長男に会社を継がせると決めた。だから自社株も長男に集めたい。ところが、他のお子さんの顔が浮かんだ瞬間に手が止まる——そんな状況ではないでしょうか。
会社を守るには、後継者に株を集めるのが一番わかりやすい形です。しかし株は、ご家族から見れば「一番大きな財産」でもあります。
結論から申し上げます。生前に贈与した自社株を、遺留分の争いから切り離しておく制度があります。
それが経営承継円滑化法の「遺留分に関する民法の特例」です。除外合意と固定合意という2つの形があります。
ただし、この制度は書類を出せば通るものではありません。推定相続人全員の合意が前提で、手続きにも相応の時間がかかります。
- 後継者に自社株を集めたい経営者の方
- 他のお子さんへの配慮に悩む方
- 親族内承継の進め方を探している方
- 相続で会社が割れるのが不安な方
- 何から手をつけるか迷っている方
- 自社株を集めるほど遺留分の問題が大きくなる理由
- 遺留分の民法特例(除外合意・固定合意)の違いと選び方
- 合意・大臣の確認・家庭裁判所の許可という3つの手順
- 制度を使える会社・旧代表者・後継者の要件
- 弁護士・税理士とKICKの役割の切り分け方
KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、中小企業診断士・事業承継士として、法人支援150社以上の実績で承継の全体設計に伴走してきました。
読み終えるころには、ご家族に何をどの順番で伝えればよいかが見えているはずです。
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自社株を後継者に集めるほど、親族内承継は遺留分でもつれやすくなる

結論を先に申し上げます。親族内承継で自社株を後継者に集中させると、他の相続人の遺留分をめぐって話がこじれることがあります。
会社を守るための行動が、家族の中では「不公平」に見えてしまう。ここに構造上のねじれがあります。
理由は単純です。中小企業の場合、社長個人の財産の大半が自社株になっているケースが多いためです。
遺留分とは何か
遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に保障されている、相続財産の最低限の取り分のことです。
遺言や生前贈与によってこの取り分を下回った相続人は、その不足分を金銭で請求できます。
2018年の民法改正により、この請求は金銭の支払いを求める形に整理されました。改正法は2019年7月に施行されています。
つまり、請求されたときに動くのは株そのものではなく、現金です。ここが実務上とても重要な点になります。
自社株が「一番大きな財産」になっている
創業から数十年、利益を社内に積み上げてきた会社ほど、株式の評価は大きくなります。
売れるわけでもなく、配当が潤沢に出るわけでもない。それでも財産としては大きく数えられます。
この結果、後継者だけが大きな財産を受け取った形になり、他のご家族との差が生まれます。
しかも自社株の評価は、会社の業績が伸びるほど上がっていきます。何もしないでいる間にも、差は静かに広がっていきます。
放置したときに起きる3つのこと
手を打たないまま相続が起きると、次の3つが順番に起こりやすくなります。
- 後継者以外の相続人が、不足分の金銭を請求する
- 後継者に手元資金がなく、株を売るか会社から借りるかの選択を迫られる
- 話がまとまらず、株式が複数の相続人に分かれて残る
3番目まで進むと、会社の意思決定に直接影響が出ます。議決権が割れた会社は、増資も、事業の売却も、定款の変更も進められなくなります。
金融機関の目にも、株主構成の乱れは映ります。融資の場面で説明を求められることもあります。
「うちの子たちは仲がいい」が通じにくい理由
多くの社長がこうおっしゃいます。「うちは兄弟仲がいいから大丈夫」と。
実際、社長がご健在のうちは、そのとおりであることがほとんどです。
問題は、相続が起きるのが社長のいない場面だということです。そこには配偶者や、それぞれのご家庭の事情も加わります。
兄弟の仲が悪いから揉めるのではありません。判断の基準を決めた人がいないから、それぞれの解釈が食い違うのです。
だからこそ、社長がご健在で、家族関係が良好なうちに形を決めておく意味があります。
遺留分の民法特例で自社株の分散を防ぐ3つの手順

結論です。生前贈与した自社株を遺留分の問題から切り離す手順は、大きく3つあります。
「推定相続人全員の合意を得る」「経済産業大臣の確認を受ける」「家庭裁判所の許可を受ける」。この順番で進みます。
3つとも欠かせません。1つでも欠けると、合意は効力を持ちません。
遺留分の民法特例とは何か
遺留分の民法特例とは、経営承継円滑化法に定められた、遺留分の計算に関する民法の例外ルールのことです。
