
上期末が近づき、中間決算の数字が見えてくると、役員体制や社内規程を見直す動きが出てくる時期ではないでしょうか。従業員承継(MBO)で番頭役だった役員が社長に就任したものの、肝心の役員退職慰労金規程が先代の時代のまま止まっている——そんな状況に心当たりはありませんか。規程が古いままだと、いざ退職慰労金を支給する場面で金額の根拠を説明できず、株主総会で揉める、財源の準備が間に合わないといった事態になりかねません。退職慰労金の財源には法人保険を使う会社が多いものの、契約の目的や設計が先代の時代のまま置き去りになっているケースも少なくありません。この記事では、従業員承継で新しく社長になった後継者の退職慰労金を、功績倍率法の考え方、株主総会決議と規程整備、法人保険での計画的な備えという3つのステップで整える方法を、中小企業診断士・事業承継士として法人支援150社以上に携わってきた立場から解説します。読み終える頃には、自社の退職慰労金規程を見直す最初の一歩が具体的につかめているはずです。
- MBOで社長に就任したが退職慰労金規程が無い方
- 先代の規程のまま何年も放置している経営者の方
- 法人保険を退職金の財源に使えるか知りたい方
- 保険担当者の説明だけでは判断に迷う後継者の方
- 功績倍率法の考え方で水準感をつかむ方法
- 株主総会決議・規程整備の進め方
- 法人保険を使った計画的な準備の考え方
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事業承継(従業員承継・MBO)で後継者の退職慰労金が置き去りになる理由

従業員承継(MBO)は、社内の実務を知り尽くした役員や幹部社員が新しい社長になる分、経営の引き継ぎ自体はスムーズに進みやすい形です。その一方で見落とされがちなのが、新社長自身の役員退職慰労金の準備です。
先代経営者が退任するときに使った規程がそのまま残り、金額の考え方や決議の手続きが誰にも説明できない状態になっている会社は少なくありません。特に、先代がオーナー経営者として長く在任していた会社ほど、規程は「先代のために作られたもの」であり、新社長の在任年数や役職の変化に合わせて更新されていないことが多いのです。
従業員承継では、経営権の引き継ぎそのものに関心が集まりやすく、株式の買取資金や個人保証、議決権の扱いといったテーマが優先されがちです。その結果、新社長自身の処遇に関わる退職慰労金は「いつか整えればいい」ものとして後回しにされ、就任から数年経っても手つかずのままというケースが目立ちます。
功績倍率法の考え方が引き継がれていない
役員退職慰労金の水準感をつかむ方法として広く使われているのが、最終報酬月額・役員在任年数・功績倍率を掛け合わせて考える「功績倍率法」です。この考え方自体は特別なものではありませんが、功績倍率や在任年数の前提が先代のまま更新されずに残っていると、新社長の在任実態と数字がかみ合わなくなります。金額の根拠を聞かれたときに答えられない状態は、株主・金融機関からの信頼にも関わります。
財源の法人保険も名義や設計が古いまま
退職慰労金の財源として法人保険を使っている会社は多いものの、契約者・被保険者・受取人の設計が先代経営者を前提にしたままというケースがよく見られます。被保険者が退任済みの先代のままだったり、保障額が新社長の在任年数や報酬水準と合っていなかったりすると、いざというときに準備した資金が目的どおりに使えません。
放置したまま数年が経つと、規程・決議・保険の3つがそれぞれ別々に古びていき、退職慰労金を実際に支給する段階になって初めて「整っていない」ことに気づく会社が多いのが実情です。先送りするほど、後から整合性を取り戻す作業は重くなります。
規程・決議・保険がばらばらに古びていくと起きること
規程・決議・財源の3つは、それぞれ単独ではなく連動しています。どれか一つでも放置されると、次のような形で表面化しやすくなります。
- 退職慰労金の金額を聞かれても、算定の根拠を説明できない
- 株主総会での決議手続きが曖昧なまま、支給の話だけが先行する
- 法人保険の保障額と実際に必要な財源の規模が合っていない
- 被保険者・受取人の名義が先代のままで、資金の使い道が定まらない
