
「後継者にはもう株式の話も進めている。でも、もし自分が引継ぎの途中で倒れて、何年も働けなくなったらどうなるのだろう」。従業員承継(MBO・EBO)を進めている社長から、こうした不安を打ち明けられることがあります。
上期の決算が固まり、下期の体制を考え直すこの時期は、承継の進み具合とあわせて法人保険の中身を見直す社長が増えるタイミングでもあります。多くの社長は、法人保険といえば「万一(死亡)のときの備え」だと考えています。しかし従業員承継の実行には数年かかることも珍しくなく、その間に社長や後継予定者が病気やけがで長期間働けなくなるリスクのほうが、実は起こりやすい出来事です。
結論から言えば、「死亡」だけでなく「就業不能・長期療養」まで保障の対象になっているかを点検することが、承継期の法人保険を見直す出発点になります。保険会社名や具体的な返戻率には触れず、点検の視点と進め方だけを、この記事で整理します。
- 従業員承継(MBO)の途中で自分が倒れたらと不安な社長の方
- 法人保険が死亡保障しか点検されていない経営者の方
- 後継予定者を保険の対象に含めるか迷っている方
- 承継のスケジュールと保険の保障期間がずれていないか確認したい方
- 従業員承継の実行中に就業不能が起きると何が問題になるかが分かる
- 法人保険を就業不能・医療の視点で点検する3つの基準が分かる
- 点検すべき項目を承継計画にどう組み込むかが分かる
- 従業員承継のよくある疑問と、専門家の役割分担が分かる
中小企業診断士・事業承継士として法人支援150社以上に携わってきた立場から、商品の推奨ではなく、点検の考え方だけをお伝えします。
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事業承継(従業員承継MBO)の実行中に就業不能が起きると起きる3つの問題

従業員承継(MBO・EBO)は、役員や幹部社員が自社株を買い取り、経営を引き継ぐ承継の形です。意向確認から株式の買取、契約・実行まで、実行には数年単位の時間がかかることが少なくありません。
この期間に、社長や後継予定者が病気やけがで長期間働けなくなる「就業不能」の状態になると、死亡のときとは違う種類の問題が起こります。会社は存続していても、意思決定を担う人が動けなくなるためです。
法人保険の多くが「死亡保障」中心になっている理由
これまで加入してきた法人保険は、役員退職金の準備や、万一のときの弔慰金・死亡退職金を目的に設計されているものが多く見られます。「死亡」を起点にした保障が中心で、「働けなくなる」場面までは想定されていない契約も珍しくありません。
承継の実行中に社長が要介護状態や長期入院になっても、会社としての体制も、保険の保障も、死亡のときほど整っていないというのが実際のところです。
放置すると起きる3つのこと
就業不能への備えを点検しないまま承継を進めると、次のような事態が起こりやすくなります。
- 意思決定を担う人が動けなくなり、株式買取や契約手続きが止まる
- 収入や役員報酬が途切れ、承継に必要な資金計画が崩れる
- 後継予定者だけで判断を迫られ、心理的な負担が急激に増す
後継予定者側の就業不能も見落とされやすい
就業不能というと現経営者の話に見えますが、実際には後継予定者自身が承継の途中で働けなくなるケースも起こり得ます。後継予定者は現場の実務も担っていることが多く、抜けた穴が会社の運営そのものに直結しやすい立場です。
それにもかかわらず、法人保険の被保険者が先代社長のまま据え置かれ、後継予定者は対象に入っていないという契約も見られます。誰を保障の対象にするかを、承継の実態に合わせて考え直す必要があります。
資金繰りへの影響を甘く見ない
就業不能は、死亡のように一度で完結する出来事ではなく、療養が数か月から数年に及ぶこともあります。その間も役員報酬や固定費の支払いは止まりません。株式買取資金の返済計画を立てている最中に収入が途切れると、承継のための資金計画そのものが崩れかねません。
死亡のときは一時金でまとまった資金が入る設計が多い一方、就業不能のときは保障の形が異なります。一時金なのか、一定期間続く保障なのかによって、資金繰りへの効き方も変わることを踏まえておく必要があります。
