
上期の数字がおおよそ固まり、下期に向けて資金繰りや決算の準備を見直す時期ではないでしょうか。あわせて、先代の代から続く法人保険の証券を、久しぶりに開いてみたという方もいらっしゃるかもしれません。
「この保険は、いま何のために掛けているのか」——契約者・被保険者・受取人の欄を見ても、はっきり答えられない。そんな状態のまま、親族内承継の時期だけが近づいている会社は少なくありません。
万一のとき、この保険は家族の生活を守れるのか。会社の資金繰りは持ちこたえられるのか。答えが曖昧なまま放置すると、死亡退職金や弔慰金の非課税枠を十分に使えず、遺されたご家族と会社の両方に負担が集中してしまう恐れがあります。
この記事では、中小企業診断士・事業承継士として法人支援150社以上に携わってきた立場から、親族内承継における法人保険の見直しを、死亡退職金と弔慰金という2つの非課税枠を軸に整理します。
- 先代の法人保険をそのまま放置している経営者の方
- 死亡退職金と弔慰金の違いが分からない後継者の方
- 万一の備えと会社の資金繰りを両立させたい方
- 親族内承継を控え、保険の目的を整理したい方
- 死亡退職金と弔慰金、2つの非課税枠の仕組み
- 親族内承継で法人保険を見直す2つの基準
- 保険の目的を承継フェーズに合わせて整理する手順
- 自社だけで判断に迷ったときの相談先
読み終えたとき、いま契約している法人保険が「誰のために」「何の目的で」掛けられているのかを、ご自身の言葉で説明できる状態を目指します。難しい専門用語は最小限にとどめ、経営者・後継者の目線でお伝えします。
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親族内承継で死亡退職金の非課税枠が使えていない理由

結論から言うと、保険は入っているのに、非課税枠を意識した設計になっていない会社が多く見られます。業種を問わず、親族内承継を控えた会社に共通して見られる傾向で、理由は主に3つあります。
理由1:契約の目的が代替わりしていない
先代が会社を興した当時、法人保険は設備投資の担保や資産形成の意味合いで契約されていることがあります。そのまま親族内承継の段階になっても、契約の目的が「いまの承継フェーズに合わせて」更新されていないケースは珍しくありません。会社の成長段階が変わり、後継者が実務を担うようになっても、保険の中身だけが数十年前のまま止まっている、ということが起こります。
理由2:死亡退職金と弔慰金の違いが整理されていない
死亡退職金と弔慰金は、それぞれ別の非課税枠を持つ、別の制度です。この2つを混同したまま保険金額だけを決めていると、本来使えるはずの非課税枠を取りこぼしてしまいます。
死亡退職金の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」で計算されます(相続税法12条1項6号)。弔慰金の非課税枠は、亡くなった理由によって変わり、業務上の死亡であれば普通給与のおよそ3年分、業務外の死亡であれば普通給与のおよそ6か月分が目安とされています(相続税法基本通達3-20)。この2つは合算できるため、規程と保険設計を整えておくことで、ご家族に遺せる金額の見通しが変わってきます。
理由3:規程が整っていない
死亡退職金や弔慰金を非課税枠の範囲で支給するには、株主総会決議や役員退職慰労金規程・弔慰金規程といった支給根拠が必要です。保険には加入していても、規程が未整備のままだと、いざというときに支給の判断が遅れ、非課税枠を活かしきれない事態にもつながりかねません。規程の整備は後回しにされやすい作業ですが、非課税枠を活かせるかどうかを左右する、地味だが重要な土台です。
非課税枠は「制度」であって、備えそのものではない
ここで見落とされがちなのが、非課税枠はあくまで税金がかからない範囲を示す制度であって、支給できる現金そのものではないという点です。非課税枠の範囲で死亡退職金を支給できると分かっていても、会社の口座にその分の現金が用意されていなければ、絵に描いた餅で終わってしまいます。
法人保険は、この「非課税枠は分かったが、支給する現金がない」という空白を埋める役割を担います。非課税枠の計算だけを理解して満足し、資金の裏付けを確認しないままにしている会社は、承継の場面で慌てることになりがちです。
放置すればするほど、契約者・被保険者・受取人の設定は先代の時代のまま固定化されます。親族内承継が近づいたいまこそ、法人保険を点検する意味があります。
