
上期の決算が固まり、下期の見通しを考え始めるこの時期に、「そろそろ会社を譲る話を進めたいが、法人保険をどうすればいいのか分からない」と感じている経営者の方は少なくありません。
自社株や後継者育成の話は少しずつ前に進んでいても、法人保険だけは加入した当時のまま、何年も見直されずに残っているケースが多く見られます。特に会社を社外の第三者へ譲る第三者承継(M&A)では、株式譲渡か事業譲渡かによって、保険契約の引き継がれ方がまったく違います。
この記事では、中小企業診断士・事業承継士として法人支援を行うKICKコンサルティング株式会社(銀座本社)が、第三者承継を見据えたときに法人保険をどう整理すればよいかを、3つの視点に沿って解説します。読み終える頃には、自社の契約をどこから点検すればいいかが分かり、交渉の場で慌てずに説明できる状態を目指せます。
- 会社を社外へ譲る第三者承継を検討している方
- 法人保険の目的があいまいになっている方
- 株式譲渡と事業譲渡の違いが分からない方
- 交渉の直前になって慌てたくない方
- 株式譲渡と事業譲渡で保険の扱いが変わる理由
- 法人保険を点検する6つの検討項目
- 保険を整理した先に手に入る安心
- 税務の判断で押さえておきたい役割分担
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事業承継のM&A(第三者承継)で、法人保険を放置すると起きること

会社を社外の第三者へ譲る第三者承継では、株式譲渡か事業譲渡かによって、契約している法人保険の扱いが大きく変わります。この違いを知らないまま交渉に入ると、契約の整理が後回しになりやすいのが、この記事で最初に押さえておきたい点です。
「保険は保険会社に任せてあるから大丈夫」という思い込み
役員退職慰労金の準備や、万一のときの備えとして加入した法人保険の多くは、加入した当時のまま何年も見直されずに残っています。契約者や被保険者の名義、保険金額がいまの経営体制に合っているかを、あらためて確認する機会がないまま時間が過ぎているケースが少なくありません。
担当者が定期的に連絡をくれる契約もあれば、加入したときの担当者がすでに異動しており、連絡が途絶えたままになっている契約もあります。会社側から「いま何のために、いくらの保険料を払い続けているのか」を把握できていないと、承継の話が具体化したときに整理が後手に回ります。
株式譲渡と事業譲渡で、保険契約の引き継がれ方はまったく違う
中小企業の第三者承継では、会社そのものを株式ごと譲る株式譲渡と、事業の一部または全部を切り出して譲る事業譲渡の、大きく2つの方法があります。どちらを選ぶかは、税務や許認可の扱いなど複数の観点から検討されますが、法人保険の扱いも、この選択によって変わる点のひとつです。
株式譲渡は、会社という法人格ごと買い手に引き継がれる取引です。そのため法人保険の契約も、名義を変えずにそのまま会社に残ります。
一方、事業譲渡は事業の一部または全部だけを個別に売買する取引です。保険契約は自動的には移らず、契約ごとに残すか解約するかを判断する必要があります。
この違いを整理しないまま交渉を進めると、契約者変更の手続きが漏れたり、誰のための保障なのか説明できないまま話し合いに入ってしまったりすることになります。
交渉の終盤で慌てて整理すると、検討する時間が足りなくなる
保険契約の整理は、交渉が具体化してから急いで行うものではありません。早い段階で契約を洗い出しておくかどうかで、交渉のスムーズさが変わります。契約が整理されていない状態のまま交渉が進むと、買い手側から契約内容を確認され、想定していなかった論点として持ち出されることもあります。
放置したままにしておくと、承継の話が具体化した段階で慌てて対応することになり、十分な検討時間が取れないまま契約者変更や解約を決めてしまうおそれがあります。まずは自社にどのような法人保険があるかを、契約ごとに洗い出すことから始めましょう。
上期の決算が固まる時期こそ、契約の棚卸しに向いている
