
設備メーカーから届いた見積書を前に、「この投資のうち、どこまでが税制の対象になるのか」で手が止まる。大胆な投資促進税制のご相談で、最初に出てくるつまずきがこれです。見積書には「工場建設一式」「生産ライン一式」としか書かれておらず、資産の種類ごとの金額が分からないことが多いからです。
結論から言うと、対象になるかどうかは「資産の種類」「1台あたりの金額」「投資計画全体の金額」の3段階で決まります。見積書を資産の種類ごとに分け、1台あたりの下限を確かめ、合計が5億円(中小企業者等の場合)に届くかを見る。この順番で確認すれば、自社の投資のどこまでが対象になるかを整理できます。
この記事では、経済産業省の申請要領とパンフレットをもとに、大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)の対象になる会社と設備、資産ごとの取得価額の下限、対象外になる資産、税制メリットの中身、適用要件の要点を順番に解説します。制度の全体像は柱となる解説記事にまとめていますので、本記事は「自社の設備が対象になるか」の判定に絞ります。
この記事はこんな方におすすめです
- 見積書の分け方に迷っている経理担当者
- 5億円以上の工場新設や設備更新を検討している社長
- どの設備が対象外になるのかを先に知りたい経営者
- 建物と機械とソフトウエアをまとめて投資する計画がある方
この記事で分かること
- 対象になる会社と受けられる優遇の種類
- 資産の種類ごとの取得価額の下限と合算の特例
- 対象外になる資産と投資計画のパターン
- 即時償却と税額控除の中身と、資産ごとの選び方
※本記事は経済産業省の制度ページ・申請要領・Q&A(2026年10月時点)をもとに作成しています。税務の個別判断は税理士にご確認ください。
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大胆な投資促進税制の対象企業は?青色申告の法人と優遇の2つの型

まず、どの会社が使え、何がもらえる制度なのかを押さえます。ここを飛ばして設備の話に入ると、あとで「そもそも自社が対象外だった」という手戻りが起きます。
対象は青色申告をする法人と個人事業主
対象は、青色申告書を提出している法人と個人事業主です。製造業に限らず、建設業、物流業、小売業、サービス業など、原則としてすべての業種が使えます。風俗営業等の用に供する設備は対象外です。
ただし、中小企業者等とそれ以外(大企業)で、投資額の下限が5億円と35億円に分かれます。資本金1億円以下の法人は、原則として5億円の区分で判定されます。一方で、資本金1億円超などの大規模法人に株式の2分の1以上を持たれている会社は、資本金が1億円以下でも中小企業者等に入りません。親会社がある場合は、最初に資本関係を確認してください。
優遇は即時償却か税額控除の選択制
優遇の中身は2つです。1つは、対象設備の取得価額の全額をその年度の損金にできる「即時償却」。もう1つは、取得価額の7%(建物・建物附属設備・構築物は4%)を法人税額から直接差し引く「税額控除」です。どちらを使うかは、投資計画全体ではなく対象資産ごとに選べます。詳しくは3章で解説します。
想定される活用イメージ
経済産業省の周知資料では、工場を新設して生産設備と制御用ソフトウエアを入れる、総額100億円の計画が例として示されています。法人税率30%で機械的に計算した参考値です。
| 対象資産 | 投資額 | 選んだ措置 | 効果の目安 |
|---|---|---|---|
| 建物(工場の建屋) | 50億円 | 即時償却 | キャッシュフロー改善15億円程度 |
| 機械装置(生産設備) | 30億円 | 税額控除7% | 減税2.1億円程度 |
| ソフトウエア(製造ラインの制御) | 20億円 | 税額控除7% | 減税1.4億円程度 |
中小企業の5億円から10億円規模でも、考え方はこの例と同じです。建物、機械装置、ソフトウエアという3種類の資産を1つの計画に束ね、資産ごとに措置を選ぶ。この「束ねて、分けて選ぶ」が本制度の基本形になります。
大胆な投資促進税制の対象設備は?7種類の資産と取得価額の下限

