
外国人材を受け入れる製造業や建設業、介護・外食の会社が育成就労の受入れについて、厚生労働省に相談したところ、「決算が債務超過のままでは、育成就労の受入れは認められません。改善の見通しを示す書面を用意してください」と言われた。
債務超過の原因は、外国人材の受入れ・育成にかかる先行投資が資金繰りを圧迫していることにあります。給与や教育、住環境の整備に継続的なお金がかかる一方、育成の成果が数字に表れるまでには時間がかかります。
このまま改善の見通しを示せなければ、今いる技能実習生・特定技能人材の継続雇用すらできなくなります。継続雇用できなければ人手不足を補えず、人手が足りなければ現場を回せず、最悪の場合、会社そのものが立ち行かなくなります。
あなただけではありません。製造業や建設業、介護や外食の現場で、人手不足を外国人材で補ってきた多くの経営者が、同じ問いの前で立ち止まっています。制度の細部はまだ設計が進められている段階ですが、方向性ははっきりしています。受入れ機関の財務健全性が、育成就労の優良要件を満たせるかどうかの土台になるということです。
結論から言えば、いま取り組むべきは「制度の完成を待つこと」ではなく、「自社の財務を整え、たとえ赤字や債務超過があっても改善の見通しを示せる状態にしておくこと」です。その具体的な備えの中心にあるのが、企業評価書(改善の見通しについて評価を行った書面)です。この記事では、育成就労の優良要件・計画認定・上乗せ基準の考え方に触れつつ、審査を一発で通す財務の実務を今日から動ける形でお伝えします。
- 技能実習と育成就労の違いと、財務要件が問われる理由
- 育成就労の優良要件・計画認定・上乗せ基準の基本的な考え方
- 債務超過・赤字でも改善の見通しを示す企業評価書の役割
- 企業評価書を作成できる専門家(税理士は作成できない理由)
- 今から財務を整えるための具体的な準備の手順
技能実習から育成就労へ 財務要件が問われる理由

育成就労は、技能実習に代わる新制度として法改正で創設されました。人材を「育成」しながら、特定技能の水準まで引き上げていくことを目的とした仕組みです。ポイントは3つあります。
技能実習と育成就労の違い
技能実習は「国際貢献・技能移転」を建前としてきました。これに対し育成就労は、日本の産業を担う人材を確保・育成することを正面から目的に据えています。目的が変われば、受入れ機関に求められる資質も変わります。
人を育て、定着させ、特定技能へと送り出すには、その会社が事業を継続できる体力を持っていることが前提になります。だからこそ、受入れ機関の経営基盤や財務健全性が、これまで以上に重視される方向で制度設計が進められているのです。
採用した外国人材に長く働いてもらうには、給与や教育、住環境の整備に継続的なお金がかかります。会社の資金繰りが苦しければ、その負担に耐えられず、育成の途中で計画が崩れかねません。財務の安定は、外国人材本人のためでもあるのです。育成就労が経営基盤を問うのは、こうした背景があるからだと理解しておくと、備えの意味が腑に落ちます。
| 観点 | 技能実習(従来) | 育成就労(新制度) |
|---|---|---|
| 制度の目的 | 国際貢献・技能移転 | 人材の確保と育成 |
| めざす到達点 | 技能の習得 | 特定技能の水準への引上げ |
| 受入れ機関への視点 | 実習体制の整備が中心 | 経営基盤・財務健全性を重視 |
| キャリアの連続性 | 限定的 | 特定技能への移行を前提 |
なお、育成就労の具体的な施行時期や運用の細目は、出入国在留管理庁や厚生労働省で制度設計が進められている段階です。細かな数値や要件が確定していない部分もあるため、本記事では確定していない数字は断定しません。大切なのは、方向性が「経営基盤の重視」にあるという一点です。
このまま財務を放置すると起こること
「制度が固まってから動けばいい」と考えていると、いざ受入れや在留資格の手続きの段になって、財務の弱さが壁になることがあります。特定技能の受入れでは、すでに債務超過の会社に対して、改善の見通しを説明する書面の提出が求められる運用があります。育成就労でも、同様の考え方が引き継がれる可能性は高いと考えておくべきです。
財務を放置したまま手続きの直前を迎えると、決算書の数字はすぐには変えられません。赤字や債務超過が残ったまま、短期間で説明資料を整えることになり、選択肢が狭まります。備えは「今」始めるほど有利です。
