
「人が足りない。でも工場は止められない」
コンクリート製品製造業、特にプレキャスト製品(工場であらかじめコンクリート部材を製造し、現場で組み立てる製品)を手がける企業にとって、この言葉は日常そのものです。
国土交通省が推進するi-Construction(建設現場の生産性向上施策)の後押しもあり、プレキャスト製品の需要は年々拡大しています。IMARC Groupの調査によると、日本のプレキャスト市場は2024年時点で約79億ドル規模、2033年には約118億ドルに成長する見通しです。
ところが、その需要を支える工場の現場は深刻な人手不足に直面しています。型枠の組立、配筋(鉄筋を設計図通りに組むこと)、コンクリート打設(流し込み)、養生(品質を保つための管理工程)——。どの工程にも人の手が必要です。しかし、日本人の若手作業員はなかなか集まりません。
その打開策として、多くのコンクリート製品製造企業が外国人技能実習生や特定技能外国人の受入を進めています。
しかし、ここで大きな壁にぶつかる経営者が少なくありません。「決算書を確認したら債務超過だった。申請が通らないのではないか」という不安です。
結論から申し上げます。債務超過であっても、外国人技能実習生・特定技能外国人の受入は可能です。
ただし、条件があります。中小企業診断士や公認会計士が作成する「企業評価書」(改善の見通しについての評価書面)を提出し、審査機関に経営改善の見通しを証明する必要があります。
本記事では、コンクリート製品製造業の経営者が知っておくべき企業評価書の仕組み、債務超過に陥りやすい業界構造、そして実際に許可を得るためのポイントを、実務視点で詳しく解説します。
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コンクリート製品製造業で企業評価書が必要になる理由

技能実習・特定技能の財務審査の仕組み
外国人技能実習生や特定技能外国人を受け入れるには、出入国在留管理庁(入管)や外国人技能実習機構(OTIT)に申請を行います。その際、直近2期分の決算書(損益計算書・貸借対照表)の提出が義務づけられています。
審査機関がこの決算書で確認するのは、「この会社は外国人を雇い続けるだけの財務基盤があるか」という点です。具体的には、賃金を継続して支払えるか、事業を安定的に運営できるかが問われます。
根拠となる法令は、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(平成28年法律第89号)と、その運用要領です。出入国在留管理庁・厚生労働省が編集する「技能実習制度運用要領」の中に、財務要件が明記されています。
債務超過が確認された場合に起きること
決算書で直近期末の純資産がマイナス(=債務超過)と確認された場合、通常の申請書類だけでは審査が通りません。
技能実習制度運用要領(別紙2)では、次のように定められています。
「直近の事業年度で債務超過がある場合、中小企業診断士、公認会計士等の企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する第三者が改善の見通しについて評価を行った書類の提出も必要」
(出典:出入国在留管理庁・厚生労働省「技能実習制度運用要領」)
つまり、債務超過の企業が外国人を受け入れるためには、「企業評価書」という追加書類が必須になるということです。
企業評価書を作成できる資格者は限られている
企業評価書は、誰でも作れるわけではありません。作成が認められているのは、次の国家資格保有者です。
| 制度 | 作成可能な資格者 |
|---|---|
| 技能実習 | 中小企業診断士、公認会計士 |
| 特定技能 | 中小企業診断士、公認会計士、税理士 |
税理士や行政書士では技能実習の企業評価書を作成することはできません。依頼先の選定には注意が必要です。
関連記事:外国人技能実習 企業評価書って何?|実は債務超過でも受け入れ可能です
なぜコンクリート製品製造業は債務超過になりやすいのか

