
タップできる目次
- 1 介護事業所の債務超過・連続赤字が特定技能審査で否認される理由
- 2 特定技能の審査を一発通過させる5つの財務アプローチ
- 3 特定技能受け入れを成功させる財務改善計画の具体的な進め方
- 4 赤字決算での特定技能申請における実務上の注意点
- 5 中小企業診断士が本音で解説する介護事業の財務改善とビザ申請の見解
- 6 介護事業所の特定技能申請と財務改善に関するよくある質問
- 6.1 Q1:中小企業診断士の「企業評価書」があれば100%審査に通りますか
- 6.2 Q2:債務超過が数十万円程度の場合でも理由書の提出は必須ですか
- 6.3 Q3:特定技能外国人の給与設定は、赤字経営でも日本人と同等以上にする必要がありますか
- 6.4 Q4:経営改善計画に記載した売上目標を達成できなかった場合、どのような結果になりますか
- 6.5 Q5:赤字決算を理由に銀行からリスケジュール(返済猶予)を受けている場合、特定技能の申請に影響がありますか
- 6.6 Q6:複数の融資機関からの借入金がある場合、特定技能申請の書類作成に影響がありますか
- 6.7 Q7:個人事業主(訪問介護サービス提供者)が特定技能を申請する場合、法人化の必要がありますか
- 6.8 Q8:経営改善計画の期間は3年・5年のどちらが望ましいですか
- 6.9 Q9:赤字企業が特定技能外国人を2名以上採用する場合、企業評価書の内容に違いがありますか
- 6.10 Q10:特定技能の申請後、審査途中で追加書類を求められた場合、その対応期間はどのくらいが目安ですか
- 7 3期連続赤字・債務超過からの特定技能一発通過と経営改善のご相談はこちら
直近累計赤字1,200万円で新規利用者の受け入れを制限する悪循環
人件費高騰に耐えかねて直近3年間で累計赤字1,200万円を抱える訪問介護ステーションの経営者。年商1億5,000万円規模の事業所ながら、資金繰りの悪化により新規利用者の受け入れを制限せざるを得ない状況に直面しています。
介護人材不足は深刻化しており、厚生労働省『2024年版介護労働の現状』によると、訪問介護事業所の人手不足率は全産業平均を大きく上回り、サービス提供責任者やヘルパーの確保が困難になっています。本来であれば特定技能外国人の受け入れによって人手不足を解決し、稼働率を回復させるチャンスです。
しかし、赤字決算が続く事業所にとって、この道は一層険しくなります。なぜなら、出入国在留管理庁の特定技能審査では「経営の安定性・継続性」が厳しく問われるからです。赤字が3期続けば、審査官の目には「この会社は今後も経営難が続く可能性が高い」と映ります。
出入国在留管理庁が求める「経営の安定性・継続性」の審査基準
出入国在留管理庁の技能実習・特定技能審査では、受け入れ企業の貸借対照表・損益計算書が主要な審査資料となります。『外国人技能実習機構 技能実習計画認定申請に係る提出書類一覧・確認表』に明記されているとおり、法人申請者は直近2事業年度の貸借対照表・損益計算書の提出が必須です。
特に重要な判断基準は次の3点です。
| 審査基準 | 赤字事業所への影響 | 問題レベル |
|---|---|---|
| 債務超過の有無 | 赤字が続くと負債が資産を上回る状態に陥る | 極度の危険 |
| 営業キャッシュフロー | 赤字では本業からの現金流出が常態化 | 要注意 |
| 外国人給与支払能力 | 特定技能者は日本人と同等以上の給与が必須。赤字では支払余力がない | 即座の不許可リスク |
特に「直近の事業年度で債務超過がある場合は、中小企業診断士、公認会計士等の企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する第三者が改善の見通しについて評価を行った書類も提出してください」という審査基準は、赤字事業所にとって致命的です。
つまり、3期連続赤字で債務超過状態にある事業所は、単に決算書を提出するだけでは審査を通過できません。その根底にある問題の本質と、具体的な改善シナリオを、第三者の専門家視点で立証する必要があるのです。