一つひとつは小さなズレでも、支給が近づいてから同時にまとめて解消しようとすると、社内の合意形成にも時間がかかります。早い段階で分けて点検しておくことが、結果的に負担を軽くします。
従業員承継MBOの退職慰労金を整える3つのステップ|法人保険での備え方

従業員承継(MBO)で新社長に就任した後継者の退職慰労金は、次の3つのステップで整えると、無理なく現在の実態に合わせられます。順番を守って進めることで、規程・決議・財源の3つがばらばらにならずに済みます。
ステップ1:功績倍率法の考え方で水準感をつかむ
まず、最終報酬月額・在任年数・功績倍率という3つの要素を新社長の実態に合わせて整理し、水準感をつかみます。ここでの目的は正確な支給額を確定させることではなく、規程を作り直すための土台となる考え方を共有することです。先代のときの功績倍率をそのまま使うのではなく、新社長の役職・在任年数・果たしてきた役割に照らして、改めて考え直すことが出発点になります。目安が見えれば、次の規程整備・財源準備の議論が具体的になります。
ステップ2:株主総会決議と役員退職慰労金規程の整備
水準感が見えたら、役員退職慰労金規程を新社長の在任実態に合わせて整備し、株主総会で決議を取ります。規程には、支給の対象・算定の考え方・決議の手続き・支給の時期といった項目を明文化しておくことが欠かせません。決議のとり方も、金額まで株主総会で決める形と、算定の基準だけを決議して具体的な金額は取締役会に一任する形とがあり、どちらを選ぶにせよ、議事録に手続きの経緯を残しておくことが後日のトラブルを防ぎます。口頭の申し合わせだけで済ませていると、後から「誰がいつ決めたのか」が分からなくなります。
ステップ3:法人保険で財源を計画的に準備する
規程と決議が整ったら、支給時期に向けて財源を計画的に準備する段階に入ります。ここで法人保険を使う会社が多いのは、支給時期からの逆算で保障を組み立てやすく、契約者・被保険者・受取人という名義の設計を通じて資金の使い道をあらかじめ整理できるためです。保険料の損金算入は、2019年の通達改正により最高解約返戻率に応じて取扱いが区分されており、「全額損金になる」と一律には言えません。具体的な区分や割合は契約内容によって異なるため、税理士に個別で確認したうえで設計することが前提になります。
ここで大切なのは、保険を「削って減らす見直し」ではなく「規程・決議と整合の取れた形に再設計する」という順序で考えることです。法人保険は事業承継専属の保険代理店として、承継の計画と切り離さずに点検を進めています。詳しくは次のページでまとめています。
事業承継専属の保険代理店という考え方 中小企業の事業承継において、法人保険は長年にわたり「とりあえず加入してきたもの」になりがちです。創業期、成長期、拡大期と、その時々の経営判断の積み重ねで保険は増え、気づけば保険料負担が重くなっているケースも少なくありません。 一方で、「保険をやめ...
3つのステップを一度に整えようとすると負担が大きく感じられますが、次の表のように検討項目を分けて一つずつ確認していくと、全体像を見失わずに進められます。
| 検討項目 | 具体的に確認すること |
|---|---|
| 算定の考え方 | 功績倍率法など、新社長の在任実態に合わせた水準感をどう整理するか |
| 決議の手続き | 株主総会でどのように決議し、議事録をどう残すか |
| 規程の明文化 | 支給対象・算定の考え方・支給時期を退職慰労金規程に定めているか |
| 財源の準備方法 | 法人保険など、どの手段で計画的に資金を積み立てるか |
| 契約の名義点検 | 契約者・被保険者・受取人が現在の役員体制と合っているか |
| 税務上の取扱い | 損金算入の可否・区分を税理士に個別で確認しているか |
整える順番の目安
3つのステップは、次のような順番で進めると無理がありません。一度にすべてを完成させようとせず、段階を分けて進めることがポイントです。
- 現状の規程・決議の有無と、法人保険の契約内容を確認する
- 功績倍率法の考え方で、新社長の退職慰労金の水準感を整理する
- 規程案を作成し、株主総会で決議を取る
- 決議・規程の内容に合わせて、法人保険の設計を点検し直す
