
「会社の法人保険には入っているから、万一のことがあっても家族は大丈夫」——右腕として長く会社を支えてきた幹部が、いざ従業員承継(MBO)で社長を引き継ぐ段になって、そう思い込んでいることは少なくありません。
お盆に帰省した家族と「そろそろ会社をどうするか」を話す機会が増える時期でもありますが、法人保険はあくまで会社を守るための契約であり、後継者個人と家族の生活を直接守る仕組みではありません。創業社長が何十年もかけて個人の保険を積み上げてきたのに対し、従業員承継で社長になる人は、その備えを持たないまま経営者保証や責任だけを引き継いでしまいがちです。
法人保険と個人保険の線引きがあいまいなまま承継が進むと、いざというときに「会社は守れても家族の生活が守れない」という事態になりかねません。
- 従業員承継(MBO)で社長になる予定の後継候補の方
- 右腕の幹部に会社を引き継がせたい現経営者の方
- 法人保険と個人保険の違いがよく分からない方
- 承継後の家族の生活が不安な後継者の方
- 法人保険を見直すタイミングが分からない方
- 法人保険と個人保険の役割があいまいになる理由
- 役割を分ける3つの基準と見直しの手順
- 役割を整理した先に手に入る安心
- 事業承継士による伴走支援の内容
中小企業診断士・事業承継士として法人支援150社以上に携わってきた立場から、従業員承継(MBO)における法人保険と個人保険の分け方を整理しました。読み終える頃には、承継後の自分と家族の生活をどう守ればよいか、判断の軸が見えているはずです。
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事業承継で法人保険と個人保険の役割があいまいになる理由

従業員承継(MBO・EBO)とは、社外の第三者ではなく、社内の役員や幹部社員が株式を引き継いで経営者になる事業承継の形です。親族に後継者がいない中小企業で、選択肢の一つとして広がっています。
親族内承継であれば、後継者は幼いころから会社と自分の生活が地続きだったこともあり、家業を継ぐ意識の中で自然と自分自身の保険にも関心を持つ機会があります。一方、従業員承継の後継者は、「雇われる立場」から「経営者になる立場」へ短期間で切り替わるため、個人としての備えを見直す間もなく承継の日を迎えてしまうことがあります。
法人保険は「会社」を守る契約である
会社が契約者となる法人保険は、経営者に万一のことがあった場合の資金繰りの落ち込みを補う、株式の買取資金を準備する、役員退職慰労金の原資にするなど、あくまで会社の事業継続を目的として設計されています。受取人が法人であるケースが多いのも、この目的に沿ったものです。
個人保険は「家族の生活」を守る契約である
これに対して個人保険は、住宅ローンの返済、子どもの教育費、配偶者や親のその後の暮らしなど、後継者個人の家族の生活を直接守るための契約です。法人保険とは目的も受取人もまったく別物であり、片方が手厚いからといって、もう片方が不要になるわけではありません。
経営者保証を引き継ぐのに、個人の備えは引き継がれない
従業員承継では、株式とあわせて金融機関への経営者保証を引き継ぐことが多くあります。保証という「個人の責任」だけは引き継がれるのに、それに見合う個人の保険という「備え」は自動的には引き継がれない点が、この承継形態ならではの落とし穴です。
放置すると、承継後に家族が困る形になりかねない
実際の相談では、承継から数年後に後継者自身の保険を見直そうとして初めて、法人保険にしか入っていなかったことに気づくケースを数多く見てきました。万一のとき、会社の資金は守られても、遺された家族の生活資金が足りないという事態は、後継者本人が最も避けたい結果のはずです。
よくあるつまずき方
実際の相談では、次のようなつまずき方をよく見かけます。1つは、後継者自身が「会社の福利厚生の延長」として法人保険を捉えてしまい、個人の生活を守る保障が別に必要だという発想そのものを持たないパターンです。悪気があるわけではなく、単に考える機会がなかっただけというケースがほとんどです。