債務超過によるビザ申請否認と人手不足倒産の連鎖リスク
特定技能の受け入れが否認されると、どのような未来が待つのか。次の連鎖が発生します。
- 人手不足が解決されず、稼働率が停滞
- 利用者対応の品質低下により顧客流出加速
- 売上減少がさらに赤字を深刻化させる
- 銀行からのリスケジュール圧力が強まる
- 最終的に経営破綻または廃業に至る
介護業界では、人手不足倒産が急増しています。帝国データバンク『2023年 企業倒産調査』によると、人手不足関連の倒産は前年比増加傾向にあり、特に介護・福祉業界では深刻な状況です。赤字が続く中での人員確保の困難は、経営危機へと加速度的に近づいていくのです。
要するに、3期連続赤字+債務超過の状態では、特定技能外国人の受け入れそのものがブロックされます。そして特定技能が使えなければ、人手不足は放置されたまま。その結果、さらに赤字が深刻化する。この悪循環から抜け出すには、単なる「申請書の作成」ではなく、「財務と事業の同時改善」が絶対条件なのです。
介護事業所の債務超過・連続赤字が特定技能審査で否認される理由

なぜ税務申告書・決算書だけで「経営破綻のリスクあり」と判断されるのか
出入国在留管理庁の審査官は、申請企業の貸借対照表と損益計算書を見た瞬間に、その企業の経営状況を判定します。赤字が3年続いていれば、データはすべてを物語ります。
訪問介護事業所の場合、赤字が深刻化する背景には、構造的な問題が潜んでいることがほとんどです。
| 赤字の原因パターン | 介護事業所における実態 | ビザ審査への影響 |
|---|---|---|
| 人件費高騰 | ヘルパー時給1,500円〜1,800円、処遇改善加算対応で経営圧迫 | 「この企業は給与支払能力が持続しない」と判定される |
| 稼働率低迷 | 営業困難・新規営業不足で利用者確保が追いつかない | 「この企業の事業成長性は低い」と判定される |
| 管理体制不備 | 請求漏れ・回収漏れ・サービス提供実績の記録不備 | 「この企業の管理体制では外国人受け入れは困難」と判定される |
出入国在留管理庁の審査基準では、こうした赤字の「理由」よりも、赤字という「事実」を重視します。なぜなら、外国人を受け入れる企業には、最低限の経営安定性が求められるからです。赤字が続く企業に外国人労働者を送り込めば、給与不払いや劣悪な労働環境に陥るリスクが高まります。
審査官の視点は、「この企業は本当に外国人に給与を払い続けられるのか」「経営危機に陥った時、外国人労働者はどうなるのか」という懸念です。赤字決算書はその懸念を実証する資料に他なりません。
黒字事業所と赤字事業所の審査における必要書類の違い
同じく特定技能の申請をする2つの事業所を比較しましょう。
| 要素 | 黒字事業所 | 赤字事業所 |
|---|---|---|
| 必須提出書類 | 直近2事業年度の貸借対照表・損益計算書のみ | 貸借対照表・損益計算書+企業評価書 |
| 追加資料の必要性 | 不要(審査官の判断で省略の可能性あり) | 必須。理由書・経営改善計画・月次資金繰り表など |
| 審査期間 | 標準審査期間(約2〜3ヶ月) | 追加審査期間(約4〜6ヶ月以上の可能性) |
| 不許可リスク | 低い(約5%程度) | 極度に高い(約40%以上) |
赤字事業所の場合、「企業評価書」の提出が法律で義務付けられています。これは、中小企業診断士や公認会計士といった第三者の専門家が、当該企業の経営状況を客観的に評価し、改善の見通しを記述した書類です。
つまり、赤字という一事実のために、黒字企業にはない追加資料の準備が必須になります。その結果、審査期間は長期化し、提出資料の質が低ければ不許可に至ることもあります。
特定技能の審査を一発通過させる5つの財務アプローチ

では、赤字決算を抱えながらも特定技能の受け入れを成功させるには、どのような対策が必要か。その答えが、次の5つの財務アプローチです。
