
冬季賞与の時期が近づき、「あの番頭格の部長には、いつまで頑張ってもらえるだろうか」と考えた——親族内承継を控えた社長から、そんな声を聞くことが増えています。
先代を長年支えてきた古参の幹部は、会社のことを誰よりも知っています。ところが、後継者への世代交代は、その幹部にとって「これまでの功績の区切り」を意識させる出来事でもあります。
幹部の処遇と退職金の準備を後回しにすると、世代交代→古参幹部が居場所を失う→取引先や現場の要が離れる→後継者が一人で抱え込む→承継後の経営が不安定になるという悪循環に入りかねません。退職金の原資をどう準備するかは、その入口にある大切な論点です。
この記事はこんな方におすすめです
- 親族内承継を控え、古参幹部の処遇が気がかりな社長
- 幹部の退職金を用意していない中小企業の経営者
- 先代の右腕と、どう協力すべきか悩む後継者
- 幹部向けの法人保険を見直したい方
この記事で分かること
- 親族内承継で幹部の退職金が課題になる理由
- 幹部の退職金を法人保険で備える3つの視点
- 保険を「売る・入る」前に整理すべき順番
- KICKが承継計画と保険をつなぐ支援内容
中小企業診断士・事業承継士として法人支援150社以上に携わってきた立場から、親族内承継で幹部の退職金を法人保険で備える3つの視点をお伝えします。読み終える頃には、加入を急ぐ前に何を確認すればよいかが分かります。
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親族内承継で幹部の退職金が課題になる理由と、放置したときに起きること

親族内承継とは、子や親族へ会社を引き継ぐ形の事業承継です。社長は交代しても、現場を回しているのは先代とともに会社を育ててきた幹部、という会社は少なくありません。
この幹部の処遇が、承継の場面で意外に後回しにされます。理由は単純で、社長自身の退職金や自社株の話に目が向き、幹部のことは「これからも働いてくれるだろう」という思い込みで済ませてしまうからです。
後継者と古参幹部の間に生まれやすいすれ違い
古参の幹部は、先代への信頼で会社に残っていることがよくあります。その先代が退くと、幹部は「この会社での自分の役割は、これからどうなるのか」と考え始めます。
一方の後継者は、幹部に頼りたい気持ちがあっても、年上の幹部に処遇の話を切り出しにくいものです。お互いに言い出せないまま時間が過ぎるのが、最もよくあるパターンです。
退職金の準備がないと、選択肢が狭くなる
幹部が定年や勇退を迎えるとき、退職金を払う原資が会社になければ、そのときの資金繰りで支払うことになります。
承継直後は後継者への引継ぎや設備投資で資金が動く時期です。退職金の支払いが重なると、資金繰りを圧迫するおそれがあります。
退職金規程がない、あるいは長年見直していない会社では、そもそも「いくら払うのが妥当か」の目安すら社内で共有されていません。
金額の見通しが立たないまま幹部の退任時期を迎えると、言った・言わないの行き違いが起きやすくなります。
幹部が離れたときに会社が失うもの
幹部が辞めると、失うのは一人の社員だけではありません。取引先との関係、現場の判断基準、社内の人脈といった、目に見えない資産まで一緒に出ていくことがあります。
後継者は経営を引き継いだばかりで、まだ取引先との信頼関係を築いている途中です。そこで幹部まで抜けると、承継後の経営の土台が揺らぎます。
もちろん、退職金の準備をすれば幹部が必ず残るわけではありません。ただ、処遇に向き合う姿勢が見えるかどうかは、幹部の安心に大きく影響します。
「そのうち考える」が承継の直前に集中する
幹部の処遇は、いつでも考えられるように見えて、実際には承継の直前に一気に問題になります。後継者への代表交代、自社株の移転、金融機関への説明と、社長が動く場面が重なるからです。
その時期に幹部の退職金の話まで抱えると、どれも中途半端になりがちです。承継の方針を決めた早い段階で、幹部の処遇も一緒に棚卸ししておくことが、結果的に負担を軽くします。
社長個人の備えと、会社の備えを混ぜない
社長自身の退職金や、自社株の相続に備える保険と、幹部の退職金の原資づくりは、目的が違います。契約者・被保険者・受取人が同じ形で並んでいると、どの契約が何のためのものか分からなくなります。
まずは既存の保険を目的別に並べ、幹部の処遇に関わるものがあるかを確認します。これだけでも、見直しの出発点が明確になります。
幹部の年齢が近いと、退任が重なりやすい
先代と同世代の幹部が複数いる会社では、社長の勇退と前後して、幹部の退任時期も重なりがちです。退職金の支払いが同じ時期に集中すると、会社の資金への負担は一気に大きくなります。
だからこそ、幹部ごとの年齢と退任の見通しを一覧にし、支払いの時期が重ならないかを早めに確認しておく価値があります。
退職金の原資を用意する方法は保険だけではない
幹部の退職金を準備する方法は、法人保険のほかにも、国の退職金共済制度の利用や、日々の資金繰りの中で積み立てる方法など、いくつかあります。
どれが合うかは、会社の資金の余裕、幹部の人数、退職の時期の見通しによって変わります。この記事では、そのうち法人保険を使う場合の考え方を整理します。
事業承継と法人保険の基本を先に押さえたい方へ
後継者が押さえたい相続税・贈与税への備え、特例承継計画、法人保険の活用法をまとめています。
幹部の退職金を法人保険で備える3つの視点|親族内承継の進め方

