
養豚場・養鶏場の経営者にとって、「人がいなくなる=飼育が止まる=出荷が止まる」は、紛れもない現実です。
豚や鶏は、365日、休みなく世話が必要です。早朝の給餌(きゅうじ=エサやり)に始まり、畜舎(ちくしゃ=動物を飼う建物)の清掃、夜間の見回りまで、作業は途切れません。土日も祝日もありません。当然、日本人はなかなか定着しません。
そのため、多くの養豚・養鶏業者が外国人技能実習生や特定技能外国人に頼っています。ところが、いざ申請をしようとした段階で「決算書が債務超過(さいむちょうか)なので、このままでは受入れできません」と言われるケースが後を絶ちません。
債務超過とは、会社の借金(負債)が財産(資産)より多い状態です。つまり、帳簿上は「マイナス」の会社ということです。養豚・養鶏業は、飼料費(しりょうひ=エサ代)の高騰、鳥インフルエンザなどの感染症、そして設備投資の重さから、この債務超過に陥りやすい業種です。
しかし、結論から言えば、債務超過であっても、外国人の受入れは可能です。
その鍵を握るのが、「企業評価書(きぎょうひょうかしょ)」という書類です。この記事では、養豚・養鶏業の経営者に向けて、企業評価書とは何か、なぜ必要なのか、どうすれば審査に通るのかを、実務レベルで解説します。
この記事でわかること
養豚・養鶏業で企業評価書が必要になる場面と、その理由。債務超過でも審査を通過するための具体的なポイント。作成できるのは中小企業診断士・公認会計士だけであること。そして、今動かなければ何が起きるか。
タップできる目次
養豚・養鶏業で企業評価書が必要になる理由

技能実習・特定技能の申請時に行われる財務審査
外国人技能実習生や特定技能外国人を受け入れるとき、申請先(出入国在留管理庁や外国人技能実習機構=OTIT)は、受入企業の「財務状況」を必ず確認します。
具体的には、直近2期分の決算書(損益計算書と貸借対照表)の提出が必要です。損益計算書とは、1年間の「売上」と「費用」を比べて「儲かったか、損したか」がわかる書類です。貸借対照表とは、会社の「財産」と「借金」のバランスを示す書類です。
この決算書を見て、直近の期末時点で債務超過であった場合に、追加で求められるのが「企業評価書」です。
企業評価書とは何か
企業評価書とは、会社の経営状態を、国家資格を持った第三者が客観的に評価した書類です。
技能実習制度の根拠法である「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(平成28年法律第89号)に基づく運用要領では、次のように定められています。
「直近の事業年度で債務超過がある場合、中小企業診断士、公認会計士等の企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する第三者が改善の見通しについて評価を行った書類の提出も必要。」
(出典:技能実習制度運用要領 別紙2/外国人技能実習機構)
特定技能制度でも同様の財務審査が行われます。出入国在留管理庁が定める「特定技能外国人受入れに関する運用要領」に基づき、債務超過の企業は企業評価書なしでは申請が受理されません。
作成できる資格者は限られている
企業評価書を作成できるのは、法律で認められた公的資格者のみです。
| 制度 | 作成可能な資格者 |
|---|---|
| 技能実習 | 中小企業診断士、公認会計士 |
| 特定技能 | 中小企業診断士、公認会計士、税理士 |
税理士や行政書士は、技能実習の企業評価書を作成する権限がありません。「顧問の先生に頼めばいい」と考えていると、申請直前で対応できないという事態になりかねません。依頼先の選定には注意が必要です。
なぜ養豚・養鶏業は債務超過に陥りやすいのか

