
「人がいない。でも現場は今夜も動かさなきゃいけない」
産業用清掃業(ビル清掃・工場清掃)の経営者にとって、これは毎日の現実です。オフィスビルの清掃は夜22時から翌朝6時が中心。工場清掃はライン停止後の深夜・早朝に集中します。この時間帯に喜んで働く日本人は、年々減っています。
さらに追い打ちをかけるのが最低賃金の上昇です。2025年度の全国加重平均は時給1,121円(前年比+66円、過去最大の引き上げ幅)。厚生労働省の発表によると、全都道府県で初めて時給1,000円を超えました。深夜割増(25%増)を加えると、深夜帯の最低時給は約1,401円に達します。
一方で、清掃業の契約単価は据え置きのまま。人件費だけが毎年上がり、利益が削られ、赤字決算→債務超過に転落する企業が後を絶ちません。
「債務超過だから、もう外国人は雇えないのでは?」
そう思って諦めている経営者の方に、はっきりお伝えします。
債務超過でも、技能実習生・特定技能外国人の受入れは可能です。
その鍵となるのが、「企業評価書」(正式名称:改善の見通しについての評価書)です。この書面を正しく作成し、審査機関に提出すれば、許可を得られる可能性は十分にあります。
本記事では、産業用清掃業に特化して、企業評価書の仕組み・書き方・通過のポイントを実務ベースで解説します。
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産業用清掃業で企業評価書が必要になる理由

技能実習・特定技能の財務審査の仕組み
外国人技能実習生や特定技能外国人を受け入れるとき、申請先の審査機関(技能実習の場合は外国人技能実習機構=OTIT、特定技能の場合は出入国在留管理庁=入管)は、受入企業の財務状況を必ず確認します。
具体的には、直近2期分の決算書(貸借対照表・損益計算書)の提出が求められます。この決算書を見て、「この会社は外国人に給与をきちんと払えるか」「実習環境を維持できるか」を判断するわけです。
債務超過とは何か
債務超過とは、会社の負債(借金など)の合計が、資産(現金・設備・売掛金など)の合計を上回っている状態です。わかりやすく言うと、「会社が持っているもの全部を売っても、借金を返しきれない状態」です。
貸借対照表の「純資産の部」がマイナスになっていれば、その会社は債務超過です。
債務超過=即アウトではない
技能実習制度運用要領(平成29年公表)には、次の趣旨が定められています。
直近の事業年度で債務超過がある場合、中小企業診断士・公認会計士等の企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する第三者が、改善の見通しについて評価を行った書類の提出が必要。
(出典:技能実習制度運用要領/外国人技能実習機構)
つまり、債務超過=即不許可ではありません。「改善の見通しがある」ことを、専門家の評価書で証明できれば、受入れの道は開かれます。
制度ごとの作成資格の違い
| 制度 | 企業評価書の作成ができる資格者 |
|---|---|
| 技能実習 | 中小企業診断士、公認会計士 |
| 特定技能 | 中小企業診断士、公認会計士、税理士 |
| 経営・管理ビザ | 中小企業診断士、公認会計士、税理士 |
行政書士や社会保険労務士には、企業評価書の作成権限がありません。依頼先を間違えると書類そのものが無効になりますので、十分にご注意ください。
なぜ産業用清掃業は債務超過になりやすいのか

