
「外国人スタッフがいなくなったら、現場が回らない」
リネンサプライ業(リネンサプライとは、病院やホテルなどにシーツ・タオル・白衣などの布製品を洗濯・仕上げしてレンタルするサービスのこと)を営む経営者であれば、こうした危機感は日常的に抱えているはずです。
病院のベッドシーツ、介護施設のタオル、ホテルの枕カバー。これらは毎日交換が必要で、1日でも洗濯・配送が止まれば、医療や宿泊の現場に直接影響が出ます。リネンサプライは、社会インフラを支える「縁の下の力持ち」です。
しかし現実は厳しく、単価が安い、重油代が上がる、日本人が集まらない。コロナ禍でホテル向けの売上が激減し、赤字が膨らみ、気づけば決算書が「債務超過」になっていた、という企業は少なくありません。
債務超過(負債の合計が資産の合計を上回り、純資産がマイナスになっている状態)になると、外国人技能実習生や特定技能外国人の受入れ申請で「企業評価書」という追加書類が必要になります。
結論から言えば、債務超過であっても、企業評価書を正しく作成すれば外国人の受入れは可能です。
この記事では、リネンサプライ業の経営者に向けて、企業評価書とは何か、なぜ必要なのか、どう作れば審査を通過できるのかを、中小企業診断士の実務視点から解説します。
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リネンサプライ業で企業評価書が必要になる理由

外国人受入れの財務審査と企業評価書の関係
外国人技能実習生や特定技能外国人を受入れるとき、企業は「この会社は安定して事業を続けられるか」「外国人の給与や生活を保障できるか」を審査されます。
具体的には、出入国在留管理局(入管)や外国人技能実習機構に対して、直近2期分の決算書(損益計算書と貸借対照表)を提出する必要があります。
ここで問題になるのが、直近の決算で債務超過になっている場合です。
法律で定められた企業評価書の提出義務
「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(平成28年法律第89号)に基づく技能実習制度運用要領では、次のように定められています。
直近の事業年度で債務超過がある場合、中小企業診断士または公認会計士等の企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する第三者が、改善の見通しについて評価を行った書類の提出が必要
つまり、債務超過の企業が外国人を受入れたい場合、「うちの会社はこれから立て直せます」ということを、中小企業診断士か公認会計士という国家資格を持つ専門家に証明してもらう必要があるのです。この証明書類が「企業評価書」です。
なお、税理士や行政書士には作成権限がありません。依頼先を間違えると、書類が無効になるため注意が必要です。
技能実習だけでなく特定技能でも必要
企業評価書が必要になるのは、技能実習の申請時だけではありません。特定技能外国人を受入れる場合にも、債務超過であれば同様に企業評価書の提出が求められます。特定技能の場合は、中小企業診断士・公認会計士に加えて税理士も作成可能ですが、実務上は経営改善の分析に精通した中小企業診断士に依頼するケースが一般的です。
また、2027年4月に施行される「育成就労制度」(技能実習制度に代わる新制度)でも、財務審査の基本的な枠組みは引き継がれる見込みです。つまり、今後も債務超過企業にとって企業評価書は不可欠な書類であり続けます。
リネンサプライ業が債務超過に陥りやすい5つの構造的理由

