
下期がはじまり、年末に向けた資金繰りの計画を立て直すこの時期。相続税の納税や自社株の買取のために、まとまったお金が急に必要になったらどうするか——決めないまま日々の業務に追われている社長は少なくありません。
親族内承継では、株式の贈与・相続や自社株の買取のタイミングで、想定より早く資金が必要になる場面が出てきます。そんなとき、すでに加入している法人保険に「契約者貸付」という仕組みがあることを知らないまま、銀行への新規融資だけで動こうとして時間を取られるケースがあります。
「保険は保険、資金繰りは資金繰り」と別々に考えていると、せっかく積み立ててきた法人保険が、いざというときの選択肢に入らないまま終わってしまいます。
本記事は親族内承継にしぼり、法人保険の契約者貸付を「つなぎ資金」としてどう考えるかを整理します。契約者貸付は万能の解決策ではなく、使い方を誤ると保険契約そのものを失効させるリスクもある仕組みです。中小企業診断士・事業承継士として150社以上の法人支援に関わってきた立場から、活用する場面と注意点を分けて解説します。
- 親族内承継で自社株の買取資金が気になる社長
- 相続税の納税資金の目処が立っていない後継者
- 法人保険に入ったまま内容を見直していない方
- 契約者貸付という言葉を聞いたことがない方
- 親族内承継で資金繰りが詰まりやすい理由
- 法人保険の契約者貸付を使う3つの視点
- 契約者貸付を使う前後で確認すべきこと
- 自社だけで判断せず専門家と進める意味
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親族内承継で資金繰りが詰まりやすい理由

親族内承継では、自社株を子や親族へ移す過程で、相続税・贈与税の納税資金と、後継者や会社が株式を買い取るための資金という、性質の違う2つの資金需要が同時期に重なりやすくなります。
特に自社株の評価額が高い会社ほど、この負担は大きくなります。評価額が固まるタイミングと、実際にお金が必要になるタイミングがずれることも多く、「金額は分かったが、今すぐ用意できるお金がない」という状態に陥りがちです。
この状態を放置すると、相続税の納税期限に間に合わせるために自社株や事業用資産を慌てて手放すことになったり、後継者が個人の預金や借入で無理に穴埋めをしたりする事態にもつながりかねません。資金の出どころを決めないまま時間だけが過ぎるのは、親族内承継で最も避けたい状況の一つです。
後継者以外の相続人がいる場合は、遺留分への配慮も欠かせません。後継者に自社株を集中させる代わりに、他の相続人へ代償金を支払う「代償分割」という方法を取ることがありますが、この代償金もまとまった額になりやすく、納税資金・買取資金に加えて三つ目の資金需要になり得ます。
銀行融資は有力な選択肢ですが、審査には一定の時間がかかります。相続の発生や自社株の買取交渉は、こちらの都合だけでは進まないため、融資が下りるまでの数週間から数か月をどう乗り切るかという「つなぎ資金」の課題が、親族内承継では見落とされがちです。
ここで選択肢になり得るのが、すでに加入している法人保険の解約返戻金を担保にお金を借りる「契約者貸付」という制度です。ただし、これはあくまで一時的な資金繰りの手段であり、根本の資金計画に代わるものではありません。まずこの前提を押さえたうえで、次の章で具体的な使い方の視点を見ていきます。
そもそも、なぜ中小企業には解約返戻金の大きい法人保険が残っていることが多いのでしょうか。役員の退職金づくりや、万一のときの事業保障を目的に、長期間かけて保険料を積み立ててきた契約が少なくないためです。保険料の一部が損金に算入できるかどうかは、2019年(令和元年)の法人税基本通達の改正で、最高解約返戻率に応じて区分される仕組みに変わりました。「保険料は全額損金になる」という以前のイメージのまま契約を放置していると、承継のタイミングで慌てることになります。まずは加入している契約が、いつの時期のもので、どのような区分に当てはまるのかを保険会社に確認することが出発点です。
加えて、自社株の評価額そのものをどう考えるかという論点もあります。類似業種比準方式や純資産価額方式といった評価の考え方は専門的で、後継者だけで正確に把握するのは容易ではありません。評価の仕組みを理解しないまま資金計画だけを立てても、必要な金額の見立てがずれてしまいます。資金の調達方法と同じくらい、評価の考え方を早めに確認しておくことが大切です。
法人保険の契約者貸付を使う進め方|親族内承継の3つの視点