「死亡保障だけで十分」と考えてしまう理由
就業不能は死亡と違い、いつ・どの程度の期間続くかが読みにくいという特徴があります。備えの必要性は感じつつも、具体的にどう点検すればよいか分からず、後回しにされがちです。
次の章では、就業不能・医療の視点から法人保険を点検する3つの基準を整理します。
法人保険を「就業不能・医療」の視点で点検する3つの基準|従業員承継MBO

従業員承継の途中で就業不能が起きても計画を止めないために、法人保険を次の3つの基準で点検します。いずれも商品の推奨ではなく、点検の視点そのものです。
基準1|保障の対象を「死亡」だけでなく「就業不能・長期療養」まで広げて確認する
まず、現在加入している法人保険の保障が、死亡のときだけを想定したものか、就業不能・長期療養のときにも保障が出る仕組みになっているかを確認します。契約によっては、就業不能に対する保障がそもそも組み込まれていないこともあります。
保障が出るまでの待機期間や、保障が続く期間も契約ごとに異なります。数か月の待機期間があるのか、保障は一時金で終わるのか、それとも一定期間続くのかは、契約内容を一つずつ確認しないと分かりません。
基準2|被保険者を「いま会社を動かしている人」に合わせる
2つ目は、契約者・被保険者・受取人が、承継の実態に合っているかの確認です。被保険者が先代社長のまま据え置かれ、実務の中心を担う後継予定者が保障の対象に入っていない契約は少なくありません。
誰が今の経営を実質的に動かしているかを基準に、被保険者を見直す必要があるかどうかを点検します。
基準3|保障の始期・終期を承継の実行スケジュールに合わせる
3つ目は、保障が続く期間と、承継が実行される時期を照らし合わせることです。保障期間が承継の完了より先に切れてしまうと、肝心の実行段階で備えが空白になります。
承継の実行時期が延びれば、保障の空白が生まれていないかもあわせて確認が必要です。承継計画の進み具合に合わせて、保険の見直し時期そのものを定期的に点検する姿勢が欠かせません。
点検項目の一覧(保障設計の点検イメージ)
3つの基準をもとに、契約内容を点検するときの項目を一覧にしました。架空の数値や記載例ではなく、確認すべき項目そのものを整理したものです。
| 点検項目 | 点検の視点 |
|---|---|
| 保障の種類 | 死亡保障だけか、就業不能・長期療養も対象になっているか |
| 被保険者 | 先代社長のままか、後継予定者も対象に含めるか |
| 保障の始期・終期 | 承継の実行スケジュールと保障期間がずれていないか |
| 待機期間・支払条件 | 保障が出るまでの期間、対象となる疾病・状態の範囲 |
| 他の保険との重複 | 役員退職金準備・死亡退職金の契約と目的が重なっていないか |
| 専門家への確認 | 保険会社・税理士に、契約ごとの条件と税務上の扱いを個別に確認する |
※保障の対象疾病・支払条件・保険料の損金算入の扱いは契約ごとに異なります。具体的な条件は必ず保険会社に個別に確認してください。
点検を後回しにしないタイミング
上期の決算が固まり、中間決算の数字を確認するこの時期は、下期以降の体制を考え直す社長が多いタイミングでもあります。決算の節目に合わせて法人保険の契約内容も一緒に見直すと、承継計画の進み具合と保障の中身がずれていないかを、年に一度は確認できる習慣になります。
点検を先延ばしにする理由の多くは「忙しくて手が回らない」ことです。証券を集めて一覧にするだけでも、次の一歩を判断する材料になります。
従業員承継(MBO)の資金と保障を、承継計画・自社株評価・法人保険の3つをバラバラに考えるのではなく、一つの計画として整理したい方は、詳しくは次のページでまとめています。
事業承継専属の保険代理店という考え方 中小企業の事業承継において、法人保険は長年にわたり「とりあえず加入してきたもの」になりがちです。創業期、成長期、拡大期と、その時々の経営判断の積み重ねで保険は増え、気づけば保険料負担が重くなっているケースも少なくありません。 一方で、「保険をやめ...
