
「会社を譲るなら、株式譲渡と事業譲渡、どちらがいいのか分からない」——後継者が見つからないまま時間だけが過ぎ、そろそろ第三者への承継(M&A)も選択肢に入れ始めた経営者の方は、こう感じていないでしょうか。
結論から言うと、多くの中小企業のM&Aでは株式譲渡が選ばれます。ただし、事業の一部だけを譲りたい場合や、買い手が会社に潜むリスクを避けたい場合には事業譲渡が選ばれることもあります。どちらが正解というものではなく、自社の状況に合わせて選ぶことが大切です。
この選択を後回しにしたまま交渉を進めると、契約や許認可の引き継ぎで想定外の手間がかかったり、買い手との条件がまとまらなかったりすることがあります。この記事では、中小企業診断士・事業承継士として法人支援150社以上に携わってきた立場から、第三者承継(M&A)における株式譲渡と事業譲渡の違いと、どちらを選ぶかの判断軸を整理します。
- 後継者が社内にいないと感じている社長
- 会社を譲る方法がよく分からない経営者
- 株式譲渡と事業譲渡の違いを整理したい方
- M&Aの相談先に迷っている後継者
- 株式譲渡と事業譲渡の基本的な違い
- どちらを選ぶかの3つの判断軸
- 第三者承継を自社だけで進める限界
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事業承継M&Aで株式譲渡と事業譲渡を決めずに進める3つのリスク

後継者不在の会社が第三者承継(M&A)を検討し始めるとき、多くの経営者はまず「相手探し」に意識が向きます。しかし、どの方式で会社を譲るかを先に決めておかないと、交渉が進んでから足元をすくわれることがあります。
これまで「M&A」と聞くと大企業同士の話だと感じていた経営者も多いかもしれません。しかし近年は、後継者不在に悩む中小企業が第三者承継を選ぶ動きが広がっています。相手探し以前に、自社をどの方式で譲るのかという土台を整えておくことが、その後の交渉全体を左右します。
契約や許認可の引き継ぎで手間取る
株式譲渡は会社そのものの株主が入れ替わるだけなので、取引先との契約や許認可は基本的にそのまま引き継がれます。一方、事業譲渡は事業を個別の資産・契約の集まりとして移すため、取引先ごとの契約の巻き直しや、許認可の再取得が必要になる場合があります。この違いを知らずに交渉を始めると、想定より時間がかかり、買い手の熱意が冷めてしまうことがあります。
簿外債務のリスクが交渉の壁になる
株式譲渡では会社を丸ごと引き継ぐため、帳簿に表れていない債務や、後から発覚する偶発的な債務も含めて買い手が引き継ぐ形になります。買い手側がこのリスクを警戒し、価格交渉が難航したり、契約書に細かな表明保証条項を求められたりすることは珍しくありません。事業譲渡であれば、必要な資産・契約だけを選んで引き継げるため、この種の警戒感を和らげやすくなります。
従業員の雇用条件がはっきりしないまま進んでしまう
株式譲渡なら雇用契約は会社に残ったまま引き継がれますが、事業譲渡では従業員一人ひとりと新しい雇用契約を結び直す必要があります。方式を決めないまま交渉が進むと、従業員への説明が後手に回り、不安や離職につながりかねません。会社を託す側にとって、従業員の雇用を守れるかどうかは大きな関心事のはずです。
この3つに共通するのは、いずれも「交渉が始まってから気づく」問題だということです。買い手候補との話し合いがある程度進んでから方式を変えようとすると、契約書の組み直し、許認可の再確認、税務上の整理をやり直すことになります。専門家への相談費用も交渉期間も余計にかかり、買い手側の熱意が冷めてしまうこともあります。方式は交渉が本格化する前に固めておくことが、結果として一番の近道になります。
放置すればするほど、交渉のたびに条件を組み直す手間が増え、買い手との信頼関係も築きにくくなります。次の章では、株式譲渡と事業譲渡をどう選べばよいか、判断軸を整理します。
第三者承継の進め方|株式譲渡と事業譲渡を選ぶ3つの判断軸

第三者承継の進め方は、大きく3つの段階に分けられます。
- 現状把握:自社株の構成、契約関係、許認可、簿外の債務の有無を洗い出す
- 方式の選定:株式譲渡と事業譲渡のどちらが自社に合うかを判断する
- 実行・引き継ぎ:買い手との交渉、契約、従業員・取引先への説明を進める
このうち、最も早い段階で決めておきたいのが「方式の選定」です。詳しくは次のページでまとめています。
中小企業診断士 · 事業承継士 · 認定経営革新等支援機関 事業承継を何から始めるべきか、 一緒に整理しませんか。 株式・保険・後継者育成がバラバラのまま、時間だけが過ぎていませんか。 KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、経営全体を見ながら事業承継を一本化して伴走する専門...