特に注意したいのは、決算書は過去の積み重ねだという点です。今期の努力がすぐ数字に表れるわけではなく、債務超過の解消には時間がかかります。手続きの直前になって「決算を良くしよう」としても間に合いません。だからこそ、改善の見通しを書面で示す準備を、余裕のあるうちに始めておく価値があります。
要するに、育成就労で問われるのは制度知識だけではありません。自社の財務を、審査に耐える形に整えておけるか——ここが分かれ道になります。
育成就労の優良要件と計画認定 財務健全性の整え方

ここからは実務です。育成就労の優良要件や計画認定にどう備えるか、財務健全性をどう整えるかを、手順に沿って示します。抽象論ではなく、今日から着手できる形で説明します。
育成就労の計画認定と優良要件の考え方
育成就労では、受入れ機関が育成の計画をつくり、その計画の認定を受ける仕組みが想定されています。この計画認定に加えて、より良い受入れ体制を持つ機関を「優良」と評価し、受入れの枠や条件で優遇する上乗せ基準が設けられる方向で検討が進められています。
優良要件や上乗せ基準の具体的な点数や項目は、まだ確定していない部分が多く、詳細は制度設計が進められています。ただ、これまでの外国人材制度の流れをふまえると、育成体制・法令順守・そして経営の安定性が評価の柱になると見ておくのが自然です。だからこそ、財務健全性を今から整えておく意味があります。
ここで焦って、確定していない数値を前提に動くのは禁物です。制度の細部は変わり得ます。変わらないのは、「経営が安定し、改善の見通しを示せる会社が有利になる」という大きな方向です。数字の細部を追うよりも、自社の財務という足元を固めるほうが、どんな制度設計になっても通用する備えになります。
財務を整える4つのステップ
財務健全性は、一夜で手に入るものではありません。順序立てて積み上げるものです。次の4ステップで進めます。
- 現状把握 直近3期の決算書を並べ、債務超過の有無・営業利益の推移・借入と返済のバランスを数字で確認する。
- 原因の分解 赤字や債務超過が、一時的な要因か構造的な要因かを切り分ける。設備投資や特別損失による一時的なものかを見極める。
- 改善計画の策定 売上・原価・固定費・資金繰りの各項目に、実行可能な改善策と数値目標を落とし込む。
- 改善の見通しの見える化 計画をもとに、改善の見通しについて評価を行った書面(企業評価書)を整え、第三者の目で裏付ける。
この4つ目のステップが、受入れの審査で効いてきます。決算書の数字がまだ弱くても、改善の道筋を客観的な書面で示せれば、評価の土俵に乗れるのです。詳しくは債務超過でも改善の見通しを示す企業評価書の作成支援をご覧ください。
準備しておきたい資料
財務を整え、企業評価書を作成するには、いくつかの資料がそろっていると話が早く進みます。手元を確認してみてください。
- 直近3期分の決算書(貸借対照表・損益計算書)
- 試算表など、直近の月次の数字が分かるもの
- 借入の一覧(借入先・残高・毎月の返済額)
- 資金繰り表、または入出金の見通しが分かる資料
- 赤字や債務超過に至った事情を説明できるメモ
これらがすぐに出てこない場合でも、相談しながら整えていけます。大切なのは、完璧に準備してから動くのではなく、今ある資料で、まず現状を専門家と共有することです。そこから改善の見通しは形になっていきます。
企業評価書(改善の見通しについて評価を行った書面)とは
企業評価書とは、会社の財務状況と、これからの改善の見通しについて、専門家が評価を行った書面です。特定技能や技能実習の受入れで、債務超過の会社が提出を求められる「改善の見通しについて評価を行った書面」も、この企業評価書にあたります。育成就労でも、同様の書面が備えとして重要になると考えられます。
- 財務状況の分析(債務超過や赤字に至った理由の説明)
- 改善計画の内容と、その実現可能性の評価
- 売上・利益・資金繰りの将来見通し
- 専門家としての評価と、改善が見込まれる根拠
ここで大切な事実を1つお伝えします。企業評価書(改善の見通しについて評価を行った書面)を作成できるのは、中小企業診断士または公認会計士です。税理士は作成できません。顧問税理士に相談しても対応できないのはこのためです。日ごろの決算や税務と、改善見通しの評価書面は、担い手が異なる点に注意してください。