契約者貸付は、加入している法人保険の解約返戻金の一定範囲内で、保険会社からお金を借りられる制度です。解約せずに保障を残したまま資金を用意できる点が特徴ですが、使う前後で確認すべきことがあります。親族内承継の場面では、次の3つの視点で考えると整理しやすくなります。
視点1|どの場面で使うかを先に決める
契約者貸付が向くのは、「あとで確実にお金が入る見込みがあり、それまでの数か月をつなぐ」場面です。たとえば、相続税の納税期限に対して他の納税資金の手当てが間に合っていない場合や、自社株の買取交渉がまとまりかけているものの、銀行融資の実行が数週間先になる場合などが当てはまります。
他にも、相続人への代償分割の支払いを先に済ませたいものの、自社株の売却や退職金の支給までまだ時間がかかるといった場面も想定できます。要するに「使い道と、それを埋め合わせる本来の資金源の両方が、すでにはっきりしているかどうか」が、使ってよい場面かどうかの分かれ目になります。
逆に、返済のめどが立たないまま「とりあえず借りておく」使い方は向きません。契約者貸付は借入であって、保険金や退職金のような「受け取るお金」ではないという違いを、社内でも共有しておくことが大切です。
視点2|借りられる範囲と利息の仕組みを確認する
貸付を受けられる金額は、保険会社が定める解約返戻金の一定割合までで、保険会社ごと・契約ごとに上限が異なります。利息は保険会社所定の利率で複利計算されるため、返済しないままにしておくと、元金に利息が組み込まれて残高が年々増えていきます。具体的な利率や返戻率を断定することはできないため、契約している保険会社に最新の条件を必ず確認してください。
複数の法人保険に加入している場合は、契約ごとに借りられる上限や利率の条件が異なることもあります。一つの契約だけで判断せず、保有しているすべての契約を並べて比較したうえで、どの契約から借りるのが最も無理のない選択かを見極めることが重要です。
視点3|返済計画を承継のスケジュールに合わせる
契約者貸付には返済期限の定めがない契約も多くありますが、元利合計が解約返戻金の額を超えると、保険契約そのものが失効するという重大なリスクがあります。借りたままにせず、「いつ、何の資金で返済するか」を承継全体のスケジュールに組み込んでおくことが欠かせません。
特に親族内承継では、代表交代の時期と自社株の移転時期が数年ずれることも珍しくありません。返済のめどを「株式の移転が完了する年」のように、承継計画の節目に合わせて決めておくと、貸付が長期化して残高が膨らむ事態を避けやすくなります。
この3つの視点をもとに、実際に契約者貸付を検討する前に確認しておきたい項目を整理すると、次のようになります。
| 確認する項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 契約している保険の種類 | 解約返戻金が積み上がるタイプかどうか |
| 現在の解約返戻金の水準 | 保険会社に問い合わせて最新の金額を確認する |
| 借りられる上限の目安 | 解約返戻金に対する保険会社所定の割合 |
| 利息の仕組みと返済時期 | 複利で増える点と、返済のめどをいつに置くか |
| 承継計画との整合性 | 何のために、いつまで借りるかを承継の日程に合わせる |
ここに挙げた項目は、あくまで一般的な確認の視点であり、実際の金額や利率は契約によって異なります。個別の税務上の取扱いや会計処理は、顧問税理士の領域です。契約者貸付を受けた場合の経理処理についても、事前に税理士へ相談しておくと安心です。
銀行融資と契約者貸付を比べると、銀行融資は審査に時間がかかる代わりに、まとまった金額を長期の返済計画で用意しやすいという特徴があります。一方の契約者貸付は、審査という手続きがほとんど無く速やかに資金を用意できる代わりに、借りられる金額が解約返戻金の範囲内に限られます。どちらか一方だけに頼るのではなく、「銀行融資が実行されるまでの数週間を契約者貸付でつなぐ」といった組み合わせで考えると、無理のない資金計画になります。
もう一つ大切なのが、法人保険自体をいまの承継フェーズに合わせて見直しておくという視点です。契約者貸付が使える保険かどうか、そもそもの保障内容が今の状況に合っているかは、事業承継専属の保険代理店のページで進め方をまとめています。
事業承継専属の保険代理店という考え方 中小企業の事業承継において、法人保険は長年にわたり「とりあえず加入してきたもの」になりがちです。創業期、成長期、拡大期と、その時々の経営判断の積み重ねで保険は増え、気づけば保険料負担が重くなっているケースも少なくありません。 一方で、「保険をやめ...
