なぜ試算表を読める経営者は倒産を回避できるのか?5つのチェックポイントを診断士が解説


毎月、税理士から試算表が届く。しかし数字を眺めるだけで「結局、何をどう判断すればいいのか分からない」——そんな経営者の方は、決して少なくありません。

東京商工リサーチの調査によると、2025年の全国企業倒産は1万300件(前年比2.9%増)と、2年連続で1万件を突破しました。さらに倒産企業の66.2%が最終赤字、約7割が債務超過に陥っていたというデータもあります(東京商工リサーチ)。

見過ごせないのは、廃業企業のおよそ半数が直前まで黒字だったという事実です(中小企業白書)。試算表を正しく読めないまま放置した経営者ほど、気づいた時には打つ手がない——そんな事例を、私は中小企業診断士として150社以上の現場で繰り返し見てきました。

敵は景気でも、銀行でも、税理士でもありません。本当の敵は「数字が読めないまま時間が過ぎていく現状」そのものです。本記事では、経営判断に直結する試算表の見るべきポイントを、実務レベルで5つに絞って解説いたします。

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試算表の読み方とは|経営者が見るべきポイントの全体像

結論から申し上げます。試算表で経営者が見るべきポイントは、「売上・利益」「コスト構造」「資金繰り」「財務健全性」「分析手法」——この5つです。この順番で確認すれば、決算を待たずに自社の経営状態を月次で把握できます。

試算表とは、日々の仕訳を集計した月次の成績表です。損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)の元データが一枚に凝縮されており、決算の3か月前・半年前に異変を察知できる唯一のツールでもあります。ところが現場では、試算表を「税理士がまとめてくれる書類」程度に捉え、経営判断に使わないまま放置しているケースが圧倒的多数です。

試算表の読み方で押さえるべき5つのチェックポイント

順番見るべき項目主な判断指標見逃したときのリスク
売上・利益前年同月比・粗利率収益悪化の見過ごし
コスト構造限界利益率・損益分岐点値上げ判断の遅れ
資金繰り現預金残高・売掛債権黒字倒産
財務健全性自己資本比率・債務超過銀行評価の悪化
分析手法パレート分析・感度分析誤った改善施策

この5つは、いずれか一つを外すと判断を誤ります。例えば、売上だけ見て「今月は好調」と安心していたら、仕入価格の高騰で粗利率が5ポイント低下していた——こうした落とし穴は、月次試算表を立体的に読めていないことから生まれます。



試算表の読み方①|売上・利益で見るべきポイント

試算表を開いて最初に確認すべきは、「売上の推移」と「粗利率の推移」を前年同月と並べることです。単月の数字だけでは、季節要因なのか本質的な悪化なのかを判別できません。

見るべき3つの利益段階

損益計算書には5つの利益が表示されますが、月次試算表で特に重視するのは次の3つです。

  • 売上総利益(粗利)——本業の商品力を示す。粗利率が1ポイント下がれば、年商3億円の会社で300万円の利益が消失
  • 営業利益——本業の稼ぐ力。販管費を含んだ実力値
  • 経常利益——金利負担を含めた総合力。金融機関が最も重視する指標

前年同月比で見るべき異変のサイン

たとえば前年同月と比較したときに、売上が横ばいでも粗利が減っていれば、仕入れコストか値引き販売が原因です。逆に売上が伸びているのに営業利益が減っていれば、固定費(特に人件費・賃料)が先行して膨らんでいる可能性があります。

中小企業庁の「令和7年中小企業実態基本調査」でも、中小企業の収益構造は業種によって大きく異なります。製造業と建設業では固定費比率がまったく違うため、他社比較より「自社の過去比較」の方が実態を掴めます



試算表の読み方②|コスト構造で見るべきポイント

売上・利益を確認した次は、変動費と固定費への切り分けです。これを怠ると、値上げ判断も人員計画も、すべて感覚頼みになります。

限界利益率と損益分岐点の把握

限界利益とは、売上から変動費(仕入・外注費・運賃など)だけを引いた利益です。この限界利益で、固定費(人件費・賃料・減価償却費など)をどこまで回収できているか——それを示すのが損益分岐点です。

指標計算式意味
限界利益率限界利益 ÷ 売上高売上1円で稼げる利益
損益分岐点売上高固定費 ÷ 限界利益率赤字脱却に必要な最低売上
損益分岐点比率損益分岐点売上 ÷ 実際売上80%以下が健全水準