産業用清掃業が赤字になりやすい理由は、5つの構造的な問題が重なっているからです。
深夜・早朝の作業が中心で日本人が集まらない
ビル清掃の作業時間帯は、テナントが退去した夜22時~翌朝6時がメインです。工場清掃も製造ラインが止まる深夜帯に集中します。
この時間帯に働きたい日本人は少なく、求人を出しても応募が来ません。採用できても短期間で離職してしまうケースが大半です。結果として、常に人手不足の状態が続きます。
最低賃金の上昇が利益を直撃する
清掃業は労働集約型(人の手で作業する仕事の割合が大きいビジネスモデル)です。売上の大部分を人件費が占めます。
たとえば、清掃スタッフ10名を深夜帯で雇用している場合の試算を見てみましょう。
| 項目 | 2024年度 | 2025年度 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 最低賃金(全国平均) | 1,055円 | 1,121円 | +66円 |
| 深夜割増後の時給(×1.25) | 約1,319円 | 約1,401円 | +約82円 |
| 10名×6時間×月22日の月額人件費 | 約174万円 | 約185万円 | +約11万円/月 |
| 年間の人件費増加額 | — | — | +約132万円 |
※計算式:82円×10名×6時間×22日×12か月=約130万円(端数の関係で約132万円)
スタッフ10名の小規模な現場ですら、年間約132万円の人件費増加です。清掃業の営業利益率は一般的に3~5%程度と言われています。年商5,000万円の会社なら営業利益は150~250万円ですから、この金額は利益の大部分を吹き飛ばす計算になります。
契約単価が固定されやすい
ビル清掃の契約は年間契約が一般的です。発注者(ビルオーナーや管理会社)は「去年と同じ金額で」と要求してきます。人件費が上がったからといって、すぐに契約単価を上げてもらえるわけではありません。
特に入札案件の場合は、価格競争が激しく、原価ギリギリで落札せざるを得ないことも珍しくありません。
工場清掃は安全・品質要求が高くコストがかかる
食品工場や半導体工場の清掃は、衛生基準・安全基準が厳格です。専用の洗剤・機材・防護服が必要であり、清掃員の教育・研修コストも発生します。一般的なビル清掃よりもコストが高い一方、それに見合った単価が得られないケースが多くあります。
赤字の積み重ねが債務超過につながる
この「人件費↑」「契約単価→(横ばい)」「コスト↑」の三重苦が毎年続くと、利益が出ないどころか赤字が常態化します。赤字が2期、3期と続けば、純資産はどんどんマイナスに沈み、やがて債務超過に転落します。
産業用清掃業は、この構造的な問題を抱えているからこそ、他業種に比べて債務超過に陥りやすいのです。
債務超過でも受入れが許可される企業の共通点

債務超過でも技能実習・特定技能の受入れ許可を得ている企業には、3つの共通点があります。
改善の見通しが具体的な数値で示されている
審査機関が最も重視するのは、「今後、債務超過が解消される見通しがあるか」です。「頑張ります」「売上を伸ばす予定です」といった抽象的な表現では通りません。
許可を得た企業は、次のような具体的な数値計画を示しています。
| 項目 | 記載例 |
|---|---|
| 売上の見通し | 新規受注2件(月額80万円)が内定済み。既存契約3件の単価改定交渉により月額30万円の増収が見込める |
| コスト削減策 | 清掃機材のリース見直しにより年間60万円削減。消耗品の仕入先変更で月5万円削減 |
| 利益改善の時期 | 今期中(○年○月期)に経常利益200万円を確保し、純資産のマイナスを○○万円まで圧縮 |
| 債務超過解消の時期 | 2期以内(○年○月期まで)に純資産をプラスに転換する計画 |
資金繰りに問題がないことが証明できている
債務超過であっても、毎月のキャッシュフロー(お金の出入り)が回っていることは重要なポイントです。「給与の支払いが遅れている」「仕入先への支払いが滞っている」という状況では、外国人の給与も払えないと判断されます。
月次の資金繰り表や、銀行の融資枠の余裕などを示すことで、「資金ショート(お金が足りなくなること)の心配はない」と証明します。
債務超過の原因に合理的な説明がある
審査機関は「なぜ債務超過になったのか」の理由も見ています。産業用清掃業でよく見られる合理的な説明としては、次のようなものがあります。
・最低賃金の急激な上昇に対し、契約単価の改定が追いつかなかった
・新規設備(洗浄機・高圧洗浄機など)の導入による一時的な投資負担
・大口取引先の契約解除により、一時的に売上が減少した
・代表者からの借入れが多く、帳簿上は債務超過だが、実質的には資産超過(資産が借金を上回っている状態)である
特に代表者借入(役員借入金)のケースは非常に多くあります。これは社長個人が会社にお金を貸している状態です。この借入金は銀行のように返済を迫られるものではなく、返済の優先度が低い負債です。そのため、帳簿上は債務超過でも、実態としては健全な財務と見なされる場合があります。企業評価書では、この点を丁寧に説明することが重要です。
企業評価書の書き方と審査を通過するポイント