養豚・養鶏業が他の業種に比べて赤字になりやすく、債務超過に陥りやすい背景には、この業界特有の構造的な問題が複数あります。
飼料費が経営コストの大半を占める
農林水産省の統計によると、養豚業の経営コストに占める飼料費の割合は約60〜67%です。養鶏業でも約56%が飼料費とされています。つまり、売上の半分以上がエサ代に消えるということです。
しかも、飼料の原料であるトウモロコシや大豆は、ほとんどがアメリカやブラジルからの輸入に頼っています。ウクライナ情勢、円安、世界的な穀物需要の増加などにより、配合飼料価格はここ数年で大幅に高騰しました。農林水産省も「飼料価格高騰緊急対策」として補塡(ほてん=不足分を補うこと)を実施するほど、事態は深刻です。
たとえば、ある養鶏場では1日に約2.3トンのエサが必要で、月あたりの飼料費は2年間で約150万円も増加したという事例があります。年間にすれば1,800万円の負担増です。これだけで赤字に転落する農場は少なくありません。
鳥インフルエンザ・豚熱による突然の大量殺処分
養鶏業にとって最大のリスクのひとつが、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)です。
農林水産省の疫学調査報告書によると、2024〜2025年シーズンは14道県で51件の発生が確認され、約932万羽が殺処分の対象となりました。2025年1月だけで約540万羽が処分されており、これは過去最多ペースでの発生です。
1件の発生で農場の鶏が全て殺処分されるため、「昨日まで20万羽いた鶏が、今日はゼロ」ということが現実に起きます。出荷は完全に止まり、売上は一瞬でゼロになります。
養豚業でも、豚熱(CSF)やアフリカ豚熱(ASF)のリスクがあり、養鶏と同様の大量殺処分が発生する可能性は常にあります。
365日稼働で、日本人が定着しない
養豚・養鶏業は年中無休です。動物の世話は365日止められません。早朝4〜5時からの作業、深夜の見回り、休日出勤は当たり前です。加えて、臭気(においの問題)、粉塵(空気中のほこり)、感染リスクのある環境での作業は、体力的にも精神的にもきつい仕事です。
この労働環境では、日本人従業員の採用は極めて困難です。求人を出しても応募がない、入っても数か月で辞める、というのが現場の実態です。結果として、外国人材への依存度が非常に高くなっています。
価格決定権が弱く、コストを転嫁できない
豚肉・鶏肉・鶏卵の価格は、食肉市場でのセリ(競り=買い手が値段を決める仕組み)や、卸売業者との取引で決まります。つまり、生産者が価格を自由に決められない構造です。
日本養鶏協会の報告では、鶏卵の卸売価格の変動幅が75%だった期間に、小売価格の変動幅はわずか13%でした。つまり、原価が上がっても、その分を消費者価格に転嫁しきれないということです。飼料費は上がるのに、売値は上げられない。ここに、利益が圧迫される根本的な原因があります。
畜舎・飼育設備の固定費が重い
養豚・養鶏業は、畜舎の建設、換気設備、給餌設備、糞尿処理施設など、初期投資が非常に大きい業種です。これらの設備は数千万円〜数億円規模になることも珍しくなく、その返済が毎年の固定費として重くのしかかります。
売上が落ちても、設備の借入金返済やリース料は変わりません。この固定費の重さが、赤字を累積させ、債務超過へとつながる大きな要因です。
まとめると、養豚・養鶏業が債務超過になりやすい理由は次のとおりです。
飼料費が売上の6割以上を占め、しかも国際価格に左右される。鳥インフルエンザや豚熱で一夜にして売上がゼロになるリスクがある。365日稼働で日本人が集まらず、人件費は下がらない。価格決定権がなく、コストを転嫁できない。設備投資の借入返済が重い。これらが重なれば、どれだけ真面目に経営しても、赤字→債務超過に陥る可能性があるのです。
債務超過でも受入が許可される企業の共通点

出入国在留管理庁は、「債務超過=即NG」とはしていません。重要なのは、「この会社は今後も事業を続けられるのか」「外国人を適切に雇い続けられるのか」という点です。
審査で許可が下りる企業には、いくつかの共通点があります。
債務超過の原因と改善見通しが明確であること
審査担当者が最も重視するのは、「なぜ債務超過になったのか」と「どうやって改善するのか」の2点です。
養豚・養鶏業の場合、債務超過に至った原因は比較的説明しやすい業種です。たとえば、次のようなケースです。
| 債務超過の原因 | 具体的な状況例 |
|---|---|
| 飼料費の急騰 | ウクライナ情勢・円安で年間1,000万円以上のコスト増 |
| 鳥インフルエンザ等の感染症 | 全羽殺処分で売上がゼロに。再建に1〜2年を要する |
| 畜舎の新設・改修投資 | 衛生基準対応のため数千万円規模の設備投資を実施 |
| 豚肉・鶏卵の価格低迷期 | 市場価格の下落で2〜3期連続の営業赤字 |
これらは「やむを得ない事情」として合理的に説明できるものです。審査では、この原因が「一時的なもの」なのか「構造的(=根本的に解決が難しい)なもの」なのかが問われます。
数値に裏付けられた改善計画があること
「頑張って売上を伸ばします」だけでは、審査は通りません。必要なのは、具体的な数字に基づく改善計画です。
たとえば、次のような内容です。
「飼料費を年間○○万円削減するために、飼料用米の導入やエコフィード(食品残さを再利用した飼料)の活用を進める。」「出荷単価の改善のため、ブランド豚の販路を○件増やし、売上を前年比○%アップさせる計画である。」「畜舎の借入金返済は残り○年、年間返済額は○万円。経常利益で返済可能な水準に達する見込みが○年後にある。」
このように、いつまでに・何を・どれだけ改善するかを、数字で示す必要があります。
資金繰りが回っていること
債務超過であっても、日々の資金繰りが回っている(=手元にお金があり、支払いが滞っていない)ことは大きなプラス材料です。
銀行からの融資が継続していること、取引先への支払いが滞っていないこと、税金や社会保険料の未納がないこと。これらは「この会社は今すぐ倒れる状態ではない」と示す重要な根拠になります。
一般事例:直近の利益が出ていれば道は開ける
たとえば、過去の設備投資で累積赤字が膨らみ債務超過になっているが、直近期の損益計算書では営業利益が黒字というケースがあります。この場合、「債務超過は過去の投資に起因するが、本業の収益力は改善傾向にある」という評価が可能です。
逆に、直近期も赤字であっても、赤字幅が縮小している場合は「改善傾向にある」と判断される余地があります。審査では「現時点の数字」だけでなく、「推移(=数字の流れ)」も見られるためです。
企業評価書の書き方と審査通過のポイント

