
お盆で久しぶりに親族が集まったのに、会社の株の話だけは切り出せないまま終わってしまった。そんな夏を過ごされたのではないでしょうか。
先代から引き継いだ株式が、兄弟や親戚、昔の役員の名前で少しずつ分かれたままになっている。誰がどれだけ持っているのか、正確には分からない。
そのうえ、株主名簿は何年も更新されていない。この状態のままでは、親族内承継は前に進みません。
結論から申し上げます。事業承継でまず手をつけるべきは、税金の計算でも保険の見直しでもなく、「誰が、何株を、どんな経緯で持っているのか」を確定させることです。
ここが曖昧なままだと、後の対策がすべて砂の上の設計図になります。
この記事はこんな方におすすめです
- 自社株が親族に分かれている社長の方
- 昔の名義株が残ったままの会社の方
- 株主名簿を長く見ていない経営者の方
- 子への承継を先送りしてきた方
- 自社株の分散と名義株が親族内承継を止める理由
- 議決権の比率ごとに、何ができて何が止まるのか
- 分散した自社株を集約する5つのステップ
- 自社株評価の考え方と、税理士に任せるべき範囲
- 整理をやり切った先に、会社と家族が手に入れるもの
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士として、法人支援150社以上の実績で承継の全体設計に伴走してきました。
読み終えるころには、明日どの書類から手をつければよいかが分かります。
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親族内承継で自社株の分散と名義株が重荷になる理由

この記事で扱うのは、親族内承継です。子や親族へ会社を引き継ぐ場面で、自社株の分散と名義株がどう効いてくるのかを整理します。
承継には親族内・役員従業員・第三者の3つの形がありますが、株式を一つにまとめる作業はどの形でも土台になります。
株式が分かれている会社ほど、決められない会社になる
株式会社の重要な決定は、株主総会の議決権で決まります。社長が「やる」と決めても、議決権が足りなければ実行できません。
設備投資や事業の売却、定款の変更といった場面で、この差がはっきり出ます。
議決権の比率によって、できることは次のように変わります。
| 議決権の比率 | できること・起きること |
|---|---|
| 3分の2以上 | 定款変更など、会社の形を変える決議(特別決議)を通せる |
| 過半数 | 役員の選任や配当など、通常の決議(普通決議)を通せる |
| 3分の1超 | 他の株主が特別決議を通すことを止められる |
| 3%以上 | 会計帳簿の閲覧を請求できる(少数株主の権利) |
つまり、後継者に株式を渡しても、比率が中途半端なら経営の自由度は戻りません。
分散したままの承継は、後継者に「決められない会社」を渡すことになります。
名義株が生まれた背景と、放置したときの怖さ
名義株とは、株主名簿に載っている名義人と、実際に出資したお金の出し手が違う株式のことです。
この名義株は、決して珍しいものではありません。平成2年の商法改正より前は、株式会社を設立するのに発起人が7人以上必要でした。
そのため、先代が親戚や友人、当時の従業員に名前だけを借りて会社を作った例が数多くあります。
問題は、時間が経つほど整理が難しくなることです。名義を貸した本人が亡くなれば、その相続人へ株式の権利が移ったと主張される可能性があります。
当時の事情を知る人がいなくなり、「本当は誰の株か」を裏づける資料も失われていきます。
相続のたびに、株式は自動的に分かれていく
もう一つ知っておいていただきたいのが、株式は相続のたびに分かれていくという性質です。
株主が亡くなると、その株式は相続人へ引き継がれます。遺言や遺産分割の話し合いが終わるまでの間、株式は相続人全員が共有している状態になります。
この状態では、会社に対して権利を行使する人を1人決めて通知しなければ、議決権を使えません。
つまり、株主に相続が起きた瞬間から、会社の意思決定に空白が生まれる可能性があります。
先代の兄弟が持っていた株式が、その子や孫へ渡っていく。二代、三代と続けば、社長が顔も知らない株主が生まれます。
何もしなければ、株式は時間とともに必ず分かれていきます。放置は現状維持ではなく、悪化を選ぶことと同じです。
放置した先に起きる3つのこと
自社株の分散と名義株を先送りすると、次のような形で表面化します。
- 相続が起きるたびに株主が増え、面識のない人が株主になる
