【診断士監修】従業員承継(MBO)を複数の幹部で担う3つの原則

三冠バッチ

「自分の代で終わらせたくないが、後継ぎにできる子どもや親族がいない。」「右腕が2人いるが、どちらか1人には絞れない。」

そんな状況で、後継者選びそのものが止まってしまっている社長は少なくありません。従業員承継(MBO・EBO)といえば「信頼できる1人の幹部に継がせる」形が代表例として語られがちですが、実際の中小企業の現場では、経理に強い幹部と営業に強い幹部、製造現場を知る幹部など、複数の幹部で役割分担しながら会社を継ぐケースが少なからずあります。長年一緒に会社を支えてきた幹部が複数いるからこそ、1人だけを選ぶことに抵抗を感じる社長も多いのではないでしょうか。

ただし、複数人で継ぐ従業員承継は、1人に継がせる場合よりも決めておくべきことが多く、株式配分や意思決定のルールを曖昧にしたまま進めると、承継した直後に社内が割れてしまう危険があります。

この記事はこんな方におすすめです

  • 後継者を一人に絞れず悩んでいる社長
  • 複数の幹部社員に会社を任せたい経営者
  • 従業員承継MBOを検討し始めた後継候補の方
  • 株式の配分や意思決定に不安がある幹部の方
  • 個人保証や資金の負担分担で迷っている方
この記事で分かること

  • 複数の幹部で会社を継ぐときに起きやすい問題
  • 株式配分と意思決定ルールを決める3つの原則
  • 個人保証と資金負担を整理する考え方
  • 事業承継士による伴走支援の内容

中小企業診断士・事業承継士として法人支援150社以上に携わってきた立場から、複数の幹部で会社を継ぐときに必ず押さえておきたい考え方を整理しました。読み終える頃には、後継者を1人に絞れず止まっていた検討を、次の一歩へ進められるはずです。

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複数の幹部で従業員承継を進めると起きやすい問題

複数の幹部で事業承継を検討する会議の様子

従業員承継(MBO・EBO)とは、社外の第三者ではなく、社内の役員や幹部社員が株式を引き継いで経営者になる承継の形です。親族に後継者がいない中小企業で、選択肢の一つとして検討されています。

後継者候補が1人なら、株式の引き継ぎ先も意思決定の主体も自然と定まります。ところが候補が複数いる場合、社長が「みんなで力を合わせてほしい」という思いだけで進めてしまうと、誰がどれだけ株式を持つのか、最終的に誰が決めるのかが曖昧なまま承継してしまうことがあります。

複数の幹部で従業員承継を検討するとき、特に注意しておきたいのは次の3つです。

  • 株式の配分を決める基準が曖昧なまま話が進んでいる
  • 意見が割れたときに、誰が最終的に決めるのか決まっていない
  • 個人保証や買取資金の負担を、なんとなくの話し合いで済ませている

株式が均等だと、意思決定が止まりやすい

複数の幹部で株式を持ち合う形にすると、公平に見える一方で、意見が割れたときに誰の判断を優先するかが決まらず、経営判断そのものが止まってしまうリスクがあります。特に、設備投資や人事といった重い決断ほど、この停滞が経営に響きます。

個人保証と資金負担の分担が曖昧になりやすい

株式を買い取る資金や、金融機関からの借入に伴う経営者保証をどう分担するかも、複数人で継ぐときに特に揉めやすい論点です。「なんとなく代表者が保証を引き受ける」まま進めると、後になって負担の重さに不満が出やすくなります。

放置すると、承継の話自体が立ち消えになる

決めるべきことが多いために検討が止まり、そのまま先送りされているケースを数多く見てきました。社長の年齢が上がるほど、承継までに使える準備期間は短くなります。後継者不在のまま代表者だけが高齢化していく状態は、事業の継続そのものを危うくします。

よくあるつまずき方

実際の相談では、次のようなつまずき方をよく見かけます。1つは、社長が「みんな仲がいいから大丈夫」と楽観して、株式配分も意思決定のルールも決めないまま承継を進めてしまうパターンです。仲の良さと、経営判断で意見が割れたときにどうするかは、まったく別の問題です。

もう1つは、逆に慎重になりすぎて「誰か1人に決めるのは不公平だ」と考え、結論を先延ばしにし続けるパターンです。公平さにこだわるあまり、何も決まらないまま時間だけが過ぎていくのは、複数人承継で最も避けたい展開といえます。