ここが本記事の中心です。対象資産は7種類で、それぞれに1台(1件)あたりの最低取得価額が決まっています。投資計画全体の5億円とは別に、設備1つひとつにも金額の下限があると覚えてください。
対象資産は7種類、対象外になる資産もある
対象になるのは、国内の自社事業に使う「生産等設備」を構成する次の資産です。
- 建物
- 構築物
- 機械装置
- ソフトウエア
- 建物附属設備
- 工具・器具備品
一方、次の資産や投資は対象になりません。特に「確認書が出る前に取得した設備」は、どれだけ金額が大きくても対象外です。
- 中古の設備
- 貸付け用の設備
- 試験研究用の設備
- 建物だけの投資計画
- 風俗営業等の用に供する設備
- 確認書の発行前に取得した設備
- 事務用の器具備品、本店、寄宿舎、福利厚生施設
よくある誤解が「本社ビルの建て替えに使える」というものです。本店や事務用の備品は生産等設備に当たらないため対象外です。工場の建屋のように、事業の生産や提供に直接使う建物が対象になります。
資産区分ごとに1台あたりの取得価額の下限がある
| 資産の種類 | 1台・1件あたりの下限 | 補足 |
|---|---|---|
| ソフトウエア | 70万円以上 | 複写して販売するための原本などは除く |
| 工具・器具備品 | 120万円以上 | 40万円以上のものを合算できる特例あり |
| 建物附属設備・構築物 | 120万円以上 | 建物附属設備は60万円以上のものを合算できる特例あり |
| 機械装置 | 160万円以上 | 1台または1基で判定 |
| 建物 | 1,000万円以上 | 増築・改築・修繕・模様替の工事も含む |
建物は新築だけでなく、増築・改築・修繕・模様替のための工事による取得も対象です。既存工場の大規模な改修を、新しい生産ラインと組み合わせる計画でも使える余地があります。
合算で下限を満たせる2つの特例
工具・器具備品と建物附属設備には、1台では下限に届かなくても、合算で満たせる特例があります。
- 工具・器具備品は1台40万円以上のものを集め、同一計画・同一事業年度で合計120万円以上
- 建物附属設備は1件60万円以上のものを集め、同一計画・同一事業年度で合計120万円以上
たとえば、1台60万円の検査機器を4台入れる計画なら、1台では120万円に届きませんが、合計240万円で特例の要件を満たします。小さな設備を切り捨てる前に、この合算ができないかを確認してください。
見積書は資産の種類ごとに分けて考える
支援の現場で多いのは、見積書が「一式」でまとまっていて、建物附属設備と機械装置の境目が分からないケースです。空調や電気設備は建物附属設備に、生産ラインの搬送装置は機械装置に入ることが多いのですが、どの資産区分に当たるかは税務上の判断で、控除率(7%か4%か)と下限額の両方に影響します。
今日からできることは、メーカーに「資産区分ごとの内訳」を出してもらうことです。建物、建物附属設備、構築物、機械装置、工具・器具備品、ソフトウエアの6つの箱に金額を振り分けた一覧を作ると、どの箱が下限を満たし、合計が5億円に届くかが一目で分かります。区分に迷う項目は、税理士に判定を依頼してください。
大胆な投資促進税制の税制メリットは?即時償却と税額控除の中身

