
食肉加工業(食肉解体業)の現場では、毎日、生きた家畜を「枝肉(えにく)」と呼ばれる状態に加工しています。枝肉とは、家畜の皮や内臓を取り除いた後の骨付き肉のことです。
この作業は、心理的にも肉体的にも極めて過酷です。大型の牛や豚を扱い、刃物を使った危険な解体工程を、冷蔵環境の中で長時間にわたって行います。
その結果、日本人の応募はほとんどなく、採用しても早期に離職するケースが大半です。食肉処理の現場は、外国人技能実習生や特定技能外国人なしには成り立たない状態に置かれています。
ところが、ここで大きな壁にぶつかる企業が少なくありません。
「決算書が債務超過(さいむちょうか)だから、技能実習の申請が通らない」
「特定技能で外国人を採用しようとしたら、財務面でストップがかかった」
債務超過とは、会社の「負債(借金などの返す義務があるお金)」が「資産(会社が持っている財産の合計)」を上回っている状態のことです。わかりやすく言えば、会社の貯金より借金のほうが多い状態です。
しかし、結論から言えば、債務超過であっても外国人の受入は可能です。
そのために必要な書類が、「企業評価書」です。企業評価書とは、会社の経営状態を第三者の専門家が客観的に評価し、「この会社は今後も事業を続けられる見込みがある」と証明する書類です。
この記事では、食肉加工業に特化して、企業評価書が必要な理由、債務超過になりやすい業界構造、審査を通過するための実務的なポイントまで、すべて解説します。
人がいなければ、食肉の処理は止まります。処理が止まれば、スーパーや飲食店への肉の供給が止まります。これは、一企業の問題ではなく、日本の食の供給を支える社会インフラの問題です。
「債務超過でも企業評価書があれば受入できる」
食肉加工業の企業評価書の作成は、中小企業診断士・公認会計士のみ対応可能です。
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食肉加工業で企業評価書が必要になる理由

企業評価書が求められる場面は明確です。技能実習・特定技能の申請時に、直近の決算書が債務超過であった場合に提出が義務づけられます。
技能実習・特定技能の申請時に決算書の提出が必要
外国人技能実習生や特定技能外国人を受け入れる場合、申請時に直近2期分の決算書(損益計算書と貸借対照表)を提出しなければなりません。損益計算書とは「その年にいくら売上があり、いくら利益が出たか」を示す書類です。貸借対照表とは「会社の資産と負債のバランス」を示す書類です。
この決算書を確認した結果、直近期末の時点で債務超過が判明した場合、追加書類として「企業評価書」の提出が必要になります。
根拠は、出入国在留管理庁が定める「特定技能外国人受入れに関する運用要領」および、外国人技能実習機構(OTIT)が公表している「技能実習制度運用要領」です。
(出典:出入国在留管理庁「特定技能外国人受入れに関する運用要領」/外国人技能実習機構「技能実習制度運用要領」)
財務審査の目的は「外国人の雇用環境を守ること」
なぜ財務状況を審査するのか。その目的は、外国人が安心して働ける環境を企業が確保できるかどうかを確認するためです。
具体的には、次の3つの観点で審査されます。
| 審査の観点 | 確認されるポイント |
|---|---|
| 事業の継続性 | この会社は来年・再来年も営業を続けられるか |
| 給与の支払い能力 | 外国人に対して毎月の給与を滞りなく払えるか |
| 生活支援体制 | 住居の確保・日本語教育・相談窓口など、受入体制は整っているか |
つまり、「債務超過=即NG」ではありません。出入国在留管理庁は、債務超過であっても、改善の見通しがある企業については受入を認める運用をしています。
その「改善の見通しがある」と客観的に証明する書類が、企業評価書です。
企業評価書を作成できるのは限られた専門家のみ
企業評価書は、誰でも作成できるわけではありません。制度上、作成が認められているのは次の有資格者のみです。
| 制度 | 作成が認められる資格 |
|---|---|
| 技能実習 | 中小企業診断士、公認会計士 |
| 特定技能 | 中小企業診断士、公認会計士、税理士 |
税理士は技能実習の企業評価書を作成できません。行政書士にも作成権限はありません。依頼先を間違えると、書類の再作成が必要になり、申請が大幅に遅れます。
食肉加工業が債務超過に陥りやすい構造的な理由