事業承継における法人保険の見直し|非課税枠を意識した2つの基準

事業承継の視点で法人保険を見直すときの基準は、大きく2つです。「非課税枠に沿っているか」と「承継後の目的に合っているか」です。
基準1:非課税枠に沿った保障額になっているか
死亡退職金の非課税枠は法定相続人の数で変わります。子の人数や配偶者の有無によって、非課税枠そのものが変わるということです。いまの保障額が、この非課税枠を踏まえて設計されているかを確認します。枠を超えた部分は相続税の課税対象になる点も、あわせて押さえておきたいところです。
基準2:契約者・被保険者・受取人が承継後の目的に合っているか
親族内承継では、被保険者が先代のまま据え置かれていることがよくあります。後継者が経営の実権を持ったあとも先代が被保険者のままだと、保険の役割と会社の実態がずれていきます。契約者・被保険者・受取人を、いまの経営体制に合わせて点検し直すことが2つ目の基準です。
法人の保険と個人の保険の役割を分けて考える
親族内承継では、会社が契約する法人保険と、後継者やそのご家族が個人で備える保険を、同じ財布のように扱ってしまいがちです。しかし本来この2つは役割が異なります。法人保険は会社の資金繰りや退職金の原資を守るためのもの、個人の保険は後継者ご自身やご家族の生活を守るためのものです。
法人保険だけで会社と個人の両方をカバーしようとすると、保障が中途半端になりやすくなります。反対に、承継後の会社の目的に合わなくなった法人保険を、個人の生活保障として引き継ぐという選択肢が有効な場合もあります。どちらが正解というより、「いま何を、どちらの財布で守るのか」を分けて考えることが2つ目の基準の土台になります。
ここで保険料の損金算入についても正確に押さえておく必要があります。2019年(令和元年)の法人税基本通達改正により、法人向け定期保険等の保険料は、最高解約返戻率に応じて損金に算入できる割合が区分されるようになりました。「保険料は基本的に全額損金になる」という以前の考え方は、いまの契約すべてに当てはまるわけではありません。対象になるのは、定期保険等は2019年7月8日以降、医療保険などの第三分野保険は2019年10月8日以降に契約したものが中心で、それより前からの契約は当時のルールのまま続いているケースもあります。具体的な損金算入割合は契約内容によって異なるため、個別の判断は顧問税理士に確認することをおすすめします。
詳しくは次のページでまとめています。
事業承継専属の保険代理店という考え方 中小企業の事業承継において、法人保険は長年にわたり「とりあえず加入してきたもの」になりがちです。創業期、成長期、拡大期と、その時々の経営判断の積み重ねで保険は増え、気づけば保険料負担が重くなっているケースも少なくありません。 一方で、「保険をやめ...
実際に見直しを進めるときの検討項目は、次のとおりです。架空の数値ではなく、確認すべき項目として整理しています。
| 検討項目 | 確認するポイント |
|---|---|
| 契約形態 | 契約者・被保険者・受取人が、いまの承継の段階に合っているか |
| 保障の目的 | 死亡退職金の原資か、弔慰金の原資か、納税資金か、自社株の買取資金か |
| 非課税枠の設計 | 法定相続人の数に応じた非課税枠を踏まえた保障額になっているか |
| 損金算入の扱い | 契約時期・最高解約返戻率によって取扱いが変わることを踏まえているか |
| 規程の整備 | 死亡退職金・弔慰金の支給根拠となる規程が整っているか |
| 承継後の見直し時期 | 後継者が経営を引き継いだあと、契約内容を再確認する時期を決めているか |
この一覧を一つずつ埋めていくだけでも、いまの契約が「誰のため」「何のため」なのかが見えてきます。全部を一度に完璧にする必要はありません。まずは現状を洗い出すことから始めれば十分です。
証券が複数ある会社では、この6項目を1件ずつ書き出していくだけでも半日仕事になることがあります。すべてを自社の担当者だけで抱え込まず、まずは証券を集めて一覧化するところから始めると、全体像が見えやすくなります。過剰な保障と不足している保障が同じ一覧の中に並ぶことで、次に何を優先すべきかも自然と見えてきます。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。商品ありきの提案はせず、事業承継計画との整合性を優先してお話しします。しつこい営業もありませんので、お断りいただいて構いません。