いずれのパターンも、根っこにあるのは「誰が最終的に決めるのか」という一点を先送りしていることです。次の章では、この点を含めた3つの原則を具体的に整理します。

後継者が1人の場合と複数の場合とでは、承継前に決めておくべきことの重さが変わります。違いを整理すると、次のとおりです。

論点後継者が1人の場合後継者が複数の場合
株式配分自然と1人に集中する比率を役割に応じて設計する必要がある
意思決定本人がそのまま決定者になる最終決裁者を別途決めておく必要がある
個人保証・資金本人が単独で引き継ぐ負担割合を株式比率と合わせて決める必要がある

複数人での承継は、決めることが増える分だけ、事前の設計が結果を大きく左右します。逆にいえば、ここで挙げた論点を1つずつ丁寧に潰していけば、後継者が1人の場合に劣らない、安定した承継を実現できるということでもあります。

事業承継MBOを複数の幹部で進める3つの原則

事業承継の進め方を整理するステップ

複数の幹部で従業員承継を進めるときは、次の3つの原則を先に決めておくことで、承継後の停滞や対立を防ぎやすくなります。

  1. 株式配分は「対等」ではなく「役割」で決める。営業・製造・管理など、それぞれが担う責任の重さに応じて比率を決め、代表者となる1人には議決権の過半数か、それに近い比率を持たせておくと、経営判断が止まりにくくなります。全員を数字上まったく同じ比率にする必要はありません。
  2. 最終的な決裁者を先に1人決めておく。日常の役割分担は対等でも構いませんが、意見が割れたときに誰が最終判断を下すのかだけは、承継前に文書として残しておくと、経営が止まる事態を避けられます。取締役会規程や株主間契約に、決議事項ごとの決定方法を明記しておく形が一般的です。
  3. 個人保証と買取資金の負担割合を、株式比率と合わせて決める。株式を多く持つ人ほど保証や資金負担も重く持つのが基本の考え方です。負担と権限のバランスが崩れていると、後から不満が出やすくなります。

この3つは、どれか1つだけを決めても十分ではありません。株式配分だけ決めて意思決定ルールを決めない、決裁者だけ決めて資金負担の分担を決めない、といった「一部だけ整理された状態」が、承継後のトラブルの火種になりやすいため、3つをセットで検討することが大切です。頭では分かっていても、幹部同士だけで話し合うと、お互いへの遠慮から核心の話に踏み込めないまま終わってしまうことも少なくありません。

この3つの原則を土台に、実際の進め方は次の3つの段階で整理すると具体的に動きやすくなります。詳しい進め方は次のページでまとめています。

段階主な検討項目
現状把握自社株の評価、後継候補それぞれの適性と意欲、既存の借入・個人保証の状況を洗い出す
対策設計株式配分の比率、代表者と最終決裁者、個人保証・買取資金の負担割合、役員間の合意事項を設計する
実行・合意形成株主間契約や取締役会規程の整備、金融機関への説明、株式譲渡の手続きを進める

ここに挙げた項目は一般的な検討の枠組みであり、実際の比率や金額は会社ごとの状況によって大きく異なります。自社の場合はどう設計すればよいかは、現状把握の段階から専門家と一緒に整理していくのが近道です。

対策設計の段階では、株主間契約や取締役会規程といった書面に、決めたルールを落とし込んでおくことも欠かせません。口約束のまま承継してしまうと、後になって「言った・言わない」の対立が起きやすくなります。特に、次の3点は書面に残しておきたい代表的な項目です。

  • 株式の比率と、それぞれの議決権の範囲
  • 重要な経営判断を誰が最終的に決めるか
  • 個人保証・買取資金の負担割合と、退任時の株式の扱い

これらを承継前に文書化しておくことが、複数人での従業員承継を軌道に乗せる土台になります。

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複数の幹部で会社を継いだ先に手に入る未来

事業承継後に安定した経営体制を築いた会社の様子

株式配分・意思決定・個人保証という3つの原則を先に決めて進めた従業員承継は、次の3つの軸で会社に変化をもたらします。

1つ目|経営判断が止まらない体制になる

最終的な決裁者があらかじめ決まっていれば、複数の幹部の意見が割れても経営判断そのものは止まりません。設備投資や取引先対応など、日々のスピードが求められる場面で強みになります。

