【プロが解説】親族内承継|後継者の万一に備える法人保険3つの鉄則

三冠バッチ

親族内承継で、後継者となる子が役員に就き、現場の実務を担い始めた。会社の法人保険は、先代である社長を被保険者にした契約が何本かある——では、後継者の側に万一があったときの備えは、どこにあるでしょうか。

多くの会社で、答えは「まだ何もない」です。先代の万一には手厚く備えているのに、後継者の万一は空白のまま。親族内承継の現場で、繰り返し見かける偏りです。

後継者が先代より先に亡くなる、あるいは長期の就業不能になる。確率は高くなくても、起きたときの影響は小さくありません。承継の相手を失い、高齢の先代が再登板せざるを得なくなる。その間の借入返済や運転資金、後継者の遺族への死亡退職金・弔慰金を、会社の手元資金だけで賄えるとは限りません。

この記事では、後継者を被保険者にした法人保険の役割を、「事業保障」「遺族への備え」「次の後継者を探す時間」という3つの鉄則に整理します。

この記事はこんな方におすすめです

  • 親族内承継で、子を後継者に決めている社長
  • 会社の保険が全部「先代」名義だと気づいた後継者の方
  • 後継者の万一に会社がどう備えるか知りたい方
  • 借入や個人保証を抱えたまま承継を進めている方
この記事で分かること

  • 先代だけを守る法人保険に生まれる「承継の空白」
  • 後継者を被保険者にする法人保険の3つの鉄則
  • 保障額を決める物差し(借入残高・固定費・退職金規程)
  • 承継計画と保険の整合性を点検する進め方

私たちKICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士として法人のお客様150社以上をご支援してきました。事業承継専属の保険代理店として、法人保険の点検にも携わっています。読み終える頃には、自社の保険が後継者の万一に対して過剰なのか不足なのか、何を物差しに点検すればよいかが分かります。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは現状をお聞かせください。

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親族内承継で見落とされる後継者の万一という事業承継の空白

親族内承継を進めている会社の保険証券を並べてみると、ある共通点に気づきます。被保険者の欄が、すべて先代である社長の名前になっているのです。

これは怠慢ではなく、経緯の結果です。契約した当時、後継者はまだ入社していなかったか、若手の社員でした。保険の担当者も先代との付き合いが長く、「社長に万一があったら」という前提で保障を組み立ててきました。

先代の万一に備えること自体は正しい判断です。ただしその備えは、「承継が予定どおり進む」という前提の上に立っています。後継者の側に万一があった場合、先代を守る保険は一円も動きません。

後継者が先代より先に亡くなる。あるいは病気や事故で、長期にわたり働けなくなる。どちらも「まだ若いから」と考えにくい出来事ですが、年齢は出来事の順番を保証してくれません。

後継者を失った会社に起きる連鎖

後継者に万一があったとき、会社に起きることを一つずつ言葉にしてみます。まず、承継の相手がいなくなり、これまで積み上げた承継計画が白紙に戻ります。

次に、既に第一線を退きつつあった高齢の先代が、再び代表として矢面に立たざるを得なくなります。体力も気力も、以前と同じではありません。

金融機関は「次の代は誰になるのか」を必ず確認します。答えが無いままでは、借入の返済条件や個人保証の扱いが話題に上り、新規の融資も慎重になります。

資金の入口が細る一方で、後継者が担っていた営業や現場の管理は、誰かが引き継がなければ回りません。人を採る余裕も、教える時間もない。売上が落ち、固定費だけが残り、社員や取引先の不安が広がっていきます。

この連鎖は、どこか一か所を断ち切れば止まります。「後継者を失っても、当面の資金が止まらない」状態を先に作っておくことが、その一か所にあたります。

後継者の遺族と会社の板挟み

後継者は多くの場合、既に役員報酬で家計を支えています。住宅ローンや子どもの教育費を抱える、働き盛りの世帯です。

会社に死亡退職金や弔慰金の規程があっても、規程は「払える」ことまでは約束してくれません。原資が無ければ、遺族に渡すお金を借入で用意するか、規程どおりに払えないかの二択になります。

先代にとって後継者の遺族は、自分の子の家族です。会社を守りたい気持ちと、遺族に報いたい気持ちの板挟みになりながら、資金繰りを考える——それが、備えの無い親族内承継で実際に起きる場面です。

「先代の万一」だけに備えた保険は、事業承継の途中に空白を残します。先代と後継者、どちらに万一があっても会社が止まらないかという視点で、いまの契約を点検する価値があります。