正式には「遺留分に関する民法の特例」と呼びます。根拠法は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」です。
推定相続人とは、いま相続が起きたと仮定した場合に相続人になる方のことです。配偶者やお子さんが典型です。
この特例では、後継者と、遺留分を持つ推定相続人の全員が書面で合意します。その合意に、公的な確認と許可を重ねて効力を持たせます。
除外合意と固定合意の違い
特例には2つの型があります。除外合意と固定合意です。
除外合意とは、後継者が生前贈与を受けた自社株を、遺留分を計算するときの基礎財産から外す合意のことです。
固定合意とは、その自社株を基礎財産に入れたうえで、評価する価額を合意時点の価額に固定する合意のことです。
| 項目 | 除外合意 | 固定合意 |
|---|---|---|
| 自社株の扱い | 遺留分の基礎財産から外す | 基礎財産に入れる |
| 評価のタイミング | 計算の対象外 | 合意した時点の価額で固定 |
| 株価が将来上がった場合 | 影響を受けない | 上昇分は反映されない |
| 株価が将来下がった場合 | 影響を受けない | 下落分も反映されない |
| 価額の証明 | 不要 | 弁護士・公認会計士・税理士等による相当な価額である旨の証明が要る |
| 向いている場面 | 株の分散を確実に避けたい | 後継者の努力による上昇分を切り分けたい |
2つは併用もできます。株式の一部を除外合意、残りを固定合意とする組み立ても可能です。
さらに、後継者以外の推定相続人が受けた贈与についても、同じ合意の中で扱いを決められます。これを付随合意と呼びます。
この付随合意があるおかげで、「後継者だけが得をする話」ではなく「家族全体の取り決め」として整理できます。
3つの手順を順番に進める
実際の流れは次のとおりです。順番を飛ばすことはできません。
- 推定相続人全員と後継者で合意し、書面にする/遺留分を持つ推定相続人が1人でも欠けると成立しません
- 経済産業大臣の確認を受ける/合意した日から1か月以内に申請します。要件を満たしているかが審査されます
- 家庭裁判所の許可を受ける/確認を受けた日から1か月以内に申立てをします。許可されてはじめて効力が生じます
ここで注意していただきたいのは、2つ目と3つ目には、それぞれ1か月という短い期限があることです。
合意してから慌てて書類を集めると、この期限に追われます。逆算して準備しておく必要があります。
家庭裁判所では、合意が当事者の真意によるものかが確認されます。形だけ署名をもらう進め方では通りません。
どのくらいの時間を見ておくか
手続きそのものの期限は短いのですが、実際に時間がかかるのはその手前です。
ご家族一人ひとりに趣旨を説明し、納得していただく段階が最も長くなります。
会社の状況、株の評価、他の財産の配分。説明すべきことは多岐にわたります。
一度の集まりで決まることは、まずありません。何度か話す時間を織り込んでおくのが現実的です。
制度を使うための要件
会社・旧代表者・後継者のそれぞれに要件があります。主なものを整理します。
| 対象 | 主な要件 |
|---|---|
| 会社 | 中小企業者であること/合意の時点で3年以上引き続き事業を行っている非上場企業であること |
| 旧代表者 | 過去または合意の時点で会社の代表者であること/推定相続人のいずれかに株式を贈与したこと |
| 後継者 | 合意の時点で会社の代表者であること/旧代表者からの贈与等で株式を取得し、議決権の過半数を持っていること |
| 合意 | 遺留分を持つ推定相続人全員と後継者が、書面で合意していること |
後継者がすでに代表者になっていることが求められる点に、気づかれたでしょうか。
つまり、この特例は「代表を譲ったあと」に使う制度です。代表交代の予定とセットで考える必要があります。
要件の当てはめには、株主名簿や登記事項、贈与の記録といった資料が要ります。書類の整備そのものにも時間がかかります。
制度の使い方や資料の整え方に迷われたら、自社株の遺留分対策を含む事業承継コンサルティングという選択肢もご検討ください。
特例だけに頼らない組み立て
民法特例は強力ですが、単独で使うものではありません。
遺言、生命保険による代償金の準備、種類株式の設計。こうした手段と組み合わせて全体を作ります。
特に、後継者以外のご家族に渡す財産をどう用意するかは、早い段階で考えておく価値があります。
法人保険は、承継の局面で役割が変わります。目的と保険金額、受取人がいまの計画と合っているかを点検しておくと安心です。
削りすぎれば、万一のときに事業継続やご家族の生活に影響が出ます。減らす見直しではなく、守るための再設計という視点が要ります。
初回のご相談で、合意書の作成をお願いすることはありません。まずは制度が使える状況かどうかの整理からで構いません。お断りいただいても結構です。
