
「外国人技能実習の申請書類が返却されました。债务超過のため、中小企業診断士による企業評価書の提出を求められた」
このような連絡を受け、初めて「企業評価書」という存在を知る食品製造業の経営者は少なくありません。売上1億〜10億円規模の加工食品工場、冷凍食品製造、弁当・総菜製造、OEM受託の経営者のなかでも、特に原材料費高騰や労働力不足に直面し、ここ数年の赤字で債務超過に陥った企業からの問い合わせが増えています。
それでも「債務超過=技能実習・特定技能の申請は不許可」ではありません。正確に言えば、「改善の見通しが明確であれば許可される」というのが制度の本質です。しかし、この「改善の見通し」を説得力を持たせて書く企業はほぼいません。それが、多くの食品工場が企業評価書で躓く理由です。
本記事では、中小企業診断士の視点から、食品製造業における企業評価書の実務と、审査官が実際に見ているポイント、そして「申請が通る評価書」と「落ちる評価書」の明確な違いについて解説します。
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食品製造業で企業評価書が求められる理由

債務超過企業は第三者評価が必須
外国人技能実習制度は、平成29年に施行された「技能実習制度運用要領」によって、直近の事業年度で債務超過がある場合、次の条件が定められました。
直近の事業年度で債務超過がある場合、中小企業診断士、公認会計士等の企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する第三者が改善の見通しについて評価を行った書類の提出が必要
つまり、債務超過の状態で技能実習生を受け入れる場合、誰でもいいから誰かの意見書を提出すればよいという制度ではなく、中小企業診断士(経営管理修士を含む)または公認会計士という「公的資格を有する第三者」による評価が法律上の要件なのです。
食品製造業が企業評価書を求められやすい理由

全製造業のうち、なぜ食品工場の経営者から企業評価書に関する相談が特に多いのでしょうか。その背景には、食品製造業が直面する構造的な問題があります。
農林水産省の「法人企業統計調査」によると、2022年度の食品製造業の経営指標は次の通りです。
| 指標 | 食品製造業 | 製造業全体 |
|---|---|---|
| 営業利益率 | 2.0% | 8.5% |
| 売上総利益率 | 19.8% | 25〜30% |
| 経常利益率 | 3.7% | 8.5% |
食品製造業の営業利益率は2.0%です。これは製造業全体(8.5%)の約1/4に過ぎません。つまり、食品工場は「薄い利益」で事業を回している業種なのです。さらに2022年から続く原材料費高騰により、この利益率はさらに圧縮されている工場が大多数です。
赤字が続けば、過去の利益剰余金を消費しながら経営を続けることになります。その結果、3期連続の赤字で債務超過に陥った食品工場が、わずか3〜4年の間に100社以上生まれているのが現実です。そうした企業が外国人技能実習や特定技能の申請時に「債務超過」を理由に引っかかり、初めて企業評価書の必要性を認識するのです。
債務超過でも不許可ではない|審査の本質

「現在の赤字」ではなく「継続性」を見ている
企業評価書が求められた経営者の多くが陥る勘違いがあります。それは「債務超過=申請は不許可」という誤解です。実際には、法務省の「外国人経営者の在留資格基準の明確化」では次のように定められています。
直近期末において債務超過であるが、直近期前期末では債務超過となっていない場合、1年以内に具体的な改善の見通しがあることを前提として事業の継続性を認める
つまり、審査官が問うているのは「今、赤字ですか?」ではなく、「今後、この会社は事業を続けられますか?」という問いです。
債務超過の原因が「一時的な損失」か「構造的な不採算」か、そして「改善の根拠が明確か」が判断の分かれ道になります。
評価書で審査官が確認する3つのポイント
中小企業診断士が作成する企業評価書には、審査官が必ずチェックする3つの項目があります。
① 数字の整合性
過去3期の決算書から現在までの売上・利益推移、資金繰り表、改善計画後の利益計画。これらの数字が整合しているか、矛盾がないかを見ます。例えば「売上は横ばいなのに利益が25%増える」という不可能な改善計画は即座に落とされます。
② 根拠資料の有無
「売上が20%増える」と書いたら、その根拠は何か。新規契約書か、既存客からの追加発注メールか、市場調査か。具体的な根拠がなければ、単なる「願いごと」と判定されます。
③ リスク対策
計画が予定通りに進まなかった場合、どうするのか。代替案、バックアップ施策、損益分岐点はどこか。これらが明示されていない評価書は「甘い見通し」と見なされます。
落ちる企業の共通点