法人保険を「加入する商品」として先に考えるのではなく、承継計画の中で幹部の処遇をどうするかを決め、そのあとで保険の役割を考える——この順番が大切です。次の3つの視点で整理します。
視点1|幹部の処遇と退職の見通しを先に言葉にする
最初に行うのは、保険の話ではありません。誰に、いつ頃まで、どのような役割で働いてもらいたいかを、社長が整理することです。
対象になる幹部を数人に絞り、それぞれの年齢、担っている役割、後継者との関係を書き出します。あわせて、退職金規程が現在あるか、最後に見直したのはいつかを確認します。
規程がなければ、まず規程の整備から始めるのが先です。規程の内容や支給額の妥当性は、税理士や社会保険労務士と確認します。
視点2|保険の役割を「退職金の原資づくり」に絞って整理する
退職金の原資づくりに法人保険を使う場合、一般的には、会社が契約者と受取人になり、幹部を被保険者とする形が考えられます。保険金や解約返戻金は会社に入り、その資金を退職金の支払いに充てる、という考え方です。
ただし、幹部が在職中に万一のことがあった場合の備えと、退職時の退職金の原資づくりは、別の目的です。1つの契約で両方を満たそうとせず、目的ごとに役割を分けて考えます。
保険料の損金算入は、2019年の通達改正で、最高解約返戻率に応じて区分される扱いになっています。「保険料は全額損金になる」とは限りません。契約の時期や種類で扱いが異なるため、必ず税理士に確認してください。
| 確認する項目 | 考え方 |
|---|---|
| 契約者・受取人 | 会社とするのが一般的。実態と合っているかを確認する |
| 被保険者 | 処遇を考えている幹部。本人の同意が必要 |
| 目的 | 退職金の原資づくりか、在職中の万一への備えかを分ける |
| 保険期間・払込期間 | 幹部の退職見込みの時期と合わせて検討する |
| 解約返戻金の推移 | 時期によって変わるため、資金化したい時期との整合を見る |
| 財務への影響 | 保険料の負担が毎期の資金繰りに無理を生まないか |
一覧の項目は、一般的な確認事項です。会社ごとに何を優先するかは異なります。
視点3|承継後の後継者の資金繰りを崩さない設計にする
幹部の退職金を保険で備えても、保険料の負担が重すぎては本末転倒です。承継直後の数年は、後継者の資金繰りが最も不安定な時期でもあります。
保険料が毎期の資金繰りを圧迫するようなら、保険を増やすのではなく、規模や期間を見直す必要があります。
「減らすための見直し」ではなく「守るための再設計」という姿勢が大切です。減らしすぎると、いざというときに事業や幹部の生活に影響が出ます。増やしすぎれば、資金繰りを圧迫します。両方の面を見て、ちょうどよい水準を探します。
この整理は、法人保険を専門に扱う立場の点検があると進めやすくなります。詳しくは次のページでまとめています。
事業承継専属の保険代理店という考え方 中小企業の事業承継において、法人保険は長年にわたり「とりあえず加入してきたもの」になりがちです。創業期、成長期、拡大期と、その時々の経営判断の積み重ねで保険は増え、気づけば保険料負担が重くなっているケースも少なくありません。 一方で、「保険をやめ...
幹部への伝え方も、設計の一部
備えを整えても、幹部に伝わらなければ安心にはつながりません。伝えるときは、保険の話から入らず、「これからも会社を支えてほしい」という気持ちと、処遇について考えていることを先に伝えます。
そのうえで、後継者と幹部が同席する場を設けると、世代交代後の役割分担も話しやすくなります。保険の中身や金額の詳細は、必要になった段階で別途伝えれば十分です。
保険を使わない選択肢も、公平に比べる
資金に余裕がある会社は、毎期の利益の中から準備する方法もあります。国の退職金共済制度のように、掛金を外部で積み立てる仕組みもあります。
法人保険が合うのは、万一の備えとの兼ね合いも含めて考えたいときなど、条件が合う場合です。保険ありきで結論を出さず、他の方法と並べて比べることをおすすめします。
整理の進め方のイメージ
| 段階 | 主な内容 |
|---|---|
| 現状把握 | 幹部の一覧・退職金規程・既存の保険契約を棚卸しする |
| 処遇の設計 | 後継者と幹部の役割・退任時期の見通しを言葉にする |
| 原資の検討 | 保険を使うか、他の方法かを比べ、目的ごとに役割を分ける |
| 専門家との確認 | 税務は税理士、規程の整備は社会保険労務士と確認する |
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幹部の処遇を整えた先に、親族内承継で手に入る未来