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親族内承継を終えた家族と会社が手に入れる3つの未来

保険の目的を整理し、親族内承継の準備を進めた先には、次の3つの未来が待っています。
未来1:家族の生活が守られる状態
万一のことがあっても、死亡退職金と弔慰金という2つの非課税枠を踏まえた保障が用意されていれば、遺されたご家族の当面の生活に大きな空白が生まれません。非課税枠の計算だけでなく、支給できる現金の裏付けまで整っている状態です。
未来2:会社の資金繰りが守られる状態
退職金の支給や自社株の買取といった急な出費が発生しても、あらかじめ資金の裏付けがあれば、取引先や金融機関との関係を崩さずに乗り切れます。会社を止めない備えが整った状態です。急な出費のたびに借入れに頼る必要がなくなり、後継者は本業の経営判断に集中できるようになります。
未来3:後継者が保険の意味を説明できる状態
契約の目的が整理されていれば、後継者自身が「この保険は何のためのものか」を、税理士にも金融機関にも自分の言葉で説明できるようになります。属人化した契約が、承継後も引き継げる資産に変わります。証券が何枚あっても、それぞれの役割を後継者が把握している状態は、金融機関との信頼関係にもつながります。
この3つの未来は、どれも保険に加入すれば自動的に手に入るものではありません。契約の目的を承継フェーズに合わせて点検し、規程と保険設計を揃えて初めて手が届くものです。逆に言えば、いま加入している保険を大きく増やさなくても、契約内容と規程を整理するだけで近づける未来でもあります。家族の安心と会社の存続を、共に手に入れましょう。
自社だけで進める限界と、事業承継士による伴走支援

ここまで整理してきた内容を、自社だけで進めようとすると、いくつかの壁にぶつかります。
壁1:税理士・保険担当者・後継者の話がかみ合わない
税理士は税務、保険担当者は契約内容、後継者は経営の実感——それぞれが別の立場で見ているため、誰も全体像を持たないまま時間だけが過ぎることがあります。誰かが悪いわけではなく、全体を設計する役割が空席になっているだけです。
壁2:契約が複数の保険にまたがり、把握しきれない
先代の代から契約が積み重なっていると、証券の枚数だけでも整理に時間がかかります。契約者・被保険者・受取人を1件ずつ確認していく作業は、経営の合間には後回しになりがちです。担当者が異動や退職で変わり、契約の経緯が分からなくなっているケースも珍しくありません。
壁3:規程の整備には専門的な知識が要る
死亡退職金・弔慰金の規程、株主総会決議の記録といった書類の整備は、法務・税務の知識が求められます。ひな型をそのまま使うだけでは、自社の非課税枠の設計と整合しない規程になってしまうこともあります。
壁4:承継の全体計画と保険の見直しが別々に進んでしまう
自社株の評価や後継者教育など、承継の準備には他にも取り組むべきことが多くあります。保険の見直しだけを切り離して進めると、承継計画全体との整合が取れなくなるおそれがあります。保険は承継計画の一部として位置づけて初めて、意味のある備えになります。
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士(認定経営革新等支援機関)として、承継全体の設計と伴走を行っています。あわせて事業承継専属の保険代理店として、法人保険を承継フェーズに合わせて再設計する支援もしています。個別の税務判断や税額計算、登記や許認可といった手続きは、それぞれ税理士・司法書士・行政書士の領域であり、KICKが代わって行うものではありません。専門家の間に立ち、話がかみ合っていない状態を、全体設計でつなぐことがKICKの役割です。
これまで法人支援150社以上に携わるなかで、保険の証券は揃っているのに、誰も全体像を把握していないという状態を数多く見てきました。契約を1件ずつ点検し、非課税枠と承継計画の両方に照らして整理し直す——地道な作業ですが、この積み重ねが、いざというときの家族と会社の両方を守ります。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。顧問税理士や既存の保険担当者を否定するようなご提案もしません。その場でのご契約もありませんので、安心してご相談ください。
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事業承継のよくある質問|死亡退職金と弔慰金の疑問を解消