もう1つは、現経営者の側が「自分が入っていた保険をそのまま引き継がせればよい」と考え、後継者の年齢や家族構成に合わせた見直しをしないまま契約を継続させてしまうパターンです。先代と後継者では、家族構成もライフステージもまったく違うことが多く、同じ保障がそのまま合うとは限りません。
特に住宅ローンを組んだばかりの40代、子どもがまだ小さい世代の後継者ほど、家族の生活資金を法人保険だけでまかなえるという誤解の影響は大きくなります。承継の話が具体的になったタイミングでこそ、「自分自身の保険はどうなっているか」を一度立ち止まって確認する価値があります。
先代の社長と後継者とで、保険の状況がどう違いやすいかを整理すると、次のとおりです。
| 比較の視点 | 創業者・現経営者 | 従業員承継の後継者 |
|---|---|---|
| 個人保険への関心 | 創業当初から自分の生活と一体で考えてきた | 雇用されていた期間は会社任せになりがち |
| 経営者保証 | 長年かけて資産形成と並行して備えてきた | 承継のタイミングで急に背負うことが多い |
| 法人保険の理解 | 契約の目的や内容を把握している | 存在は知っていても目的まで把握していない |
この違いを踏まえずに承継を進めると、後継者は会社の保険を「自分の保険」だと錯覚したまま、個人の備えが空白になっていることに気づけません。次の章では、この空白を埋めるための3つの基準を具体的に整理します。
従業員承継で法人保険と個人保険を分ける3つの基準

法人保険と個人保険の役割を分けるには、次の3つの基準で1つずつ点検していくのが現実的です。
- 保障の「対象」で線引きする。その契約が守っているのは会社の資金繰りや事業継続なのか、それとも後継者個人と家族の生活なのかを、契約ごとに書き出します。目的があいまいなまま続いている契約は、承継のタイミングで見直しの対象になります。
- 契約者・被保険者・受取人の名義を承継の実態に合わせる。被保険者が退任した前社長のまま、受取人が旧経営陣のままになっている契約がないかを確認します。名義が実態とずれたままだと、いざというときに保険金が想定した相手に渡らないおそれがあります。
- 後継者個人の保険の要否を、家族のライフプランと合わせて検討する。住宅ローンの有無、子どもの年齢や教育費の見通し、経営者保証の金額などをふまえ、法人保険で足りない部分を個人保険でどう補うかを考えます。
この3つは、どれか1つだけを整えても十分ではありません。対象を分けても名義が古いままだったり、名義を整理しても後継者個人の備えが空白のままだったりすると、保険の役割は結局あいまいなままになってしまいます。3つをセットで点検することが欠かせません。
削りすぎにも注意が必要です。法人保険を「経費だから」と安易に減らしてしまうと、会社の資金繰りの備えそのものが薄くなり、事業継続に影響が出ることもあります。減らすための見直しではなく、承継後の会社と個人、それぞれに合った形に「整え直す」という発想で進めることが大切です。
3つ目の基準にある「家族のライフプラン」は、抽象的に考えると後回しになりがちです。住宅ローンの残債、子どもが独立するまでにかかる教育費、配偶者のその後の生活費といった具体的な項目を、金額のイメージだけでも書き出してみることが、必要な保障を考える出発点になります。会社の数字だけでなく、家庭の数字にも向き合う作業だと捉えると、取り組みやすくなります。
実際の点検は、次の3つの段階で進めると具体的に動きやすくなります。詳しい進め方は次のページでまとめています。
事業承継専属の保険代理店という考え方 中小企業の事業承継において、法人保険は長年にわたり「とりあえず加入してきたもの」になりがちです。創業期、成長期、拡大期と、その時々の経営判断の積み重ねで保険は増え、気づけば保険料負担が重くなっているケースも少なくありません。 一方で、「保険をやめ...
