
経営管理ビザの顧問先を長く見てこられた税理士・行政書士の先生に向けた記事です。
ある日、顧問先の外国人社長が、前回の更新のときに出入国在留管理局(入管)で受け取った案内を持ってきます。大筋は次のような内容です。
「施行日から3年を経過するまでの更新では、改正後の基準に適合していなくても、経営状況や改正後の基準に適合する見込みを踏まえて判断します。審査では、経営に関する専門家の評価を受けた文書を提出いただくことがあります」
添えられた一言は「先生、更新は大丈夫そうです。次は永住を申請したいので、準備をお願いできますか」。経営管理ビザ(在留資格「経営・管理」)で長く日本に暮らす社長ほど、更新の次に永住許可を考えます。ところが、この案内に書かれた猶予は更新の話で、永住許可には当てはまりません。
日本語の書類に不慣れな社長がまず頼るのは、会社の数字をずっと見てきた顧問税理士の先生です。永住の申請を考える段階では、行政書士の先生に相談が持ち込まれることも多いでしょう。ただ、計画が基準に届くかを確かめる評価書面(事業計画書の確認)は中小企業診断士などの領域で、先生が顧問先の評価者を兼ねることにはためらいがあります。周りに診断士の知り合いもいない。信頼して任せられる診断士を探した結果、当社KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)にご相談いただく。永住に関するご相談は、おおむねこの流れで届きます。
最初に結論です。先生から顧問先に伝えたい一文は「更新には2028年10月16日までの猶予がありますが、永住は申請する時点で新しい基準を満たしている必要があります」です。先生が最初に確認するのは、登記事項証明書の資本金の額、常勤職員の在留資格と働き方、社長ご本人の日本語能力と経歴を示す資料の3点です。
この記事の要点
- 永住許可で確認する3つの基準
- 更新計画と永住計画を分ける段取り
- 先生が顧問先の資料で確かめる順番
永住許可に経過措置がないという公表資料の位置づけ

2025年10月16日に施行された「経営・管理」の許可基準の改正では、手続きの種類によって、改正後の基準がいつから当てはまるかが違います。出入国在留管理庁の公表資料を、先生が顧問先に説明しやすい形に並べ直すと次のとおりです。
| 手続き | 改正後の基準との関係 | 顧問先への説明の要点 |
|---|---|---|
| 既存在留者の更新(2028年10月16日まで) | 適合していなくても、経営状況と適合する見込みで判断 | 見込みを示す計画が要る |
| 既存在留者の更新(2028年10月16日以降) | 原則として改正後の基準。経営状況や納付の履行などで総合判断の余地 | それまでに満たす準備 |
| 永住許可 | 施行日以降、改正後の基準に適合しなければ認められない | 申請時点で満たしている必要 |
| 高度専門職1号ハへの変更、1号ハから2号への変更 | 永住許可と同じく経過措置なし | 永住と同じ考え方 |
表の3行目と4行目が、この記事の本題です。更新は経過措置で時間を稼げても、永住許可と高度専門職への変更には稼げる時間がありません。「経営・管理」の活動を前提とする高度専門職1号ハも、「経営・管理」の許可基準を満たすことが前提とされています。顧問先の社長には「更新の猶予と永住の条件は別のルールです」とかみ砕いて伝えると、話が早く進みます。
なお、在留年数など永住許可そのものの一般的な要件は、この記事では扱いません。申請の時期や永住許可の要件全体の確認は、申請を担当する行政書士の先生の領域です。本記事は、その前提として「経営・管理」の改正後の基準を顧問先が満たしているかを、決算と人の資料から確かめる視点に絞って整理します。
永住許可で確認する3つの基準

改正後の基準のうち、永住を目指す顧問先で差がつきやすいのは、資本金等、常勤職員、申請者の日本語能力と経歴の3つです。事業所の要件も改正後の基準に含まれますが、まずはこの3つを決算書と人の資料で確かめると全体像がつかめます。
資本金等3,000万円以上
法人の場合、判定に使われるのは払込済資本金の額、または出資の総額です。資本準備金、資本剰余金、利益剰余金は含まれません。従業員の給与や事務所の維持費を合算することもできません。個人事業主の場合は資本金ではなく、事業所の確保費用、職員の給与1年分、設備投資など事業に投下された総額で見ます。複数の会社を経営している場合は、いずれか1社が3,000万円以上であれば足ります。
税理士の先生が注意したいのは、純資産の大きさと資本金の額が別物である点です。利益を積み上げて純資産が3,000万円を超えていても、資本金が500万円であれば基準には届きません。増資をする場合も、払い込んだ額の一部を資本準備金に計上する設計にすると、その部分は数えられません。増資の手続きは司法書士の先生、税務上の取扱いは税理士の先生の領域ですが、設計の段階で「資本金の額として登記される金額」を確かめておくことが大切です。
常勤職員1名以上
常勤職員として数えられるのは、日本人、特別永住者、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者に限られます。技術・人文知識・国際業務などの就労系の在留資格で働く外国人社員は対象外です。派遣、請負、在籍出向も認められません。
常勤かどうかは、週5日以上かつ年217日以上かつ週30時間以上の勤務、6か月の継続勤務と8割出勤で年次有給休暇10日以上が付与されること、雇用保険の被保険者で週30時間以上の勤務、といった基準で判断されます。複数の職員がいる場合は、1名が基準を満たせば足ります。給与台帳と雇用保険の加入状況を見られる税理士の先生は、この基準をもっとも早く確かめられる立場にあります。
申請者の日本語能力と経歴
日本語能力はB2相当が基準で、申請者か常勤職員のいずれかが満たせば足ります。この場面の常勤職員には、就労系の在留資格の外国人社員も含まれます。証明の方法は、日本語能力試験N2以上、BJTビジネス日本語能力テスト400点以上、中長期在留者として20年以上の在留、日本の大学等の高等教育機関の卒業、日本の義務教育の修了と高校の卒業の5つです。
経歴は、経営管理または事業分野の博士・修士・専門職学位(外国の相当学位を含む)か、事業の経営・管理の経験3年以上が基準です。長く会社を経営してきた顧問先なら経験年数で満たせることが多い一方、経験を示す資料が手元にそろっているかは別に確かめる必要があります。日本語能力の証明方法の詳細は経営管理ビザの日本語能力の記事で解説しています。
先生が顧問先の資料で確かめる順番