コンクリート製品製造業は、利益を出しにくい構造的な問題を抱えています。この業界で債務超過が発生しやすい理由は、大きく5つあります。
慢性的な人手不足による労務費の上昇
プレキャスト製品の製造には、型枠の組立・脱型、配筋、コンクリートの打設・養生など、多くの工程で作業員が必要です。しかし、重量物を扱う肉体労働であり、作業環境は屋外に近い工場が多いため、若手の日本人作業員は集まりにくい状況が続いています。
公益社団法人コンクリート工学会の会誌でも、人手不足時代におけるプレキャストコンクリートの課題が取り上げられています。熟練工の高齢化が進む中、技能の継承が追いつかず、結果として一人あたりの労務費が上昇し続けています。
セメント・骨材・資材価格の高騰
コンクリート製品の原価に占める材料費の割合は大きく、セメント価格の変動が利益に直結します。
建設物価調査会の発表によると、2025年5月時点の東京における普通セメント価格は18,000円/tで、2003年1月以降の最高値を記録しました。大手セメント3社(太平洋セメント、UBE三菱セメント、住友大阪セメント)は2025年4月から1tあたり2,000〜2,200円の値上げを実施しています。
さらに、生コンクリートの価格も東京地区でわずか3年間で約40%上昇しました。セメントだけでなく、骨材(砂利や砂)、混和剤(品質を高める添加剤)の価格も軒並み上がっています。
| コスト項目 | 上昇の主因 | 影響度 |
|---|---|---|
| セメント | 石炭価格高騰・円安・輸送費増 | 大 |
| 骨材(砂利・砂) | 採掘コスト増・運搬費増 | 大 |
| 混和剤 | 原油由来の原材料価格高騰 | 中 |
| 輸送費 | 燃料費増・2024年問題(運転手不足) | 大 |
| 電力・燃料 | 養生工程の蒸気・電力費上昇 | 中 |
重量物の輸送コスト問題
プレキャスト製品は非常に重く、大型のボックスカルバート(地中に埋設する箱型構造物)やU字溝でも1個あたり数百キログラムから数トンに達します。輸送には大型車両が必要で、長距離になるほどコストがかさみます。
2024年4月からトラック運転手の時間外労働の上限規制が適用され(いわゆる「2024年問題」)、輸送費はさらに上昇傾向にあります。この輸送コストの増加分を、コンクリート製品の販売価格に十分転嫁できている企業はごくわずかです。
大型設備の固定費と稼働率のリスク
プレキャスト工場には、型枠設備、バッチャープラント(コンクリートを配合する装置)、クレーン、養生設備など、大規模な設備投資が必要です。これらの減価償却費やリース料は、受注が減っても毎月発生する固定費です。
稼働率が下がれば、1個あたりの製品原価が跳ね上がります。たとえば、月100個つくる前提で設備費を計算していた工場が、受注減で月50個しかつくれなくなった場合、製品1個あたりの設備負担は単純計算で2倍になります。これが赤字の大きな原因です。
受注産業ゆえの価格交渉力の弱さ
コンクリート製品製造業は、ゼネコン(総合建設会社)や道路会社からの受注で成り立つ「受注産業」です。発注者側が価格の主導権を握っていることが多く、原材料費が上がっても、その分を販売単価に転嫁しにくい構造があります。
「コストは上がったのに売値は据え置き」——この状態が続くと、利益はどんどん削られます。赤字が数期続けば、貸借対照表(B/S)上の純資産がマイナスに転落し、債務超過となるのです。
まとめると、コンクリート製品製造業の債務超過は「経営が下手だから」ではなく、業界構造そのものがもたらす問題です。セメント高騰・輸送費増・人手不足・設備の固定費——これらが同時に重なれば、どんな企業でも赤字に転落するリスクがあります。
債務超過でも許可される企業の共通点

債務超過でも外国人の受入許可を得ている企業には、共通する3つの特徴があります。
改善の見通しが「数字」で説明できている
審査機関が最も重視するのは、「今後、この会社は債務超過を解消できるのか」という点です。ここで必要になるのは、抽象的な決意表明ではなく、具体的な数値計画です。
たとえば、次のような内容が求められます。
| 審査のポイント | 具体的に示す内容 |
|---|---|
| 売上の見通し | 受注見込み先、発注額、契約状況 |
| 利益改善策 | 原価低減策、工程改善、製品単価の見直し |
| 債務超過の解消時期 | 何年度の決算で純資産がプラスに転じるか |
| 資金繰り | 月次の入出金予定、金融機関との関係 |
「今期中に黒字化する」だけでは足りません。「なぜ黒字化できるのか」の根拠(エビデンス)が求められます。たとえば、「A社から年間3,000万円のU字溝の受注が内定している」「セメント仕入先を見直し、年間200万円のコスト削減が確定している」といった具体性です。
債務超過の原因が「一時的」であることを証明できている
出入国在留管理庁が公開する「外国人経営者の在留資格基準の明確化」でも、債務超過の継続期間が審査の重要な判断基準とされています。
直近期末のみ債務超過で、前期は資産超過だった場合は、比較的審査が通りやすい傾向にあります。一方、2期連続で債務超過の場合は、より厳格な審査が行われます。
コンクリート製品製造業の場合、「大型設備の更新投資で一時的に赤字になった」「セメント価格の急騰分を転嫁しきれず単年度赤字になった」など、構造的な理由が説明できるケースが多いです。これを企業評価書で適切に言語化できるかどうかが合否を分けます。
資金繰りに致命的な問題がないことを示せている
債務超過であっても、資金繰りが回っていれば事業は継続できます。審査機関も「いま倒産するリスクがあるかどうか」を見ています。
たとえば、代表者からの借入(役員借入金)が多い場合は、実質的には資産超過に近い状態であることを説明できます。ある企業では、帳簿上は500万円の債務超過でしたが、役員借入金が2,000万円含まれていました。この役員借入金を「返済を急がない自己資本に近い資金」として説明したことで、審査機関の理解を得た事例があります。
企業評価書の書き方と審査通過のポイント