現状把握から始めて規程・決議・保険の点検までを一つずつ進めると、数か月単位で形にしていくことができます。一気に完璧を目指すより、段階を踏んで着実に整えるほうが、社内の合意も得やすくなります。
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事業承継を進める後継者が手に入る3つの未来

退職慰労金の規程・決議・財源を整えると、新社長個人にとっても会社全体にとっても、次の3つの変化が生まれます。
退職慰労金の金額を客観的に説明できるようになる
功績倍率法の考え方に沿って規程を整備しておけば、退職慰労金の水準を株主や金融機関に説明する場面でも、主観ではなく客観的な根拠をもとに話ができます。「なぜその金額なのか」を規程と議事録で示せる状態は、新社長自身の経営判断への信頼にもつながり、社内外からの見え方も変わってきます。
資金の裏付けができ、支給時期の不安が薄れる
法人保険で計画的に財源を準備しておけば、支給時期が来たときに慌てて資金を工面する必要がなくなります。会社の資金繰りを圧迫せずに退職慰労金を支給できる見通しが立つことは、経営の安定につながります。財源の準備が済んでいれば、事業の投資判断など他の資金計画とも切り離して考えられるようになります。
新社長が経営そのものに集中できるようになる
自分自身の退職慰労金という個人的な不安要素が整理されると、新社長は目先の心配から解放され、本来注力すべき経営判断や事業の成長に意識を向けられるようになります。先代から引き継いだ会社を守りながら、自分の代の色を出していく——その土台として、規程・決議・財源という3つを整え、後継者が安心して経営に専念できる状態を共に手に入れましょう。
自社だけで進める限界と、事業承継士による法人保険の再設計

退職慰労金の整備は、税理士・保険担当者・後継者それぞれが部分的には関わっていても、全体を通しで見る人がいないまま進みがちなテーマです。税理士は税務の個別判断、保険担当者は契約の提案、後継者は日々の経営で手一杯——それぞれの立場は間違っていなくても、話が噛み合わないまま時間だけが過ぎてしまうことがあります。
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士(認定経営革新等支援機関)として、規程整備・株主総会決議・財源準備という一連の流れを全体設計として整理し、伴走します。加えて事業承継専属の保険代理店として、法人保険を「売るもの」ではなく承継フェーズに合わせて役割を再設計するものという立場で点検します。税理士や保険担当者を否定するのではなく、それぞれの専門性を活かしながら全体をつなぐのがKICKの役割です。
個別の税務判断・申告はあくまで税理士の領域であり、KICKが税務代理を行うことはありません。保障を削りすぎれば、万一のときの事業継続や家族の生活に影響が出るという面もあるため、減らすための見直しではなく、目的に合っているかを点検する視点で進めます。
親族内承継であれば先代と後継者が家族として長い時間をかけて準備を重ねられますが、従業員承継(MBO)では就任のタイミングが比較的はっきりしている分、新社長自身の処遇を整える作業も、意識的にスケジュールへ組み込まないと後回しになりがちです。だからこそ、規程・決議・保険という3つの土台を、最初から外部の視点も交えて設計しておくことに意味があります。
具体的には、現状の規程・決議の有無を一緒に確認するところから始め、功績倍率法の考え方に沿った水準感の整理案、規程の見直し案、法人保険の契約内容の点検という順番で伴走します。商品ありきで保険を勧めるのではなく、規程整備・決議の進み具合と整合させながら進めるため、承継の計画そのものと矛盾しない形に整えられます。
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従業員承継(MBO)の退職慰労金・法人保険|よくある質問

Q. MBOで社長に就任したら、退職慰労金規程はすぐに作り直す必要がありますか?
A. 就任してすぐでなくても構いませんが、先代の規程のまま何年も放置すると、在任年数と金額の考え方がずれていきます。就任から早い段階で現状を点検し、規程が新社長の実態に合っているか、更新の要否を確認しておくことをおすすめします。数年おきに見直す機会を設けている会社もあります。