アプローチ1:中小企業診断士による「企業評価書」での客観的信頼の獲得
赤字事業所が特定技能の審査を通過する最初の関門が、企業評価書です。
企業評価書は、単なる決算数字の羅列ではなく、次の3層構造で構成されるべきです。
- 第1層:現状分析
なぜ赤字になったのか。人件費高騰か、稼働率低迷か、営業活動の不足か。定量・定性の両面から、赤字の原因を明確に分解する - 第2層:改善の根拠
外国人採用によってどのような改善が期待できるか。例えば「現在の稼働率70%を、特定技能3名の採用で85%に高められる」という、具体的で実現可能な数値目標を示す - 第3層:財務予測
その改善が実現した場合、向こう3年間の損益がどのように推移するか。黒字化するまでのシナリオを、月次あるいは四半期単位で記述する
企業評価書の策定支援では、中小企業診断士が貴社の経営状況を徹底的にヒアリングし、出入国在留管理庁が求める「改善の見通し」を客観的に記述します。
黒字企業であれば決算書だけで足りますが、赤字企業にはこの第三者による客観的評価が、審査官の信頼を獲得するための必須ツールになります。
アプローチ2:人件費高騰と一時的売上減少を釈明する「3期連続赤字の理由書」
企業評価書と同等に重要なのが、赤字の理由を記述した「理由書」です。
理由書では、単に「人件費が高い」「売上が減った」と述べるのではなく、次のような業界背景と企業固有の状況を組み合わせて説明する必要があります。
業界背景の記述例
「介護労働安定センター『介護労働の現状』(令和5年度版)では、訪問介護ヘルパーの月給は年々上昇傾向にあり、令和5年度時点で月給中央値は25万5,000円に達しています。当事業所は、このような業界全体の人件費上昇圧力の中で経営を行っており、〇年度から〇年度にかけて、時給を1,500円から1,650円へ引き上げ、処遇改善加算の要件を整備してきました。その結果、本業からの利益率が〇%から△%へ低下し、3期連続赤字に至った次第です。」
このように、個社の努力(給与改善・処遇改善加算対応)が、一時的に経営圧迫をもたらしていることを、業界統計データを用いて立証することが重要です。
企業固有の改善施策の記述例
「本事業所は、令和〇年〇月から、営業活動専任者を配置し、ケアマネジャーとのネットワーク強化に取り組んでいます。これまでは営業効率が低かったため、新規利用者の確保が手薄でした。専任者配置から4ヶ月現在で、既に新規利用者が前年同期比120%の増加を見せており、向こう12ヶ月で稼働率を70%から85%へ改善する見込みです。」
この記述により、審査官は「赤字の原因は把握できたが、改善施策も既に実行中であり、かつ成果が出始めている」という好印象を抱きます。
アプローチ3:外国人採用による稼働率回復を証明する「3〜5年の財務計画予測」
理由書で「改善施策が実行中」であることを示しても、審査官はさらに先を見ます。「その改善は本物か。特定技能外国人を雇用することで、本当に経営は立ち直るのか」という疑問です。
その疑問に答えるのが、3〜5年の財務計画予測です。
通常、赤字企業の経営改善計画では、向こう3年間の月次あるいは四半期単位での損益予測を提示します。しかし、特定技能の申請においてはさらに詳細さが必要です。具体的には、次のような内容を盛り込みます。
| 計画項目 | 具体的な記述内容 |
|---|---|
| 特定技能者の配置人数と時期 | 令和〇年〇月に1名、〇月に2名受け入れ予定。計3名の配置で、年間の実務担当時間を現状比150%に増加させる |
| 稼働率の月次推移 | 現状70%→6ヶ月後78%→12ヶ月後85%→24ヶ月後90%。その根拠を新規営業パイプラインの数値で示す |
| 売上の月次予測 | サービス提供時間数×単価の計算で、月次売上がいくらになるかを具体値で示す |
| 外国人給与と社会保険料 | 特定技能者の給与は日本人と同等以上(月給27万円など具体額)、かつその支払能力を月次で立証 |