ここからは、企業評価書に何を書くべきか、そしてどのような内容なら審査を通過できるのかを具体的に解説します。
企業評価書に盛り込むべき構成
企業評価書の書式は法令で統一されていません。しかし、審査機関が確認したいポイントは明確です。実務上、次のような構成が一般的です。
| 記載項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 企業概要 | 所在地、事業内容、従業員数、主要取引先 |
| 財務状況の分析 | 貸借対照表・損益計算書の分析、債務超過額、債務超過に至った経緯 |
| 債務超過の原因 | 一時的要因か構造的要因か、やむを得ない事情の有無 |
| 改善計画 | 売上向上策、コスト削減策、具体的な数値目標 |
| 資金繰りの見通し | 月次キャッシュフロー、借入金の返済計画 |
| 債務超過の解消時期 | 何年度の決算で純資産がプラスに転じるかの見込み |
| 評価者の所見 | 中小企業診断士等による改善可能性の評価結論 |
コンクリート製品製造業で「通る」評価書のポイント
コンクリート製品製造業特有の事情を踏まえ、審査に通りやすい評価書のポイントは次の通りです。
(1)セメント高騰は業界全体の問題であることを示す
債務超過の原因がセメント・骨材の価格高騰にある場合、それは自社固有の経営ミスではなく業界全体のコスト構造の変化です。建設物価調査会のデータや大手セメントメーカーの値上げ発表など、客観的なデータを引用して説明することが有効です。
(2)受注見込みを裏付ける具体的な情報を盛り込む
プレキャスト製品の需要が伸びていることを示す資料(国土交通省のi-Construction関連施策など)に加え、自社の受注パイプライン(見込み案件のリスト)を具体的に記載します。「○○市の公共工事でボックスカルバートの受注が内定している」など、実名は不要ですが具体性のある記載が審査通過率を高めます。
(3)単価改定交渉の実績や計画を記載する
原材料の値上がり分を販売単価に反映させる交渉を行っている、あるいは行う計画があることを示します。「2025年度から主要取引先3社に対して5%の単価改定を申し入れ済み」といった記載は、収益改善の根拠として高く評価されます。
NG例:審査で不承認になりやすいパターン
次のような企業評価書は、審査で不承認になるリスクが高いです。
NG①:数字の根拠がない
「来期は売上が20%増加する見込み」と書いても、その根拠(受注見込み・契約書・見積書など)がなければ信頼されません。
NG②:債務超過の原因が曖昧
「経営環境が悪化したため」のような抽象的な記載では、審査機関を説得できません。セメント価格の高騰なのか、大型設備の投資なのか、具体的な原因を明示する必要があります。
NG③:改善計画が机上の空論
「新規事業を開始して売上を倍増させる」といった非現実的な計画は、むしろ審査でマイナス評価になります。現在の事業の延長線上で、実現可能性の高い施策を積み上げることが大切です。
NG④:資格のない者が作成している
税理士が作成した評価書は、技能実習の申請では認められません。資格要件を満たしていない評価書を提出してしまうと、再提出を求められ、受入時期が大幅に遅れます。
企業評価書を専門家に依頼すべき理由

