そのうえで税理士に具体的な検討を依頼する順番が無駄になりません。

Q. 後継者に株式を買う資金がない場合はどうなりますか

A. 珍しいことではありません。役員・従業員承継では、むしろよくある論点です。

数年に分けて少しずつ移す、持株会社を使う、金融機関の融資を検討するなど、選択肢はあります。どれも会社の返済力の見通しが前提になります。

だからこそ、編集ノウハウを形式知にして刊行の計画を読める状態にすることが、資金の話の土台になります。

Q. 社長の個人保証はどうなりますか

A. 自動的には外れません。金融機関との協議が必要です。

協議の際には、法人と個人の資産が明確に分かれていること、経営の状況を適時に開示していることなどが判断材料になります。「経営者保証に関するガイドライン」の考え方も参考になります。

まずは取引金融機関に、承継を検討している旨と時期の見通しを伝えてください。早めの相談が選択肢を広げます。

Q. 著者との関係は、本当に引き継げますか

A. 段階を踏めば引き継げます。ただし、ある日突然の交代では難しいと考えてください。

同席から始め、次に後継者が主で社長が同席し、最後は後継者だけで会う。この3段階を、承継の1年以上前から始めるのが望ましい形です。

承継の発表と同時に担当を替えると、著者は最も不安になります。順番を逆にしてください。

Q. 部数の決め方まで記録する必要がありますか

A. 必要です。部数は在庫と返品を通じて資金繰りに直結するためです。

結果の数字だけでなく、決めたときに見ていた材料と、後から振り返った読み違いを残してください。1点あたり数行で十分です。

この記録は、後継者の教育材料であると同時に、金融機関への説明資料にもなります。

Q. 見習い期間はどれくらい必要ですか

A. 会社の規模と、後継者がすでに担っている範囲によります。刊行の周期が長い出版社では、1点を最初から最後まで見届ける期間が最低限の目安になります。

大切なのは長さより設計です。いつ何を任せ、いつ社長が口を出さないと決めるかを、先に書いておいてください。

Q. 従業員に知られずに準備を進められますか

A. 初期の作業は、社長とごく限られた担当者だけで進められます。

ただし、著者台帳や進行フローの整理は現場の協力がないと精度が上がりません。ある段階からは、目的を伝えて巻き込むほうが早く進みます。

伝える時期と伝え方は、事前に決めておいてください。従業員の処遇に関わる話や労務上の判断が必要になる場面では、弁護士や社会保険労務士の助言を得るのが確実です。

Q. まず誰に相談すればよいですか

A. 目的で分かれます。税額の計算と申告は税理士、契約や労務の法律判断は弁護士、登記は司法書士です。

一方で、承継全体の設計、事業の可視化、後継者育成の組み立ては中小企業診断士・事業承継士の領域です。どの専門家をいつ動かすかを決めることが、最初の一歩になります。

まとめ

出版社の事業承継でつまずくのは、株式や税金の前に、編集ノウハウが会社の形になっていないことが原因である場合が多くあります。

企画の通し方、著者との付き合い方、部数の決め方、進行管理、校正の基準。この5つの領域が社長個人に張り付いている限り、渡すものが存在しません。

手立ては5つでした。

  1. 著者台帳と契約の一元化
  2. 企画会議の判断基準の言語化
  3. 部数決定の根拠の記録
  4. 進行フローの標準化
  5. 見習い期間の設計

着手の前に、事業の棚卸しで属人化の度合いを測ってください。売上の集中度、接点の集中度、判断の集中度、記録の有無、再現の可否。この5つのものさしが、着手の順番を決めてくれます。

残すべきは作業手順ではなく、判断の理由です。理由が残れば、後継者は前例をなぞるのではなく、自分で考えられるようになります。

役員・従業員承継では、株式の取得資金や個人保証の扱いも必ず論点になります。事業の見通しが読める会社であることが、その協議の土台になります。

明日からできることを1つだけ挙げるなら、直近3期に取引のあった著者を紙に書き出すことです。それだけでも、会社の集中度が見えてきます。

整理の途中でも、まだ何も始めていなくても構いません。ご相談の場で契約をお勧めすることはありません。しつこい営業もお断りの気まずさもありません。編集現場の現状を、そのままお聞かせください。

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