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就業不能への備えを整えた先に、従業員承継で手に入る未来

就業不能・医療の視点で法人保険を点検し、承継のスケジュールに合わせて備えを整えた会社には、次の3つの変化が見られます。
誰が倒れても、承継の計画が止まらない
被保険者や保障期間を承継の実態に合わせておくと、社長・後継予定者のどちらに就業不能が起きても、資金や意思決定の空白を最小限にできます。承継の実行タイミングを、備えの不足で先送りせずに済みます。
後継予定者が、安心して実務を引き受けられる
後継予定者自身も保障の対象に入っていると分かれば、実務を引き受けることへの心理的な負担が軽くなります。自分に何かあっても会社と家族が守られるという前提があるかどうかは、後継予定者の覚悟の持ち方にも影響します。
保険が「死亡のときだけの備え」から「承継期全体の備え」に変わる
就業不能・医療まで含めて点検すると、法人保険は死亡のときだけでなく、承継期全体を支える備えとして位置づけ直せます。役員退職金の準備や死亡退職金の非課税枠と役割が重ならないよう整理された状態は、承継後の資金計画をより安定させます。
先代と後継予定者が、同じ前提で話し合える
就業不能への備えが整理されていると、「万一のときは誰が、何を、どこまで担うのか」を先代と後継予定者が同じ前提で話し合えるようになります。備えの話を先送りにしたまま実務だけが進むと、いざというときに「聞いていなかった」という食い違いが起きやすくなります。保険の点検をきっかけに、承継の役割分担そのものを言葉にしておくことが、結果として承継全体の安心材料になります。
倒れても止まらない承継の体制を、後継者と共に手に入れましょう。
自社だけで進める限界と、事業承継士による法人保険の伴走支援

就業不能への保障が十分かどうかは、契約の証券を読み解くだけでは判断がつきにくいものです。保険会社ごとに対象となる疾病や支払条件が異なり、承継計画全体との整合性まで含めて点検するには専門知識が要ります。日々の経営に追われながら、契約の細部まで一人で調べる余裕がないというのが、多くの社長の実感ではないでしょうか。
専門家がバラバラに動く状態を、全体設計でつなぐ
保険担当者は保険、税理士は税務、後継予定者は現場の実務という、それぞれの立場から見た「正解」がかみ合わないまま時間だけが過ぎてしまうケースは少なくありません。誰か一人が悪いのではなく、承継計画・自社株・法人保険をつなぐ全体設計の役割が抜け落ちていることが原因です。
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士として、認定経営革新等支援機関の立場から、承継全体の設計と伴走を行っています。加えて事業承継専属の保険代理店として、法人保険を「売るもの」ではなく「承継フェーズに合わせて役割を再設計するもの」として扱います。
税理士・社会保険労務士を否定せず、つなぐ立場
個別の税務判断や申告は税理士、労務・社会保険の手続きは社会保険労務士、登記は司法書士、許認可は行政書士の領域です。KICKはこれらの専門家を否定するのではなく、それぞれの専門知識を承継計画の中でどう組み合わせるかという全体設計の役割を担います。共通の敵は、専門家同士ではなく「バラバラのまま時間だけが過ぎる状況」そのものです。
具体的な支援の内容
KICKの事業承継の伴走支援では、次のような内容に取り組みます。
- 法人保険の契約内容の棚卸しと、就業不能・医療の保障範囲の確認
- 被保険者・保障期間を承継の実行スケジュールに合わせる見直し
- 税理士・社会保険労務士など、関係する専門家との連携窓口の整理
特定の商品を最初から勧めるのではなく、会社の状況に合わせて選択肢を並べたうえで判断していただく進め方を大切にしています。証券を一覧化するところから始め、不足している保障と、逆に重なって過剰になっている保障の両方を可視化したうえで、承継計画に沿った優先順位をご一緒に整理します。
ここでもご相談は無料で、売り込みは一切ありません。しつこい営業もなく、お断りいただいても構いません。まずは今の契約内容を整理するところから、一緒に始めましょう。
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事業承継(従業員承継MBO)と法人保険のよくある質問|就業不能への備え

Q. 就業不能保障は、すでに入っている法人保険に付いていますか。
A. 契約によります。死亡保障を中心に設計された契約には、就業不能に対する保障が組み込まれていないこともあります。加入している保険会社に、契約内容を個別に確認してください。
Q. 保険料は全額が損金になりますか。