実例:損益分岐点比率90%の建設業A社

年商2億円の建設会社で、損益分岐点売上高が1億8,000万円——つまり損益分岐点比率90%のケースを考えてみてください。これは売上が10%減っただけで赤字転落する状態です。物価高や人件費上昇が続く近年、この水準の中小企業は珍しくありません。

東京商工リサーチの発表では、2025年度の「物価高」倒産は801件と、円安局面では過去最多を更新しています。コスト構造を試算表で常時監視していないと、値上げ交渉のタイミングを逃し、気づいた時には損益分岐点を割り込んでいる——こうした事態は今も毎日発生しています。



試算表の読み方③|資金繰りで見るべきポイント

試算表で最も見落とされるのが、貸借対照表(B/S)側の数字です。損益計算書で黒字でも、B/Sが悪化していれば会社は倒れます。これがいわゆる黒字倒産のメカニズムです。

現預金残高と月商倍率

最初に見るべきは現預金残高です。経営者が押さえるべき目安は「月商の1.5か月分以上」。この水準を下回ったら、短期的な資金ショートのリスクが高まります。月商6,000万円の会社であれば、現預金は最低9,000万円確保しておきたいラインです。

売掛金・在庫・買掛金の3点セット

  • 売掛金が急増している——回収遅延のサイン。主要取引先の信用調査が必要
  • 在庫が積み上がっている——売れ残りの滞留。評価損リスクが拡大
  • 買掛金が膨らんでいる——支払遅延の兆候。取引先との信用毀損

この3つのバランスが崩れると、損益計算書では黒字なのに、通帳の残高は減っていくという典型的な危険サインになります。実際に中小企業白書でも、廃業企業の約半数が直前期に黒字だったと報告されており、「利益が出ている=安全」ではないことを示しています。

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試算表の読み方④|財務健全性で見るべきポイント

4つ目のチェックは、銀行と取引先があなたの会社をどう見ているかという視点です。B/Sの純資産・借入金・自己資本比率は、融資判断と取引継続に直結します。

自己資本比率で会社の体力を測る

自己資本比率は「純資産 ÷ 総資産」で計算します。中小企業では30%以上が健全水準、15%を下回ると危険水域とされます。この比率が低いほど、借入に頼った経営になっており、金利上昇局面では一気に資金繰りが苦しくなります。

債務超過かどうかの確認

純資産がマイナスになっている状態が「債務超過」です。東京商工リサーチの分析によれば、2024年の倒産企業のうち約7割が債務超過に陥っていました。債務超過は決算書だけでなく、月次試算表でも前兆を捉えることができます。

借入金月商倍率

借入金総額を月商で割った値が「借入金月商倍率」です。製造業では6か月以内、建設業・サービス業では3か月以内が目安とされます。これを超えている場合、追加融資は通りにくくなります。銀行員は試算表の左下(借入金の欄)から見る——この事実は、経営者ほど知っておくべきです。



試算表の読み方⑤|経営判断に活かす分析手法

数字を「見る」から「使う」へ——ここからが、試算表を経営の武器に変えるフェーズです。弊社が実際の支援現場で使っている分析手法を、実務レベルで3つご紹介いたします。

①パレート分析(80/20の法則)

商品別・顧客別の売上と粗利を整理すると、上位20%の顧客や商品が、全体の80%の利益を生んでいるという法則が浮き彫りになります。試算表の補助簿から商品別・得意先別の集計を行い、「稼ぐ20%」と「稼がない80%」を切り分けるだけで、経営資源の再配分方針が見えてきます。

②利益感度分析

「売価を3%上げたらどうなるか」「仕入れを2%削減できたらどうなるか」——これを試算表の数字でシミュレーションする手法が、利益感度分析です。感度の高い項目(多くの場合、売価と変動費)に経営努力を集中すれば、同じ労力でも利益インパクトが段違いになります。

③財務レントゲン

弊社が独自に構築した診断手法で、試算表の数字を定量指標と定性評価の両面から可視化します。損益・資金・財務・成長性を一枚で把握でき、経営者が「次に何をすべきか」を判断できるレベルまで落とし込みます。中小企業診断士の専門性を活かした分析で、単なる数字の羅列ではなく、経営判断の起点となる資料に仕上げます。