| 損益分岐点と黒字化時期 | 特定技能3名の稼働により、令和〇年〇月に損益分岐点に達し、翌月から黒字化する見込み |
この計画の強みは、「特定技能外国人の採用が、単なる人手補充ではなく、事業所全体の経営改善に直結している」ことを数値で立証することです。審査官は、この計画が現実的で実行可能であると判定できれば、赤字事業所であっても特定技能の許可を下す傾向があります。
アプローチ4:月次資金繰り表による「資金ショート回避」の立証
赤字企業にとって、もう一つの重大な懸念が「資金繰り」です。
赤字が続く中で、外国人労働者の給与を払い続けられるか。その疑問に対する答えが、詳細な月次資金繰り表です。
資金繰り表では、次の要素を月単位で記述します。
- 営業収入
介護報酬(自費サービス、保険請求)の月次集計。請求遅延や回収遅延を反映したリアルな数値 - 営業支出
人件費(日本人・外国人の区分)、社会保険料、事業用賃借料、車両費など。月次の固定費・変動費を明確に分類 - 金融収支
銀行からの借入金、返済額、リスケジュール期間、利息支払。赤字補塡としての役員借入金の増減 - 月末資金残高
毎月の収入から支出を差し引いた累積資金残高。資金ショートが生じないことを立証
特に重要なのは、「赤字が続く中でも、月末資金残高がプラスを維持できている」ことを示すことです。例えば、損益では赤字であっても、営業外収入(役員借入金など)や金融機関からの融資があれば、月々の給与支払は可能です。その実態を月次資金繰り表で立証することで、審査官の不安を払拭できます。
アプローチ5:役員借入金の資本金組み入れによる貸借対照表の健全化
赤字が続く事業所の貸借対照表には、しばしば「役員借入金」という負債科目が膨らんでいます。これは、経営者個人が会社に融資したお金で、会社側からは負債として扱われます。
出入国在留管理庁の審査では、この役員借入金の扱いが重要になります。
問題のあるパターン
「赤字が3年続き、累積赤字が1,200万円。同時に役員借入金が1,500万円まで積み上がっている。この会社は実質的に経営者から金銭支援を受け続けており、自力での経営は困難と判定される」
改善のパターン
「赤字が続く見込みであるが、役員借入金1,500万円の一部(例えば500万円)を資本金組み入れ(資本化)することで、貸借対照表の負債を削減する。同時に、経営改善計画の実行により、向こう2年で残りの1,000万円を返済する見通しを示す」
役員借入金の資本化は、次のような効果をもたらします。
| 効果の種類 | 数値への影響 |
|---|---|
| 総負債の削減 | 1,500万円→1,000万円へ低下。負債比率の改善 |
| 自己資本の増加 | 資本金が増加。「経営者が経営を継続する意思を示している」という好印象 |
| 債務超過の回避 | 役員借入金削減により、債務超過状態を一部回避できる可能性 |
| 金融機関への信頼醸成 | 銀行融資や追加融資の相談時に、経営改善姿勢をアピール可能 |
この5つのアプローチを組み合わせることで、赤字企業であっても特定技能の審査を一発で通過させる可能性が劇的に高まります。キーポイントは、「赤字という事実を変えるのではなく、その事実を説明し、改善の見通しを数値で立証する」という戦略的アプローチです。
特定技能受け入れを成功させる財務改善計画の具体的な進め方

訪問介護特有の「サービス提供責任者・ヘルパーの稼働率」と売上連動シミュレーション
訪問介護事業所の経営改善計画を策定する際には、一般的な製造業や商社とは異なる、訪問介護特有のビジネスロジックを理解する必要があります。
訪問介護の売上は、次の簡潔な計算式で成り立ちます。
月間売上=(月間サービス提供時間 × サービス単価)+ 処遇改善加算
例えば、月間サービス提供時間が1,000時間、サービス単価が8,500円であれば、月間売上は850万円となります。しかし、現状の稼働率が70%に留まっていれば、実際の売上は850万円 × 70% = 595万円にとどまります。
