
上期の数字が固まり、下期の巻き返し策を考え始めるこの時期。買い手候補との交渉を進めながら、心のどこかで「もし自分に何かあったら、この話はどうなるのだろう」と考えたことはないでしょうか。
事業承継のM&Aは、買い手探しから成約まで半年から1年ほどかかることが珍しくありません。その間、社長は経営を続けながら交渉にも時間を割くことになります。長い交渉期間のあいだ、会社に加入している法人保険が、いまの状況に合っているかを確認しないまま放置されているケースは少なくありません。
この記事では、第三者承継(M&A)を進める社長に向けて、交渉期間中に社長の身に万一のことがあった場合を想定し、法人保険をどう点検し直すかを整理します。中小企業診断士・事業承継士として法人支援を150社以上手がけてきた立場から、実務でよく確認する視点をお伝えします。
「保険のことは、契約したときの担当者に任せている」という社長は少なくありません。ただし、その担当者は事業承継やM&Aの進み方までは把握していないことがほとんどです。承継の状況と保険の中身を、両方見渡せる立場から確認することが、この時期にはとても大切になります。
「まだ買い手も決まっていないのに、保険の話は早いのでは」と感じる方もいるかもしれません。むしろ交渉が動き出す前の落ち着いた時期こそ、契約を洗い出すのに向いています。
- 事業承継のM&Aで買い手探しや交渉を進めている社長
- 法人保険の目的があいまいなまま加入を続けている経営者
- 交渉の長期化に漠然とした不安を抱えている方
- 家族と会社の両方を守る備えを整えたい後継者不在の社長
- 事業承継M&Aの交渉が長引いたときに起こる問題の構造
- 法人保険を点検する3つの視点(弔慰金・死亡退職金・資金繰り)
- 保険の検討項目を整理する具体的な進め方
- 事業承継士が伴走してできる支援の内容
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事業承継M&Aの交渉中、社長に万一があると何が起こるか

第三者承継(M&A)は、買い手候補を探し、条件をすり合わせ、契約書を整えるまでに時間がかかります。この期間は、社長が現役で経営を続けていることが前提になっています。
交渉が止まる、白紙に戻るリスク
もし交渉の途中で社長に急な病気や事故があれば、買い手は「この会社を任せて大丈夫か」という不安を持ちます。交渉が中断し、最悪の場合は白紙に戻ることもあります。後継者が育っていない会社ほど、この影響は大きくなります。
残された家族が直面する現実
社長個人の生活と会社の経営は、思っている以上に一体になっています。急な相続が起きれば、家族は悲しみの中で、会社の株式や連帯保証、当面の生活資金といった問題に向き合わなければなりません。交渉中の会社を、経営に関わってこなかった家族が引き継ぐのは大きな負担です。
法人保険が「昔の目的」のまま止まっている
多くの会社では、法人保険は創業期や事業拡大期に加入したまま、内容を見直さずに保険料だけを払い続けています。契約者・被保険者・受取人が当時のままで、いまの承継フェーズに合っているかを確認していないケースが目立ちます。
| 加入時の目的 | M&A交渉期の状況 |
|---|---|
| 運転資金や設備投資の担保 | 資金使途の見直しが必要になっている |
| 社長の勇退時の退職金準備 | 勇退の形がM&Aによる譲渡に変わっている |
| 万一のときの事業保障 | 受取人や保障額が承継後の体制と合っていない |
このまま何も点検しないでいると、いざというときに保険金の受取人が想定と違っていた、保障額が交渉中の資金繰りに足りていなかった、という事態になりかねません。事業承継の交渉が長引くほど、この見落としのリスクは積み上がっていきます。
製造業・建設業・サービス業に共通する死角
業種を問わず、年商5億〜50億円規模の会社では、社長個人の人脈や信用が取引先・金融機関との関係を支えていることが多くあります。社長の交代が急に起きると、取引条件の見直しを迫られたり、金融機関から追加の説明を求められたりする場面が出てきます。法人保険は、こうした過渡期の資金繰りを支える役割も担えます。
ところが実際には、加入時の担当者が退職していたり、証券がどこにあるかすぐに分からなかったりして、点検自体が後回しになっている会社も少なくありません。まずは契約の全体像を洗い出すところから始める必要があります。