- 会計帳簿の閲覧を求められ、決算の中身を説明する手間が生まれる
- 買い取りたいと申し出ても、価格の交渉が折り合わなくなる
特に3つ目は深刻です。買う側は安く、売る側は高く考えるのが自然で、当事者だけでは着地しません。
要するに、株式の整理は「もめてから」ではなく「もめる前」に済ませる仕事です。
事業承継で自社株の分散を解消する5つのステップ

ここからが本題です。分散した自社株を集約する手順を、5つのステップに分けて説明します。
順番が大切です。調査を飛ばして買い取りから入ると、必ずやり直しになります。
- 株主の実態を突き合わせて確定する
- 名義株かどうかを1件ずつ判定する
- 目標とする議決権の比率から逆算する
- 買い取りの原資と価格の考え方を決める
- 定款を整え、次の分散を防ぐ受け皿を作る
株主の実態を突き合わせて確定する
最初にやるのは、資料の突き合わせです。株主名簿、法人税申告書の別表二、設立時の書類、過去の議事録を並べます。
集める資料は、次の5点が基本になります。
| 資料 | そこから分かること |
|---|---|
| 株主名簿 | 会社が公式に把握している株主と持ち株数 |
| 法人税申告書の別表二 | 同族関係者の持ち株の状況と、年ごとの変動 |
| 設立時の書類 | 誰が発起人として名前を並べたか |
| 過去の株主総会議事録 | 実際に誰が議決権を行使してきたか |
| 贈与や相続の記録 | 株式が動いた経緯と、その時期 |
ここで多くの会社が驚きます。株主名簿と申告書の株主の記載がずれている会社は、決して少なくありません。
ずれの原因は、相続で名義が移ったのに名簿を直していない、贈与の記録が残っていない、といったものです。
この段階では、正解を出すことより「分からない点を漏れなく洗い出す」ことを優先します。
名義株かどうかを1件ずつ判定する
次に、株式を1件ずつ見ていきます。判定の軸は、出資したお金を誰が負担したのか、配当を誰が受け取っていたのか、株主として扱われてきたのか、という点です。
名義株だと整理できた場合は、名義人ご本人やその相続人の協力を得て、実質の株主に名義を戻します。
このとき、確認した内容を書面に残すことが欠かせません。口約束だけでは、次の世代でまた同じ問題が起きます。
なお、名義を戻す処理が贈与にあたるかどうかといった税務の判断や申告は、税理士の領域です。KICKが税額の判断を代わりに行うことはありません。
私たちは全体の設計と段取りを担い、税理士と連携して進めます。
目標とする議決権の比率から逆算する
集約は、闇雲に買い集める作業ではありません。後継者にどこまでの決定権を持たせるかを決めれば、必要な株式数が自動的に決まります。
会社の形を変える決議まで通せる状態を目指すのか、通常の決議が通れば十分なのか。ここを先に決めます。
優先順位も重要です。高齢の株主、連絡が取りにくい株主、関係が薄れている株主から先に着手します。
買い取りの原資と価格の考え方を決める
集約には資金が必要です。後継者個人が買い取るのか、会社が買い取るのかで、必要な原資も手続きも変わります。
価格の土台になるのが自社株評価です。非上場株式の評価には、類似業種比準方式や純資産価額方式といった考え方があります。
ここで知っておいていただきたいのは、立場によって使われる評価の考え方が変わり得るという点です。同じ株式でも、誰が誰から取得するかで前提が変わります。
具体的な評価額の算定と税務上の取扱いは、税理士が担当する領域です。私たちは評価の考え方を共有し、資金計画と承継計画の整合を取る役割を担います。
会社が自社の株式を買い取る方法を選ぶ場合は、財源の制約がある点に注意が必要です。会社法では、会社が自己株式を取得できる金額に上限が定められています。
また、特定の株主からだけ買い取る場合は、株主総会の特別決議が必要になるなど、手続きも通常より重くなります。
資金があるからといって、いつでも会社で買い取れるわけではありません。手元資金、借入、会社の買い取り、後継者個人の買い取りを組み合わせて、無理のない形を設計します。
この段取りを一緒に組み立てるのが、自社株の集約から進める事業承継コンサルティングです。
定款を整え、次の分散を防ぐ受け皿を作る
せっかく集約しても、仕組みがなければ次の相続でまた分かれます。そこで定款を点検します。
株式の譲渡に会社の承認を要する定めがあるか。相続で株式を取得した人に対して、会社が売り渡しを請求できる定めを置くか。