特定技能3名を採用することで、この稼働率をどこまで引き上げられるか。その予測が、経営改善計画の信頼性を左右します。
稼働率向上のシミュレーション例
「現在、サービス提供責任者(専任1名)とヘルパー(常勤4名・非常勤3名)の体制下で、月間サービス提供時間は1,000時間、稼働率は70%。新規営業が追いつかず、ケアマネジャーからの紹介ネットワークが限定的なため、利用者確保が困難な状況にある。」
「特定技能3名を新規採用し、既存ヘルパーと同じシフトで対応することで、月間サービス提供時間を1,000時間から1,400時間へ拡大する見込み。同時に、営業活動専任者による新規営業強化により、利用者単価の高い訪問時間帯(朝方6時〜8時、夜間19時〜21時)の確保を進める。その結果、稼働率を70%から90%へ改善し、月間売上を595万円から1,134万円へ拡大する。」
この記述により、次の点が明確になります。
- 現状の稼働率70%は、人員不足に起因する構造的な問題である
- 特定技能3名の採用により、その構造的問題が解決される
- 稼働率の向上は、新規営業強化と一体的に進められる(単なる増員ではなく、戦略的施策)
- 売上拡大に伴い、赤字の改善が実現される道筋が明確である
金融機関へのリスケジュール交渉と出入国在留管理庁への提出書類の整合性
赤字が続く事業所の多くは、既に金融機関とのリスケジュール(返済期間の延長)を実行しているか、協議の最中です。
その際、特に注意すべき点が、「金融機関へのリスケジュール提案」と「出入国在留管理庁への提出資料」の整合性です。
例えば、銀行に対しては「今後3年間は赤字が続く見込みのため、返済を猶予してほしい」と説明し、一方で出入国在留管理庁には「特定技能外国人を採用することで、向こう12ヶ月で黒字化する」と説明すれば、審査官は矛盾を指摘し、書類の信頼性を疑います。
正しいアプローチは、次の通りです。
金融機関への説明
「現在、赤字改善に向けた複数の施策を実行中です。営業活動の強化、外国人労働者の採用準備、役員借入金の資本化などを通じて、向こう12ヶ月での黒字化を目指しています。その過程で、既存の月次返済額では困難な時期が想定されるため、今後6ヶ月はリスケジュール(月次返済を一時的に削減)を希望します。黒字化後は、増益分の一部を充てて、返済額の段階的な引き上げを行う見込みです。」
出入国在留管理庁への説明
「当事業所は、既に金融機関との間で経営改善計画を共有し、短期的な赤字の継続を認めてもらいつつ、特定技能外国人の採用によって12ヶ月での黒字化を目指しています。銀行も当計画を支持しており、融資継続の約束を得ています。」
この説明方法により、審査官は「この企業は金融機関からも信頼を受けており、経営改善計画は現実的である」と判定しやすくなります。
赤字決算での特定技能申請における実務上の注意点

実体性のない「粉飾決算」や無理な黒字化による税務リスクの排除
ここで厳しい現実を述べる必要があります。
赤字企業の中には、特定技能の審査を通すために、決算数字を操作したり、根拠のない売上予測を提示したりするケースが存在します。その結果、税務署の調査を受け、追徴課税や罰則金を被るという悲劇的なシナリオもあります。
申し上げたいことは明確です。特定技能の審査通過のために、決算数字を改ざんしてはいけません。同時に、根拠のない経営改善計画を提出しても、後々その計画が実現しなかった場合、出入国在留管理庁から指摘を受け、特定技能の取り消しや更新不許可に至る可能性があります。
正しいアプローチは、「今の赤字の状況を、ありのままに説明し、その上で現実的な改善策を提示する」ことです。
その改善策の実現可能性を高めるために、次の3点が重要です。
- 新規営業パイプラインの数値化
「頑張ります」ではなく、「既に〇〇法人と商談を進めており、月〇件の新規契約を見込んでいる」という、現在進行形の営業実績に基づく数値を示すこと - 人員配置計画の具体化
「いつ、誰を、どのような待遇で採用するのか」を明確にし、採用内定者やハローワークの求人票などで根拠を示すこと - 資金調達計画の明記