方式を選ぶときの判断軸は、次の3つに整理できます。一般的な項目名の一覧として示します。
| 判断軸 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 契約・許認可の引き継ぎ | 会社ごと包括的に引き継がれる | 個別に契約の巻き直し・許認可の再取得が必要になりうる |
| 簿外債務・偶発債務のリスク | 会社ごと引き継ぐため潜在リスクも承継される | 必要な資産・契約だけを選んで引き継げる |
| 手続きの範囲とスピード | 株主総会・株主の同意が中心で比較的簡便 | 関係者が多く、個別合意に時間がかかりやすい |
会社をそのまま残したい、事業価値を毀損せずに引き継ぎたいという場合は株式譲渡が選ばれることが多く、実際に中小企業のM&Aの大半はこの方式で行われています。一方、不採算部門を切り離したい、買い手が特定の事業だけを求めているという場合は事業譲渡が向いていることがあります。
この3つの判断軸は、単独で考えるものではなく、互いに影響し合います。たとえば許認可の引き継ぎやすさを優先して株式譲渡を選んだ場合、簿外債務のリスクをどう遮断するかという課題は別の形で対応する必要があります。逆に事業譲渡でリスクを限定しても、手続きにかかる時間と関係者の数は増えます。3つの軸のどれか一つだけを見て決めるのではなく、自社にとって何を最優先するかを整理したうえで判断することが大切です。
どちらを選ぶにせよ、税務上の扱いは株式譲渡と事業譲渡で異なり、個別の税額計算や申告は税理士の領域です。KICKでは、承継全体の設計と伴走を担い、税務の詳細は提携する税理士と連携しながら進めます。
また、実務では会社分割など他の手法が組み合わされることもありますが、多くの中小企業にとって最初に検討すべきは株式譲渡と事業譲渡の二択です。ここで方向性を決めておけば、後から出てくる細かな選択肢についても、軸をぶらさずに判断しやすくなります。
判断軸を整理する段階では、次の点も併せて確認しておくと交渉がスムーズになります。
- 自社株の保有状況(株主が分散していないか)
- 主要な取引先との契約に譲渡制限や承継に関する条項がないか
- 金融機関からの借入に経営者の個人保証が付いていないか
個人保証が付いたままだと、株式譲渡・事業譲渡のどちらでも交渉の争点になりやすいため、早い段階で金融機関に相談し、解除に向けた見通しを立てておくことが望ましいでしょう。
ご相談いただいても、無理に方式を決めさせることはありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。まずは自社の状況を整理するところから始められます。
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事業承継M&Aをやり切った先に手に入る3つの未来

株式譲渡と事業譲渡、自社に合う方式を見極めて第三者承継をやり切ると、次の3つを手に入れられます。判断軸を整理する過程は決して楽な作業ではありませんが、その先には次のような未来が待っています。
会社を存続させながら次の担い手へ引き継げる安心
後継者不在のまま廃業を選べば、社名も雇用も途切れてしまいます。適した方式で第三者承継を進めれば、会社の看板と事業を次の担い手のもとで存続させられます。これまで築いてきたものを途切れさせずに済むという安心は、経営者にとって何より大きいはずです。
創業者や先代が積み上げてきた取引実績、現場の技術、地域での信用は、廃業してしまえば形として残りません。第三者承継は、それらを次の経営者のもとでそのまま活かし続けられる選択肢です。長年かけて築いてきたものを、途切れさせずに次の世代へ渡せるという事実は、経営者自身の気持ちの整理にもつながります。
取引先・従業員との関係を守れる安心
方式を早い段階で決め、契約・雇用の引き継ぎ方を整理しておけば、取引先には取引の継続を、従業員には雇用の継続を、根拠を持って説明できます。「譲渡後もこれまでの関係は続く」と言い切れる状態で交渉に臨めることは、経営者自身の心理的な負担も軽くします。
譲渡後の自分自身の生活・資産設計を落ち着いて考えられる安心
会社の引き継ぎ方が定まると、譲渡対価の受け取り方や、その後の生活設計についても見通しが立ちます。慌てて条件をのむのではなく、自分と家族にとって納得できる形で交渉を進められるようになります。
