
「そろそろ会社の将来を考えなければ」と思いながら、誰に相談すればいいのかが分からず、手が止まっている——そんな状態ではないでしょうか。
「もっと早く動けばよかった」と考える経営者は少なくありません。とはいえ、「まだ早い」と思っている今こそ、実は動きやすい時期です。業績が落ち込んでからより、余力があるうちに相談を始めたほうが、選べる相手も選択肢も多く残ります。
上期の数字が固まり、下期の計画を練り始めるこの時期は、会社の5年先・10年先を考え直すきっかけにもなります。後継者が身内にも社内にもいない場合、会社を残す選択肢のひとつが第三者承継(M&A)です。ただ、いざ動こうとすると「誰に相談すればいいのか」「仲介会社は何を基準に選べばいいのか」という、最初の一歩でつまずく方が少なくありません。
事業承継には、子や親族が継ぐ「親族内承継」、役員や幹部社員が継ぐ「役員・従業員承継」、そして社外の第三者に会社を託す「第三者承継(M&A)」という3つの型があります。本記事は、このうち第三者承継(M&A)、その中でも一番はじめの段階である「誰に相談し、どう譲渡先を探すか」に絞って解説します。
本記事では、中小企業診断士・事業承継士として法人支援150社以上に関わってきた立場から、譲渡先(買い手候補)を探す進め方と、相談先の選び方を整理します。会社を売る・売らないを決める前の段階、「どこに相談すればよいか分からない」という一番手前の悩みに寄り添う内容です。
- 後継者がおらず、会社の先行きに不安がある社長
- M&Aという言葉は知っていても進め方が分からない方
- 仲介会社をどう選べばよいか判断できない方
- 誰に本音を相談していいか分からず先送りしてきた方
- 相談先を決めないまま時間が過ぎるリスク
- 譲渡先探しと相談先選びの3つの手順
- 仲介会社とM&Aアドバイザーの違い
- 相談から候補先の引き合わせまでの流れ
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相談先を決められないまま、事業承継M&Aの時間だけが過ぎる理由

後継者不在の会社が第三者承継(M&A)を考え始めても、最初の相談先をどこにするかで止まってしまう方は少なくありません。銀行、顧問税理士、M&A仲介会社、公的な相談窓口——選択肢は複数あるのに、それぞれの立場や役割の違いが分からないためです。
止まってしまう背景には、次の3つの心理があります。「専門用語が多く、何を聞けばいいか分からない」「相談したら強引に営業されるのではという警戒心」「取引先や従業員に話が漏れることへの不安」。どれも自然な感情ですが、この不安を放置していても、会社の状況が自然に整理されることはありません。
この「相談先が決まらない」状態を放置すると、次のようなことが起こります。
- 会社の業績・体力があるうちに動けず、譲渡先の選択肢が狭くなる
- 社長の年齢・健康を理由に、準備不足のまま急に決断を迫られる
- 取引先や従業員に情報が漏れないよう、水面下で動く時間が足りなくなる
動き出しが遅れるほど、選べる相手も、かけられる時間も少なくなります。これは事業承継M&Aに共通する構造です。
後継者不在という課題を抱える中小企業は、業種を問わず珍しくないと指摘されています。子や親族に継ぐ意思がない、社内の役員・幹部社員に株式を買い取る資金がない——理由はさまざまですが、「後継者がいない=廃業しかない」と決めつける必要はありません。第三者承継(M&A)という選択肢を知っているかどうかで、経営者が取れる行動の幅は大きく変わります。
とはいえ、いきなり「会社を売る」と決める必要はありません。まずは選択肢のひとつとして知っておく、という軽い姿勢で相談を始めても構いません。次の章では、その相談先をどう選び、どう進めるかを具体的に見ていきます。
「誰に相談すればいいか」という悩みの背景には、相談先ごとに得意分野が違うという事情もあります。まずは、代表的な相談先の特徴をおおまかに整理しておきます。
| 相談先 | 得意な役割 | 留意点 |
|---|---|---|
| 顧問税理士 | 普段の経営状況を把握している | M&Aの実務経験は事務所によって差がある |
| 取引金融機関 | 資金面・信用面の相談がしやすい | 候補先の紹介力は機関によって幅がある |
| M&A仲介・アドバイザー | 候補先探し・交渉の実務に慣れている | 報酬体系・得意業種を事前に確認する |
| 事業承継・引継ぎ支援センター | 公的な立場で中立的に相談に乗る | 案件によっては民間の専門家へつながれる |
どこか1つに絞る必要はなく、まず顧問税理士や公的窓口に一声かけてみるという進め方でも構いません。相談すること自体に、費用がかかるとは限りません。
一方で、相談先の選び方さえ押さえれば、後継者不在でも会社を残す道筋は十分に描けます。次の章で、譲渡先探しと相談先選びの具体的な手順を見ていきます。
事業承継M&Aの譲渡先探しと相談先選びの3つの手順