リネンサプライ業は、他の業種と比べても債務超過に陥りやすい特殊な収益構造を持っています。審査機関もこの業界特性を踏まえて評価するため、経営者自身が「なぜ赤字になったのか」を正しく理解しておくことが重要です。
単価が低く、値上げが通りにくい
リネンサプライの取引先は病院・介護施設・ホテルなどの法人です。取引はほとんどが長期契約で、単価は1枚あたり数十円〜数百円という水準です。
矢野経済研究所の調査によると、2023年度のリネンサプライ市場規模は約4,551億円ですが、原材料や燃料コストが上昇しても料金転嫁が進みにくい構造があります。取引先も経営が厳しく、「他社に替える」と言われると値上げ交渉ができない、というのが現場の実情です。
労働集約型で人件費比率が高い
洗濯物の仕分け、投入、たたみ、検品、配送。これらの作業はほとんどが手作業で、機械だけでは完結しません。そのため、売上に占める人件費の割合が非常に高いのがリネンサプライ業の特徴です。
さらに、作業環境は高温多湿で体力的にきつく、賃金水準も他業種と比べて高くありません。結果として日本人の定着率が低く、外国人労働力に頼らざるを得ない構造になっています。
重油・電力コストの高騰が直撃する
リネンサプライの工場(クリーニング工場)には、大型の洗濯機、乾燥機、ボイラー、仕上げ機などが並んでいます。これらの設備は重油やガスを大量に消費します。
たとえば、ボイラー1台で月に数十万円〜100万円超の燃料費がかかることも珍しくありません。ウクライナ情勢や円安の影響で重油価格が高騰した2022年以降、燃料費だけで年間数百万円のコスト増に見舞われた企業も多数あります。
コロナ禍によるホテル需要の急減
リネンサプライ業の主要な収益源の一つがホテルリネン(宿泊施設向けのシーツ・タオル類)です。2020年以降のコロナ禍で、ホテルの稼働率が大幅に低下し、リネンサプライの受注量も激減しました。
帝国データバンクの調査によると、リネンサプライ業者のうち2020年度に減収となった企業は約3分の2にのぼりました。2023年以降はインバウンド需要の回復で持ち直しつつありますが、コロナ禍で積み上がった赤字がそのまま債務超過として残っている企業が数多くあります。
設備投資が重く、固定費が下がらない
業務用の大型洗濯機は1台あたり数百万円〜数千万円。乾燥機、ボイラー、折りたたみ機、金属探知機なども含めると、工場の設備投資には数千万円〜1億円超の資金が必要です。
設備の減価償却費やリース料は、売上が減っても毎月同じ金額がかかる「固定費」です。売上減少とコスト増加が同時に起きると、あっという間に赤字に転落し、債務超過に至ります。
| 債務超過の原因 | リネンサプライ業の実態 |
|---|---|
| 単価の低さ | 1枚あたり数十円〜数百円、値上げ交渉が難航 |
| 人件費比率の高さ | 手作業中心、日本人が定着せず外国人依存 |
| 燃料費の高騰 | 重油・ガス消費が膨大、年間数百万円の増加 |
| 需要の急減 | コロナ禍でホテル稼働率が激減、受注量が大幅低下 |
| 設備の固定費 | 大型設備に数千万円〜1億円超、減価償却・リース負担 |
これら5つの要因が重なることで、リネンサプライ業は「稼ぎにくく、コストが下がらず、赤字が積み上がりやすい」という構造的な問題を抱えています。企業評価書では、こうした業界特有の事情を審査機関に正しく伝えることが極めて重要です。
関連記事:企業評価書の制度全体像を詳しく知りたい方は「外国人技能実習 企業評価書って何?|実は債務超過でも受け入れ可能です」もご覧ください。
債務超過でも外国人受入れが認められる企業の共通点

債務超過だからといって、外国人の受入れが一律に拒否されるわけではありません。審査機関が重視するのは、「今後、経営が改善していく見通しがあるかどうか」です。
実際に、債務超過の状態から企業評価書を提出し、審査を通過している企業は多数あります。それらの企業に共通するポイントを整理します。
改善見通しの「具体性」が最重要
「頑張ります」「売上を増やします」といった精神論では審査は通りません。審査機関が求めているのは、数字に裏付けられた具体的な改善計画です。
たとえば、リネンサプライ業の場合、次のような項目を数値で示す必要があります。
| 改善項目 | 数値で示す内容(例) |
|---|---|
| 売上の回復見通し | 「ホテルA社との新規契約で月額○万円の増収を見込む」 |
| コスト削減策 | 「ボイラーの省エネ運転で月○万円の燃料費を削減済み」 |
| 利益改善の時期 | 「今期は営業利益○万円の黒字転換を計画」 |
| 債務超過の解消時期 | 「○年後に純資産がプラスに転じる計画」 |
利益が改善傾向にあること
債務超過の金額が大きくても、直近の業績が改善傾向にある企業は審査を通過しやすくなります。
たとえば、2期前は500万円の赤字だったが、直近期は100万円の黒字になっている。このように「回復のトレンド」が決算書から読み取れると、改善計画の実現可能性が高く評価されます。
資金繰りが安定していること
債務超過であっても、手元に十分な現預金があったり、金融機関からの借入枠が確保されていたりすれば、「すぐに倒産するリスクは低い」と判断されます。
月商の1〜2か月分の手元資金があるか、メインバンクとの関係は良好か。こうした点も企業評価書に記載することで、審査の信頼性が高まります。
債務超過の原因が「一時的」であること
リネンサプライ業の場合、コロナ禍によるホテル需要の急減や、重油価格の高騰による一時的なコスト増が債務超過の原因になっているケースが多くあります。
こうした外部環境に起因する一時的な要因であれば、環境が改善すれば業績も回復するという論理が成り立ちます。企業評価書では、この因果関係を明確に説明することが重要です。
企業評価書の書き方と審査通過のポイント