長年経営に注いできた時間を、譲渡後は別の形で使えるようになります。次の担い手に会社を託したあとの人生を、前向きに描けるようになることも、準備を整えた経営者だからこそ得られる未来です。譲渡後にも顧問や相談役として関わり続ける道を選ぶ経営者もいれば、これを機に第二の人生へ踏み出す経営者もいます。どちらも、判断軸を整理し、納得のいく形で会社を託せたからこそ選べる道です。
後継者不在という悩みを先送りにせず、方式の選定という最初の一歩から、この3つの未来を共に手に入れましょう。
株式譲渡・事業譲渡と、会社が加入している法人保険の扱い

株式譲渡と事業譲渡のどちらを選ぶかは、会社が加入している法人保険の扱いにも影響します。株式譲渡であれば契約者は変わらず契約が存続しやすい一方、事業譲渡では契約そのものを個別に移管する手続きが必要になる場合があります。
方式を決める前に、契約目的・被保険者・受取人が今の会社の姿と合っているかを点検しておくと、譲渡後の手続きがスムーズになります。個別の税務の取り扱いは、顧問税理士にご確認ください。
自社だけで進める限界と、事業承継士による伴走支援

株式譲渡か事業譲渡かという方式の選定には、会社法・税務・労務・契約実務が絡み合います。税理士は税務、弁護士は契約書、M&A仲介会社は成約という、それぞれの専門領域から意見をくれますが、承継全体を見渡して「自社にはどちらが合うか」を整理してくれる立場が抜け落ちがちです。
経営者自身が本業の合間にこれを調整しようとすると、判断が後回しになり、気づけば数年が経っていた、ということも起こります。誰か一人が悪いわけではなく、全体を設計する役割が誰にも割り振られていないことが問題の本質です。
買い手候補を紹介するM&A仲介会社に相談すれば、話は早く進むかもしれません。ただし、仲介会社の関心は基本的に「成約させること」に置かれます。自社にとって株式譲渡と事業譲渡のどちらが本当に合っているのかを、成約前提ではないニュートラルな立場で整理してくれる相手がいると、経営者は落ち着いて判断できます。
方式を決めきれないまま相手探しだけが先行すると、あとになって「この条件では譲れない」と交渉が振り出しに戻ることもあります。順番を間違えないことが、結果として最短ルートになります。
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士(認定経営革新等支援機関)として、株式譲渡・事業譲渡の判断軸の整理から、税理士・弁護士など他の専門家との連携までを一貫して伴走します。他の専門家を否定するのではなく、それぞれの専門知識を承継の全体設計につなぐことがKICKの役割です。法人支援実績は150社を超えています。
具体的な支援の流れは、次のように進みます。
- 現状把握:自社株の構成、契約関係、許認可、簿外の債務の有無、経営者保証の状況を洗い出す
- 方式の選定:現状把握の結果をもとに、株式譲渡と事業譲渡のどちらが自社に合うかを整理する
- 専門家との連携:税理士・弁護士など必要な専門家と役割分担を決め、契約書や税務の詳細を詰める
- 実行・引き継ぎ:買い手候補との交渉、契約締結、従業員・取引先への説明を進める
それぞれの段階で、経営者お一人に判断を委ねきりにせず、論点を整理した資料をもとに一緒に検討するという進め方をとります。専門用語を並べるのではなく、経営者ご自身が納得したうえで次の一歩を選べることを大切にしています。
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事業承継M&Aのよくある質問|株式譲渡と事業譲渡の疑問を解消

Q. 中小企業のM&Aでは、株式譲渡と事業譲渡のどちらが多いですか
A. 多くの場合、株式譲渡が選ばれます。会社をそのまま引き継げるため、契約や許認可が個別に途切れにくく、手続きも比較的簡便だからです。ただし、不採算部門の切り離しなど、事業譲渡が向くケースもあります。自社の事業構成や、買い手が何を求めているかによって最適な方式は変わるため、早い段階で整理しておくことが大切です。
Q. 事業譲渡ではなぜ許認可を取り直す必要があるのですか
A. 事業譲渡は会社という器ではなく、事業を構成する資産・契約を個別に移す手続きだからです。許認可の多くは会社(法人)や事業所ごとに与えられているため、譲渡先の名義で改めて取得し直す必要が生じます。建設業や運送業など許認可が事業の根幹に関わる業種では、この点が方式選定の大きな判断材料になります。
Q. 株式譲渡を選べば、簿外債務のリスクはなくなりますか