| 段階 | 主な検討項目 |
|---|---|
| 現状の洗い出し | 契約中の法人保険・個人保険を一覧化し、契約者・被保険者・受取人・保障目的を確認する |
| 役割の整理 | 会社を守る保障と、後継者個人・家族を守る保障に仕分け、過不足を可視化する |
| 設計の見直し | 名義変更の要否、後継者個人の保険の追加や調整を、承継計画とあわせて検討する |
ここに挙げた項目は一般的な点検の枠組みであり、具体的な保障額や商品の選び方は会社と個人それぞれの状況によって異なります。自社の場合はどう整理すればよいかは、現状の洗い出しから専門家と一緒に進めていくのが近道です。なお、保険料の税務上の取扱いは2019年の通達改正以降、最高解約返戻率に応じて損金にできる割合が区分されており、契約内容によって異なります。「保険料は全額が経費になる」と一律に考えるのは避け、契約ごとの取扱いは税理士に確認することをおすすめします。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。特定の保険商品をその場でおすすめすることも、しつこい営業もありません。まずは今ご契約中の保険の内容からお聞かせください。
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法人保険と個人保険を整理した従業員承継の先に手に入る未来

法人保険と個人保険の役割を整理して臨む従業員承継は、次の3つの軸で後継者と会社に変化をもたらします。
1つ目|経営判断に迷いがなくなる
会社の保障と個人の保障の境目が分かっていれば、「これは会社のため」「これは家族のため」と迷わず判断できるようになります。経営者保証を負う重さも、漠然とした不安ではなく、具体的に備えられたリスクとして受け止められます。
2つ目|家族に安心して承継を報告できる
後継者個人の保険が整っていれば、家族に「もし自分に何かあっても、この保険で生活は守れる」と、具体的な数字を示しながら説明できます。承継の話を切り出すときの家族の不安も、大きく和らぎます。
3つ目|会社の保障にも無駄がなくなる
個人で備えるべき部分を個人保険に任せられれば、法人保険は本来の目的である会社の資金繰りや株式の買取資金、役員退職慰労金の原資という役割に集中できます。会社と個人、それぞれの保険が本来の役割を果たす状態になり、保障全体の無駄が減っていきます。
法人保険しか持たないまま承継の日を迎える後継者は少なくありませんが、視点を変えれば、承継はその備えを見直す絶好の機会でもあります。会社と家族、両方を守れる保険の形を、共に手に入れましょう。
特に、これまで会社の保険を「なんとなく引き継いだもの」として捉えていた後継者ほど、役割を整理し直すことで、経営者としての自覚と、家族への責任の両方が明確になったという声をよく耳にします。保険の見直しは、単なる契約の整理にとどまらない意味を持っています。
先代の社長にとっても、後継者が自分自身の備えを持った状態で承継を迎えることは、安心材料になります。「会社を任せて終わり」ではなく「後継者本人と家族の生活まで見届けたうえで任せられる」という状態は、円滑な引継ぎにもつながっていきます。
自社だけで進める限界と、事業承継士による伴走支援

法人保険と個人保険の役割を分ける作業は、保険担当者にとっては「どちらも売る立場」になりやすく、中立的な立場で会社と個人の保障を横断して整理してくれる相手が見つかりにくいのが実情です。税理士は税務、金融機関は融資審査という得意分野があっても、保険の契約内容まで踏み込んで整理する役割は空白になりがちです。
KICKコンサルティング株式会社は、中小企業診断士・事業承継士として、承継全体の設計と法人保険の見直しに伴走します。あわせて、事業承継専属の保険代理店として、法人保険と個人保険を横断した保障の点検にも対応しています。特定の保険会社の商品ありきで提案するのではなく、まず承継計画があり、その計画に保険をどう合わせるかという順序を大切にしています。
なお、個別の税務判断や税額の計算は税理士の領域であり、KICKが税務代理を行うことはありません。株式譲渡に伴う登記は司法書士、許認可の承継に関わる手続きは行政書士がそれぞれ担う領域です。すでに顧問税理士や保険担当者とお付き合いがある場合も、その関係を否定するのではなく、それぞれの専門家をつなぎ、承継全体の設計図としてまとめる役割として関わります。
「保険担当者には商品を売り込まれそうで相談しづらい」「税理士には税務のことしか聞けない」という声もよく聞きます。第三者である事業承継士が間に入ることで、会社の事情と家族の事情の両方を踏まえた整理がしやすくなります。
KICKコンサルティング株式会社は、中小企業庁の認定経営革新等支援機関でもあります。中小企業診断士としての経営分析の視点と、事業承継士としての制度知識を組み合わせ、現状の洗い出しから役割の整理、設計の見直しまで、法人保険と個人保険の全体像を一緒に組み立てます。法人支援実績は150社を超えており、従業員承継という難しいテーマにも、これまでの支援経験を生かして向き合います。