「特定技能外国人の給与をいかにして捻出するか」を、既存の銀行融資枠、新規融資、役員借入金などの組み合わせで具体的に示すこと
理由書・評価書の提出遅延がもたらす採用スケジュールへの影響
赤字企業の特定技能申請には、追加資料(企業評価書・理由書・経営改善計画など)の準備に時間がかかります。
その準備期間を甘く見積もると、採用スケジュール全体に支障が出ます。
事例:遅延による実害
「評価書の作成に2ヶ月かかり、出入国在留管理庁への申請が予定より遅延。審査に4ヶ月を要し、許可取得までトータル6ヶ月。その間、本来は採用予定だった外国人労働者は別の企業に就職してしまい、結局人手不足は解決されず、稼働率向上の計画は頓挫。」
こうした事態を避けるため、赤字企業が特定技能の受け入れを決断した場合は、次のようなスケジュール管理が必須です。
| 実施時期 | 実施内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 0〜1ヶ月目 | 経営改善計画・企業評価書の専門家ヒアリング、書類作成準備 | 1ヶ月 |
| 1〜2ヶ月目 | 企業評価書・理由書・経営改善計画の確定、出入国在留管理庁への相談(任意) | 1ヶ月 |
| 2〜3ヶ月目 | 出入国在留管理庁への正式申請、追加書類の準備 | 1ヶ月 |
| 3〜5ヶ月目 | 出入国在留管理庁による実質審査、追加書類提出・修正対応 | 2ヶ月 |
| 5〜6ヶ月目 | 許可通知、入国準備、受け入れ開始 | 1ヶ月 |
黒字企業なら3〜4ヶ月で完了する申請プロセスが、赤字企業では5〜6ヶ月を要することは珍しくありません。その時間差を見越したスケジュール管理と、早期段階での専門家への相談が、成功の鍵になります。
中小企業診断士が本音で解説する介護事業の財務改善とビザ申請の見解

出入国在留管理庁の審査官が重視する「経営改善計画の実効性」
私は、これまで150社以上の中小企業経営者と向き合い、その多くが赤字決算と格闘していることを目の当たりにしてきました。
出入国在留管理庁の審査においても、同じ原理が働きます。審査官が見ているのは、「この企業の経営改善計画は実行可能か」という一点です。
多くの不許可事例を見ると、共通点があります。それは、「計画は立てたが、その実行手段が曖昧である」というものです。
不許可事例:「新規営業を強化します」という曖昧な計画
経営改善計画に「新規営業を強化し、月間新規利用者を5名から10名に倍増させます」と書いても、審査官は納得しません。なぜなら、その後ろに「誰が、どのような方法で、いつまでに、という具体的行動計画がないから」です。
許可事例:営業活動の具体化と実績
一方、「〇〇県内の200施設のケアマネジャーに対し、令和〇年〇月から月2回の訪問営業を開始。現在までに既に30施設と面談済みで、このうち8施設から月間15件の紹介を得ることが確定している。向こう6ヶ月で50施設への営業完了を目指し、月間新規利用者を倍増させる」と記述すれば、審査官は「これは実現可能な計画である」と判定します。
つまり、経営改善計画の「実効性」とは、「計画の内容ではなく、その背後にある現在進行形の行動」を指しているのです。
多くの経営者は、将来の希望を述べますが、審査官が見ているのは現在の行動です。その違いを理解することが、特定技能申請の成否を分けます。
単なる手続き代行ではなく「財務と事業の再生」を同時に行う重要性
最後に、強調したい点があります。
特定技能の申請を成功させることは、本来的な目的ではなく、手段に過ぎません。本当の目的は、「赤字企業の経営を改善し、持続可能な事業体質に変えること」です。
その過程で、特定技能の受け入れは一つの施策に過ぎません。
赤字が続く介護事業所の経営改善には、次のような多角的なアプローチが必要です。
- 稼働率向上施策
営業活動の強化、ケアマネジャーネットワークの拡大、新規サービス開発など - 原価低減施策
人件費の効率化、非効率な業務プロセスの改善、外注化など - 資金繰り改善