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遺留分の民法特例を整えた会社が手に入れる3つの未来

手続きを終えた会社では、3つの変化が起きます。議決権、資金、そして家族関係です。
いずれも、書類が1枚できたという話ではありません。会社と家族の関係が整理された状態が手に入ります。
議決権が割れない会社になる
自社株が遺留分の対象から外れれば、株を売って支払う必要がなくなります。
後継者の手元に議決権が残るため、相続の後も意思決定が止まりません。
重要な決議を単独で通せる状態が保たれ、設備投資も事業の再編も、これまでどおり進められます。
取引先や金融機関に対しても、株主構成を明確に説明できます。信用の面でも効いてきます。
後継者が資金の心配から解放される
遺留分の請求は、金銭の支払いを求める形で行われます。つまり現金が要ります。
会社を継いだばかりの後継者にとって、この負担は重いものです。
特例で株を切り離しておけば、後継者は本業に集中できます。運転資金を守れることの意味は大きいはずです。
資金を会社から引き出さずに済むため、財務指標を傷めることもありません。
家族が納得したまま次へ進める
3つ目が、最も価値のある変化かもしれません。
合意の手続きは、ご家族全員に会社の状況を説明する機会になります。
なぜ後継者に株を集めるのか。他のご家族には何を用意するのか。この2つを言葉にして共有できます。
説明を受けて納得したうえでの合意は、相続が起きた後の火種を減らします。
ご家族を説得する相手として見るのではなく、会社の将来を一緒に決める仲間として招く。そういう進め方ができます。
議決権の安定、後継者の資金の安心、そして家族の納得。この3つを共に手に入れましょう。
自社だけで推定相続人全員の合意をまとめる限界と、事業承継士による伴走支援

ここまで読まれて、「自分でも進められそうだ」と感じられたかもしれません。
実際、制度の骨格はそれほど複雑ではありません。難しいのは、進め方の設計と、専門家の使い分けです。
自社だけで進めたときにつまずく3つの場面
これまでのご相談で、つまずきやすい場面はおおむね3つに絞られます。
- 説明の順番を誤る/全員を一度に集めて切り出し、感情的な反発を招く
- 株価の根拠を示せない/固定合意で必要になる価額の証明が用意できない
- 期限に追われる/合意後の1か月という短い期間で書類を揃えきれない
特に1つ目は、後から取り返しがつきません。一度こじれた話し合いを元に戻すには、何倍もの時間がかかります。
誰に、どの順番で、どこまで話すか。この設計を先に決めておくことが、実は最大の準備になります。
専門家の役割を切り分ける
この分野は、複数の専門家が関わります。役割を混同すると、話が前に進みません。
| 担い手 | 担当する領域 |
|---|---|
| 弁護士 | 遺留分をめぐる法的な判断、合意書の法的な検討、調停や訴訟への対応 |
| 税理士 | 個別の税務判断、株式の評価に関する税務、贈与や相続の申告 |
| 司法書士 | 会社や不動産の登記 |
| KICK(中小企業診断士・事業承継士) | 承継全体の設計、家族への説明の組み立て、専門家との連携、法人保険の再設計 |
遺留分をめぐる法的な判断や、調停・訴訟への対応は弁護士の領域です。私たちが代わりに行うことはありません。
税額の計算や申告は税理士の領域です。株式の評価についても、税務上の判断は税理士にお願いします。
私たちが担うのは、その手前と全体です。誰にいつ何を頼むかを決め、話が噛み合う状態を作ります。
KICKが伴走する範囲
KICKコンサルティング株式会社は、中小企業診断士・事業承継士として承継の全体設計に伴走します。認定経営革新等支援機関でもあります。
具体的には、次のような場面でお役に立てます。
- いまの株主構成と家族構成を整理し、論点を洗い出す
- 民法特例が使える状況かどうかを、要件に沿って確認する
- 除外合意と固定合意のどちらが合うかを、会社の見通しから検討する
- ご家族への説明の順番と伝え方を組み立てる
- 弁護士・税理士との連携を整え、手続きの日程を逆算する
- 事業承継専属の保険代理店として、法人保険の役割を点検する
法人支援150社以上の中で、株の話と家族の話が噛み合わないまま止まっている会社を数多く見てきました。
共通の敵は、ご家族でも他の専門家でもありません。バラバラのまま時間だけが過ぎる状況です。
お話をうかがったうえで、「いまは動かないほうがよい」とお伝えすることもあります。売り込みは一切しません。しつこい連絡もいたしません。
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遺留分の民法特例と自社株についてよくある質問

ご相談の場でよくいただく質問をまとめました。個別の判断は状況によって変わります。
Q. 遺留分の民法特例はどんな会社でも使えますか