抽象的な改善計画
企業評価書の不許可事由の筆頭は、改善計画の曖昧さです。実際に却下された事例を見ると、次のような表現が見られます。
- 「経営改善に努力する」
- 「コスト削減を実施する」
- 「営業力の強化」
- 「組織体制の見直し」
これらは「何をするのか」が不明確です。審査官は「具体的な施策は何か」「いつまでに誰が実行するのか」「その結果、数値はどう変わるのか」を問い詰めます。
改善計画は「いつ・誰が・何を・どの程度・どうやって」を全て書き込む必要があります。
過去の赤字の原因説明がない
「過去3期連続赤字ですが、今後は黒字化します」と書いただけでは、信頼が得られません。
「なぜ赤字になったのか」を説明しない企業評価書は、評価書を書いた診断士の分析能力まで疑われます。例えば、
2024年下期から大型顧客A社からの受注が50%減少した。これは同社の経営方針転換が原因であり、同時にB社との新規取引交渉が進行中である。B社との契約予定額は年間3,000万円で、2025年4月から売上計上予定。
このように「何が起きたのか」と「それにどう対応するのか」を並記することで、説得力が飛躍的に高まります。
外国人材の配置計画がない
これは食品工場特有の落とし穴です。
企業評価書には、実際に受け入れる技能実習生の配置計画が必ず記載される必要があります。「何人受け入れるのか」「どの工程に配置するのか」「実習生を入れることでどのような効果が期待できるのか」です。
実は、多くの食品工場が「人手不足だから外国人を受け入れたい」という動機で技能実習申請をしていますが、企業評価書では「外国人材を受け入れることが、なぜ経営改善につながるのか」を証明する必要があります。
例えば、「実習生3名を受け入れることで、既存従業員3名を営業・品質管理部門へ配転可能になり、新規顧客開拓が加速する」といったシナリオ設計があって初めて説得力が生まれるのです。
改善見通しの具体的な作り方(数値例)

ステップ1:過去3年の財務分析
企業評価書を作成する前に、必ず過去3年分の決算書を分析します。確認すべき項目は次の通りです。
- 売上の変動率(顧客ごとの売上構成比)
- 原価率の推移(材料費、人件費、製造経費の推移)
- キャッシュフロー(営業CF、投資CF、財務CF)
- 負債の内訳(銀行借入、買掛金、その他)
- 資産の内訳(売掛金、在庫、固定資産の時価評価)
この段階で「赤字になった根本原因は何か」を特定することが、説得力のある評価書の出発点になります。
ステップ2:改善施策の抽出と数値化
原因が特定できたら、改善施策を具体的に落とし込みます。ここで重要なのは「机上の理論値」ではなく「実現可能な数値」を設定することです。
例:新規顧客開拓の場合
目標:年間新規売上2,000万円
根拠:営業担当者が月に10社へ提案(年120社)、成功率が平均25%(年30社)、1社当たり平均売上額670万円
検証:過去の営業履歴から、既存顧客の初年度売上平均は650〜700万円だったため、この設定値は根拠がある
このように「何を」「いくつ」「どの程度の成功率で」という3つの要素を全て明示することで、初めて説得力が生まれます。
ステップ3:改善後の損益計算書イメージ
最後に、改善施策を実行した場合の損益計算書を作成します。
| 項目 | 現状(2024年見込み) | 改善後(2025年計画) | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 3.0億円 | 3.2億円 | +2,000万円 |
| 原価 | 2.4億円 | 2.45億円 | +500万円 |
| 売上総利益 | 6,000万円 | 7,500万円 | +1,500万円 |
| 販管費 | 7,200万円 | 7,000万円 | △200万円 |
| 営業利益 | △1,200万円 | +300万円 | +1,500万円 |
このように、改善施策を実行することで「いつ、どの程度、赤字から黒字へ転換するのか」を数値で示すことが、企業評価書の核になります。
企業評価書の作成フロー

申請から評価書提出までのスケジュール
多くの食品工場の経営者が焦る理由は、「提出期限が短い」からです。出入国在留管理庁や外国人技能実習機構から企業評価書の提出を求められた場合、通常は2週間〜1ヶ月以内の提出期限が設定されます。
その間に、自社で企業評価書を作成することはほぼ不可能です。そのため、多くの企業が地元の中小企業診断士に駆け込み相談をしているのが現状です。
標準的な作成フロー
- 1日目:初回ヒアリング(1時間程度)
経営者から、赤字になった背景、現在の経営状況、今後の経営方針をヒアリング。過去3年の決算書、試算表、資金繰り表を提出いただく。 - 2〜3日目:財務分析・資料収集
決算書の分析、顧客別売上分析、原価構造の分析。経営者に追加資料(新規顧客見積書、金融機関との協議内容、従業員数の推移など)を依頼。 - 4〜5日目:改善計画の作成・協議
診断士が改善計画案を作成し、経営者と協議。「実現可能か」「根拠資料は揃うか」を確認。修正・調整を実施。 - 6〜8日目:企業評価書の執筆
改善計画が固まったら、企業評価書を執筆。赤字原因の説明、改善施策の詳細、数値見通し、根拠資料の参照などを盛り込む。 - 9日目:最終確認・提出
経営者による最終確認、必要に応じて修正。完成した評価書を経営者に引き渡し、申請機関へ提出。
つまり、企業評価書の質は「診断士の実務経験」と「経営者の協力度」の掛け算で決まります。提出期限が短い場合ほど、初期段階での情報収集が重要になるのです。
診断士選びのポイント
企業評価書の作成を依頼する中小企業診断士を選ぶ際、確認すべき点は次の通りです。
- 食品製造業の実績があるか
原価構造や製造業特有の課題を理解している診断士でなければ、説得力のある評価書は作成できません。 - 技能実習制度の知識があるか
単なる「経営診断」ではなく、「技能実習制度の審査要件」を熟知している診断士かどうかが重要です。 - 過去の評価書作成実績
「何件の企業評価書を作成し、そのうち何件が許可されたのか」を確認することで、実績が判定できます。 - 提出期限への対応
2週間以内の短期対応が可能か。リモート(オンライン)対応に対応しているか。
よくある質問(Q&A)