上期末の中間決算で数字の着地が見えてくるこの時期は、下期の資金繰りや投資の計画を考え始めるタイミングでもあります。決算書を見返すこの機会に、法人保険の契約もあわせて棚卸ししておくと、承継の話が具体化したときに慌てずに済みます。
決算のたびに保険料の金額だけを確認して終わっている会社も少なくありません。金額の増減だけでなく、「この契約はいまも目的に合っているか」を年に一度は確認しておくことが、承継準備の土台になります。
株式譲渡と事業譲渡で変わる法人保険の引き継ぎ方|3つの視点

結論としては、契約の形(株式譲渡か事業譲渡か)を先に見極めてから、保険契約をどう扱うかを判断するのが、遠回りに見えて一番早い進め方です。ポイントは次の3つです。
株式譲渡の場合:契約は会社に残ったまま引き継がれる
株式譲渡では、法人保険の契約者・被保険者・受取人の名義を変える必要は基本的にありません。会社そのものが買い手に引き継がれるため、契約もそのまま会社に残ります。手続きの手間が少ないのが株式譲渡の特徴です。
ただし、契約の目的(誰の退職金のための保険か、いつまで保険料を払い続ける契約かなど)を、引き継ぐ経営者に説明できる状態にしておく必要があります。目的が分からないまま契約だけが残っていると、新しい経営者が保険料を払い続ける理由を見失ってしまいます。
事業譲渡の場合:契約ごとに個別の判断が必要になる
事業譲渡では、会社という法人格は売り手側に残ります。法人保険の契約は自動的には買い手に移らないため、事業譲渡の対象に含めるか、契約者変更の手続きを個別に行うか、譲渡前に解約して整理するかを、契約ごとに決めていく必要があります。
契約が複数ある場合は、どの契約をどう扱うかの判断に時間がかかりやすい点にも注意が必要です。早い段階で契約の一覧を作り、優先順位をつけて検討を進めることをおすすめします。
たとえば、役員退職慰労金の準備として加入した契約と、取引先との関係を維持するための保障として加入した契約が同じ会社の中に混在していることがあります。目的が異なる契約を同じ基準で判断しようとすると、話がまとまりにくくなります。譲渡する事業に直接関わる契約なのか、会社全体の備えとして残す契約なのかを、まず切り分けることが出発点になります。
この切り分けができていないと、事業譲渡の交渉が進むなかで「この契約は事業の一部なのか、会社に残るものなのか」という確認が繰り返されることになり、双方にとって手間が増えてしまいます。
保険契約を点検する6つの検討項目
株式譲渡・事業譲渡のどちらの場合でも、次の6つの項目を洗い出しておくと、判断の材料がそろいます。
| 検討項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 契約の目的 | 役員退職慰労金の準備か、万一の保障か、複数の目的が混ざっていないか |
| 被保険者 | 現経営者のままになっていないか、引退後の名義変更が必要か |
| 受取人 | 会社か個人か、承継後も受取人として適切か |
| 保険金額 | いまの事業規模・退職金の想定額に対して過不足がないか |
| 財務への影響 | 保険料の支払いと解約返戻金が、決算書にどう反映されているか |
| 承継後の役割 | 株式譲渡なら残す前提、事業譲渡なら移すか解約するかの方針 |
この6項目は、架空の記載例を当てはめるものではなく、自社の契約をひとつずつ照らし合わせて使うための一覧です。契約が1件だけの会社もあれば、役員退職慰労金用・弔慰金用・借入金の保全用など、目的別に複数の契約を持つ会社もあります。件数が多いほど、洗い出しに時間がかかることも見込んでおきましょう。
事業承継専属の保険代理店としての進め方は、詳しくは次のページでまとめています。
事業承継専属の保険代理店という考え方 中小企業の事業承継において、法人保険は長年にわたり「とりあえず加入してきたもの」になりがちです。創業期、成長期、拡大期と、その時々の経営判断の積み重ねで保険は増え、気づけば保険料負担が重くなっているケースも少なくありません。 一方で、「保険をやめ...