役員退職慰労金の規程と保険がつながっていないことも
役員退職慰労金の準備として法人保険に加入している会社では、功績倍率法などをもとにした支給額の考え方と、実際に加入している保険の保障額がずれていることがあります。株主総会での決議や退職慰労金規程の整備が済んでいないまま、保険だけが先に走っているケースも見られます。M&Aで社長が退任する場面では、この規程と保険の整合性が特に問われます。
法人保険を点検する3つの視点|弔慰金・死亡退職金・資金繰り

法人保険の見直しは、保険を「減らす」ことが目的ではありません。交渉が長引いても事業承継が止まらないように、保険の役割をいまの状況に合わせて再設計することが目的です。ここでは3つの視点で点検の進め方を整理します。
視点1.弔慰金・死亡退職金として家族の生活を支える設計になっているか
会社が社長の遺族に支払う弔慰金・死亡退職金には、相続税の計算上、一定額まで課税されない枠があります。死亡退職金は「500万円×法定相続人の数」が目安とされ、弔慰金は業務外の死亡であればおおむね死亡当時の普通給与の6か月分、業務上の死亡であればおおむね3年分が非課税の目安とされています(相続税法・相続税法基本通達)。
この非課税枠を踏まえて保障額を組み立てておくと、家族が急な相続税の負担に追われずに済みます。ただし、実際に適用できるかどうかは家族構成や財産状況によって変わるため、具体的な金額の判断は税理士に確認する必要があります。
視点2.交渉中の資金繰りを支える保障になっているか
社長に万一のことがあった直後は、取引先や金融機関への説明、後任体制の準備などで、通常より資金が動きやすくなります。保険金がすぐに使える形になっているか、受取人が会社なのか個人なのかを、この機会に確認しておくことが大切です。
特にM&Aの交渉中は、買い手候補への説明資料の作成や、専門家への相談費用など、想定していなかった支出が重なりやすい時期でもあります。保険金の使いみちを「弔慰金・死亡退職金」と「当面の運転資金」に分けて考えておくと、いざというときに迷わずに済みます。
なお、点検したからといって、すぐに契約を変更しなければならないわけではありません。現状を正しく把握することが最初の一歩であり、変更の要否はそのあとでゆっくり判断すれば十分です。
視点3.保険料の扱いを正しく理解できているか
法人向けの定期保険等の保険料は、2019年(令和元年)の法人税基本通達改正により、最高解約返戻率に応じて経費にできる割合が区分されるようになりました。「保険料は全額経費になる」と一律に考えるのは誤りです。契約の時期や内容によって扱いが異なるため、具体的な区分や割合は税理士に確認したうえで判断してください。
この改正の対象になるのは、法人向けの定期保険等であれば2019年7月8日以降に契約したもの、第三分野の保険であれば2019年10月8日以降に契約したものです。それより前から続いている契約は、当時のルールのまま扱われることがあり、新しい契約と古い契約を同じ前提で語らないことが大切です。点検の際は、契約日をあわせて確認しておくと話が早くなります。
この3つの視点を、実際にどう洗い出していくか。次の表は、法人保険を点検するときに確認する項目の一例です。架空の数値ではなく、一般的な確認項目として参考にしてください。
| 確認する項目 | 点検の視点 |
|---|---|
| 契約者・被保険者 | 加入時のままか、いまの経営体制と合っているか |
| 死亡保険金の受取人 | 会社か個人か、想定する使いみちと一致しているか |
| 保障の目的 | 弔慰金・死亡退職金の原資か、交渉中の資金繰りの備えか |
| 保険期間 | M&Aの交渉が長引いても保障が途切れないか |
| 解約返戻金の状況 | いまどの段階にあるか(数値は保険会社に確認) |
KICKコンサルティングは事業承継専属の保険代理店として、こうした点検を承継計画とあわせて整理しています。詳しくは次のページでまとめています。
事業承継専属の保険代理店という考え方 中小企業の事業承継において、法人保険は長年にわたり「とりあえず加入してきたもの」になりがちです。創業期、成長期、拡大期と、その時々の経営判断の積み重ねで保険は増え、気づけば保険料負担が重くなっているケースも少なくありません。 一方で、「保険をやめ...