幹部の退職金の備えを承継計画に組み込むと、親族内承継は次のように変わっていきます。
1つ目|幹部が安心して後継者を支えてくれる
会社が自分の処遇を考えていると分かれば、幹部は先代がいなくなった後も、この会社で働き続けたいと思いやすくなります。
後継者にとっても、頼れる右腕が残る安心は大きいものです。
2つ目|後継者が資金繰りの不安なく経営に集中できる
退職金の原資に見通しがあれば、幹部の退任時期が来ても、そのときの資金繰りに慌てずに済みます。
後継者は承継直後の大切な時期を、目の前の経営に集中して過ごせます。
3つ目|保険の役割が整理され、無理のない備えが残る
目的ごとに保険を整理しておくと、「何のために入っているのか分からない契約」が減ります。必要な保障は残し、重複した部分は見直す、という判断がしやすくなります。
承継後も、会社を守る備えとして役割を果たし続けます。
4つ目|後継者と幹部の対話が始まる
処遇について話す場が生まれると、後継者と幹部が、会社の将来について率直に話し合うきっかけになります。
年上の幹部に何を頼み、何を任せるのか。役割が言葉になるほど、世代交代後の現場が落ち着きやすくなります。
幹部の処遇と保険の役割を承継計画の中で整える。この積み重ねで、親族内承継の安心を共に手に入れましょう。
自社だけで進める限界と、KICKの支援

幹部の退職金の備えには、退職金規程の整備、税務上の取扱い、保険の設計と、確認する相手が複数います。税理士は税務、社会保険労務士は規程、保険の担当者は商品と、得意な範囲がそれぞれ違います。
それぞれの話が噛み合わないまま時間だけが過ぎるのが、最も避けたい状況です。共通の敵は特定の誰かではなく、「バラバラのまま進まない状態」です。
自社だけで進めようとすると、次のような失敗が起こりがちです。
- 幹部の処遇を社長が抱え込み、後継者に共有されないまま承継が進む
- 退職金規程がなく、金額の目安が社内で共有されていない
- 目的が曖昧な保険に加入し、承継後の資金繰りを圧迫する
- 税務上の取扱いの確認が遅れ、計画をやり直すことになる
とくに、幹部の処遇は社長の頭の中にだけあり、書面にも後継者との会話にも出てこない会社が目立ちます。頭の中の考えを言葉にして、第三者と一緒に整理するだけでも、進み方は大きく変わります。
どれも、承継計画の段階で幹部の処遇と保険をあわせて整理していれば避けられます。
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士として承継全体の設計に携わりながら、事業承継専属の保険代理店として法人保険の点検も行っています。個別の税務判断や申告は税理士の領域であり、KICKが代わって行うものではありません。KICKの役割は、税理士や社会保険労務士とも連携しながら、承継計画と保険をつなぐことです。法人支援実績は150社以上です。
ご相談いただくと、まず幹部の一覧と既存の保険証券をもとに、契約者・被保険者・受取人・目的を一覧にする棚卸しから始めます。そのうえで、退職の見通しに合わせた整理の進め方をご提案します。東京・銀座本社を拠点としていますが、全国どこからでもオンラインでご相談いただけます。
ご相談の流れは、次のとおりです。
- 現状のヒアリング(幹部の状況・保険の加入状況を伺います)
- 保険証券と退職金規程の棚卸し、目的ごとの整理
- 税理士・社会保険労務士との連携も含めた、進め方のご提案
事業承継と法人保険をまとめて確認したい方へ
後継者が押さえたい相続税・贈与税への備え、特例承継計画、法人保険の活用法をまとめています。
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事業承継のよくある質問|親族内承継と幹部の退職金の疑問を解消