A. どの会社でも使えるわけではありません。中小企業者であること、合意の時点で3年以上事業を続けている非上場企業であることなどの要件があります。
加えて、後継者が合意の時点で代表者になっており、議決権の過半数を持っている必要があります。
まずは株主名簿と登記事項を見て、要件に当てはまるかを確認するところから始めてください。
Q. 手続きにはどのくらい時間がかかりますか
A. 手続き自体の期限は短く、合意から大臣の確認申請まで1か月、確認から家庭裁判所への申立てまで1か月です。
ただし実際に時間がかかるのは、その前のご家族との話し合いです。数か月かかることも珍しくありません。
逆算すると、代表交代の予定が見えた時点で準備を始めるのが現実的です。
Q. 相続人の1人が反対したら使えませんか
A. 遺留分を持つ推定相続人全員の合意が要件ですので、1人でも合意しなければ成立しません。
反対の理由は、金額よりも「聞いていない」という気持ちであることが多いものです。
まず個別に会社の状況を説明し、他の財産の配分も含めて話す場を作ってみてください。それでも折り合わない場合は、弁護士に相談する道もあります。
Q. 除外合意と固定合意はどちらを選べばよいですか
A. 株の分散を確実に避けたいなら除外合意、後継者の努力で増えた価値を切り分けたいなら固定合意が候補になります。
固定合意では、合意した時点の価額が相当であることを弁護士・公認会計士・税理士等に証明してもらう必要があります。
両方を組み合わせることもできますので、会社の業績見通しと家族の状況を並べて検討してください。
Q. 遺言を書いていれば民法特例は不要ですか
A. 遺言と民法特例は役割が違います。遺言は財産の渡し方を決めるもので、遺留分そのものを消すことはできません。
一方、民法特例は生前贈与した自社株を遺留分の計算からどう扱うかを決めるものです。
実務では両方を組み合わせて設計します。どちらか一方で足りるとは考えないほうが安全です。
Q. まだ代表を譲っていませんが、いま準備できますか
A. 合意そのものは、後継者が代表者になってからになります。ただし準備は今日から始められます。
株主構成の整理、家族構成の確認、他の財産の棚卸し。この3つは代表交代の前でも進められます。
むしろ、社長がご健在で関係が良好なうちに話を始めておくほうが、後の合意はまとまりやすくなります。
Q. 事業承継税制と民法特例は別のものですか
A. 別の制度です。どちらも経営承継円滑化法に関わりますが、目的が異なります。
事業承継税制は贈与税・相続税の納税を猶予する制度で、遺留分の問題を解決するものではありません。民法特例は遺留分の計算に関する取り決めです。
税制の適用可否や税額の判断は税理士の領域ですので、あわせて相談先を整えておいてください。
Q. 兄弟には現金を渡すつもりですが、それでも特例は要りますか
A. 現金を用意しておくことは有効ですが、それだけでは足りない場合があります。
自社株の評価が将来上がれば、用意した現金では釣り合わなくなることがあるためです。
民法特例で株の扱いを先に決めたうえで、現金や保険で調整する。この順序で組み立てると、変動に強い形になります。
Q. 家庭裁判所の許可は難しいのですか
A. 合意が当事者の真意によるものであるかが確認されます。全員が内容を理解して合意していれば、過度に恐れる手続きではありません。
逆に、内容をよく分からないまま署名した方がいる場合は、そこで止まります。
だからこそ、説明を丁寧に重ねる時間が、手続きを通す一番の近道になります。
Q. 相談するときは何を持っていけばよいですか
A. 株主名簿、直近3期の決算書、登記事項証明書、そしてご家族構成のメモがあれば十分です。
これらが揃っていれば、要件の当てはめと論点の洗い出しがその場で進みます。
揃っていなくても構いません。まずは現在の株の持ち方をお聞かせいただくところから始めましょう。
まとめ

親族内承継で自社株を後継者に集めると、他の相続人の遺留分をめぐって話がこじれることがあります。
経営承継円滑化法の民法特例には、生前贈与した自社株を遺留分の基礎財産から外す除外合意と、価額を合意時点に固定する固定合意があります。
使うには3つの手順が要ります。推定相続人全員の合意、経済産業大臣の確認、そして家庭裁判所の許可です。
この3つを踏むには時間がかかります。しかも全員の合意が出発点です。
だからこそ、社長がご健在で、ご家族の関係が良好なうちに動く意味があります。合意が得られなければ、この制度は使えません。
遺留分をめぐる法的な判断は弁護士、税額の判断は税理士の領域です。私たちはその全体をつなぎ、進み方を設計します。
会社を守ることと、家族が納得することは、対立するものではありません。順番と伝え方を整えれば、両立できます。
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