「自分で書けるのではないか」と考える経営者もいます。しかし、企業評価書の作成を自社で行うことは、制度上不可能であり、かつ実務上も大きなリスクを伴います。
制度上、自社作成は認められていない
技能実習制度運用要領は、「公的資格を有する第三者」による評価を求めています。「第三者」という条件があるため、自社の経営者や経理担当者が作成した書類は評価書として認められません。
また、顧問税理士に依頼するケースもありますが、技能実習の企業評価書は税理士の作成権限の範囲外です。(特定技能では税理士も作成可能ですが、制度への精通度に注意が必要です。)
経験の少ない専門家に依頼するリスク
中小企業診断士や公認会計士の資格を持っていても、企業評価書の作成経験が少ない場合は注意が必要です。
企業評価書は一般的な経営診断レポートとは異なります。出入国在留管理庁や外国人技能実習機構の審査基準を理解した上で、審査官が求める情報を過不足なく記載する必要があります。
経験の豊富な専門家であれば、「コンクリート製品製造業で債務超過の場合、審査官はどこを見るか」を熟知しています。業界特有のコスト構造や受注形態を理解した上で、説得力のある評価書を作成できます。
提出期限の短さと緊急対応の必要性
実務上、企業評価書の提出期限は非常にタイトなケースが多いです。監理団体や入管から「2週間以内に提出してください」と通知されることも珍しくありません。
この短期間で、経営者ヒアリング→財務分析→評価書作成→納品まで完了させるには、制度と実務の両方に精通した専門家への早期相談が不可欠です。
企業評価書の作成は、「提出を求められてから動く」では間に合わないケースがあります。コンクリート製品製造業で債務超過の可能性がある場合は、決算確定前の段階で専門家に相談しておくことをお勧めします。
関連記事:外国人技能実習・特定技能の企業評価書(サービス紹介)
よくある質問(Q&A)

Q. 赤字決算でも外国人技能実習生を受け入れることはできますか?
A. 赤字でも純資産がプラス(資産超過)であれば、企業評価書なしで申請可能です。ただし、赤字が続いて純資産がマイナス(債務超過)になると、企業評価書の提出が必要になります。「赤字=NG」ではありませんが、早めに財務状況を確認し、債務超過に転落する前に対策を打つことが重要です。
Q. 債務超過の金額が大きくても受入は可能ですか?
A. 債務超過の金額の大小だけで一律に判断されるわけではありません。審査機関が重視するのは、「改善の見通しがあるか」「事業が継続できるか」という点です。ただし、債務超過額が大きいほど、改善計画の具体性と実現可能性が厳しく問われます。役員借入金が多い場合など、実質的には資産超過に近い状態であることを示す方法もあります。
Q. 企業評価書の作成にはどれくらいの期間がかかりますか?
A. 必要書類(直近2〜3期分の決算書)が揃っていれば、ヒアリングから納品まで約2〜4週間が一般的な目安です。緊急の場合は、専門家によっては最短数日での対応も可能ですが、早めに相談するに越したことはありません。
Q. 企業評価書の作成費用の目安はどのくらいですか?
A. 一般的な相場は5万円〜20万円程度です。依頼先の専門家や、企業の状況の複雑さ、緊急度によって異なります。費用の見積りは、初回相談時に確認するのがスムーズです。
Q. 2027年に始まる育成就労制度でも企業評価書は必要ですか?
A. 2024年の法改正により、2027年をめどに技能実習制度は「育成就労制度」へ移行する予定です。新制度では、受入企業に対する審査基準がより厳格化される見通しです。財務審査が引き続き実施されることは確実であり、企業評価書の重要性は今後さらに高まると考えられます。
Q. コンクリート製品製造業は技能実習の対象職種に含まれますか?
A. コンクリート製品製造は、技能実習制度の移行対象職種に含まれています。「コンクリート製品製造」の職種の中に、「コンクリート製品製造」という作業区分があります。技能実習2号への移行も可能です。
まとめ:今動かないことが最大のリスク

ここまで読んでいただいた方は、次のことを理解されたはずです。
コンクリート製品製造業は、業界構造上、債務超過に陥りやすい。セメントの高騰、骨材・資材価格の上昇、輸送コストの増加、大型設備の固定費、ゼネコンとの価格交渉力の弱さ——。これらが同時に押し寄せれば、赤字決算から債務超過に転落するのは珍しいことではありません。
しかし、債務超過であっても、企業評価書を適切に準備すれば、外国人技能実習生・特定技能外国人の受入は可能です。
問題は、「いつ動くか」です。
企業評価書なしに申請を出しても、審査は通りません。不承認になれば再申請が必要となり、受入時期は数ヶ月単位で遅れます。
その間に、いま工場を支えている外国人材の在留期限が切れれば、生産ラインは止まります。「受入停止=生産停止」という状況は、コンクリート製品製造業にとって経営の存続に関わる問題です。
プレキャスト製品の需要は増えています。工事は待ってくれません。人がいなければ、受注を断るしかありません。
「うちの会社は債務超過だから無理かもしれない」——そう感じていても、正しい手続きを踏めば道は開けます。まずは専門家に現状をお話しください。企業評価書が必要かどうか、どのような改善計画が有効か、初回のご相談で方向性を整理できます。
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)|中小企業診断士が在籍
技能実習・特定技能の企業評価書作成に多数の実績あり









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