資金の手当てだけでなく、保険そのものが今の会社の規模や承継の段階に合っているかを見直す機会として捉えると、契約者貸付という選択肢もより判断しやすくなります。
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親族内承継をやり切った先に手に入る未来

資金の出どころを整理し、契約者貸付のような選択肢まで含めて備えておくと、親族内承継は次の3つの軸で変わっていきます。
軸1|急な出費にあわてなくなる
相続や自社株の買取といった大きな出来事が起きても、つなぎ資金の選択肢をあらかじめ把握していることで、「何とかしなければ」と焦る場面が減ります。銀行融資、保険金、契約者貸付といった複数の手段を事前に整理しておけば、どれか一つが遅れても他の手段で乗り切れる余地が生まれます。
軸2|後継者が数字で判断できるようになる
先代が個人の感覚だけで保険や資金繰りを管理していると、後継者は引き継いだ後に全体像が見えず苦労します。契約内容や借入の状況を整理しておけば、後継者自身が数字をもとに判断できる状態で経営を引き継げます。自社株の評価の考え方や保険の保障内容を、後継者が自分の言葉で説明できるようになることも、承継の完了を測る一つの目安になります。取引先や金融機関から資金繰りについて聞かれたときに、後継者自身が答えられる状態は、周囲からの信頼にもつながっていきます。
軸3|専門家との関係が承継後も続く
税理士・保険の担当者・金融機関と、承継の前から情報を共有しておくことで、承継後も相談できる関係が続きます。誰か一人に任せきりにせず、全体を見渡せる状態を後継者と共に手に入れましょう。
自社だけで進める限界と、事業承継士による法人保険の伴走

契約者貸付の仕組みは決して複雑ではありませんが、「いくら借りられて、いつまでに返すか」を承継全体の計画と結びつけて考えるのは、社長おひとりや経理担当者だけでは難しい作業です。保険は保険会社、資金繰りは銀行、税務は税理士と、相談先が分かれているため、全体を見渡す役目が抜け落ちやすいためです。
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士(認定経営革新等支援機関)として、承継全体の設計と伴走を行っています。あわせて事業承継専属の保険代理店として、法人保険を「承継のフェーズに合わせて役割を再設計する」視点で点検します。税理士や金融機関を否定するのではなく、それぞれの専門家の話をつなぎ、社長と後継者が同じ地図を見ながら判断できる状態を目指します。
具体的には、現在加入している法人保険の証券を一つずつ確認し、契約者貸付が使える契約かどうか、解約返戻金の水準がどう推移していくかを整理します。あわせて自社株の評価の考え方や、相続税・贈与税の資金計画についても、顧問税理士と連携しながら全体像を組み立てます。法人保険は「入っているから安心」ではなく「今の承継フェーズに合っているかどうか」で見ることが出発点です。登記が必要になれば司法書士、許認可が絡めば行政書士と、必要な専門家へのつなぎ役も担います。
特に複数の法人保険に加入している会社では、契約者・被保険者・受取人がそれぞれ異なるケースも多く、承継のタイミングでどれをどう扱うかを一件ずつ棚卸しする作業が発生します。担当者が変わったり、加入時の経緯を知る人が退職していたりすると、この棚卸し自体が滞ってしまうこともあります。社外の専門家が入ることで、こうした確認作業を計画的に進められるようになります。
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事業承継のよくある質問|親族内承継と法人保険の疑問を解消