食肉加工業が赤字に転落し、債務超過に陥るケースは珍しくありません。その背景には、業界特有の6つの構造的な問題があります。
日本人が集まらない・定着しない深刻な人手不足
食肉解体の現場は、大型の家畜を刃物で処理する作業の連続です。血液や内臓に常時触れるため、心理的な抵抗感が非常に大きい仕事です。さらに、冷蔵環境での立ち仕事が続くため、肉体的な負担も重くのしかかります。
農林水産省のデータによると、飲食料品製造業(食肉加工業を含む)の人員欠員率は3.2%で、全製造業平均の1.8%の約2倍に達しています。有効求人倍率も3倍を超える水準で推移しており、「求人を出しても応募がない」状態が常態化しています。
(出典:農林水産省「食品製造業における労働力不足克服ビジョン」)
人手不足を補うために派遣社員や短期アルバイトを雇えば、人件費は膨れ上がります。しかし採用してもすぐに辞めてしまうため、採用コストばかりがかさむ悪循環に陥ります。
飼料価格の高騰による畜産農家の減少
食肉加工業の原料は、畜産農家が育てた家畜です。ところが、ウクライナ情勢や円安の影響で配合飼料の価格が急騰しました。農林水産省は「飼料価格高騰緊急対策」として畜産農家への補塡金を交付するほどの深刻な状況でした。
(出典:農林水産省「飼料価格高騰緊急対策について」)
飼料代が上がれば、畜産農家の経営は圧迫されます。廃業する畜産農家が増えれば、食肉加工業に入ってくる原料(家畜)の量そのものが減少します。加工する量が減れば、当然、売上も減ります。
仕入価格の上昇と加工単価のミスマッチ
原料の仕入価格が上がっても、加工賃(食肉を処理する作業の対価)は簡単に上げられません。なぜなら、食肉加工業は「作業の委託を受ける」立場であることが多く、単価の交渉力が弱いからです。
わかりやすく数字で示します。
| 項目 | 変化の方向 | 経営への影響 |
|---|---|---|
| 原料の仕入価格 | ↑ 上昇 | コストが増える |
| 加工単価(売値) | → ほぼ横ばい | 売上が増えない |
| 人件費 | ↑ 上昇(最低賃金改定) | 固定費が増える |
| 光熱費(冷蔵設備) | ↑ 上昇 | 固定費が増える |
「入ってくるお金はほぼ変わらないのに、出ていくお金だけが増える」——これが食肉加工業の経営を圧迫している構図です。
冷蔵・加工ラインの設備投資が重い
食肉は常温で放置すれば傷みます。そのため、大型の冷蔵庫や冷凍庫、HACCPに対応した加工ラインが必要不可欠です。HACCP(ハサップ)とは、食品の安全を確保するための衛生管理の国際基準です。2021年6月から、原則すべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務づけられています。
これらの設備は数百万円から数千万円の投資が必要であり、多くの食肉加工業者は銀行借入で資金を調達しています。売上が伸びない中で借入の返済が続けば、資産より負債が大きくなり、債務超過に転落するのは時間の問題です。
低付加価値構造からの脱却が難しい
食肉解体業務は、「家畜を解体して枝肉にする」という定型的な作業が中心です。自社ブランドの商品を開発して高い価格で販売する、というビジネスモデルとは異なります。
利益率が低い仕事を大量にこなすことで売上を確保するしかない——この構造が、赤字に転落しやすく、債務超過から抜け出しにくい根本的な原因です。
債務超過でも外国人の受入が認められる企業の共通点