永住の相談を受けたとき、最初から計画づくりに入る必要はありません。まずは手元の資料で、3つの基準のどこに不足があるかを見極めます。当社が先生方と連携するときにお願いしている確認の順番は次のとおりです。
| 基準 | 先生が見る資料 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 資本金等 | 登記事項証明書、決算書の純資産の部 | 資本金の額と資本準備金の内訳 |
| 常勤職員 | 給与台帳、雇用保険の資格取得の記録、職員の在留カードや住民票 | 対象の在留資格か、週30時間以上か |
| 日本語能力 | 合格証、卒業証明書、住民票 | 5つの方法のどれで示せるか |
| 経歴 | 学位記、役員就任の登記、前職の在職証明 | 学位か経営経験3年以上か |
この表のうち、資本金等と常勤職員は税理士の先生の手元の資料でほぼ判断できます。日本語能力と経歴は、在留歴や学歴の資料を扱う行政書士の先生のほうが確かめやすい項目です。先生お一人で4行すべてを埋めようとせず、もう一方の先生と表を分け合うと、相談を受けた週のうちに不足の有無が見えてきます。
顧問先の社長に資料を頼むときは、「永住の審査では、会社の資本金、雇っている人、社長ご自身の日本語と経歴の3つを見られます。それぞれの証明を集めましょう」と伝えると、何を探せばよいかが伝わりやすくなります。
更新計画と永住計画を分けて考える段取り

永住を目指す顧問先の多くは、同時に次回の更新も控えています。このとき、更新と永住を一つの計画で考えると、締め切りの感覚がずれます。更新は「2028年10月16日までに基準を満たす見込みを示せばよい」計画、永住は「申請する日に基準を満たしている」計画です。同じ3,000万円と常勤職員でも、求められる到達の時点が違います。
そこで当社では、次の順で2つの計画を分けて組み立てることをおすすめしています。
- 3つの基準ごとに、現状で満たしているか、不足はどれだけかの一覧化
- 不足を埋める手段と時期の決定(増資の額と時期、採用の時期、試験の受験時期)
- 次回の更新で示す「適合する見込み」の計画づくり(2の時期に合わせる)
- すべての基準を満たす見込みの時期を、永住申請を検討できる最も早い時期に設定
- その時期から逆算した、永住申請の準備開始時期の行政書士の先生とのすり合わせ
ポイントは2と4です。増資は資金さえ用意できれば手続きで進みますが、常勤職員の採用と定着には時間がかかり、日本語の試験も受験の機会が限られます。時間のかかる基準から先に手を付けることで、永住を検討できる時期が早まります。更新の計画は、この永住の計画の途中経過として位置づけると、2つの計画の数字が食い違いません。
更新の経過措置の詳しい中身は、経営管理ビザ更新に3000万円は必要かの記事で整理しています。本記事では、そこから一歩進めて永住の時期をどう置くかに焦点を当てています。
永住を目指す顧問先で起きやすい誤解

更新が許可されたから永住も同じ条件で通るという誤解
経過措置の期間中は、改正後の基準を満たしていなくても更新が許可される場合があります。社長がその結果を「今の会社のままで大丈夫」と受け止めると、永住の申請で初めて基準の不足に気づくことになります。更新の許可は、永住の基準を満たしている証明にはなりません。
純資産が3,000万円あれば足りるという誤解
前の章で触れたとおり、数えられるのは払込済資本金の額か出資の総額です。黒字を積み上げてきた優良な顧問先ほど、この誤解が起きやすい傾向があります。決算書の純資産の部を一緒に見ながら、資本金の行だけを指して説明すると伝わります。
外国人の正社員がいるから常勤職員は満たしているという誤解
常勤職員1名の基準では、就労系の在留資格の社員は数えられません。一方、日本語能力の基準では就労系の社員も含まれます。2つの基準で「常勤職員」の範囲が違うため、社長だけでなく先生方の間でも取り違えが起きやすい点です。雇用の計画の考え方は経営管理ビザの常勤職員とはで詳しく解説しています。
当社の支援範囲と行政書士との役割分担

KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、経済産業大臣登録の中小企業診断士として、経過措置期間中の更新で求められることがある評価書面の作成、事業計画書の確認、増資や雇用の計画を数字に落とす事業計画づくりの申請サポートを行っています。在留資格の申請書類の作成と申請取次は行政書士または弁護士の業務であり、当社は行いません。永住許可の申請時期の判断や入管とのやり取りも、申請を担当する行政書士の先生にお願いしています。
先生方との連携の進め方は税理士向けの協業のご案内にまとめています。評価書面の作成は全国オンラインで対応しています。料金は改定することがあるため、最新の内容はサービスページでご確認ください。顧問先・依頼者にそのままお伝えいただけるページとして、経営管理ビザの評価書面作成サービスと、外国人の方向けのご案内もご用意しています。
永住を目指す顧問先を持つ先生との協業

資本金の額、純資産の内訳、給与台帳、雇用保険の加入状況は、税理士の先生がもっとも早く正確に確かめられる資料です。行政書士の先生は、日本語能力と経歴の証明、永住許可の申請時期の見極め、申請書類の作成を担います。当社は、その間をつなぐ増資と雇用の計画を数字で組み立て、更新で示す見込みと永住の時期をそろえる役割を担います。
決算と税務は税理士の先生、計画の確認と評価書面は中小企業診断士、申請は行政書士の先生という分担で、顧問関係や依頼関係を保ったまま進めます。
永住を目指す顧問先・依頼者がいる先生へ
決算と税務は先生、計画の確認と評価書面は中小企業診断士、申請は行政書士。更新の計画と永住の計画を一本の数字でつなぐ協業のかたちをご案内しています。
先生が顧問先から受ける永住権のよくある質問

Q. 2028年10月16日までなら、永住も今の基準のままで申請できるか、と聞かれました
できません。2028年10月16日までの経過措置は既存在留者の更新についての扱いです。永住許可は、施行日以降、改正後の基準に適合していなければ認められないとされています。
Q. 資本金を3,000万円にすれば永住の基準は満たせるか、と聞かれました
資本金等は基準の一つにすぎません。常勤職員1名以上と、申請者の日本語能力と経歴の基準もあわせて満たす必要があります。3つを一覧にして不足を確かめるよう案内してください。
Q. 永住の申請にも事業計画書の専門家確認が要るか、と聞かれました
公表資料では、事業計画書の専門家確認は在留資格の認定と変更の際に提出する事業計画書についての仕組みとして示されています。永住許可の申請でどう扱われるかは公表資料に記載がないため、申請を担当する行政書士の先生が個別に確認してください。
Q. 2社を経営する依頼者は、2社の資本金を足して3,000万円でよいか、と聞かれました
足し合わせることはできません。公表資料では、複数の会社を経営する場合はいずれか1社が3,000万円以上であれば足りるとされています。どの会社で基準を満たすかを決めて計画を立てるよう促してください。
Q. 高度専門職1号ハへの変更を考えている依頼者にも同じ考え方でよいですか
同じ考え方です。高度専門職1号ハへの変更と、1号ハから2号への変更にも経過措置はなく、「経営・管理」の許可基準を満たすことが前提とされています。
まとめ
経営管理ビザの更新には2028年10月16日までの経過措置がありますが、永住許可と高度専門職1号ハへの変更には経過措置がなく、施行日以降は改正後の基準に適合しなければ認められません。永住を目指す顧問先で先生が確認するのは、払込済資本金の額などで見る資本金等3,000万円以上、身分系の在留資格の常勤職員1名以上、申請者の日本語能力と経歴の3つです。不足があれば、時間のかかる採用と日本語から手を付け、更新の計画を永住の計画の途中経過として組み立てると、2つの手続きの数字がそろいます。
先生が顧問先に伝える一文は、「更新の猶予と永住の条件は別のルールです。まず3つの基準の現状を一緒に確かめましょう」です。その確認と計画づくりを、税理士の先生、行政書士の先生、中小企業診断士の分担で進めていきましょう。
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執筆・監修|KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)代表 松本昌史
中小企業診断士(経済産業大臣登録)、MBA(経営管理修士)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、事業承継士、事業再生マネージャー。認定経営革新等支援機関、M&A支援機関登録。法人の支援実績は150社以上。在留資格の申請書類の作成と申請取次は行いません。
参考資料:出入国在留管理庁「『経営・管理』の許可基準の改正等について(令和7年10月16日施行)」、同「在留資格『経営・管理』に係る上陸基準省令等の改正について」(Q&A)、同「在留期間更新許可を受けられた皆様へ(経営・管理)」、同 在留資格「経営・管理」案内ページ










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