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後継者を守る法人保険の3つの鉄則|親族内承継の保障設計

後継者を被保険者にした法人保険を考えるとき、最初に決めるのは商品ではありません。「後継者に万一があったら、会社は何のために、いくら必要になるのか」という目的と金額です。

目的は大きく3つに分かれます。この3つを、この記事では「3つの鉄則」と呼びます。

鉄則その一|借入返済と当面の運転資金を止めない事業保障

一つ目の鉄則は、事業保障です。後継者に万一があっても、借入の返済と当面の運転資金が途切れない状態を作ることです。

物差しになるのは、借入残高と固定費です。借入残高は、金融機関との関係を保ちながら会社を立て直す時間を確保するために意識する金額です。固定費は、売上が落ち込む期間を乗り切るために、人件費・家賃・リース料などを何か月分見込むかで考えます。

後継者が既に借入の連帯保証人に加わっている会社では、後継者の万一が保証の相続という論点にもつながります。会社が受け取る保険金で借入を圧縮できれば、遺族が背負う保証の重さも変わってきます。

ここで大切なのは、この金額を「会社が受け取る」設計にすることです。契約者と受取人を法人、被保険者を後継者にする法人契約は、後継者個人の生命保険とは役割が異なります。個人契約は遺族の生活のため、法人契約は会社の事業継続のためと、役割を分けて考えます。

鉄則その二|後継者の遺族への死亡退職金・弔慰金を規程と原資で用意する

二つ目の鉄則は、後継者の遺族への死亡退職金・弔慰金です。会社から遺族に渡すお金を、「規程」と「原資」の両方でそろえておきます。

規程とは、役員退職慰労金規程や弔慰金規程のことです。役員退職慰労金は、株主総会の決議を経て支給するのが基本です。金額の考え方としては、功績倍率法(最終報酬月額に在任年数と役位に応じた倍率を掛ける方法)が広く使われています。

死亡退職金と弔慰金には、それぞれ税制上の非課税枠が存在します。ただし、どの範囲までが非課税になるか、いくらまでが会社の経費として認められるかは個別の判断になるため、税理士との確認が欠かせません。

原資とは、その規程に基づいて実際に支払うお金です。後継者を被保険者にした法人契約の保険金を原資に充てる設計にしておくと、規程どおりに支払える見込みが立ちます。規程だけがあって原資が無い状態は、先ほど書いた板挟みの入口です。

鉄則その三|次の後継者を探す時間を資金で確保する

三つ目の鉄則は、時間の確保です。後継者を失ったあと、次の後継者が決まるまでには年単位の時間がかかります。

先代が再登板する期間を支える資金、外部から経営人材を迎える資金、あるいは従業員承継や第三者承継へ舵を切るときの準備資金。いずれも「すぐには決められないが、決めるまで会社を保たせる」ためのお金です。

この三つ目の鉄則は、一つ目の事業保障と重なる部分があります。違いは時間軸です。事業保障が「直後の数か月」を支えるのに対し、三つ目は「次の道筋が見えるまでの数年」を見据えます。

保障設計で確認する項目の一覧

3つの鉄則を実際の設計に落とすとき、確認する項目は次のとおりです。金額はどの会社にも当てはまる正解がなく、自社の数字を当てはめて考えます。

検討項目確認すること物差しになる資料
契約の目的事業保障・遺族への退職金・時間の確保のどれを担わせるか承継計画・借入契約書
被保険者先代だけでなく後継者を被保険者にした契約があるか保険証券の一覧
契約者・受取人法人契約と個人契約の役割分担が整理されているか保険証券・家族の個人契約
保障額(事業保障)借入残高と固定費の何か月分を見込むか借入残高表・月次の固定費
保障額(退職金・弔慰金)規程に基づく支給見込額と原資が一致しているか役員退職慰労金規程・弔慰金規程
就業不能への備え死亡だけでなく長期の就業不能も対象に含めるか後継者の役割・代替できる人員
財務への影響保険料の負担が資金繰りを圧迫しないか資金繰り表・損益計画
承継時の役割承継の進み具合に合わせて契約を見直す時期を決めているか承継計画のスケジュール

この表を埋めていくと、「先代の契約は手厚いが、後継者の契約は無い」という偏りが数字として見えてきます。逆に、目的の重なる契約が何本もあり、保険料が資金繰りを圧迫している場合もあります。

ここで忘れてはいけないのが、「減らすための見直し」ではなく「守るための再設計」だという順序です。保険料を軽くするために削りすぎれば、万一のときに事業の継続や家族の生活へ影響が出ます。逆に、目的の無い契約を積み重ねても、資金繰りを圧迫するだけです。過剰と不足の両方を見て、承継計画に合う形へ組み直します。