債務超過だからといって、すべての企業が受入を拒否されるわけではありません。審査を通過する企業には、明確な共通点が3つあります。
「改善の見通し」が数字で説明できている
もっとも重要なのは、「なぜ債務超過になったのか」「いつまでに、どうやって改善するのか」を数字で示せるかどうかです。
審査担当者が見ているのは、「今、債務超過であること」ではなく、「この会社は将来、債務超過を解消できるか」という将来の見通しです。
たとえば、次のような説明が求められます。
| 説明項目 | 具体的な内容(一般例) |
|---|---|
| 債務超過の原因 | 「飼料高騰による仕入量の減少」「HACCP対応のための設備投資」など |
| 改善の具体策 | 「新規取引先の開拓で月○万円の売上増」「不採算工程の外注化でコスト年○万円削減」など |
| 改善の時期 | 「今期(○年○月期)の決算で債務超過を解消する見込み」 |
資金繰りが安定していること
債務超過であっても、毎月の資金繰りが回っている(支払いが滞っていない)ことは、審査上の大きなプラス材料です。
資金繰りとは、「毎月入ってくるお金と出ていくお金のバランス」のことです。会社の預金残高がゼロにならず、仕入先や従業員への支払いが遅れていない状態であれば、「今すぐ倒産するリスクは低い」と判断されます。
企業評価書では、資金繰りの安定性を示すために、月次の資金繰り表や銀行の融資残高の推移などを根拠資料として添付することが一般的です。
事業計画に現実性がある
審査で落とされやすいのは、「来年は売上が2倍になる」「3年以内に利益が○億円になる」といった非現実的な計画です。
審査担当者は、過去の実績と照らし合わせて計画の合理性を判断します。食肉加工業であれば、「取引先との契約書の写し」「仕入量の推移データ」「既存の受注単価の実績」など、数字の裏づけが取れる根拠があるかどうかが問われます。
「夢物語」ではなく、「地に足のついた改善計画」が求められるということです。
企業評価書の構成と審査を通過するためのポイント

企業評価書には決まったフォーマットはありませんが、審査で確認される項目は共通しています。ここでは、審査を通過するために押さえるべき構成と、よくあるNG例・OK例を解説します。
企業評価書に記載すべき5つの項目
| 順 | 項目 | 記載内容 |
|---|---|---|
| 1 | 会社概要と事業内容 | 設立年、従業員数、主要取引先、業務内容 |
| 2 | 財務状況の分析 | 直近2〜3期の損益・貸借対照表の推移、債務超過額の変動 |
| 3 | 債務超過に至った経緯 | 原因の客観的な説明(設備投資、外部環境の変化など) |
| 4 | 改善計画と数値見通し | 売上・利益の予測、コスト削減策、債務超過の解消時期 |
| 5 | 専門家としての総合評価 | 中小企業診断士等による「改善の見通しがある」との評価意見 |
審査で落とされるNG例と通過するOK例
実際の審査現場で多いのが、次のようなNG例です。
| NG例(不許可になりやすい) | 問題点 |
|---|---|
| 「今後は売上が回復する見込みです」 | 根拠の数字がない。「見込み」だけでは審査は通らない |
| 「新規事業で利益を出す計画です」 | 実績のない事業計画は信頼性が低い |
| 「債務超過は一時的なものです」 | なぜ一時的なのか、いつ解消するのかの説明がない |
| OK例(通過しやすい) | 評価されるポイント |
|---|---|
| 「設備投資(○年○月、○万円)が原因。投資は完了し、今期は減価償却のみ」 | 原因が明確で、追加の支出がないことが分かる |
| 「取引先A社との契約更新済(年間○万円)。月次で黒字が継続中」 | 受注の裏づけがあり、現時点の収益性が証明できる |
| 「今期末までに利益○万円を積み上げ、債務超過額○万円を○万円に圧縮する見通し」 | 具体的な数字と時期が示されている |
ポイントは、すべての記述に「数字」と「根拠」をセットで記載することです。
審査担当者が最も重視する基準
審査担当者が企業評価書で最も注目するのは、次の1点に集約されます。
「この企業は、外国人の受入期間中に、安定して事業を継続できるか?」
逆に言えば、この問いに対して明確な根拠を示せれば、債務超過であっても許可は出るということです。食肉加工業は社会インフラとしての必要性が高い業種です。人材がいなければ食肉の加工ができず、国民への食の供給に支障が出ます。この社会的な役割も、企業評価書の中で訴求すべきポイントです。
企業評価書を専門家に依頼すべき理由