ご相談いただいても、特定の保険商品をおすすめすることはありません。まずは現状の契約を一緒に確認するところから始めます。お断りいただいても構いません。
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法人保険を整えた先に手に入る未来

法人保険を点検し、いまの承継フェーズに合わせて役割を再設計すると、次の3つが手に入ります。
交渉が止まらない安心
受取人や保障額が整理されていれば、万一のことがあっても、当面の資金繰りに困らずに交渉を続けられます。買い手候補にも「経営体制が整った会社」という印象を与えられます。交渉の途中で急にお金の話が持ち上がって信頼を損ねる、という事態を避けやすくなります。
家族が困らない備え
弔慰金・死亡退職金の非課税枠を踏まえた設計にしておけば、経営に関わってこなかった家族でも、相続税の重い負担に急に直面することを避けやすくなります。会社の株式や連帯保証の整理と並行して、当面の生活資金の心配を減らせることも大きな意味を持ちます。
経営に関わってこなかった配偶者やお子様が、悲しみの中で会社の手続きに追われる状況は、できるだけ避けたいものです。保険の受取人や金額があらかじめ整理されていれば、家族が最初に相談すべき相手も分かりやすくなります。
次の経営体制へ引き継げる整い
契約者・被保険者・受取人が整理された保険は、M&A成立後の引継ぎでも扱いに迷いません。承継後の新しい体制にも、そのまま持ち込める土台になります。買い手側にとっても、保険まわりが整理された会社は、引き継いだ後の手続きが少なく安心材料になります。
交渉が長引いても揺らがない備えと、家族が安心できる備え、そして次の体制へ引き継げる整い。この3つを共に手に入れましょう。
自社だけで法人保険を見直す限界と、事業承継士による伴走支援

法人保険の見直しを、社長おひとりで進めようとすると、次の壁にぶつかりやすくなります。
専門分野が分かれていて、話が噛み合わない
保険の担当者は保障の設計、税理士は税務、M&Aの仲介会社は交渉と、それぞれの専門分野が分かれています。誰も承継計画全体を見ていないと、保険の見直しだけが後回しになりがちです。これは担当者の責任ではなく、専門が分かれているという構造の問題です。
交渉と経営で時間が取れない
買い手候補との面談や資料作成に追われながら、契約書を一枚ずつ引っ張り出して点検する時間を確保するのは簡単ではありません。日々の経営と交渉の両方を回している社長にとって、保険の証券整理は後回しになりがちな作業です。
後継者候補がいない、あるいは社内に承継の話をまだ共有していない段階では、なおさら一人で抱え込みやすくなります。誰にも相談できないまま交渉だけが進んでいくと、保険の点検はいつまでも後回しになってしまいます。
現状把握から再設計までの進め方
KICKコンサルティングが法人保険の点検をお手伝いするときは、次のような流れで進めます。まず現在の契約をすべて洗い出し、契約者・被保険者・受取人・保障目的を一覧に整理します。次に、事業承継M&Aの進み方と照らし合わせ、過剰になっている保障と不足している保障を可視化します。そのうえで、承継計画との整合性を優先しながら、必要な部分だけを再設計する提案をお伝えします。商品ありきで話を進めることはありません。
KICKコンサルティングの立ち位置
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士として承継全体の設計と伴走を行い、あわせて事業承継専属の保険代理店として法人保険の点検を行っています。税理士や保険担当者を否定するのではなく、それぞれの専門をつなぎ、承継計画と保険の整合性を一緒に整理する役割を担います。個別の税務判断や申告は税理士の領域であり、その点は正確に切り分けてお伝えします。
代表の松本昌史は、中小企業診断士に加え、認定経営革新等支援機関としての登録も受けています。特定の業種に偏らず、製造業・建設業・サービス業など幅広い会社の事業承継M&Aと法人保険を見てきた経験を、点検の視点に反映しています。
ご相談いただいても、加入を前提にお話を進めることはありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。まずは現状の契約を一緒に確認させてください。
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事業承継M&Aと法人保険のよくある質問

Q. 事業承継のM&Aは、交渉から成約までどれくらいの期間がかかりますか。