Q. 幹部の退職金は、必ず用意しないといけませんか?
A. 法律で一律に義務づけられているわけではなく、退職金制度の有無や内容は会社ごとに定めます。ただし、退職金規程で支給を定めている場合は、その内容に沿って支払う必要があります。規程の有無と内容を、まず確認することから始めてください。
Q. 幹部の退職金を法人保険で備えるメリットは何ですか?
A. 退職金の原資を計画的に準備しやすくなる点が、考え方としての利点です。一方で、保険料の負担や解約返戻金の推移など、確認すべき点もあります。メリットだけでなく、資金繰りへの影響も含めて判断することが大切です。
Q. 保険料は全額損金になりますか?
A. 全額損金になると一般論として言い切ることはできません。2019年の通達改正で、法人向け定期保険等は最高解約返戻率に応じて損金算入の扱いが区分されています。契約の時期や種類で異なるため、個別の判断は税理士に確認してください。
Q. 幹部の退職金を、社長の退職金より先に考えるべきですか?
A. どちらが先という決まりはありません。社長の退職金と幹部の退職金は、会社の資金を使うという点でつながっています。両方の見通しを並べて、無理のない順番を決めるとよいでしょう。
Q. 幹部本人の同意は必要ですか?
A. 幹部を被保険者とする契約では、被保険者本人の同意が必要になります。手続きの詳細は保険会社ごとに異なります。加入の前に、幹部本人へ目的を丁寧に説明しておくと、行き違いを防げます。
Q. 既に加入している保険を、幹部の退職金に充てることはできますか?
A. 契約者・被保険者・受取人・目的が、いまの状況と合っているかによります。まず契約内容を棚卸しし、目的とのずれがないかを確認するところから始めます。個別の取扱いは、保険会社と税理士に確認してください。
Q. 退職金規程がない場合は、どこに相談すればよいですか?
A. 規程の作成や労務面は社会保険労務士、支給額の税務上の取扱いは税理士が専門です。KICKは、承継計画の中で幹部の処遇をどう位置づけるかを整理し、専門家との橋渡しを担います。
Q. 相談すると、保険への加入を勧められますか?
A. KICKは事業承継専属の保険代理店ですが、ご相談の目的は現状の点検と整理です。加入が不要と判断すれば、その旨を正直にお伝えします。既存の保険を残したまま、役割の整理だけをお手伝いすることも少なくありません。
Q. 幹部が複数いる場合、全員分を準備する必要がありますか?
A. 全員に同じ備えをする必要はありません。役割や勤続年数、会社への影響の大きさを踏まえて、対象を絞って考えるのが一般的です。対象を決める基準を社内で共有しておくと、後から不公平感が生まれにくくなります。
Q. 準備はいつ頃から始めるのがよいですか?
A. 承継の方針を決めた早い段階が目安です。幹部の退任が見えてから慌てて準備するより、余裕のある時期に規程と原資の見通しを整えたほうが、選べる方法が多く残ります。
Q. 親族内承継以外でも、この考え方は使えますか?
A. 役員・従業員への承継や第三者への承継でも、幹部の処遇を承継計画に組み込むという視点は共通です。ただし、税務上の取扱いや進め方は承継の形によって異なります。個別にご相談ください。
まとめ

親族内承継では、後継者の準備だけでなく、先代を支えてきた幹部の処遇も大切な課題です。退職金の備えを後回しにすると、承継後の資金繰りや幹部の定着に影響しかねません。
この記事でお伝えした3つの視点は、幹部の処遇と退職の見通しを先に言葉にすること、保険の役割を退職金の原資づくりに絞って整理すること、そして後継者の資金繰りを崩さない設計にすることでした。
法人保険は、加入することが目的ではありません。承継計画の中で幹部の処遇を決め、そのうえで保険の役割を再設計する順番を守ることが、無理のない備えにつながります。早いうちに整理しておくほど、選べる選択肢は多く残ります。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。その場でのご契約や、しつこい営業もありません。お断りいただいて構いません。まずは現状をお聞かせください。
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事業承継の進め方を、まとめて確認したい方へ
この記事は事業承継に関する論点の一つです。親族内承継・従業員承継・M&A・事業承継税制の違いや進める順番は、事業承継コンサルティングのページでご確認いただけます。







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