企業評価書に記載すべき内容
企業評価書は、ただの決算書の要約ではありません。入管の審査担当者が「この会社は事業を継続できる」と判断できる内容でなければなりません。
一般的に、以下の要素が含まれている必要があります。
| 記載項目 | 記載すべき内容 |
|---|---|
| 企業概要 | 業種、設立年、従業員数、事業内容、飼育規模(頭数・羽数)など |
| 財務状況の分析 | 直近2〜3期の損益、貸借対照表の推移、債務超過額の変動 |
| 債務超過の原因 | 飼料費高騰、感染症被害、設備投資など、具体的な事由と経緯 |
| 改善の見通し | 収支改善策の具体内容、いつまでに債務超過を解消するかの見通し |
| 資金繰りの状況 | 銀行融資の状況、返済計画、手元資金の水準 |
| 事業継続性の評価 | 取引先との関係、受注・出荷見込み、人員体制の安定性 |
審査で落ちる評価書のパターン
企業評価書を提出しても、審査で不許可になるケースは実際にあります。よくあるNG例を押さえておきましょう。
NG例①:数値の根拠がない
「売上を20%増加させる計画です」と書いてあるが、その根拠となる取引先名(匿名でも可)や契約見込み、過去の実績との比較がない。これでは「机上の空論」と判断されます。
NG例②:財務三表の整合性がとれていない
損益計算書では利益が出ているのに、貸借対照表の現預金が減っている。キャッシュフロー(お金の流れ)と損益のつじつまが合わない。このようなズレは、審査での信頼性を大きく損ないます。
NG例③:業種特有のリスクへの言及がない
養豚・養鶏業の場合、鳥インフルエンザや飼料価格変動のリスクにまったく触れていない評価書は、「業界を理解していない専門家が書いた」と判断される可能性があります。
審査を通過する評価書のポイント
OK例①:原因→対策→数値→時期がセットになっている
「飼料費高騰(原因)→エコフィード導入と飼料用米の活用(対策)→年間○万円のコスト削減(数値)→○年度中に実施(時期)」というように、論理的な流れで構成されている評価書は説得力があります。
OK例②:業界の外部環境を正しく反映している
農林水産省の飼料価格データ、鳥インフルエンザの発生状況、肉豚経営安定交付金の活用状況など、公的データを根拠として引用している評価書は、審査担当者にとって検証しやすく、信頼性が高いと判断されます。
OK例③:改善の「推移」が示されている
直近3期の経常利益の推移が「▲500万円→▲200万円→+50万円」というように改善傾向にあることを、グラフや表で示す。一時点の数字ではなく「流れ」を見せることが重要です。
企業評価書を専門家に依頼すべき理由