Q. 功績倍率法とは、どのような考え方ですか?
A. 最終報酬月額・役員在任年数・功績倍率という3つの要素を掛け合わせて、退職慰労金の水準感をつかむ考え方です。あくまで目安を整理する枠組みであり、具体的な金額は会社ごとの規程や決議で定めます。業種や会社の規模によって功績倍率の考え方は異なるため、他社の数値をそのまま当てはめないことが大切です。
Q. 役員退職慰労金の金額は、誰が決めるのですか?
A. 会社法上、役員退職慰労金の支給は株主総会の決議事項です。具体的な金額の算定を取締役会に一任する場合でも、その前提となる基準(規程)を明確にしておくことが望まれます。規程が無いまま一任すると、後日「金額の根拠が不明確」と指摘される可能性があります。
Q. 退職慰労金の財源に法人保険を使う目的は何ですか?
A. 支給時期からの逆算で保障を組み立てやすく、会社の資金繰りを大きく圧迫せずに財源を計画的に準備できる点にあります。「入れば得をする」という話ではなく、支給時期と資金準備を合わせる目的の整理です。
Q. 法人保険の保険料は、全額損金にできますか?
A. 2019年の法人税基本通達改正により、最高解約返戻率に応じて損金算入できる割合が区分されるようになっています。全額損金として扱えるのは保険期間が短いものや最高解約返戻率が一定の水準を下回る場合など限られたケースで、それ以外は資産計上と損金算入を組み合わせて処理する形になります。契約内容によって取扱いが異なるため、個別の判断は税理士に確認する必要があります。
Q. 規程が無いまま先代が退任してしまった場合は、どうすればいいですか?
A. 遅くなっても、現時点から新社長のための規程を整備することは可能です。過去にさかのぼって作り直すのではなく、これからの在任期間を対象に、現状に合った規程を新たに定めていく形になります。まずは規程が「無い」という事実を関係者で共有することが最初の一歩です。
Q. 保険を退職慰労金の財源にすると、必ず得をしますか?
A. そのような保証はありません。解約返戻率や受取額を断定できるものではなく、「必ず得をする」という前提で選ぶものでもありません。あくまで支給時期に向けて資金を計画的に準備する目的で使う手段の一つとして考えます。
Q. 保険の見直しを相談すると、その場で契約を勧められませんか?
A. KICKへのご相談では、その場での契約やしつこい営業は行いません。現状の点検と目的の整理を優先し、お断りいただいても構いません。
Q. 後継候補が複数の幹部にまたがる場合、退職慰労金の考え方は変わりますか?
A. 複数の幹部で経営を担う場合も、基本の考え方は同じです。ただし、それぞれの役職・在任年数・果たす役割に応じて水準感を個別に整理する必要があるため、一人の後継者のときよりも規程の設計に手間がかかります。役割分担が固まった段階で、あわせて整理しておくとよいでしょう。
Q. どのタイミングで相談すればいいですか?
A. MBOで社長に就任した直後でも、就任から数年経って規程の古さが気になり始めた段階でも、どちらでも構いません。早いほど、規程・決議・財源の3つを無理なく整合させやすくなります。
まとめ

従業員承継(MBO)で新社長に就任した後継者の退職慰労金は、功績倍率法の考え方で水準感をつかみ、株主総会決議と規程整備で明文化し、法人保険で財源を計画的に準備するという3つのステップで整えられます。先代の時代のまま止まっている規程や保険契約を放置するほど、後から整合性を取り戻す作業は重くなります。「まだ早い」と思っている今こそ、動きやすいタイミングです。
規程・決議・財源の3つは、どれか一つだけを整えても十分ではありません。3つを一つの流れとしてつなげて考えることで、退職慰労金の準備は初めて実効性のあるものになります。上期末で役員体制や社内規程を見直す動きが出るこの時期は、着手のきっかけとしても取り組みやすいタイミングです。まずは現状の規程と法人保険の契約内容を確認するところから、無理のない範囲で始めてみてください。
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士として規程整備の全体設計に伴走し、事業承継専属の保険代理店として法人保険を承継フェーズに合った形へ再設計します。税理士・保険担当者との話が噛み合わないまま時間だけが過ぎている状態を、共に整理していきましょう。新社長が自分自身の処遇を後回しにせず、経営に集中できる環境を整えることが、会社全体の安定にもつながります。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは現状をお聞かせください。
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