企業評価書の審査通過率を左右するのは、構成の論理性と数値の具体性です。
企業評価書の基本構成
企業評価書には法定の書式(決まったフォーマット)はありません。ただし、審査機関が求めている内容は決まっています。一般的に、次の5つの項目を網羅する必要があります。
| 構成 | 記載する内容 |
|---|---|
| 会社概要・事業内容 | 設立年、事業内容、従業員数、主な取引先、清掃対象(ビル・工場・施設の種類) |
| 財務状況の現状分析 | 直近2~3期の売上・利益・純資産の推移。債務超過の具体的な金額 |
| 債務超過に至った原因 | 最低賃金上昇、契約単価の据え置き、設備投資などを具体的な数字で説明 |
| 改善計画(収支見込み) | 売上増加策、コスト削減策、利益改善のスケジュール。月次・年次の数値を提示 |
| 債務超過解消の見通し | 何年何月までに純資産がプラスに転じるか。専門家としての評価・所見 |
審査で落ちるNG例
次のような企業評価書は、審査で却下される可能性が高くなります。
・「売上を伸ばします」とだけ書いてあり、根拠となる受注見込みや数字が一切ない
・債務超過の原因が「不明」「特になし」と記載されている
・改善計画の数字が非現実的(前年比200%の売上増など、根拠のない数字)
・資金繰りの見通しがまったく記載されていない
・作成者の資格・氏名・登録番号の記載がない
審査で通過するOK例
・債務超過の原因を「2024年度の最低賃金+51円の引き上げに対し、主要取引先A社・B社の契約単価改定が遅れたため、人件費が年間○○万円増加した」と具体的な金額で記載
・改善策として「2025年10月にA社との契約単価を月額15万円増額で合意済み(契約書の写しを添付)」と確定した事実を記載
・月次の資金繰り表を添付し、「向こう12か月間、毎月○○万円以上の現預金残高を維持できる見通し」と明記
・中小企業診断士の氏名・登録番号・所見を明記し、「今期中の債務超過解消は十分に見込める」と評価
産業用清掃業ならではの審査ポイント
清掃業の企業評価書では、次のような業種特有の事情を審査機関に伝えることが重要です。
・深夜帯の作業が中心であり、人材確保のために相場以上の時給を支払わざるを得ない構造があること
・最低賃金の上昇率(2025年度は約6.2%)に対し、契約単価の改定サイクルが年1回であり、収入の増加にタイムラグが生じること
・工場清掃の場合、安全基準や衛生基準を満たすための教育・設備投資が必須であること
・外国人材の受入れにより人員が安定し、シフトが確実に組めるようになることで、受注できる現場数が増え、売上拡大に直結すること
特に最後のポイントは非常に重要です。外国人材の受入れ自体が経営改善の具体的な手段であるという論理構成にすることで、審査機関に対する説得力が格段に高まります。
企業評価書を専門家に依頼すべき理由

企業評価書を専門家に依頼すべき理由は3つあります。
そもそも自社では作成できない
繰り返しになりますが、企業評価書の作成が認められているのは中小企業診断士・公認会計士(特定技能の場合は税理士も可)のみです。自社の経理担当者や顧問税理士が作成しても、技能実習の場合は書類として無効になります。
監理団体や登録支援機関のスタッフに作成を依頼することもできません。必ず公的資格を持つ第三者が作成する必要があります。
自社作成の理由書だけでは説得力が弱い
「債務超過に至った理由書」を自社で作成して提出するケースもあります。しかしそれだけでは客観性に欠けます。審査機関は「本当に改善の見通しがあるのか」を疑います。
中小企業診断士や公認会計士が作成する企業評価書は、第三者の専門家が「この会社は経営を改善できる」と判断した証明書です。審査機関に対する説得力がまったく違います。
提出期限が短いことが多い
企業評価書の提出を求められるタイミングは、申請手続きの途中であることが多く、提出期限が2~4週間と短いケースが珍しくありません。外国人技能実習機構(OTIT)や出入国在留管理庁(入管)から「○月○日までに提出してください」と通知が来てから慌てて探し始めると、間に合わない可能性があります。
また、審査機関から企業評価書の内容について追加説明や修正を求められることもあります。そのため、書類納品後も専門家と連絡が取れる状態にしておくことが重要です。
外国人材の受入れを検討している段階で、あらかじめ専門家に相談しておくことが、手続きを止めないための最善策です。
企業評価書に関するよくある質問