企業評価書の作成を自社で完結させようとする企業もありますが、制度上、それは認められていません。そして実務上も、専門家への依頼が合理的です。その理由を3つ解説します。
作成できる資格が法令で限定されている
前述のとおり、企業評価書の作成が認められているのは、中小企業診断士・公認会計士(特定技能は税理士も可)のみです。
社長が自分で書いた改善計画書や、顧問税理士が作成した書類は、技能実習の企業評価書としては認められません。提出しても受理されず、再提出を求められ、その間に外国人の受入が止まるリスクがあります。
自社で作成した書類は「客観性がない」と判断される
仮に社内で財務分析をまとめたとしても、審査担当者はそれを「お手盛りの自己評価」として扱います。なぜなら、自社に都合の良い情報だけを書くことが可能だからです。
第三者である有資格者が、客観的な立場から「この企業は事業を継続できる」と評価することで、はじめて審査資料としての信頼性が担保されます。
審査基準を知っている専門家でなければ通過率が下がる
企業評価書の作成は、「財務分析ができれば誰でもできる」というものではありません。出入国在留管理庁やOTITの審査では、制度特有の審査ポイントがあります。
たとえば、「改善の見通しの時期をいつに設定すべきか」「資金繰り表のどの項目を強調すべきか」「追加資料として何を添付すべきか」といった実務的な判断は、技能実習・特定技能の企業評価書を数多く手がけてきた専門家でなければ的確に対応できません。
経験の少ない専門家に依頼した結果、審査で差し戻され、受入が数か月遅れた——というケースは実際に起きています。
食肉加工業の企業評価書でよくある質問

Q. 赤字決算でも外国人を受け入れられますか?
A. 赤字決算だけでは、企業評価書の提出は不要です。企業評価書の提出が求められるのは、「赤字」ではなく「債務超過」の場合です。赤字(単年度の損失)が続いた結果、貸借対照表上で資産より負債が多くなった状態が債務超過です。赤字であっても、純資産(資産から負債を引いた残り)がプラスであれば、通常の書類で申請できます。
Q. 債務超過の金額が大きい場合でも許可は出ますか?
A. 金額の大小だけで判断されるわけではありません。重要なのは「改善の見通し」です。債務超過額が大きくても、明確な改善計画と数値根拠があれば、許可が出る可能性はあります。反対に、債務超過額が小さくても、改善の見通しが示せなければ不許可になり得ます。
Q. 企業評価書の作成にはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 必要書類(直近2〜3期の決算書)が揃っていれば、最短で数日〜2週間程度が目安です。ただし、財務状況が複雑な場合や、追加のヒアリングが必要な場合は、もう少し時間がかかることもあります。申請の期限が迫っている場合は、早めにご相談ください。
Q. 企業評価書を一度作れば、ずっと使えますか?
A. いいえ、原則として毎回の申請に新しい評価書が必要です。決算期が変われば財務状況も変わるため、最新の決算に基づいた企業評価書の提出が求められます。
Q. 監理団体に任せていれば大丈夫ですか?
A. 監理団体は企業評価書を作成できません。監理団体が対応するのは、実習計画の作成や在留資格の手続きです。企業評価書は、中小企業診断士や公認会計士など、作成が認められた有資格者に別途依頼する必要があります。「監理団体が全部やってくれる」と思い込んでいた結果、申請直前に慌てて専門家を探すケースが多く見られます。
まとめ:企業評価書の準備を先延ばしにするリスク

食肉加工業にとって、外国人の技能実習生・特定技能外国人は、生産ラインを維持するために欠かせない存在です。
出入国在留管理庁の統計では、特定技能「飲食料品製造業」分野の在留外国人数は8万人を超え、全16分野の中で最多です。それほど、この業界は外国人材に依存しています。
(出典:出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数」)
企業評価書がなければ、新規の受入申請は通りません。すでに在籍している外国人の在留資格更新にも支障が出る可能性があります。
外国人の受入が止まるということは、生産ラインが止まるということです。
生産ラインが止まれば、取引先への納品ができなくなり、売上が激減します。残された日本人従業員の負担が増え、離職が加速します。そして、さらなる赤字と債務超過の拡大という最悪の悪循環に陥ります。
今、このページを読んでいるということは、すでに「企業評価書が必要だ」と感じているはずです。
その判断は正しいです。あとは、動くかどうかだけです。
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