A. なりません。2019年(令和元年)の法人税基本通達の改正により、法人向け定期保険等の保険料は、最高解約返戻率に応じて損金算入できる割合が区分されるようになりました。「全額損金」は一般論としては成り立たず、契約ごとの区分を保険会社・税理士に確認する必要があります。
Q. 被保険者を先代社長から後継予定者に変更すると、税務上どうなりますか。
A. 契約内容の変更方法によって扱いが変わり、税務上の判断が必要になる場面があります。個別の税務判断・申告は税理士の領域です。KICKが税務代理を行うことはありません。
Q. 就業不能保険と医療保険は同じものですか。
A. 異なります。医療保険は入院・手術など医療費に関する保障が中心で、就業不能保障は働けない期間の収入や資金を補う目的で設計される点に違いがあります。契約ごとに対象範囲が異なるため、証券で確認してください。
Q. 後継予定者が複数いる集団MBOでも、同じ考え方で点検できますか。
A. できます。複数の後継予定者がいる場合は、誰を被保険者に含めるか、負担割合に応じてどう保障を分けるかをあわせて整理する必要があります。誰がいくら負担するかを先に決めておくことが、後々の判断のブレを防ぎます。
Q. 就業不能になった場合、経営者保証の扱いはどうなりますか。
A. 就業不能そのものが経営者保証を自動的に外すわけではありません。保証の引継ぎや解除は別の手続きとして進める必要があり、保証債務の法的な取扱いは弁護士や金融機関との協議が必要な領域です。法人保険は保証そのものを消すものではなく、資金面の備えとして役割を担います。
Q. 特例承継計画を使う予定がある場合、保険の見直しと何か関係しますか。
A. 直接の関係はありませんが、特例承継計画には計画の提出期限(令和9年9月30日)と、贈与・相続を実行する期限(令和9年12月31日・延長されない見込み)という、性質の違う2つの期限があります。承継の実行時期が定まれば、保険の保障期間もあわせて見直す必要があります。
Q. 就業不能保障を新たに追加する場合、加入審査はありますか。
A. あります。新たに保障を追加・変更する契約には、健康状態の告知や審査が必要になるのが一般的です。承継の実行時期が迫ってから動くと、審査の結果次第で希望どおりの保障に間に合わないこともあるため、早めの点検が望ましいと言えます。具体的な審査基準は保険会社ごとに異なります。
Q. 保険を見直す前に、まず何を準備すればよいですか。
A. 加入している法人保険の証券を集め、契約者・被保険者・受取人・保障の種類・保障期間を一覧にすることから始めてください。何がどこまで保障されているかが分かって初めて、就業不能への備えが足りているかを判断できます。
Q. 就業不能保障の保険料も、死亡保障と同じように損金算入できますか。
A. 契約の形態によって扱いが異なります。就業不能保障が単体の契約か、死亡保障と組み合わせた契約かによっても区分が変わるため、一律には言えません。契約ごとに保険会社・税理士へ確認することが欠かせません。
Q. 承継の実行時期が延びた場合、保険はどうすればよいですか。
A. 保障期間が承継の実行時期より先に切れてしまうと、備えの空白が生まれます。承継計画が延びたと分かった時点で、保障期間を延長できるか、契約を見直すべきかを早めに確認してください。承継のスケジュールが変わるたびに、保険も見直す前提で計画しておくと安心です。
Q. 相談だけでも受け付けてもらえますか。
A. 受け付けています。保険を実際に見直すかどうかを決める前の、契約内容の棚卸しの段階からご相談いただけます。無料相談は現状をお聞きするところから始まり、その場でのご契約を求めることはありません。
まとめ
従業員承継(MBO・EBO)の実行中に起きるリスクは、死亡だけではありません。社長や後継予定者が病気やけがで長期間働けなくなる就業不能の場面のほうが、実は起こりやすい出来事です。
大切なのは、「保障の対象を就業不能・長期療養まで広げる」「被保険者をいま会社を動かしている人に合わせる」「保障の始期・終期を承継の実行スケジュールに合わせる」という3つの基準で、法人保険を点検することです。死亡保障だけで満足せず、承継期全体を見渡した備えに組み立て直すことが、計画どおりに承継をやり切る近道になります。
保障の証券を一覧にすることから始めるだけでも、今の契約が承継の実態に合っているかどうかは見えてきます。難しく考えすぎず、まずは手元の契約内容を確認するところから着手してみてください。
最後にもう一度お伝えします。ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もなく、お断りいただいて構いません。まずは今の契約内容と承継の状況をお聞かせください。
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