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事業承継のよくある質問|従業員承継と法人保険の疑問を解消

Q. 法人保険に入っていれば、個人保険は不要ですか
A. いいえ、不要にはなりません。法人保険は会社の事業継続を目的とした契約であり、受取人が法人になっているケースが多く、後継者個人や家族の生活資金を直接守るものではないためです。目的が異なるため、両方を役割に応じて備える発想が必要です。
Q. 従業員承継の後継者は、いつから個人保険を考えればよいですか
A. 承継の話が具体的になった時点、できれば経営者保証を引き継ぐ話が出た段階が目安です。保証という責任を負うタイミングと、個人の備えを整えるタイミングをそろえておくと、空白の期間ができにくくなります。
Q. 法人保険の保険料は全額が経費になるのですか
A. 一律に全額が経費になるわけではありません。2019年の通達改正以降、法人向けの定期保険などは最高解約返戻率に応じて損金にできる割合が区分されています。契約内容によって取扱いが異なるため、個別の判断は税理士に確認することをおすすめします。
Q. 契約者や受取人が前の社長のままの保険はどうすればよいですか
A. 承継のタイミングで、契約者・被保険者・受取人が今の経営体制と合っているかを確認する必要があります。名義が実態とずれたままだと、保険金が想定した相手に渡らないおそれがあります。
Q. 経営者保証を引き継ぐ場合、保険でどこまで備えられますか
A. 保証の金額や後継者の家族構成によって必要な備えは変わるため、一概には言えません。個人保険で保証の重さに見合う保障を検討するとともに、経営者保証そのものを外せないかを金融機関と交渉することも、あわせて検討する価値があります。
Q. 役員退職慰労金の準備と、後継者個人の保険は関係がありますか
A. 直接の関係はありませんが、退任する現経営者の退職慰労金を法人保険で準備する話と、承継後の後継者個人の保険を整える話は、承継計画の中では同時に検討しておくと整理しやすいテーマです。
Q. 個人保険を増やしすぎると、会社の保険を減らしてよいのですか
A. 単純に置き換えられるものではありません。法人保険を安易に減らすと、会社の資金繰りの備えが薄くなり、事業継続への影響が出ることもあります。それぞれの目的に応じて過不足を点検することが基本です。
Q. 保険担当者に相談すればよいのではないですか
A. 保険担当者は保険の専門家ですが、承継計画全体との整合や、会社と個人どちらの保障を優先すべきかという判断まではカバーしきれないことがあります。承継全体の設計とあわせて整理したい場合は、事業承継の専門家に相談する方法もあります。
Q. 家族への説明はどのように進めればよいですか
A. 会社の保険と個人の保険、それぞれが何を守っているのかを整理してから説明すると、家族も納得しやすくなります。数字と保障内容が明確になっているほど、家族の不安は和らぎます。
Q. 承継後、後継者が個人保険を選ぶときに気をつけることはありますか
A. 経営者保証の金額、住宅ローンの残債、子どもの年齢といった家庭の状況によって必要な保障額は大きく変わります。法人保険で備えている部分と重複していないかを確認したうえで、個人保険の保障内容を決めることが大切です。
Q. 相談はどのタイミングでするのがよいですか
A. 「従業員承継の話が具体的になってきた」と感じ始めた時点が、最も動きやすいタイミングです。保険の見直しには一定の時間がかかるため、早めに現状を整理しておくほど選択肢が残ります。
まとめ
従業員承継(MBO)で社長になる後継者にとって、法人保険は会社を守る仕組みであっても、家族の生活を直接守る仕組みではありません。この線引きがあいまいなまま承継が進むと、いざというときに会社は守れても家族が困るという事態になりかねません。
保障の対象で線引きする、契約の名義を実態に合わせる、家族のライフプランに合わせて個人保険の要否を検討する。この3つの基準で1つずつ点検すれば、会社と家族、両方を守れる保険の形が見えてきます。
大切なのは、法人保険を減らすことでも、個人保険を増やすことでもなく、それぞれの役割を今の承継の実態に合わせて整え直すことです。まずは今ご契約中の保険を一覧にして、現状を整理するところから始めてみませんか。
従業員承継という大きな決断を前にすると、株式や資金繰りといった会社側の課題に意識が向きがちですが、後継者自身と家族の生活を守る備えも、承継計画の一部です。会社と家族、どちらか一方ではなく両方を見据えた準備を、少しずつ進めていきましょう。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは今の保険の状況をお聞かせください。
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