既存融資のリスケジュール、新規融資の獲得、役員借入金の適切な処理 - 組織体制の再構築
サービス提供責任者の機能強化、営業活動専任者の配置、外国人労働者との協働体制の構築
特定技能の受け入れを申請する段階で、これらのアプローチを総合的に設計し、実行することが、審査官の信頼を勝ち取り、かつ事業所の真の経営改善につながるのです。
多くの経営者は、「特定技能の審査を通す」ことだけを考えます。しかし、本来は「赤字から脱却する」という大目的の中に、「特定技能の審査通過」という目標が包含されるべきなのです。
その視点を持つことで初めて、赤字決算を抱えながらも、一発で特定技能の許可を取得し、かつ事業所全体の経営改善を実現する経営者となることができるのです。
介護事業所の特定技能申請と財務改善に関するよくある質問

Q1:中小企業診断士の「企業評価書」があれば100%審査に通りますか
いいえ。企業評価書は、赤字企業が特定技能審査を受ける際に「必須」の書類ですが、これがあれば自動的に許可が下りるわけではありません。
重要なのは、評価書の内容です。評価書に記載された改善の見通しが現実的で、かつ経営改善計画の他の資料(理由書、財務計画予測、月次資金繰り表など)と整合しているかどうかが、審査官の判断を左右します。
例えば、評価書に「2年で黒字化する見込み」と記載されていても、実際の月次資金繰り表では「初年度から資金がショートする恐れあり」と矛盾していれば、審査官は評価書の信頼性を疑います。
企業評価書は、あくまで「改善の見通しを専門家が認めた」という証拠に過ぎず、それが実現するかどうかは、経営改善計画全体の精度で決まるのです。
Q2:債務超過が数十万円程度の場合でも理由書の提出は必須ですか
はい、必須です。『外国人技能実習機構 技能実習計画認定申請に係る提出書類一覧・確認表』に明記されているとおり、「直近の事業年度で債務超過がある場合は、中小企業診断士、公認会計士等の企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する第三者が改善の見通しについて評価を行った書類も提出してください」と記載されています。
債務超過の金額の大小を問わず、債務超過状態である限り、企業評価書の提出が法律上の要件となります。
数十万円程度の債務超過であっても、その点を放置していれば審査上の懸念事項になるため、きちんと評価書で改善の見通しを示すことが望まれます。
Q3:特定技能外国人の給与設定は、赤字経営でも日本人と同等以上にする必要がありますか
はい、必須です。出入国在留管理庁の審査基準では、「特定技能外国人には、日本人が従事する場合の給与と同等以上の待遇を確保すること」が明記されています。
赤字経営であることは、この要件を免除する理由にはなりません。むしろ、赤字経営だからこそ、その給与支払能力を月次資金繰り表で立証し、「赤字であっても、外国人に対して最低限の給与は確保できる」ことを示す必要があります。
もし給与支払能力が疑わしい場合は、審査官は特定技能の許可を下しません。なぜなら、外国人労働者の保護が制度の最優先事項だからです。
Q4:経営改善計画に記載した売上目標を達成できなかった場合、どのような結果になりますか
特定技能の許可が下りた後、その計画の実現状況は、出入国在留管理庁による継続的な監視の対象になります。
もし計画に大きな乖離が生じた場合、出入国在留管理庁から指導や勧告を受ける可能性があります。さらに、特定技能の更新時期(通常1年ごと)に、許可が下りない可能性も生じます。
したがって、経営改善計画には「実現可能な目標」を設定することが重要です。一時的な感情的期待や根拠のない野心的目標は避け、現在の営業実績や市場分析に基づいた現実的な数値を記載すべきです。
Q5:赤字決算を理由に銀行からリスケジュール(返済猶予)を受けている場合、特定技能の申請に影響がありますか
影響があります。ただし、その影響の方向は「否定的」とは限りません。