Q. 死亡退職金の非課税枠は、どんな会社にも同じように使えますか?
A. 非課税枠そのものは法定相続人の数によって決まる仕組みですが、実際に非課税で受け取れるかは、死亡退職金の支給を裏付ける規程や株主総会決議が整っているかによって変わります。会社ごとに状況が異なるため、いまの規程を確認することから始めることをおすすめします。
Q. 弔慰金と死亡退職金は同時に受け取れますか?
A. 弔慰金と死亡退職金は制度上、別のものとして扱われ、それぞれに非課税枠があります。両方の枠を踏まえて保障を設計しておくと、遺されたご家族にとって受け取れる金額の見通しが変わってきます。
Q. 非課税枠を超えた金額はどう扱われますか?
A. 非課税枠を超えた部分は、相続税の課税対象に含まれます。超えた金額がどの程度の税負担になるかは、他の相続財産との合計や法定相続人の状況によって変わるため、個別の試算は税理士に相談することをおすすめします。
Q. 法人保険の保険料は、全額を経費にできますか?
A. 2019年の法人税基本通達改正以降、法人向け定期保険等の保険料は最高解約返戻率に応じて損金算入できる割合が区分されています。全額を経費にできる契約もあれば、そうでない契約もあり、契約時期によっても扱いが異なります。具体的な割合は契約内容次第のため、顧問税理士に確認しながら整理する必要があります。
Q. 親族内承継以外でも、この考え方は使えますか?
A. 役員・従業員承継(MBO・EBO)や第三者承継(M&A)でも、法人保険の目的を承継フェーズに合わせて見直すという考え方は共通します。ただし受取人や保障の目的の設計は類型ごとに異なるため、まずはご自身の会社がどの類型の承継を想定しているかを整理することが先になります。
Q. 保険を見直すタイミングはいつが良いですか?
A. 決算期や後継者への実務の引き継ぎが進むタイミングは、契約内容を見直しやすい機会です。承継の具体的な時期が固まっていなくても、まずは現状の契約を洗い出しておくと、いざというときに慌てずに済みます。
Q. 既に加入している保険を解約する必要はありますか?
A. 解約が前提ではありません。削りすぎると、万一のときの家族の生活保障や会社の資金繰りに影響が出るおそれがあります。過剰な部分と不足している部分の両方を可視化したうえで、必要な保障を守りながら整えることが目的です。
Q. 保険金の受取人は、後継者に変更しておくべきですか?
A. 受取人の設計は、保障の目的(死亡退職金の原資か、遺族の生活保障か等)によって考え方が変わります。一律の正解があるわけではないため、承継計画全体の中で誰が何を受け取るのが目的に合っているかを整理する必要があります。
Q. 法人の保険と個人の保険、両方持っておくべきですか?
A. 法人保険は会社の資金繰りや退職金の原資を守るためのもの、個人の保険は後継者ご自身やご家族の生活を守るためのものと、役割が異なります。どちらか一方に偏っていないかを確認し、必要に応じて役割を分けて考えることをおすすめします。
Q. 規程が無い状態でも、死亡退職金や弔慰金は支給できますか?
A. 規程が無くても支給自体は可能な場合がありますが、非課税枠の範囲で適正に支給したことを説明する根拠が弱くなります。株主総会決議や規程の整備は、非課税枠を活かすための土台として整えておくことをおすすめします。
Q. 相談したら、その場で保険の提案をされますか?
A. まずは現状の契約と承継計画をお聞きし、目的の整理から始めます。特定の保険商品を前提にお話しすることはなく、事業承継計画との整合性を優先します。ご契約を急かすことはありませんので、安心してご相談ください。
まとめ
親族内承継における法人保険の見直しは、死亡退職金と弔慰金という2つの非課税枠を軸に考えると、進め方が見えてきます。保険は削るためのものでも、売るためのものでもありません。承継フェーズに合わせて、契約者・被保険者・受取人・保障の目的を再設計するものです。
先代の代からの契約をそのままにせず、いまの承継の段階に合っているかを一度点検してみることが、家族と会社の両方を守る第一歩になります。上期の着地が見えてきたこの時期に、決算や資金繰りの見直しとあわせて、法人保険の証券を一度机の上に並べてみてはいかがでしょうか。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは現状をお聞かせください。
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