2つ目|それぞれの強みを生かした経営ができる

1人がすべてを背負う承継と違い、営業・製造・管理といった得意分野を持つ幹部が役割分担して経営にあたれるため、社長1人に依存していた体制よりも、事業の幅と厚みが増していきます。これまで社長が兼任していた業務を、それぞれの強みを持つ幹部に振り分けられるようになる点も、複数人承継ならではの利点です。

3つ目|社員と取引先の安心につながる

「誰が決めるのか分からない」状態のまま承継すると、社員や取引先、金融機関にも不安が伝わります。役割と権限が整理された状態で承継できれば、周囲からの信頼も維持しやすくなります。特に長年の取引先ほど、経営体制の変化には敏感です。誰が最終的な意思決定者なのかを明確に伝えられることが、取引継続の安心材料にもなります。

後継者を1人に絞れないという悩みは、裏を返せば「継がせたいと思える人材が複数いる」という強みでもあります。その強みを、対立の火種ではなく会社の推進力に変える設計を、共に手に入れましょう。

特に、これまで社長1人にすべての判断が集中していた会社ほど、複数の幹部で経営を分担する体制に切り替わることで、特定の1人が欠けても事業が止まらない、安定した組織に近づきます。属人的な経営から抜け出すことも、複数人承継が持つ大きな価値の一つです。

複数の経営体制でも欠かせない、事業保障という備え

複数幹部体制での事業保障の備え

複数の幹部で経営を担う体制になっても、家賃や従業員給与といった固定費は、誰か一人に万一のことがあっても止まりません。むしろ経営体制が複数になるほど、誰の保障がどこまで会社を支えているかが見えにくくなりがちです。

法人契約の生命保険で、固定費をまかなえるだけの備えがあるかを確認しておくと、不測の事態でも経営体制を崩さずに済みます。保険会社や商品を決める前に、まずは現状の契約を洗い出すことから始められます。

自社だけで進める限界と、事業承継士による伴走支援

KICKコンサルティング株式会社の相談風景

株式配分や意思決定ルールの設計は、社内の人間関係が絡むだけに、社長や幹部だけで話し合っても結論が出にくい領域です。「言い出しにくいから、なんとなくのまま進めてしまう」ことが、複数人承継で最も避けたい事態です。

税理士は税務、金融機関は融資審査、それぞれの立場から助言をくれますが、株式配分・意思決定・個人保証・資金という複数の論点を横断して、承継全体の設計として組み立てる役割は空白になりがちです。KICKコンサルティング株式会社は、中小企業診断士・事業承継士として、承継全体の設計と後継者間の合意形成に伴走します。

なお、個別の税務判断や税額の計算は税理士の領域であり、KICKが税務代理を行うことはありません。株式譲渡に伴う登記は司法書士、許認可の承継に関わる手続きは行政書士がそれぞれ担う領域であり、KICKがこれらの専門家に代わって手続きを行うこともありません。すでに顧問税理士や金融機関とお付き合いがある場合も、その関係を否定するのではなく、それぞれの専門家をつなぎ、承継全体の設計図としてまとめる役割として関わります。

「税理士には税務のことしか相談しづらい」「幹部同士で話すと感情的になってしまう」という声もよく聞きます。第三者である事業承継士が間に入ることで、数字と感情の両方を整理しながら、複数の後継候補の合意形成を進めやすくなります。

KICKコンサルティング株式会社は、中小企業庁の認定経営革新等支援機関でもあります。中小企業診断士としての経営分析の視点と、事業承継士としての制度知識を組み合わせ、株式配分の設計から株主間契約の内容整理、金融機関への説明資料づくりまで、承継の全体像を一緒に組み立てます。法人支援実績は150社を超えており、複数の幹部で会社を継ぐという難しいテーマにも、これまでの支援経験を生かして向き合います。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは今の状況を伺うところから始めましょう。

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よくある質問|従業員承継MBOと複数後継者の疑問を解消

事業承継のよくある質問

Q. 複数の幹部で株式を継ぐ場合、必ず均等に分けるべきですか

A. 均等である必要はありません。むしろ、責任の重さに差があるのに株式を均等にすると、意思決定で意見が割れたときに収拾がつかなくなりやすいため、代表者となる人に議決権の過半数か、それに近い比率を持たせておく設計がよく用いられます。

Q. 意思決定で幹部同士の意見が割れたときはどうすればよいですか

A. 事前に「最終的に誰が決めるか」を株主間契約や取締役会規程などの文書として残しておくことが基本です。口約束のままにせず、承継前に決めておくことが重要です。

Q. 従業員承継とMBO・EBOはどう違うのですか

A. 従業員承継は、社外ではなく社内の役員・従業員に会社を引き継ぐ承継全体を指す言葉です。MBOはそのうち経営陣(役員)が株式を買い取って承継する形、EBOは従業員が主体となって承継する形を指しますが、中小企業の現場では両者が組み合わさって進むことも多くあります。