Q. 契約者貸付を利用すると、保険の保障はどうなりますか?
A. 契約を解約するわけではないため、保障そのものは続きます。ただし、借入と利息の残高が解約返戻金を上回ると失効する可能性があるため、残高の管理は必要です。
Q. 契約者貸付はどんな保険でも使えますか?
A. 解約返戻金がほとんど無いタイプの保険では使えません。加入している保険が契約者貸付に対応しているかは、保険証券か保険会社への確認が必要です。
Q. 契約者貸付の利息は必ず毎年払わないといけませんか?
A. 支払わなかった場合は、多くの契約で利息が元金に組み入れられます。支払う・組み入れるのどちらであっても、残高が増えていく点は変わりません。
Q. 相続税の納税資金は契約者貸付だけで賄うべきですか?
A. 契約者貸付は一時的なつなぎ資金の位置づけが基本です。納税資金の本体は、保険金や預金、必要に応じた金融機関からの借入など、複数の手段を組み合わせて考えるのが現実的です。
Q. 契約者貸付を受けたことは会社の決算にどう影響しますか?
A. 経理上の処理や税務上の扱いは契約や会社の状況によって異なるため、個別の判断は顧問税理士に確認してください。KICKが税務代理を行うことはありません。
Q. 自社株の評価が高いほど、契約者貸付の必要性も高まりますか?
A. 一概には言えません。評価額の高さよりも、納税や買取のタイミングに対して他の資金がどれだけ用意できているかが、必要性を左右します。
Q. 契約者貸付を使う前に、まず何をすればよいですか?
A. 加入している法人保険の証券を確認し、解約返戻金の水準と契約者貸付の対応可否を保険会社に問い合わせることから始めます。あわせて承継全体の資金計画を整理しておくと判断しやすくなります。
Q. 個人で加入している保険でも契約者貸付は使えますか?
A. 個人契約の保険でも、解約返戻金があるタイプであれば同様の制度がある場合があります。法人契約とは条件が異なるため、それぞれ別に確認してください。
Q. 事業承継士とは何をしてくれる資格ですか?
A. 事業承継にかかわる知識を体系的に学んだ専門家に与えられる資格です。KICKでは中小企業診断士としての経営視点とあわせて、承継全体の設計と伴走に活用しています。
Q. 相談すると保険の乗り換えを勧められますか?
A. 特定の保険会社や商品への乗り換えを前提にお話しすることはありません。今の契約を点検したうえで、承継計画に合っているかを一緒に整理する形で進めます。
Q. 契約者貸付を返済する前に、代表交代を先に済ませても大丈夫ですか?
A. 契約自体は代表者が交代しても存続しますが、誰が返済の責任を引き継ぐのかは、あらかじめ後継者と共有しておく必要があります。承継のタイミングで話がすれ違わないよう、早めに整理しておくことをおすすめします。
Q. 契約者貸付以外に、親族内承継のつなぎ資金の選択肢はありますか?
A. 金融機関からの短期融資や、役員・親族からの一時的な貸付なども選択肢になり得ます。契約者貸付はその中の一つの手段として、他の選択肢とあわせて比較する視点が大切です。
Q. 契約者貸付を検討する場合、相談はどのタイミングでするのが良いですか?
A. 実際にお金が必要になってからでは選択肢が限られます。相続税の納税や自社株の買取が具体的な話として持ち上がった時点、あるいはそれ以前の準備段階で、一度契約内容を確認しておくことをおすすめします。
まとめ
親族内承継では、相続税の納税と自社株の買取、場合によっては代償分割の資金という、性質の違う資金需要が重なりやすくなります。法人保険の契約者貸付は、その間をつなぐ一つの選択肢になり得ますが、借りたままにすると保険契約が失効するリスクがある仕組みでもあります。使うかどうかを判断する前に、まずは今の契約内容と承継全体の資金計画を照らし合わせて点検することから始めてみてください。
「まだ早い」と感じているうちが、実は一番動きやすいタイミングです。相続や自社株の買取が現実の期限として迫ってからでは、契約内容を確認する余裕すら無くなります。今のうちに一つずつ確認しておくことが、後継者を無理な資金繰りから守ることにつながります。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは今の悩みをお聞かせください。
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