即時償却は取得価額の全額を初年度の損金にできる
即時償却は、対象設備の取得価額の全額を、事業に使い始めた年度の損金にする措置です。通常なら耐用年数にわたって分割して費用化するものを、初年度に一括で落とせます。ただし、将来の減価償却費を前倒しするだけで、耐用年数を通した税負担の合計は変わりません。効果は「課税の繰延べ」と、それによる手元資金の確保です。
税額控除は機械等7%、建物等4%で法人税額の20%が上限
| 資産の区分 | 控除率 | 控除の上限 |
|---|---|---|
| 機械装置、工具・器具備品、ソフトウエア | 取得価額の7% | 当期の法人税額の20% |
| 建物、建物附属設備、構築物 | 取得価額の4% | 当期の法人税額の20% |
税額控除は、法人税額そのものを減らす措置です。即時償却と違い、効果が後年度に戻ってくることはありません。ただし控除できるのは当期の法人税額の20%までで、超えた分は原則として切り捨てです。法人税額が小さい年度に大きな控除を当てると、使い切れない部分が出ます。
即時償却と税額控除は資産ごとに選べる
即時償却と税額控除は、対象資産ごとに選べます。経済産業省の例のように、建物は即時償却、機械装置とソフトウエアは税額控除、という組み合わせが可能です。「利益が出る年度の損金を建物の即時償却でつくり、機械装置の税額控除は法人税額の20%の枠に収める」といった設計が現実的な使い方になります。
控除限度を超えた分の扱い
税額控除が法人税額の20%を超えた部分(控除限度超過額)は、原則として翌期以降に繰り越せません。例外として、国際的な事業環境の急変に対応する計画(国際経済事情激変事業適応計画)の認定を受けた事業者に限り、最大3年間の繰越しが認められています。一般の中小企業は、この例外に頼らず「当期に使い切れる金額」で税額控除を考えるのが基本です。
ご相談いただいても、売り込みは一切ありません。見積書の分け方や、資産ごとの措置の組み合わせから、一緒に整理します。
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大胆な投資促進税制の要件は?投資計画・投資規模・投資利益率・期限

設備が対象資産に当たり、下限も満たしたら、次は投資計画全体の要件です。ここでは判定に必要な要点だけを押さえます。手続きの詳細は柱となる解説記事の申請の流れをご覧ください。
投資計画を作り、経済産業大臣の確認を受ける
本制度は、投資計画を作り、経済産業大臣(窓口は本社所在地を管轄する経済産業局)の確認を受けた設備だけが対象です。確認を受けていない投資は、資産の条件を満たしていても使えません。計画には、導入する設備の内容、投資額、資金調達の方法、今後の成長投資の方針を記載し、取締役会等の決議に基づくものである必要があります。
投資規模は「投資計画の単位」で判定する
対象設備の取得価額の合計が35億円以上(中小企業者等は5億円以上)であることが要件です。判定は設備ごとではなく投資計画の単位で行うため、複数の設備を組み合わせて5億円に届けばよいことになります。計画の単位は工場単位や店舗単位が想定され、相乗効果が見込める複数拠点の投資を1つの計画にまとめることも認められています。
投資利益率は年平均15%以上が条件
投資計画の年平均の投資利益率が15%以上と見込まれることが必要です。計算式は「(営業利益+減価償却費)の年平均増加額÷対象設備の取得価額の合計」です。6億円の投資なら、営業利益と減価償却費の増加額の合計で年9,000万円以上が目安になります。この見込みの前提も確認の対象になるため、売上の増加、原価の改善、減価償却費の増加の3つに分けて根拠を用意してください。
確認申請と取得の2つの期限
確認申請の受付は2026年7月31日に始まりました。2029年(令和11年)3月31日までに経済産業大臣の確認を受け、確認の日から5年以内に設備を取得して事業に使い始める必要があります。確認書の発行には申請から30日程度(休日・補正期間を除く)かかるため、設備の取得日から逆算して申請してください。
申請方法と手続きの流れ
申請は、公認会計士または税理士の事前確認書を添えて、Gビズフォームから管轄の経済産業局に行います。申請前に経済産業局へ相談することが推奨されています。
大胆な投資促進税制の注意点は?併用制限と不適用措置

ほかの設備投資税制との併用制限
確認を受けた法人は、投資計画の実施期間内の日を含む事業年度について、地域未来投資促進税制、中小企業経営強化税制(繰越税額控除は可)、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の3つを使えなくなります。対象設備だけでなく、会社全体(事業者単位)で止まる点が落とし穴です。毎年、中小企業経営強化税制で小口の設備を優遇してきた会社は、どちらが有利かを計画期間全体で比べてください。
中小企業者等以外に適用される不適用措置
中小企業者等以外の法人は、継続雇用者の給与等支給額の増加率1%以上と、国内設備投資額が当期償却費総額の30%超の両方を満たさない事業年度は、即時償却も税額控除も使えません。資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上、または従業員2,000人超の法人は2%以上・40%超になります。中小企業者等と農業協同組合等には、この措置はありません。
対象・要件のポイントのおさらい
- 対象は青色申告の法人・個人で業種の限定なし
- 優遇は即時償却か税額控除(7%、建物等は4%)を資産ごとに選択
- 資産は7種類で、1台あたりの下限は70万円から1,000万円
- 投資計画全体で35億円以上(中小企業者等は5億円以上)、投資利益率15%以上
- 確認書の発行前に取得した設備と、建物だけの計画は対象外
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)の設備投資税制の活用支援

KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・認定経営革新等支援機関として、大型の設備投資を税制と資金繰りの両面から支援しています。本制度では、見積書を資産区分に分ける段階から入り、投資利益率15%の根拠を「売上の増加」「原価の改善」「減価償却費」に分解して数字にし、即時償却と税額控除の有利判定、税理士・公認会計士の事前確認との連携、設備の取得日から逆算した申請スケジュールの設計まで伴走します。
税務の判断は顧問税理士と連携し、私たちは投資が利益を生む構造を数字で示す部分を担います。要件に届くかどうか分からない段階のご相談でも、整理の価値があります。
制度の全体像と申請の8ステップを先に押さえたい方へ
【まるっと解説】大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)とは?即時償却・税額控除7%の対象・要件・申請の流れをわかりやすく解説
投資額が5億円に届かない設備投資で使える税制を知りたい方へ
まとめ 対象判定は「資産の種類」「1台の金額」「計画全体の金額」の順で
大胆な投資促進税制の対象になるかは、資産が7種類のどれに当たるか、1台あたりの下限を満たすか、投資計画全体で5億円(中小企業者等)に届くか、の3段階で決まります。建物だけの計画、中古、確認書の発行前に取得した設備は対象外です。即時償却と税額控除は資産ごとに選べ、税額控除は法人税額の20%が上限になります。
今日できる一歩は、見積書を6つの資産区分に振り分けた一覧を作ることです。その一覧があれば、税理士への相談も、経済産業局への事前相談も、具体的に進みます。
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大胆な投資促進税制の対象・要件に関するよくある質問

1台40万円の工具が複数ある場合も対象になりますか?
対象になる可能性があります。工具・器具備品は1台120万円以上が原則ですが、1台40万円以上のものを同一の投資計画・同一の事業年度で合計し、120万円以上になれば要件を満たします。建物附属設備も1件60万円以上のものを合計120万円以上にする特例があります。
既存の工場を改修する場合も建物として対象になりますか?
対象になります。建物は新築だけでなく、増築・改築・修繕・模様替のための工事による取得も含まれます。ただし1件1,000万円以上であること、建物だけの計画ではなく機械装置などと組み合わせた計画であることが前提です。
本社の建て替えや事務所の備品は対象になりますか?
対象になりません。本店、寄宿舎、福利厚生施設、事務用の器具備品は、生産等設備に当たらないため除かれています。工場や店舗など、事業の生産や提供に直接使う建物が対象です。
建物は即時償却、機械は税額控除という組み合わせはできますか?
できます。即時償却と税額控除は対象資産ごとに選べます。経済産業省の試算例でも、建物を即時償却、機械装置とソフトウエアを税額控除7%とする組み合わせが示されています。
税額控除が法人税額の20%を超えた分はどうなりますか?
原則として切り捨てになり、翌期以降には繰り越せません。例外として、国際経済事情激変事業適応計画の認定を受けた事業者に限り、最大3年間の繰越しが認められています。
資産区分の判定は誰に相談すればよいですか?
減価償却資産の区分は税務上の判断になるため、税理士または所轄の税務署に確認してください。制度の一般的な質問は大胆な投資促進税制サポートセンター(0570-093-930、平日9時から17時30分)、申請は本社所在地を管轄する経済産業局が窓口です。
参考資料
- 経済産業省 大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)制度ページ
- 経済産業省 大胆な投資促進税制 パンフレット(PDF)
- 経済産業省 大胆な投資促進税制 申請要領(PDF)
- 経済産業省 大胆な投資促進税制 Q&A(PDF)