Q. 個人保証は誰が引き継ぐのですか

A. 決まった答えはなく、株式の比率や経営への関与度に応じて話し合って決めます。すべてを代表者1人に負わせると後で不満につながりやすいため、負担の重さと持ち株比率・権限のバランスを合わせておくことが大切です。

Q. 株式の買取資金はどのように準備すればよいですか

A. 自己資金のほか、金融機関からの借入、法人からの役員退職慰労金の活用など、複数の方法を組み合わせて検討するのが一般的です。複数人で継ぐ場合は、誰がどの割合で資金を負担するのかも合わせて決めておく必要があります。資金の準備方法は会社の財務状況によって異なるため、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。

Q. 金融機関の理解を得るために何が必要ですか

A. 新しい経営体制で、誰が最終的な意思決定者になるのかを明確に説明できる状態にしておくことです。株主構成や役割分担が曖昧なままだと、金融機関側も融資の判断がしづらくなります。代表者・株式比率・意思決定のルールを書面で示せる状態にしておくと、説明がスムーズになります。

Q. 幹部の1人だけが個人保証を負うのは避けられますか

A. 保証の負い方に決まった正解はありませんが、株式比率や経営への関与度と大きくかけ離れた負担にすると不公平感が生まれやすくなります。金融機関との交渉次第で、複数人での連帯保証や、保証の一部見直しが検討できる場合もあるため、個別に確認することをおすすめします。

Q. 親族に後継者候補がいる場合でも、複数幹部での承継は検討できますか

A. 検討できます。親族の後継者候補と、社歴の長い幹部が共に経営を担う形も、実際の中小企業では見られます。この場合、株式の比率や意思決定のルールに加えて、親族と幹部それぞれの立場や役割をどう整理するかが、話し合いの重要な論点になります。

Q. 承継後に幹部の一人が退任したくなったらどうなりますか

A. 株式の買取や譲渡に関するルールをあらかじめ株主間契約で定めておくと、退任時に慌てずに対応できます。このルールを承継前に決めておくかどうかが、後々の混乱を左右します。

Q. 全員が経営者として向いているか不安なときはどうすればよいですか

A. 経営全般を担う代表者と、専門分野を担当する役員という役割の違いをつけることで、全員が同じレベルの経営判断力を持っていなくても機能する体制を作れます。適性の見極めも、伴走支援の中で一緒に整理していきます。

Q. 経営に慣れていない幹部がいる場合、承継後の教育はどうすればよいですか

A. 全員が同じレベルの経営判断力を最初から持っている必要はありません。代表者が最終判断を担い、他の幹部はそれぞれの担当分野で経験を積みながら、少しずつ全体を見る視野を広げていく形が現実的です。承継後1〜2年を教育期間と位置づけて計画すると、無理なく進めやすくなります。現社長が顧問や会長として一定期間サポートに残る設計も、あわせて検討する価値があります。

Q. 相談はどのタイミングでするのがよいですか

A. 「後継者候補が複数いて絞れない」と感じ始めた時点が、最も動きやすいタイミングです。株式配分や資金計画の検討には一定の時間がかかるため、早めに現状を整理しておくほど選択肢が残ります。

まとめ

複数の幹部で従業員承継(MBO・EBO)を進めるときは、株式を均等に分けることよりも、「誰が最終的に決めるのか」「個人保証と資金をどう分担するのか」を先に決めておくことが何より重要です。この3つの原則を曖昧にしたまま進めると、承継直後に社内が割れてしまう危険があります。

後継者を1人に絞れないという悩みは、視点を変えれば、継がせたいと思える人材が複数いるという恵まれた状況でもあります。株式配分・意思決定・個人保証という3つの軸を整理し、複数の幹部の強みを会社の推進力に変える設計を、共に描いていきましょう。

大切なのは、完璧な答えを1人で見つけようとしないことです。後継候補となる幹部同士、そして専門家を交えて話し合いながら少しずつ形にしていくことで、無理のない承継の道筋が見えてきます。まずは現状を整理するところから、始めてみませんか。

ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは今の状況をお聞かせください。

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