事業承継のM&Aで譲渡先を探す進め方は、大きく3つの手順に分けられます。順番を飛ばして「まず仲介会社探し」から入ると、自社の状況を整理できないまま話が進んでしまうため、順番を守ることが大切です。
手順1.自社の現状と希望条件を言葉にする
会社の強み・弱み、譲渡後に譲れない条件(従業員の雇用維持、屋号を残すか等)を、相談前に自分の言葉で整理します。ここが曖昧なままだと、相談先も的確な候補先を探せません。
「強みなんて特に無い」と感じる社長も多いのですが、長年取引が続いている顧客がいる、特定の技術や資格を持つ従業員がいる、といったことも立派な強みです。社長自身が当たり前だと思っていることほど、外部から見ると評価される場合があります。この棚卸しは、相談先と一緒に進めても構いません。
手順2.相談先の立場の違いを理解して選ぶ
相談先には主に、売り手・買い手の間に立つ「仲介型」と、どちらか一方の代理人として動く「アドバイザー型」があります。仲介型は双方の間で条件をすり合わせるため話がまとまりやすく、アドバイザー型は自社の利益を最優先で代弁してくれるという特徴があります。どちらが良い・悪いではなく、自社の状況にどちらが合うかという視点で選びます。
民間の仲介会社・アドバイザーのほかに、各都道府県には「事業承継・引継ぎ支援センター」という公的な相談窓口もあります。まずはここで無料相談し、状況に応じて民間の専門家を紹介してもらうという進め方も選択肢のひとつです。
手順3.初回相談から候補先の引き合わせまでの流れを把握する
初回相談で希望条件をすり合わせ、企業概要をまとめた資料(社名を伏せた形が一般的)をもとに候補先へ打診し、双方が関心を持てば実際の引き合わせに進みます。ここまでは会社名を明かさずに進められる場合が多く、情報が外部に漏れる不安を抑えながら検討できます。
候補先と直接顔を合わせる段階に進む前には、お互いに秘密保持契約を結び、話した内容を外部に漏らさない取り決めをするのが一般的です。この取り決めがあることで、社長は安心して自社の状況を話せるようになります。
| 段階 | 主な内容 | この段階で決めること |
|---|---|---|
| 現状整理 | 強み・弱み、譲れない条件の言語化 | 何のために・誰のために承継するか |
| 相談先選定 | 仲介型/アドバイザー型の比較検討 | 自社の規模・業種に実績があるか |
| 初回相談〜引き合わせ | 資料の準備、候補先への打診 | 社名を明かす範囲、進めるか止めるかの判断 |
初回相談では、直近数期分の決算書と、事業の概要(沿革・主な取引先・従業員数など)を求められることが一般的です。手元に整った資料がなくても構いません。初回の時点では「これから整える」で十分で、相談先と一緒に何を準備すべきかを整理していく進め方が現実的です。
相談先を選ぶときに確認しておきたい視点は、次のとおりです。
- 自社と近い規模・業種での支援実績があるか
- 中小企業庁のM&A支援機関登録制度に登録しているか
- 報酬の仕組み(成功報酬が中心か、着手金の有無)を最初に説明してくれるか
- 「早く決めさせよう」と急がせず、断る選択肢も尊重してくれるか
特に最後の視点は見落とされがちです。相談したからといって、必ず話を進めなければいけないわけではありません。「今回は見送ります」と伝えたときに、それでも丁寧に対応してくれるかどうかは、信頼できる相談先を見極める分かりやすい目安になります。逆に、初回相談の段階から契約を急がせる相談先には、慎重になったほうがよいでしょう。
相談先選びを焦って一社だけで決めてしまうと、条件面で比較ができないまま話が進むことがあります。複数の選択肢を比べる余地を残しておくことが、後悔しない相談先選びにつながります。
費用の考え方も、最初に確認しておく
相談先によって報酬の仕組みは異なります。多くは、成約した場合にのみ報酬が発生する成功報酬型を中心に、着手金や中間報酬を組み合わせる形が見られます。具体的な料率や金額は相談先ごとに異なるため、本記事では断定した数字はお伝えしません。初回相談の段階で、報酬の仕組みと発生するタイミングを必ず確認しておくことが、後々の認識のズレを防ぎます。
公的な相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センターは、初期の相談を無料で受け付けている場合が多く、費用面での負担を心配せずに、まず話を聞いてみるという使い方もできます。「相談=すぐに費用が発生する」と思い込み、相談自体を避けてしまうのはもったいないことです。
自社の状況整理から相談先選びまで、事業承継コンサルティングとして一緒に進める支援について、詳しくは次のページでまとめています。
中小企業診断士 · 事業承継士 · 認定経営革新等支援機関 事業承継を何から始めるべきか、 一緒に整理しませんか。 株式・保険・後継者育成がバラバラのまま、時間だけが過ぎていませんか。 KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、経営全体を見ながら事業承継を一本化して伴走する専門...