議決権のない株式や、特定の決議に拒否権を持つ株式を使う設計もあります。ただし、これらの仕組みは設計を誤ると経営権を失う原因にもなります。
登記が必要な場面では司法書士が手続きを担います。制度を並べることが目的ではなく、5年後10年後にどうなっていたいかから選ぶことが大切です。
あわせて検討したいのが、遺留分をめぐる備えです。自社株を後継者へ集中させると、他の相続人が受け取る財産とのバランスが崩れることがあります。
経営承継円滑化法には、推定相続人全員の合意を前提に、生前贈与した自社株を遺留分の計算から外したり、価額をあらかじめ固定したりできる特例があります。
利用には全員の合意に加えて、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要です。手続きに時間がかかるため、思い立ってすぐ使える仕組みではありません。
要するに、この5つのステップは「調べる、決める、実行する、守る」を順番に踏む作業です。
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自社株の集約をやり切った先に手に入る未来

株式の整理は地味な作業です。それでも、やり切った会社には、はっきりとした変化が3つ生まれます。
経営の判断が速くなる
議決権が一つにまとまると、意思決定の手続きが軽くなります。誰に根回しが必要かを気にせず、事業の中身だけを考えられます。
決められる会社は、機会を逃しません。設備の入れ替えも、新しい取引先との契約も、判断の速さがそのまま結果につながります。
後継者が自分の責任で投資できる
株式が分かれた会社を引き継いだ後継者は、常に他の株主の顔色をうかがうことになります。挑戦より説明に時間を使うことになりがちです。
集約が終わっていれば、後継者は自分の判断で人を採り、設備に投資できます。失敗しても自分の責任で立て直せます。
この自由度こそ、先代が後継者に渡せる最大の資産です。
家族と従業員が安心して働ける
株式の所在が曖昧なままだと、相続をきっかけに親族の関係が壊れることがあります。従業員も、会社の先行きが見えないまま不安を抱えます。
誰が会社を引き継ぐのかがはっきりすれば、取引先も金融機関も安心して付き合いを続けられます。
金融機関は、決算の数字だけを見ているわけではありません。この会社は誰が引き継ぐのか、その体制は固まっているのかを必ず確認します。
株主構成が整理され、後継者が明確になっている会社は、承継後の取引や個人保証の話し合いでも前向きに扱われやすくなります。
株式の整理は、会社の信用そのものを整える作業でもあります。
会社の土台を固め、家族と従業員が安心して働ける状態を共に手に入れましょう。
自社だけで進める限界と、事業承継士による伴走支援

ここまで読んで、「やるべきことは分かったが、自社では動かせない」と感じた方も多いはずです。それは自然な反応です。
自社だけだと止まってしまう3つの理由
第一に、社長自身が当事者だからです。親族に株式の話を切り出すのは、他人が思うよりずっと重い行為です。
第二に、相談先が分かれているからです。税理士、保険の担当者、金融機関、後継者。それぞれが別々に良かれと思う助言をします。
第三に、期限が見えにくいからです。決算や納税と違って、承継には「今日やらないと困る日」がありません。だから後回しになります。
そして株式の集約は、思っている以上に時間がかかります。株主の実態を確定させるだけで数か月、話し合いを重ねれば年単位になることもあります。
相手のご都合もあり、こちらの都合だけでは進みません。だからこそ、余裕のあるうちに着手する価値があります。
先送りの本当のコストは、選べる手段が一つずつ減っていくことです。
KICKが担うのは、全体をつなぐ設計と段取り
私たちは中小企業診断士・事業承継士として、また認定経営革新等支援機関として、承継の全体設計に伴走します。
税務の判断と申告は税理士、登記は司法書士、許認可は行政書士が担います。私たちは、その専門家の力が噛み合うように順番と論点を整理します。
誰かの助言が間違っているのではありません。つなぐ人がいないまま時間だけが過ぎることが、唯一の問題です。
KICKは事業承継専属の保険代理店でもあります。買い取りの原資や納税資金の備えとして、法人保険が役割を持つ場面もあります。
その際も、商品ありきでは考えません。なお、2019年(令和元年)の法人税基本通達の改正により、法人向け定期保険等の保険料は最高解約返戻率に応じて損金算入の取扱いが区分されます。保険料が全額損金になると一般化することはできません。