「決算書は税理士に任せているから大丈夫」と考えていると、いざ書面が必要になったときに慌てます。企業評価書の作成は、中小企業診断士または公認会計士へ早めに相談しておくのが安全です。
財務を整えた先に手に入る未来

財務を整え、改善の見通しを示せる状態にしておくと、何が変わるのか。抽象論ではなく、3つの軸で具体的に描きます。
数字の軸 審査で止まらない会社になる
債務超過や赤字があっても、改善の見通しを企業評価書で示せれば、受入れや在留資格の手続きで「財務を理由に止まる」リスクを下げられます。人手不足を外国人材で補う計画が、財務のつまずきで白紙にならずに進みます。採用してから受入れまでの時間を、無駄にせずに済みます。
時間の軸 直前で慌てなくなる
財務の整備を前もって進めておけば、受入れの直前に説明資料をかき集める必要がなくなります。改善計画も企業評価書も、時間をかけて精度を上げられます。半年・1年という単位で計画的に動けることが、そのまま審査での説得力になります。
関係性の軸 金融機関と現場からの信頼
改善計画と企業評価書は、外国人材の受入れだけでなく、金融機関との対話でも力を発揮します。改善の道筋を数字で語れる会社は、追加の借入や条件変更の交渉でも有利になります。育てた外国人材が特定技能へ移り、長く働き続けてくれる——そんな現場の安定にもつながります。
現場で働く社員にとっても、会社の財務が整い、受入れの見通しが立っていることは安心材料です。人手不足のなかで無理な体制を組むのではなく、育成の計画に沿って新しい仲間を迎えられれば、既存の社員の負担も和らぎます。財務の整備は、外国人材と日本人社員の双方が働きやすい職場をつくる土台になるのです。
数字の安心、時間の余裕、そして金融機関と現場からの信頼。この3つを、育成就労という新しい制度の波に乗りながら、共に手に入れましょう。
自社だけで進める限界とKICKコンサルティングの支援

ここまで読んで、「自社だけでできそうか」を考えてみてください。財務の整備と企業評価書の準備には、越えにくい壁が3つあります。
3つの壁 専門性・時間・判断ミス
| 壁 | 中身 |
|---|---|
| 専門性の壁 | 企業評価書は中小企業診断士または公認会計士でなければ作成できない。財務分析と改善見通しの評価には専門知識が要る。 |
| 時間の壁 | 本業をこなしながら、決算分析・改善計画・書面作成を並行するのは負担が大きい。手続きの期限にも追われる。 |
| 判断ミスの壁 | 債務超過に至った理由の説明や改善策の妥当性を誤ると、書面の説得力が落ち、審査でつまずく。 |
だからこそ、財務の専門家に任せる経営者が増えています。KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士である代表の松本昌史が、これまで150社以上の中小企業を支援してきました。認定経営革新等支援機関として、財務改善と資金繰りの現場に数多く向き合ってきた事務所です。
KICKコンサルティングの支援内容
私たちがご提供するのは、次のような支援です。
- 直近の決算書をもとにした財務状況の分析と、債務超過・赤字の原因の切り分け
- 実行可能な改善計画の策定(売上・原価・固定費・資金繰りの各項目に数値目標を設定)
- 企業評価書(改善の見通しについて評価を行った書面)の作成支援
- 育成就労・特定技能の受入れを見据えた、財務健全性の整備の伴走
- 金融機関との対話に向けた、改善計画の見える化
顧問税理士では作成できない書面も、中小企業診断士である私たちが対応します。日々の税務は税理士に、改善見通しの評価書面は診断士に——役割を分けることで、あなたの手元に必要な備えがそろいます。
私たちは、決算書の数字を良く見せるための小手先の作業はしません。会社の実態に即して原因を分解し、実行できる改善策を一緒に組み立て、その道筋を客観的な書面に落とし込みます。だからこそ、審査の場でも金融機関の前でも通用する説得力が生まれます。育成就労という新しい制度への備えを、財務の面から確かなものにしていきましょう。
よくある質問

育成就労と技能実習は何が違うのですか
技能実習が「国際貢献・技能移転」を目的としてきたのに対し、育成就労は日本の産業を担う人材の確保と育成を正面の目的に据えた新制度です。特定技能の水準への引上げを前提とし、受入れ機関の経営基盤や財務健全性がより重視される方向で制度設計が進められています。
育成就労の優良要件とは何ですか