2019年(令和元年)の法人税基本通達改正により、法人保険の保険料は最高解約返戻率に応じて損金算入できる割合が区分されるようになりました。「保険料は全額損金になる」とは限らない点に注意が必要です。契約の時期や内容によって扱いが異なるため、具体的な損金算入割合や税務の判断は税理士に確認することをおすすめします。
契約の形を見極め、目的を洗い出し、税務の詳細は専門家と確認する。この3つの視点で進めれば、交渉の終盤で慌てることを避けられます。
保険の解約や乗り換えを、その場で勧めることはありません。今ある契約を否定せず、承継のフェーズに合っているかを一緒に確認するところから始めます。
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法人保険を整理して迎える第三者承継の先に手に入る未来

法人保険を整理し、契約の目的をはっきりさせておくと、次の3つが手に入ります。
交渉の場で、契約について自信を持って説明できる
契約者・被保険者・受取人の名義や目的を整理しておけば、買い手側から確認を求められても、その場で落ち着いて説明できます。整理された契約は、会社の管理体制がしっかりしている証拠としても伝わります。
承継後、保険料を払い続ける理由が明確になる
目的が整理された保険は、承継後も「何のために払っている契約か」が明確なままです。新しい経営者や後継者が、根拠を持って契約を引き継いだり、見直したりできるようになります。
逆に目的が分からない契約が残っていると、新しい経営者は「解約していいのか、続けたほうがいいのか」を判断できないまま、毎月の保険料だけを払い続けることになりかねません。承継の前に目的を言葉にしておくことは、後継者への引き継ぎ資料のひとつでもあります。
保険を過不足なく、必要な分だけ残せる
点検を通じて、過剰になっている保障と、不足している保障の両方が見えてきます。削りすぎず、必要な保障は残すという判断ができるようになります。
「解約すれば保険料の負担が減る」という一面だけを見て契約を減らしてしまうと、万一のときに事業の継続や家族の生活を支える保障まで一緒に失うことになりかねません。反対に、目的を終えた契約まで残し続ければ、承継後の会社に不要な負担を残してしまいます。「減らすための見直し」ではなく「守るための再設計」だという視点を持つことが大切です。
承継のフェーズに合わせて、契約を後継者や会社にとって意味のある形へ再設計する。ここまで進めば、法人保険は「入りっぱなしの契約」ではなく、承継の計画を支える一部になります。この安心を、後継者と共に手に入れましょう。
自社だけで進める限界と、事業承継士による伴走支援

法人保険の整理は、保険会社の担当者だけに相談しても、承継全体の計画とのつながりまでは見えにくいことがあります。保険・自社株・後継者育成がバラバラに進み、話が噛み合わないまま時間だけが過ぎてしまうのはよくあるパターンです。
相談先が分かれているほど、話がかみ合いにくくなる
顧問税理士は税務の視点で、保険担当者は保障設計の視点で、それぞれ正しいアドバイスをしています。ただし、それぞれが承継全体の計画を把握しているとは限りません。部分ごとに最適でも、全体で見るとちぐはぐな状態になっていることは珍しくありません。
後継者の側からすると、誰に何を確認すればいいのかが分からないまま、経営者に質問することもできず、時間だけが過ぎてしまうという声もよく聞きます。
税理士・保険担当者・後継者の話をつなぐのがKICKの役割
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士として、法人支援150社以上の実績を持つ認定経営革新等支援機関です。税理士や保険担当者を否定するのではなく、それぞれの専門家の話を、承継全体の設計としてつなぐ立場でご支援します。
個別の税務判断・税務申告は税理士の領域であり、KICKが代わって税務代理を行うことはありません。事業承継専属の保険代理店として、法人保険がいまの承継フェーズに合っているかを一緒に点検します。
商品ありきではなく、事業承継計画との整合性を優先する
KICKがご提案するのは、特定の保険商品ではありません。事業承継の計画に照らして、いまの契約が過剰か不足しているかを可視化するところから始めます。削りすぎれば万一のときの保障が薄くなり、残しすぎれば負担だけが続きます。両面を見ながら、承継フェーズに合わせて役割を再設計します。
相談の入口は、保険の見直しでも、自社株の整理でも、後継者育成の悩みでも構いません。どこから相談しても、承継全体の設計図の中に位置づけて考えるのがKICKの進め方です。株式譲渡と事業譲渡のどちらを選ぶかがまだ固まっていない段階でも、保険契約の洗い出しだけを先に進めることもできます。
税理士や保険担当者を否定するようなご案内は一切ありません。すでに相談している専門家がいれば、その関係を尊重したまま、全体設計のお手伝いをします。
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事業承継のよくある質問|M&Aと法人保険の疑問を解消

Q. 株式譲渡なら、法人保険の契約はそのまま残りますか?
A. 株式譲渡は、会社という法人格ごと株式を買い手に譲る取引です。そのため会社が契約している法人保険も、契約者や被保険者の名義を変えずにそのまま会社に残ります。ただし、契約の目的が引き継がれる新しい経営者に正しく伝わっているかは別の問題です。