個別の税務上の取扱いは税理士に確認しながら、承継計画との整合を優先して役割を再設計します。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。保険への加入をその場でお勧めすることもありません。お断りいただいて構いません。
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よくある質問|親族内承継と自社株評価の疑問を解消

ご相談の場で多くいただく質問をまとめました。
Q. 株主名簿が見当たりません。何から始めればよいですか
A. 法人税申告書の別表二から着手します。ここには株主と持ち株数の記載があり、過去数年分をさかのぼると変動の経緯が見えます。設立時の書類や過去の議事録も併せて集めます。
Q. 名義を貸しただけの株主が亡くなっています。もう手遅れですか
A. 手遅れとは限りません。出資したお金を誰が負担したのか、配当を誰が受け取っていたのかを示す資料が残っていれば、実態を整理できる場合があります。まずは資料の確認から始めます。
Q. 少数株主が買い取りに応じてくれません
A. 応じない理由を切り分けることが先です。価格が不満なのか、会社への感情なのか、そもそも話が伝わっていないのかで、打ち手が変わります。会社法上の手段もありますが、関係を壊さない順番で進めることが大切です。
Q. 自社株評価はどのくらいの金額になりますか
A. 会社の規模や業種、資産の内容によって大きく変わるため、一律の目安はありません。類似業種比準方式や純資産価額方式といった考え方があり、具体的な評価額の算定は税理士が行います。
Q. 事業承継税制を使えば税金の心配は要りませんか
A. 納税を猶予する制度であり、免除が保証された仕組みではありません。要件を満たさなくなれば猶予が打ち切られます。使えるかどうかは会社ごとの状況によるため、税理士と一緒に判断します。
Q. 特例承継計画の提出期限が延びたと聞きました。急ぐ必要はありますか
A. 急ぐ必要があります。計画の提出期限は令和9年9月30日ですが、実際に贈与や相続を行う期限は令和9年12月31日で、こちらは延長されない見込みです。株式の集約には年単位の時間がかかることもあります。
Q. 後継者がまだ決まっていません。それでも相談できますか
A. できます。むしろ決まっていない段階のほうが、選べる道が多く残っています。株主の実態を確定させる作業は、誰に引き継ぐ場合でも必要になります。
Q. 顧問税理士がいます。相談先を変える必要がありますか
A. 変える必要はありません。税務の判断と申告は顧問税理士が担い、私たちは承継全体の設計と段取りを担います。役割が違うため、両立します。
Q. 親族内承継と従業員への承継で、株式の整理の進め方は違いますか
A. 株主の実態を確定させる最初の作業は同じです。異なるのは買い取りの原資で、従業員が引き継ぐ場合は資金の調達方法をより早い段階から設計します。
Q. 株式の集約には、どのくらいの期間がかかりますか
A. 会社の状況によりますが、株主の実態を確定させるだけで数か月かかることは珍しくありません。相手のあるお話が続くため、年単位になる場合もあります。期限のある制度の利用を考えるなら、逆算した着手が欠かせません。
Q. 相談すると保険や商品を勧められませんか
A. 勧めません。初回は現状をうかがい、着手すべき順番をお伝えするところまでです。その場でのご契約や、しつこい営業は一切ありません。
まとめ

親族内承継でつまずく会社の多くは、税金でも保険でもなく、株式の所在で止まっています。
この記事でお伝えした流れを、もう一度整理します。株主の実態を突き合わせ、名義株を判定し、目標の議決権比率から逆算する。そのうえで原資と価格の考え方を決め、定款で次の分散を防ぐ。
この5つのステップは、どれも今日から着手できます。必要なのは、申告書の別表二と古いファイルを机に出すことだけです。
「まだ早い」と感じている今こそ、最も選択肢が多く残っている時期です。関係が良いうちに動けば、話し合いは驚くほど穏やかに進みます。
株式が一つにまとまれば、承継の残りの論点は驚くほど整理しやすくなります。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは現状をお聞かせください。
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