赤字決算でも外国人の受入れはできますか
はい、赤字決算でも受入れは可能です。ただし、直近期末の貸借対照表で債務超過(純資産がマイナス)になっている場合は、企業評価書の提出が必要になります。赤字であっても純資産がプラスのままであれば、企業評価書は原則不要です。
債務超過の金額が大きくても許可されますか
債務超過の金額の大小だけで合否が決まるわけではありません。重要なのは「改善の見通しがあるかどうか」です。債務超過の金額が大きくても、合理的な改善計画と裏付けとなる数値根拠が提示されていれば、許可を得ている事例はあります。逆に、債務超過の金額が小さくても、改善計画が曖昧であれば却下されることもあります。
企業評価書の作成にはどのくらいの期間がかかりますか
必要書類(直近2~3期分の決算書)が揃っていれば、専門家によるヒアリング(聞き取り)から1~2週間程度で納品されるのが一般的です。急ぎの場合は最短3営業日で対応できるケースもありますが、余裕をもって依頼することをお勧めします。
費用の目安はいくらですか
一般的な相場は5万円~15万円程度(税別)です。債務超過の金額、経営状況の複雑さ、急ぎの対応が必要かどうかによって変動します。
技能実習と特定技能で企業評価書の内容は違いますか
基本的な構成(会社概要・財務分析・原因説明・改善計画・見通し評価)は同じです。ただし、作成できる資格者の範囲が異なります。技能実習では中小企業診断士と公認会計士のみ。特定技能ではこれに加えて税理士も作成可能です。また、審査の提出先が異なる(技能実習=OTIT、特定技能=入管)ため、それぞれの審査基準を理解した専門家に依頼することが重要です。
特定技能「ビルクリーニング」で受け入れている企業はどのくらいありますか
出入国在留管理庁の公表データによると、2024年12月末時点で特定技能「ビルクリーニング」分野の在留者数は6,143人です。2022年6月末の1,133人から約3年で5倍以上に急増しており、今後も増加が見込まれています。2024年度~2028年度の5年間で最大37,000人の受入れ枠が設定されています。
まとめ:企業評価書は「今すぐ」準備すべき理由

産業用清掃業の経営者にとって、外国人材は事業を継続するための生命線です。
現状を冷静に整理してみてください。
・日本人スタッフの確保は年々困難になっている(特に深夜帯)
・最低賃金は今後も毎年上がり続ける(政府目標:2030年代半ばまでに全国平均1,500円)
・契約単価はすぐには上がらない。値上げ交渉には時間がかかる
・利益率はさらに低下し、債務超過が深刻化するリスクがある
この状況で外国人材の受入れが止まれば、現場に人を配置できなくなり、契約を履行できなくなります。契約不履行は取引先の喪失につながり、事業の存続そのものが危うくなります。
「受入停止=事業停止」になりかねないのが、産業用清掃業の現実です。
債務超過でも、企業評価書を正しく作成すれば、受入れの許可は得られます。重要なのは、OTITや入管から通知が来てから慌てるのではなく、今のうちに専門家へ相談しておくことです。
決算書が手元にあれば、まずは相談だけでも構いません。「うちの財務状況で企業評価書は通るのか」を確認するだけでも、次の一手が見えてきます。
企業評価書の作成・ご相談はこちら
KICKコンサルティング株式会社では、中小企業診断士が産業用清掃業の企業評価書を作成しています。
「自社の決算内容でも通るのか」「どのくらいの期間で作成できるのか」など、まずはお気軽にご相談ください。
外国人技能実習・特定技能の受入れに関する詳しい情報は、KICKコンサルティング株式会社の企業評価書サービスページもあわせてご覧ください。










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