A. 案件によって差はありますが、買い手探しから成約まで半年から1年ほどかかることが少なくありません。条件交渉や契約書の調整に時間がかかることもあります。この期間中も会社は通常どおり事業を続けるため、社長に万一のことがあった場合の備えを並行して整えておくことが大切です。買い手探しの前段階として事業の磨き上げに時間をかける会社では、準備を含めるとさらに長くなることもあります。
Q. 死亡退職金の非課税枠はどのくらいですか。
A. 相続税の計算上、死亡退職金は「500万円×法定相続人の数」までが非課税とされています。この枠を踏まえて保障額を考えることが、法人保険を見直す出発点になります。実際の適用可否は家族構成や財産状況によって変わるため、具体的な判断は税理士に確認してください。
Q. 弔慰金にも非課税の枠がありますか。
A. あります。業務外の死亡であれば死亡当時の普通給与のおおむね6か月分、業務上の死亡であればおおむね3年分が、弔慰金として非課税で支給できる目安とされています。この枠を超える部分は死亡退職金として扱われるため、退職金の枠とあわせて設計する必要があります。
Q. 法人保険の保険料は、全額を経費にできますか。
A. 2019年の通達改正により、法人向けの定期保険等は最高解約返戻率に応じて経費にできる割合が区分されるようになりました。「全額経費になる」と一律には言えません。契約ごとの正確な扱いは税理士に確認することをおすすめします。
Q. M&Aで会社を譲渡した後、社長個人の保険はどうなりますか。
A. 会社が契約者になっている保険は、譲渡の条件によって会社に残る場合と、個人へ名義を変更する場合があります。譲渡契約の交渉段階で、どの保険をどう扱うかを整理しておくと、成約後の手続きがスムーズになります。
Q. 保険の見直しは、いつから始めればよいですか。
A. 買い手探しを始める前、事業を磨き上げる段階から並行して着手するのが理想です。交渉が本格化してから見直すと時間の余裕がなくなるため、早めに現状を点検しておくことをおすすめします。証券を集めて一覧にするだけでも、次の一歩が見えやすくなります。
Q. 見直すと保障が減ってしまいませんか。
A. 見直しは保障を「減らす」ことが目的ではありません。過剰な保障と不足している保障を洗い出し、いまの承継フェーズに合わせて役割を再設計することが目的です。削りすぎれば、万一のときに事業継続や家族の生活に影響が出るため、両面を確認しながら進めます。
Q. 相談すると、保険への加入をすすめられませんか。
A. KICKコンサルティングは事業承継の設計と伴走を行う立場であり、特定の保険商品を売り込むことはありません。現状の契約を点検し、承継計画との整合性を一緒に確認する形でご相談いただけます。
Q. 中小企業診断士や事業承継士に相談するメリットは何ですか。
A. 税理士は税務、保険担当者は保障の設計と、専門がそれぞれ分かれているため、話が噛み合わないまま時間が過ぎてしまうことがあります。中小企業診断士・事業承継士として承継全体を俯瞰し、税理士や保険の担当者と連携しながら整理する役割を担います。
Q. 相談すると、特定の保険会社や商品を紹介されますか。
A. いいえ。KICKコンサルティングでは、特定の保険会社や商品名を前提にお話しすることはありません。まずは現在の契約内容と事業承継M&Aの進み方を照らし合わせ、過剰な保障と不足している保障を洗い出すところから始めます。実際にどの保険を選ぶかは、その後の判断になります。
まとめ
事業承継のM&Aは、買い手探しから成約まで半年から1年ほどかかることが珍しくありません。その間、会社の法人保険が「昔の目的」のまま止まっていないか、一度立ち止まって確認する価値があります。
弔慰金・死亡退職金の非課税枠、交渉中の資金繰り、保険料の経費区分という3つの視点で点検すれば、交渉が長引いても揺らがない備えと、家族が困らない備えの両方を整えられます。保険は売るものではなく、承継フェーズに合わせて役割を再設計するものです。
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士として、法人保険の点検から事業承継M&Aの全体設計まで伴走します。契約を1つずつ洗い出すところから始めるだけでも、いま抱えている不安の輪郭がはっきりしてくるはずです。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは現状をお聞かせください。
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