Q. 事業譲渡だと、保険契約はどうなりますか?
A. 事業譲渡は、会社の中の事業の一部または全部だけを売買する取引です。会社という法人格は売り手側に残るため、保険契約は自動的には買い手に移りません。契約を譲渡の対象に含めるか、契約者変更の手続きを個別に行うか、あるいは解約して整理するかを、契約ごとに判断する必要があります。
Q. 保険契約者の変更は、どのタイミングで行えばいいですか?
A. 交渉が具体化する前の早い段階で、契約の一覧を洗い出しておくことをおすすめします。交渉の終盤になってから契約者変更や解約の手続きに入ると、時間が足りず十分な検討ができないまま結論を出すことになりかねません。
Q. 解約返戻金がある保険を解約すると、税務上どうなりますか?
A. 解約返戻金の扱いや、保険料の損金算入割合は契約の時期や内容によって異なり、個社ごとに判断が変わります。具体的な税務判断は税理士の領域です。KICKでは承継全体の設計のなかで保険の役割を整理し、税務の詳細は税理士と連携して確認します。
Q. 被保険者が引退した前の経営者のままになっている契約はどうすればいいですか?
A. 誰のための保障なのかが不明確なままになっている典型的なケースです。現経営者や後継者に被保険者を変更するか、契約の目的そのものを見直すかを、承継のタイミングで一度整理することをおすすめします。
Q. 弔慰金や死亡退職金の非課税枠は、第三者承継でも関係がありますか?
A. 弔慰金・死亡退職金には一定の非課税枠が存在しますが、具体的な金額は個社の状況によって異なります。第三者承継の前に、規程と保険の保障内容が対応しているかを確認しておくと、承継後に慌てずに済みます。規程が整っていないまま保険だけが先行していると、いざというときに支給の根拠を説明できなくなるため、規程と保険はセットで点検することをおすすめします。
Q. 買い手企業から保険契約について指摘されることはありますか?
A. あります。契約者・被保険者・受取人の名義や、契約の目的が説明できない保険は、譲渡交渉のなかで確認を求められることがあります。事前に整理しておくと、交渉をスムーズに進めやすくなります。特に株式譲渡では会社の資産・負債をまるごと引き継ぐことになるため、買い手側が契約内容を細かく確認する傾向があります。
Q. 相談すると、保険の解約や乗り換えを勧められますか?
A. いいえ。KICKは事業承継専属の保険代理店として、承継の設計と保険の役割を合わせて整理する立場です。商品ありきではなく、事業承継計画との整合性を優先してご提案します。
Q. 事業承継士に相談するのは、いつが適切なタイミングですか?
A. 「まだ早いのでは」と感じている段階が、実は動きやすいタイミングです。株式譲渡か事業譲渡かの方向性が固まる前から相談いただくほうが、保険契約の整理を含めた選択肢を広く検討できます。
Q. 契約している法人保険が複数あり、どこから手をつければいいか分かりません
A. まずは契約書や保険証券を集め、契約者・被保険者・受取人・保険金額を一覧にすることから始めます。金額の大きい契約や、被保険者が引退した前経営者のままになっている契約から優先して確認すると、限られた時間でも効率よく整理を進められます。証券が見当たらない場合は、保険会社や代理店に契約内容の確認を依頼するところから始めても構いません。
まとめ
第三者承継(M&A)では、株式譲渡か事業譲渡かによって、法人保険の引き継がれ方がまったく違います。株式譲渡なら契約はそのまま会社に残り、事業譲渡なら契約ごとに残すか解約するかを判断する必要があります。
この違いを踏まえたうえで、契約の目的・被保険者・受取人・保険金額・財務への影響・承継後の役割という6つの検討項目を洗い出しておけば、交渉の終盤で慌てることを避けられます。損金算入の扱いは2019年の通達改正後のルールで変わり、税務の個別判断は税理士の領域です。KICKは事業承継専属の保険代理店として、承継全体の設計のなかで法人保険の役割を再設計するお手伝いをします。
「まだ譲渡先も決まっていないから、保険の整理は先でいい」と考えたくなるかもしれません。しかし、契約の洗い出しと目的の整理は、譲渡先が決まる前から始められる作業です。早く着手するほど、選べる選択肢が広がります。上期の決算を見返すこの機会に、まずは自社の契約を一覧にすることから始めてみてください。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。まずは今の契約がどうなっているかを、一緒に確認するところから始めましょう。
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