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譲渡先探しをやり切った先に、事業承継で手に入る未来

相談先を決め、譲渡先探しの進め方が分かると、経営者が得られるものは3つの軸に整理できます。
軸1.「誰にも相談できない」という孤独感からの解放
会社の将来を一人で抱え込む状態から、同じ目線で考えてくれる相談相手がいる状態に変わります。従業員や取引先には話せない悩みを、外部の専門家になら率直に話せます。経営者仲間にも打ち明けにくい話だからこそ、社外に信頼できる相談相手を持つ意味は大きいものです。
軸2.後継者不在でも「会社を残す」選択肢が現実になる
身内や社内に後継者がいなくても、会社と雇用を残す道は十分にあります。譲渡先探しの進め方が分かれば、「後継者がいないから畳むしかない」という思い込みから抜け出せます。長年築いてきた取引先との関係や、従業員が積み上げてきた技術・ノウハウを、次の担い手へつなぐことができます。
軸3.準備に時間をかけられるだけの余裕が生まれる
早く動き出すほど、じっくり相手を選ぶ時間ができます。一社に絞らず複数の選択肢を比べたうえで決めることは、時間の余裕があってはじめてできることです。焦って決める承継ではなく、納得して選ぶ承継を、共に手に入れましょう。
取引先や従業員にとっても、経営者が代わっても事業が続くことは大きな安心材料です。会社を畳むのではなく、次の担い手に引き継ぐという選択肢を持てること自体が、経営者としての大きな財産になります。長年かけて築いてきた会社の歴史を、社長一代で終わらせずに次の世代へつなげられることは、何ものにも代えがたい成果です。
相談先探しと並行して、法人保険の棚卸しも

譲渡先探しの準備を進める段階で、会社が加入している法人保険の契約内容も、あわせて棚卸ししておくと良いでしょう。契約目的・被保険者・受取人が今の会社の姿と合っているかを確認しておくことは、譲渡交渉の中で契約の扱いを聞かれたときの備えにもなります。
保険を売り込む視点ではなく、承継の準備の一部として点検するという位置づけです。詳しくは次のページでまとめています。
事業承継専属の保険代理店という考え方 中小企業の事業承継において、法人保険は長年にわたり「とりあえず加入してきたもの」になりがちです。創業期、成長期、拡大期と、その時々の経営判断の積み重ねで保険は増え、気づけば保険料負担が重くなっているケースも少なくありません。 一方で、「保険をやめ...