保険料の損金算入についても触れておきます。2019年(令和元年)に法人税基本通達が改正されました。改正後は、法人向けの定期保険等の保険料について、最高解約返戻率に応じて損金算入できる割合が区分される取扱いになっています。保険料が全額経費になるとは限らず、改正前後の契約で扱いも異なります。個別の税務判断は税理士の領域であり、保険を税負担の軽減目的で選ぶ順序にはしないのが、KICKの考え方です。

事業承継専属の保険代理店としての、法人保険の点検・再設計の考え方は、次のページでまとめています。

ここでもう一度お伝えしますが、特定の商品の売り込みや、契約の押し付けは一切いたしません。いまお持ちの保険証券を並べて、目的と金額を整理するところからご一緒します。

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後継者の万一に備えた先に手に入る親族内承継の未来

後継者を被保険者にした法人保険を承継計画に組み込むと、親族内承継は次の3つの点で変わります。

承継計画が途中で止まらない会社

先代と後継者のどちらに万一があっても、当面の資金が途切れない状態になります。「次の代は誰か」という金融機関の問いに、「立て直す時間と資金はある」と答えられる会社になります。

承継計画は、人の入れ替わりを前提に組み直せます。後継者を失うという最悪の場面でも、計画そのものが白紙に戻るのではなく、次の道筋を選び直す余地が残ります。

後継者が家族を守りながら経営に打ち込める状態

後継者本人にとっても、この備えは意味を持ちます。「自分に何かあったら、会社も家族もどうなるのか」という不安を抱えたままでは、思い切った投資や新しい取り組みに踏み込みにくいものです。

会社が遺族への死亡退職金・弔慰金を規程と原資でそろえていれば、後継者は家計の不安を横に置いて、経営に集中できます。個人の保険と会社の保険の役割分担が整理されることで、家計側の保険料を見直す余地が生まれることもあります。

先代が「もし」を抱えずに引き継げる安心

先代の側にも変化があります。「自分の万一」への備えは済んでいても、「子の万一」は考えたくない論点として、頭の隅に残り続けていることが少なくありません。

その論点を先に言葉にし、資金で手当てしておけば、先代は再登板の不安を抱えずに、後継者へ権限を渡していけます。承継の速度が上がるのは、備えが整ったあとであることが多いのです。

承継計画が止まらない会社、後継者が家族を守りながら経営に打ち込める状態、先代が「もし」を抱えずに引き継げる安心——この3つは、後継者の万一を先に言葉にした会社だけが手に入れられるものです。

先代と後継者の両方を守る備えから、この3つの未来を共に手に入れましょう。

自社だけで進める法人保険の点検の限界と、事業承継士による伴走

後継者を守る法人保険の設計は、保険・税務・承継計画という3つの視点を同時に見る必要があります。ここに、自社だけで進めるときの難しさがあります。

保険の担当者は商品には詳しくても、承継計画の中身までは共有されていないことが多くあります。税理士は税務の判断はできますが、保障額の物差しや承継後の役割分担まで踏み込む立場ではありません。

そして後継者本人は、「自分の万一に備えてほしい」とは言い出しにくいものです。結果として、誰も悪くないのに論点が宙に浮いたまま、時間だけが過ぎていきます。

他の専門家を否定するつもりはまったくありません。保険担当者・税理士・後継者、それぞれの視点を一枚の承継計画の上でつなぐ役割が抜けている、というのが実態です。

承継計画との整合性を優先した保険の点検・再設計

私たちKICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、事業承継専属の保険代理店であり、中小企業診断士・事業承継士として承継全体の設計に携わっています。

進め方は、商品の提案から始めません。まず承継計画を確認し、先代と後継者それぞれの万一で「何のために、いくら必要か」を整理します。そのうえで、いまの契約の目的・被保険者・受取人・保障額・財務への影響・承継時の役割を洗い出し、過剰な保険と不足している保険を一枚の表で可視化します。

その結果、後継者を被保険者にした契約が必要だと分かることもあれば、既存の契約の受取人や保障額を整えるだけで足りると分かることもあります。「増やす」「減らす」の前に「そろえる」を置くのが、承継のための保険の考え方です。

税務上の判断や申告は税理士の領域であり、私たちが代わりに行うことはありません。必要に応じて顧問税理士との連携を含め、承継計画と保険が噛み合った状態を作るところまで伴走します。