育成の体制が整い、法令を順守し、経営が安定している受入れ機関を「優良」と評価し、受入れの枠や条件で優遇する考え方です。具体的な項目や点数は、まだ確定していない部分が多く、詳細は制度設計が進められています。財務健全性が評価の柱の1つになると見ておくのが安全です。
育成就労の計画認定と上乗せ基準の関係を教えてください
受入れ機関が育成の計画をつくり、その認定を受けるのが計画認定です。これに加えて、より良い体制を持つ機関を優良と評価するのが上乗せ基準にあたります。上乗せ基準の細かな数値は確定していないため、現時点では断定を避け、体制と財務を整えておくことが備えになります。
債務超過や赤字があると育成就労の受入れはできませんか
債務超過や赤字が直ちに受入れ不可を意味するわけではありません。特定技能では、債務超過の会社が改善の見通しについて評価を行った書面を提出することで、受入れの土俵に乗る運用があります。育成就労でも同様の考え方が引き継がれる可能性が高く、改善の見通しを示せる準備が鍵になります。
企業評価書とは何ですか
会社の財務状況と、これからの改善の見通しについて、専門家が評価を行った書面です。改善の見通しについて評価を行った書面とも呼ばれ、債務超過の会社が外国人材の受入れなどで提出を求められます。財務分析・改善計画・将来見通し・専門家の評価をまとめたものです。
企業評価書は税理士に作成してもらえますか
作成できません。企業評価書(改善の見通しについて評価を行った書面)を作成できるのは、中小企業診断士または公認会計士です。顧問税理士は日々の決算や税務を担いますが、この評価書面は担い手が異なります。中小企業診断士または公認会計士に依頼してください。
企業評価書はどのくらいの期間で用意できますか
会社の状況や資料のそろい具合によりますが、決算書の分析から改善計画の策定、書面の作成まで、一定の時間を要します。受入れの直前に慌てないためにも、手続きの予定が見えた段階で早めに相談を始めることをおすすめします。時間をかけるほど、書面の説得力は高まります。
技能実習から育成就労への移行に向けて、今から何をすべきですか
まずは直近3期の決算書を並べ、債務超過の有無や利益の推移を数字で確認することです。赤字や債務超過があれば、その原因を一時的なものか構造的なものかに切り分け、改善計画を立てます。そのうえで企業評価書を整えておけば、制度が固まったときにすぐ動けます。制度の完成を待つ間も、財務の整備という土台づくりは前に進められます。今この瞬間から着手できることは少なくありません。
改善計画はどのように作ればよいですか
売上・原価・固定費・資金繰りの各項目に、実行可能な改善策と数値目標を落とし込みます。抽象的な決意ではなく、いつ・何を・どれだけ改善するのかを数字で示すことが重要です。第三者である専門家の評価を受けることで、計画の実現可能性に説得力が生まれます。
相談すると必ず契約しなければなりませんか
そのようなことはありません。ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場での契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いませんし、費用もかかりません。まずは自社の現状を整理する場として、気軽にお使いください。
まとめ
育成就労は、技能実習に代わる新制度として、受入れ機関の経営基盤と財務健全性をこれまで以上に問う方向へ進んでいます。優良要件や上乗せ基準の細かな数値はまだ確定していませんが、やるべきことは今日から明確です。自社の財務を整え、赤字や債務超過があっても改善の見通しを示せる状態にしておくこと——これに尽きます。
その中心にあるのが、企業評価書(改善の見通しについて評価を行った書面)です。作成できるのは中小企業診断士または公認会計士であり、税理士では対応できません。制度の完成を待つのではなく、決算書の分析と改善計画づくりを今から始めることが、いざというときに審査で止まらない会社をつくります。
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、支援実績150社以上の中小企業診断士として、あなたの会社の財務整備と企業評価書の準備に伴走します。制度の波に振り回されるのではなく、備えのある側に立ちましょう。
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