自社だけで事業承継M&Aを進める限界と、事業承継士による伴走支援

事業承継のM&Aは、税務・法務・現場の実務が複雑に絡み合います。社長一人だけで進めようとすると、専門分野ごとの相談先がバラバラになり、話が噛み合わないまま時間が過ぎてしまうことがあります。
税理士は税務の個別判断、弁護士は契約書の法的な点検、司法書士は登記、行政書士は許認可の手続き、それぞれの専門家に役割があります。専門家ごとに窓口が分かれたままでは、誰が全体を見ているのか分からなくなり、話が噛み合わなくなりがちです。KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、他の専門家を否定するのではなく、中小企業診断士・事業承継士として、承継全体の設計と各専門家との橋渡しを担う立場です。
法人支援150社以上の実績をもとに、現状の整理から相談先選び、候補先探しの進め方まで、社長の隣で一緒に考えます。一人で抱え込まず、全体を見渡せる相談相手を持つことが、納得できる事業承継への近道です。
「まだ本気で売るつもりはないが、選択肢として知っておきたい」という段階からでも構いません。動くかどうかを決める前の情報収集の相談だけでも、対応できます。認定経営革新等支援機関として、公的な制度や各専門家とのつながりを踏まえた全体設計を行うことも、KICKの役割のひとつです。
支援の型としては、顧問税理士がすでにいる会社ではその税理士と足並みを揃えながら進め、税務の相談先がまだ決まっていない会社では信頼できる専門家をつなぐところから始めます。既にある関係性を壊すのではなく、足りない部分を補う形で伴走するのがKICKの立ち位置です。
事業承継士は、経営承継円滑化法にもとづく認定・確認の仕組みなど、事業承継に関する制度全体を理解したうえで、社長の状況に合わせて道筋を描く専門資格です。制度の細かい要件を社長自身がすべて把握する必要はありません。全体設計は専門家に任せ、社長は経営そのものに集中できる体制をつくることが、KICKの支援の目的です。
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事業承継M&Aの相談先選びによくある質問

Q. 事業承継M&Aは何から始めればいいですか
A. まず自社の現状(強み・弱み、譲れない条件)を言葉にすることから始めます。決算書などの資料は、相談を進めながら整えていけば構いません。相談先探しはその後の段階です。
Q. 仲介会社とM&Aアドバイザーは何が違いますか
A. 仲介型は売り手・買い手の間に立って条件を調整するため、話がまとまりやすいという特徴があります。アドバイザー型はどちらか一方の代理人として、自社の利益を優先して動きます。自社が「早くまとめたい」のか「条件面を粘り強く詰めたい」のかによって、向き・不向きが分かれます。
Q. 相談先を選ぶときに確認すべきことは何ですか
A. 自社と近い規模・業種の実績、中小企業庁のM&A支援機関登録制度への登録有無、報酬の仕組みの説明の丁寧さが目安になります。
Q. 複数の相談先に同時に相談してもいいですか
A. 問題ありません。むしろ条件を比べるために、複数の相談先の話を聞くことをおすすめします。
Q. 相談したら必ずM&Aを進めなければいけませんか
A. いいえ。初回相談の時点では現状の整理が中心で、進める・進めないは社長が決めることです。
Q. 取引先や従業員に知られずに進められますか
A. 初期の検討段階では、社名を伏せた資料で候補先へ打診するのが一般的です。情報を明かす範囲は段階ごとに社長が判断でき、従業員への説明は基本合意など話が具体化した段階で行うケースが多く見られます。伝えるタイミングも、相談先と一緒に計画しておくことをおすすめします。
Q. 譲渡先が決まるまでどのくらいの期間がかかりますか
A. 会社の状況や業種、候補先との条件のすり合わせ方によって幅があり、断定的な期間はお伝えできません。一般的には相談を始めてから成約まで一定の年月がかかるとされており、「急いで数か月でまとめよう」とすると、条件を十分に比較できないまま進めることになりがちです。準備を早く始めるほど、選べる時間に余裕が生まれます。
Q. 相談する専門家は税理士でもいいですか
A. 顧問税理士は税務の個別判断において重要な相談相手です。ただし譲渡先探しや契約交渉の実務は、事業承継の実務に詳しい相談先と役割を分けて進めると、話がスムーズです。
Q. 契約書の内容は誰が確認するのですか
A. 契約書の法的な点検は弁護士の領域です。KICKは全体の設計と進行の伴走を担い、必要な専門家へつなぎます。
Q. 従業員承継や親族内承継とはどう違いますか
A. 親族内承継は子や親族へ、役員・従業員承継は社内の役員や幹部社員へ引き継ぐ方法です。第三者承継(M&A)は、社外の第三者に会社を託す点が異なります。身内や社内に後継者がいない場合に検討される選択肢です。
まとめ
事業承継M&Aで最初につまずきやすいのは、契約交渉でも企業価値の算定でもなく、「誰に相談すればいいか分からない」という一番手前の壁です。
自社の現状を言葉にする、相談先の立場の違いを理解する、初回相談から候補先の引き合わせまでの流れを知る。この3つの手順を押さえれば、後継者不在でも会社を残す道筋は描けます。
相談先は一社に絞る必要はなく、複数の話を聞いたうえで比べて選んで構いません。公的な窓口から話を聞いてみるのも、事業承継の実務に詳しい専門家に直接相談するのも、どちらも自然な入り口です。大切なのは、「まだ早いから」と先送りせず、選択肢を知ることから始めることです。
「まだ早いかもしれない」と思っている今こそ、動きやすい時期です。上期の数字が固まり、下期の計画を考えるこの時期に、会社の5年先・10年先まで見据えて相談を始めてみてはいかがでしょうか。一人で抱え込まず、まずは現状を聞かせてください。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。
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