「保険証券がどこにあるかも分からない」という段階でも構いません。認定経営革新等支援機関として、承継全体の現状整理からご一緒します。

事業承継と法人保険をまとめて確認したい方へ

後継者が押さえたい相続税・贈与税への備え、特例承継計画、法人保険の活用法をまとめています。

ご相談いただいても、しつこい営業や契約の押し付けは一切ありません。点検の結果「いまの契約のままでよい」となれば、そのとおりにお伝えします。

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事業承継と後継者の法人保険のよくある質問

Q. 後継者を被保険者にした法人保険は、いつ検討するのがよいですか

A. 後継者が役員に就いた時点、または借入の連帯保証人に加わった時点が一つの目安です。一般に、年齢が若く健康なうちのほうが契約の選択肢は広くなります。ただし時期の正解は会社ごとに異なるため、承継計画のスケジュールに合わせて検討します。

Q. 先代を被保険者にした契約を、後継者に切り替えればよいのですか

A. 切り替えと追加は別の論点です。先代の万一への備えが今も必要なら、先代の契約はそのままにし、後継者の契約を別に考えます。承継が進み、先代の役割が小さくなった段階で、先代の契約の目的を見直すという順序が一般的です。

Q. 保障額はどのように決めればよいですか

A. 事業保障は借入残高と固定費の数か月分、死亡退職金・弔慰金は規程に基づく支給見込額が物差しになります。どの会社にも当てはまる金額はなく、自社の借入残高表・固定費・規程を当てはめて考えます。

Q. 後継者の個人契約の生命保険があれば、法人契約は要らないのでは

A. 役割が異なります。個人契約は遺族の生活を支えるもので、会社の借入返済や運転資金には使えません。法人契約は会社が受け取り、事業の継続と遺族への退職金の原資に充てるものです。両方の役割分担を整理したうえで、過不足を点検します。

Q. 死亡だけでなく、後継者が長期間働けなくなった場合にも備えられますか

A. 長期の就業不能に備える法人契約もあります。後継者が営業や現場の要を担っている会社ほど、死亡より就業不能のほうが起こりやすく、影響も長引きます。表の「就業不能への備え」の項目で、対象に含めるかを検討します。

Q. 役員退職慰労金規程や弔慰金規程が無い場合はどうすればよいですか

A. 先に規程を整えます。規程が無いまま保険だけを契約しても、支給の根拠があいまいになります。規程の整備は株主総会の決議や税務上の取扱いと関わるため、税理士と連携して進めるのが一般的です。

Q. 保険料は全額経費になりますか

A. 一般論として全額が経費になるとは言えません。2019年(令和元年)の法人税基本通達の改正後は、最高解約返戻率に応じて損金算入できる割合が区分されています。契約時期によっても扱いが異なるため、個別の判断は税理士にご確認ください。

Q. 保険料の負担が重く、資金繰りが心配です

A. 保険料が資金繰りを圧迫している状態は、点検の対象です。ただし、削りすぎれば万一のときに事業継続や家族の生活へ影響が出ます。目的の重なる契約を整理し、必要な保障は残すという「守るための再設計」の順序で考えます。

Q. 従業員承継や第三者承継を検討している場合も同じ考え方ですか

A. 後継者の万一に備えるという考え方は共通ですが、論点は変わります。従業員承継では株式の買取資金や個人保証の引き継ぎ、第三者承継では譲渡までの期間の備えが中心になります。この記事は親族内承継に絞っているため、他の類型は別に整理する必要があります。

Q. まず何から始めればよいですか

A. いまある保険証券をすべて並べ、被保険者・受取人・保障額・目的を一覧にすることから始めます。それだけで「後継者の側が空白になっている」かどうかは見えてきます。一覧を作る段階からご一緒できますので、一人で抱え込まずにご相談ください。

まとめ

親族内承継で見落とされがちなのは、「先代の万一」の裏側にある「後継者の万一」です。先代を被保険者にした契約だけでは、承継の途中に空白が残ります。

後継者を被保険者にした法人保険の役割は、3つの鉄則に整理できます。借入返済と運転資金を止めない事業保障、遺族への死亡退職金・弔慰金を規程と原資でそろえること、そして次の後継者を探す時間を資金で確保することです。

保障額の物差しは、借入残高・固定費・退職金規程にあります。商品ではなく承継計画から出発し、過剰と不足の両方を見て組み直せば、先代と後継者のどちらに万一があっても会社は止まりません。

保険は減らすために見直すものでも、不安から増やすものでもなく、承継の段階に合わせて役割をそろえるものです。まずは保険証券を並べるところから、一歩を踏み出してみてください。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは現状をお聞かせください。

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