A. なくなりません。株式譲渡は会社を丸ごと引き継ぐため、帳簿に表れていない債務や偶発的な債務も含めて買い手が引き継ぐ形になります。事前の調査と、契約書での取り決めでリスクを小さくすることが一般的です。売り手側としても、日頃から契約書や帳簿を整理しておくと、この調査がスムーズに進みます。
Q. 従業員の雇用は、どちらの方式でも同じように引き継がれますか
A. 引き継がれ方が異なります。株式譲渡では雇用契約はそのまま会社に残ります。事業譲渡では、従業員一人ひとりと新しい雇用契約を結び直す手続きが必要です。給与や役職などの労働条件をどこまで維持するかは、譲渡先との交渉次第になるため、早い段階で条件をすり合わせておくことが従業員の安心につながります。
Q. 税金の扱いは、どちらの方式が有利ですか
A. 株式譲渡と事業譲渡では課税の主体や仕組みが異なり、会社の状況によって有利不利は変わります。個別の税額計算や申告は税理士の領域ですので、税理士に確認することをおすすめします。KICKでは、この段階から提携する税理士と連携し、経営者ご自身が二重に説明する手間がかからないよう調整します。
Q. 会社の一部の事業だけを譲渡することはできますか
A. できます。複数の事業を営んでいる会社が、そのうちの一部だけを譲渡したい場合は、事業譲渡が選ばれることが多くあります。会社そのものは手元に残せるため、残す事業を引き続き自分で経営しながら、譲渡した事業の対価を新たな投資や負債の圧縮に充てるという選択肢も考えられます。
Q. 買い手企業は、どちらの方式を好む傾向がありますか
A. 一概には言えませんが、会社全体の事業基盤ごと取り込みたい買い手は株式譲渡を、リスクを限定して特定の事業だけを取り込みたい買い手は事業譲渡を選ぶ傾向があります。買い手候補が複数いる場合は、それぞれの意向を確認しながら、自社にとって無理のない方式に絞り込んでいくとよいでしょう。
Q. いったん決めた方式は、交渉の途中で変更できますか
A. 交渉の初期であれば見直せることもありますが、契約書の準備が進むほど変更は難しくなります。だからこそ、早い段階で判断軸を整理し、方向性を固めておくことが大切です。方式を固める前の段階であれば、専門家に相談しても遅すぎるということはありません。
Q. 方式の選定は、いつまでに決めればよいですか
A. 買い手候補との具体的な交渉が始まる前が理想です。自社の現状把握(契約・許認可・簿外債務の洗い出し)を済ませたうえで方式を選ぶと、交渉がスムーズに進みやすくなります。準備には一定の時間がかかるため、「まだ早い」と感じている段階から少しずつ整理を始めることをおすすめします。
Q. 相談すると、必ず会社を譲渡するよう勧められますか
A. そのようなことはありません。第三者承継が自社に合わない、時期が早いと判断すれば、そのようにお伝えします。親族内承継や役員・従業員承継の方が向いているケースもあり、KICKの役割は、経営者ご自身が納得して選べるよう、判断材料を整理することです。
まとめ
株式譲渡は会社を丸ごと引き継ぐため契約・許認可が途切れにくく、事業譲渡は必要な事業だけを選んで引き継げる、という違いがあります。どちらが自社に合うかは、契約・許認可の引き継ぎ、簿外債務リスク、手続きの範囲とスピードという3つの判断軸で整理すると見えてきます。
この記事で紹介した判断軸は、あくまで一般的な整理の枠組みです。実際には、業種や取引先との契約内容、株主構成、経営者保証の有無によって、最適な方式は会社ごとに異なります。自社の状況に当てはめて考える際は、一人で抱え込まず、専門家と一緒に整理することをおすすめします。
後継者不在という悩みは、多くの経営者が口に出しにくいテーマでもあります。しかし、早めに向き合った会社ほど、選べる方式の幅も、交渉できる相手の幅も広く残っています。逆に判断を先延ばしにするほど、選択肢は静かに狭まっていきます。今日という日は、これから先の中で最も早く動き出せる日でもあります。
後継者が社内にいないという状況は、先送りにしても解決しません。方式の選定を後回しにするほど、交渉の自由度は狭まっていきます。まずは自社の現状を整理するところから、一緒に始めてみませんか。「まだ早い」と思っている今こそ、落ち着いて判断軸を整理できる時期でもあります。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは現状をお聞かせください。
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