企業評価書は、大きく分けて3つのパートで構成されます。それぞれ何を書くべきか、そしてどこで審査に落ちやすいのかを具体的に解説します。
企業評価書の基本構成(3つのパート)
| パート | 記載内容 | リネンサプライ業での記載例 |
|---|---|---|
| 財務分析 | 直近2〜3期の財務数値の推移、債務超過額の確認 | 売上・利益・純資産の3期比較、損益分岐点の算出 |
| 原因分析 | なぜ債務超過に至ったかの客観的説明 | コロナ禍でのホテル受注減、重油高騰、設備投資負担 |
| 改善計画 | 今後の売上回復・コスト削減・債務超過解消のスケジュール | インバウンド回復による受注増、価格改定交渉、省エネ投資 |
審査で「落ちる」企業評価書のNG例
実務上、審査が通らない企業評価書には明確なパターンがあります。
NG例①:数字の根拠がない
「来期は売上が20%増える見込み」と書いてあるのに、その根拠(新規受注先、契約書、商談状況など)が示されていない。審査機関は「本当にそうなるのか」を厳しく見ます。
NG例②:過去の業績と大きく乖離した楽観計画
過去5年間ずっと売上が横ばいなのに、「来期は売上2倍」と書いてある。こうした計画は「現実を理解していない」と判断され、かえってマイナス評価になります。
NG例③:業界の構造的問題に触れていない
リネンサプライ業であれば、低単価構造や燃料費の問題を避けて通れません。こうした業界固有の課題を説明せずに「コスト削減します」とだけ書いても、説得力がありません。
審査で「通る」企業評価書のOK例
OK例:原因と対策が対応している
「コロナ禍でホテルA社の受注が月○万円減少した(原因)→ 2023年以降、インバウンド回復でA社の稼働率が○%に戻り、受注額は月○万円まで回復済み(対策・実績)→ さらに新規取引先B社との契約が○月に成立予定で、月額○万円の上乗せを見込む(将来計画)」
このように、「過去(原因)→ 現在(改善の兆し)→ 未来(具体的計画)」を一本の線でつなげることが、通過する企業評価書の最大のポイントです。
関連記事:改善見通し計画の具体的な作り方を知りたい方は「企業評価書|債務超過企業の改善見通し計画の作り方」もご覧ください。
企業評価書を専門家に依頼すべき3つの理由