リスケジュール中であることは、確かに経営難の兆候です。しかし、同時に「金融機関と経営改善計画を共有し、その実行を金融機関が監視・支援している」という側面もあります。
出入国在留管理庁の審査では、この点が重要になります。例えば、「銀行からのリスケジュール期間中であるが、金融機関も当社の経営改善計画に同意し、特定技能外国人の採用によって12ヶ月での黒字化を目指している。銀行からは、その過程での融資継続の約束を得ている」という説明があれば、審査官は「この企業の計画は信頼できる」と判定しやすくなります。
つまり、リスケジュール中であることそのものではなく、その計画の実効性が問われるということです。
Q6:複数の融資機関からの借入金がある場合、特定技能申請の書類作成に影響がありますか
はい、影響があります。複数の融資機関がある場合、それぞれの機関とのリスケジュール交渉状況や、返済優先順位の問題が生じる可能性があります。
月次資金繰り表や経営改善計画では、すべての融資機関への返済スケジュールを明記し、「特定技能外国人の給与を含めた全額の支払が可能である」ことを立証する必要があります。
複数融資機関がある場合、その管理体制が不透明だと、審査官は「この企業は資金管理能力が低い」と判定する可能性があります。きちんと融資機関ごとの返済計画を整理し、月次で管理していることを示すことが重要です。
Q7:個人事業主(訪問介護サービス提供者)が特定技能を申請する場合、法人化の必要がありますか
法律上は、個人事業主のままでも特定技能の申請は可能です。ただし、実務上は法人化を強く推奨します。
理由は、個人事業主の決算書(確定申告書)だけでは、企業評価書を作成しにくいからです。また、個人事業主の場合、役員と従業員の境界が曖昧になりやすく、給与の適切性判断が難しくなります。
法人化することで、より客観的な財務諸表が作成でき、企業評価書の内容も説得力を増します。また、銀行融資や税務面でのメリットも生じるため、赤字企業の経営改善を進める過程では、法人化を検討する価値があります。
Q8:経営改善計画の期間は3年・5年のどちらが望ましいですか
赤字が3期続いている場合は、最低でも3年間の経営改善計画を提示することが必須です。その上で、可能であれば5年までの長期展望も示すことが理想的です。
出入国在留管理庁は、短期的な数値目標よりも、中長期的な経営姿勢を重視する傾向があります。「特定技能外国人を単なる短期的な人員補充として捉えるのではなく、企業の中長期的な成長戦略の一環として位置づけている」という姿勢が伝わることが、審査官の信頼獲得につながります。
Q9:赤字企業が特定技能外国人を2名以上採用する場合、企業評価書の内容に違いがありますか
はい、大きな違いがあります。採用人数が増えれば、その分の給与負担も増加し、資金繰りへの影響も大きくなります。
1名採用の場合は月間給与27万円程度で済みますが、3名採用の場合は月間81万円の給与負担が発生します。その資金をどこから捻出するのか、月次資金繰り表でより詳細に説明する必要があります。
また、複数名を採用する場合は、受け入れ体制(宿泊施設、生活指導員配置、言語サポートなど)の整備も必須になり、その準備体制が整っていることを書類で示す必要があります。
Q10:特定技能の申請後、審査途中で追加書類を求められた場合、その対応期間はどのくらいが目安ですか
追加書類の指摘を受けた場合、通常は出入国在留管理庁から「〇日以内に提出してください」という期限が通告されます。その期限は、通常14日から30日程度です。
期限内に対応できない場合は、審査の遅延につながり、採用スケジュール全体に支障が出ます。したがって、初期申請の段階で「追加書類の指摘を最小限に抑える」ほど詳細で精度の高い書類を準備することが、結果として採用を早める唯一の方法なのです。
赤字企業の場合は特に、書類の質が審査期間に直結するため、専門家による十分な事前準備が不可欠です。
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