Q1. 企業評価書がない場合、技能実習申請は絶対に落ちますか?
A. 直近期末で債務超過がない場合は、企業評価書の提出は不要です。しかし、債務超過状態で評価書を提出しなければ、申請は不許可になります。つまり、債務超過の有無が分かれ道になります。
Q2. 公認会計士の評価書でもいいですか?中小企業診断士である必要がありますか?
A. 法律上は「中小企業診断士、公認会計士等」と定められているため、公認会計士の評価書も有効です。ただし、実務経験が豊富な診断士の方が、食品製造業の改善シナリオをより説得力をもって記載できる傾向があります。
Q3. 改善計画が1年で達成できない場合はどうなりますか?
A. 法令では「1年以内に債務超過の状態でなくなること」が基準ですが、現実的には「2年がかりの改善」でも許可される場合があります。重要なのは、改善の道筋が明確で実現可能なことです。
Q4. 既存取引先との契約書がない場合、改善計画は認められませんか?
A. ベストは「契約書確定」ですが、現実には「発注見積書」や「取引先との協議内容メール」でも根拠資料になります。ただし、根拠資料が曖昧なほど、審査のハードルが上がることは確実です。
Q5. 申請から許可までどのくらい期間がかかりますか?
A. 企業評価書の提出後、外国人技能実習機構での審査には通常4週間〜8週間を要します。提出期限が短い場合は、早めに専門家に相談することが鍵になります。
Q6. 企業評価書の作成費用の相場は?
A. 中小企業診断士によって異なりますが、相場は5万円〜15万円程度。複雑な改善計画が必要な場合は20万円以上になることもあります。
Q7. 税理士でも企業評価書は作成できますか?
A. 法律上は「中小企業診断士、公認会計士等」と限定されており、税理士では作成できません。
Q8. 既に却下された企業評価書を修正することはできますか?
A. はい、可能です。不許可理由を分析し、改善計画をより詳細・具体的に作り直すことで、再申請で許可を得たケースは多数あります。
まとめ

企業評価書は「申請書類」ではなく「経営改善の契約書」
企業評価書について、多くの食品工場の経営者は「入管に提出する書類」と認識しています。しかし実は、この評価書は「自社がこれからどう改善するのか」を宣言し、その宣言に責任を持つ文書です。
評価書の許可を受けた後、計画通りに改善が進まなかった場合、技能実習の更新時に「計画未達」として引っかかる可能性があります。つまり、評価書は「その場しのぎの申請書類」ではなく、経営の改善過程を記録する契約書なのです。
だからこそ、自分たちが確実に実行できる計画を、根拠資料と共に記載する必要があります。
「自社では難しい」と気づいた時が相談のタイミング
企業評価書の相談を受ける際、多くの経営者は次のように言われます。
「顧問税理士に相談したら、評価書の作成はできないと言われた」
「管理団体が『自社で改善計画を書いてください』と言う」
「銀行からは『経営が悪い企業の融資はできない』と断られた」
こうした相談が来た時こそ、専門家の出番です。
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)では、150社以上の法人支援実績を持つ中小企業診断士として、食品製造業の企業評価書作成を専門とする支援サービスを提供しています。
赤字、債務超過、融資が受けられない──そのような局面でも、改善の道筋は必ず存在します。重要なのは「その根拠をどう示すか」です。
外国人技能実習の申請をお控えの食品工場の経営者の方へ。
「債務超過=申請は不可能」ではありません。
説得力のある改善見通しがあれば、許可の道は開かれています。
食品製造業の経営を守るために
外国人技能実習や特定技能は、もはや「人手不足対策の手段」を超えて、食品製造業の経営継続に不可欠な経営資源になっています。
しかし、その申請前提となる「企業評価書」が、実は経営診断の最高峰の難度を要求する書類であることを認識している経営者は少数派です。
債務超過に至った原因が何か、その改善の道筋が本当に実現可能か、根拠資料は何か。これらを全て整理し、説得力を持つドキュメントに仕上げることは、簡単ではありません。
だからこそ、「自社では難しい」と判断したその時が、専門家への相談のベストタイミングなのです。
経営の改善と、従業員の確保。その両立の第一歩が、説得力のある企業評価書です。
あなたの会社の「改善の見通し」を、共に手に入れましょう。








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