作成できる資格者が限定されている
繰り返しになりますが、企業評価書を作成できるのは中小企業診断士または公認会計士に限られます(特定技能の場合は税理士も可)。税理士や行政書士に依頼しても、法的に有効な企業評価書にはなりません。
さらに、資格を持っているだけでは不十分です。企業評価書の作成は特殊な分野であり、制度の仕組みや審査基準を理解した実務経験が不可欠です。経験のない専門家に頼むと、審査で差し戻されるリスクが高まります。
自社だけで作成するリスク
「費用を抑えたいから自分で書こう」と考える経営者もいますが、これは大きなリスクを伴います。
まず、企業評価書は第三者(公的資格を持つ外部の専門家)が評価した書面でなければ審査機関に受理されません。自社で作成した改善計画書だけでは、「客観性がない」として却下される可能性が高いのです。
加えて、審査のポイントを知らないまま書類を作ると、本来なら通過できるケースでも不承認になってしまうことがあります。不承認になれば、再申請に時間がかかり、その間に外国人の受入れが止まり、現場の人手不足が深刻化するという悪循環に陥ります。
専門家に依頼するメリット
中小企業診断士に企業評価書の作成を依頼する最大のメリットは、「審査を通すための実務ノウハウ」を活用できることです。
企業評価書の作成費用の相場は、15万円〜20万円程度(税抜)が一般的です。必要な書類は直近2〜3期分の決算書で、あとは経営者へのヒアリングで情報を収集します。
所要期間は、書類が揃えば最短3日〜2週間程度で納品できるケースが多くあります。「来月までに提出しなければいけない」という急ぎの依頼にも対応できる専門家を選ぶことが重要です。
関連記事:建設業での企業評価書の事例を知りたい方は「債務超過でもOK!外国人技能実習・特定技能受け入れ完全ガイド」もご覧ください。
リネンサプライ業の企業評価書に関するよくある質問

赤字決算でも外国人の受入れはできますか
はい、可能です。赤字決算=債務超過ではありません。赤字(当期の利益がマイナス)でも、純資産がプラスであれば債務超過にはあたらず、企業評価書は不要です。ただし、赤字が続いて純資産がマイナスに転じた場合は、企業評価書の提出が求められます。
債務超過の金額が大きくても大丈夫ですか
債務超過の金額に明確な上限基準は公表されていません。重要なのは金額の大きさではなく、「改善の見通しが合理的に示せるかどうか」です。実際に、数百万円〜数千万円の債務超過がある企業でも、適切な企業評価書を提出して受入れが認められた事例はあります。ただし、改善の見通しが全く立たないほど深刻な場合は、まず経営改善に取り組む必要があります。
企業評価書の作成にどれくらいの期間がかかりますか
決算書が揃っていれば、ヒアリング後最短3日〜2週間程度で納品されるのが一般的です。ただし、決算内容が複雑な場合や、追加資料の準備が必要な場合はもう少し時間がかかることがあります。監理団体から「〇月〇日までに提出」と期限を指定されている場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
企業評価書の費用はいくらですか
一般的な相場は15万円〜20万円程度(税抜)です。債務超過の金額や事業の複雑さ、緊急対応の有無によって多少変動します。この費用は、外国人スタッフの安定的な確保と事業継続のための「投資」と考えるべきです。人材が確保できず事業が停止するリスクと比較すれば、決して高い金額ではありません。
2027年の育成就労制度でも企業評価書は必要ですか
2027年4月に施行予定の育成就労制度でも、債務超過企業に対する財務審査の枠組みは基本的に引き継がれる見込みです。新制度でも企業評価書の提出が求められるケースが出てくることが想定されるため、現時点で債務超過の企業は、早めに対策を講じておくことが重要です。
まとめ|企業評価書の準備は「今すぐ」始めるべき

リネンサプライ業は、病院・介護施設・ホテルという社会インフラを支える不可欠な産業です。しかし、低単価・高コスト・人手不足という三重の構造問題を抱え、債務超過に陥るリスクが常に存在します。
外国人スタッフの受入れが止まれば、現場は即座に回らなくなります。洗濯物が処理できなければ、病院にはシーツが届かず、ホテルには清潔なタオルが届きません。受入れ停止=事業停止のリスクと直結している業種だからこそ、企業評価書の準備は先延ばしにできません。
企業評価書は、中小企業診断士や公認会計士といった専門家にしか作成できない書類です。そして、業界の事情を理解し、審査の実務を知っている専門家に依頼することで、審査通過の可能性は大きく高まります。
「債務超過だからもう無理だ」と諦める前に、まずは専門家に相談してください。適切な企業評価書があれば、道は開けます。
企業評価書のご相談は、KICKコンサルティング株式会社へ
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)では、中小企業診断士が直接ヒアリングを行い、リネンサプライ業の業界事情を踏まえた企業評価書を作成します。
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企業評価書の作成サービス詳細
サービスの流れ・費用・実績については「企業評価書 作成サービスページ」をご確認ください。









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