法律で定められた資格者でなければ作成できない
前述のとおり、企業評価書を作成できるのは、技能実習では中小企業診断士・公認会計士、特定技能ではこれに税理士を加えた3資格に限られています。
これは法律上の要件であり、資格のない者が作成した評価書は受理されません。自社で勝手に書いた書類も当然NGです。
自社作成のリスク
「数字は自社が一番わかっているから、自分で書けるのでは」と思う経営者もいます。しかし、自社作成にはいくつかの致命的なリスクがあります。
リスク①:客観性の欠如。自社に有利なことばかり書いてしまい、審査担当者の信頼を得られない。
リスク②:審査の観点を理解していない。入管が何を見ているかを知らずに書くため、論点がずれる。
リスク③:制度要件を満たさない。そもそも資格者の署名がないため、書類不備で返戻される。
専門家に依頼する価値
中小企業診断士や公認会計士は、財務分析と経営戦略の専門家です。特に中小企業診断士は、中小企業の経営改善支援を専門とする国家資格者であり、入管審査に耐えうる評価書の作成に必要な知識と経験を持っています。
専門家に依頼するメリットは次のとおりです。
第三者の客観的な視点で評価されるため、審査担当者の信頼を得やすい。財務データの分析精度が高く、整合性のある改善計画が策定できる。業種特有のリスク(飼料費変動、感染症リスクなど)を踏まえた実務的な評価書が作成される。審査機関から追加質問や修正依頼があった場合にも、専門家が対応できる。
費用相場としては、一般的に5万円〜15万円程度とされています。この費用を惜しんで評価書を出せず、外国人の受入れが止まれば、その損失は比較にならないほど大きくなります。
よくある質問(Q&A)

赤字決算でも外国人を受け入れられますか?
赤字=債務超過ではありません。赤字でも、資産が負債を上回っていれば債務超過ではないため、通常どおり申請できます。ただし、赤字が続いて債務超過に転落した場合は、企業評価書の提出が必要になります。
債務超過がどの程度なら許可されますか?
「債務超過が○○円以内なら許可」という明確な基準は公表されていません。審査では、債務超過の金額そのものよりも、「改善の見通しがあるか」「事業継続性があるか」が総合的に判断されます。債務超過額が大きくても、改善計画が具体的で、資金繰りが回っていれば許可されるケースはあります。
企業評価書の作成にはどれくらい時間がかかりますか?
一般的には、ヒアリングから完成まで2週間〜1か月程度が目安です。ただし、決算書の内容が複雑な場合や、追加資料が必要な場合はさらに時間がかかることもあります。申請期限が迫っている場合は、早めに専門家へ相談することが重要です。
すでに在籍している外国人の更新にも企業評価書は必要ですか?
はい。在留資格の更新申請時にも決算書の提出が求められるため、その時点で債務超過であれば、更新時にも企業評価書が必要になります。新規受入だけでなく、今いる外国人の在留継続にも影響する問題です。
2025年4月の制度改正で何か変わりましたか?
2025年4月施行の特定技能制度改正では、一定の要件を満たす企業について書類提出の省略が認められるようになりました。その要件のひとつに「過去3年間に債務超過となっていない法人」が含まれています。つまり、債務超過の企業は書類省略の対象外であり、引き続き企業評価書の提出が求められます。
今動かなければ、「飼育が止まる日」は突然やってくる
養豚・養鶏業にとって、外国人材の受入れが止まることは、事業の継続そのものが止まることと同じ意味を持ちます。
日本人従業員の補充はすぐにはできません。365日稼働の現場で、人が足りなくなれば、残った従業員に過大な負担がかかります。時間外労働の増加は労働基準法違反のリスクを高め、さらなる離職を招きます。飼育管理が行き届かなくなれば、家畜の健康状態が悪化し、出荷品質が低下します。最終的には、出荷量の減少→売上の減少→さらなる赤字という悪循環に陥ります。
企業評価書を準備していなければ、この悪循環は「申請期限の直前」に突然始まります。
「監理団体に任せているから大丈夫」と思っていた経営者が、申請直前に「評価書が必要です」と言われ、慌てて専門家を探す。しかし、評価書の作成にはヒアリング・財務分析・計画策定・文書作成のプロセスが必要であり、数日では対応できません。
だからこそ、「今」動く必要があります。
債務超過であっても、正しい手続きを踏めば、外国人の受入れは可能です。必要なのは、入管審査に耐えうる品質の企業評価書を、資格を持った専門家に依頼して作成することです。
養豚・養鶏業の企業評価書の作成は、お早めにご相談ください
中小企業診断士・公認会計士が在籍する当社では、債務超過の改善見通しに関する企業評価書の作成を専門的にサポートしています。決算書をご準備いただければ、ヒアリングをもとに評価書へ落とし込みます。まずはお気軽にご相談ください。
外国人の受入れが止まる前に、今すぐ企業評価書の準備を始めましょう!







コメント