試算表の読み方でよくある3つの失敗

150社以上の支援現場で、経営者が試算表を読み誤るパターンは決まっています。いずれも悪意ではなく、「忙しさと慣れ」が招く落とし穴です。

失敗①|売上だけ見て安心してしまう

売上は前年並みなのに粗利が減っている——これを見逃し、原価高騰を放置した結果、決算で数百万円単位の赤字が出てから慌てるケースです。

失敗②|税理士に任せきりで自分で読まない

税理士は会計・税務の専門家ですが、経営判断の伴走役ではありません。月次試算表を受け取るだけで満足し、数字を経営に活かさない経営者ほど、気づいた時には手遅れです。

失敗③|B/S(貸借対照表)を見ない

損益計算書の利益だけ見て、現預金・借入金・債務超過を見ない。これが黒字倒産への最短ルートです。銀行員と診断士は、P/LよりB/Sを重視します。



試算表の読み方を改善する具体的な手順

自己流で読み解こうとすると、どうしても解釈にブレが生じます。ここでは、明日から実践できる3ステップをご紹介いたします。

ステップ①|月次試算表を毎月10日までに受領する

翌月10日までに前月試算表が手元に届かない状態は、それ自体が経営リスクです。税理士・会計事務所に提出タイミングの見直しを依頼してください。

ステップ②|5つのチェックポイントを定型化する

前述の「売上・利益/コスト構造/資金繰り/財務健全性/分析」を、毎月同じ順番・同じフォーマットで確認します。A4用紙1枚の定型チェックシートで十分です。

ステップ③|第三者の目でクロスチェックする

経営者は自社の数字に愛着と思い込みがあります。だからこそ、社外の専門家が第三者視点で検証することが、見落としを防ぐ最も確実な方法です。中小企業診断士は、業種を横断した150社規模の支援経験から、自社だけでは気づけない異変を指摘できます。



試算表の読み方に関するQ&A

Q1|試算表と決算書の違いは何ですか

試算表は毎月作成する社内用の集計表で、決算書は年1回・税務署や金融機関に提出する公式書類です。試算表は速報版、決算書は確定版とお考えください。

Q2|試算表はいつまでに確認すべきですか

目安は翌月10日までです。20日を過ぎると、仕入れ・販売・人員の意思決定に間に合わず、経営改善の機会を1か月丸ごと失います。

Q3|試算表で最初に見るべき項目は何ですか

現預金残高と売上・粗利の前年同月比です。現預金は月商の1.5か月分以上、粗利率は前年と1ポイント以上乖離していないかを必ず確認します。

Q4|黒字なのに資金繰りが苦しいのはなぜですか

売掛金の回収遅延、在庫の積み上がり、借入返済の負担が主な原因です。P/Lの利益と、B/Sの現預金・運転資本は連動しません。だからこそ両方見る必要があります。

Q5|損益分岐点比率はどれくらいが健全ですか

80%以下が健全、90%を超えると危険水域です。100%を超えれば赤字確定ですので、早急な改善策が必要になります。

Q6|自己資本比率の目安を教えてください

中小企業では30%以上が健全、15%未満は要注意、マイナス(債務超過)は即時対応が必要です。業種や成長段階によって適正値は変動します。

Q7|試算表を税理士任せにするリスクは何ですか

税理士の主業務は会計・税務であり、経営判断の伴走ではありません。数字を作ってもらうだけでは、意思決定に活かせず、改善の機会を逃します。

Q8|試算表の読み方を学ぶのに適した相談先はどこですか

中小企業診断士は、試算表を経営判断に翻訳する唯一の国家資格保有者です。業種横断の支援経験を持ち、金融機関・取引先・社内のすべてに目配りした助言が可能です。

Q9|月次決算体制がない会社でも試算表は読めますか

読めます。完全な月次決算でなくても、現状の試算表から「売上・粗利・現預金・借入金」の4点を押さえるだけで、経営判断の精度は大幅に向上します。

Q10|KICKコンサルティングの相談は初めてでも大丈夫ですか

大丈夫です。初回60分の無料相談では、試算表を持参いただくだけで構いません。代表の松本が直接、状況を伺ったうえで具体的な打ち手をご提案いたします。



まとめ|試算表の読み方と経営改善への道筋

試算表は、決算の3か月前・半年前に異変を察知できる、経営者に残された唯一の早期警戒装置です。読むべき5つのポイント——売上・利益/コスト構造/資金繰り/財務健全性/分析手法——をおさえるだけで、経営判断の精度は劇的に変わります。

試算表を読めるようになった経営者の変化

弊社が支援してきた経営者の方々には、共通する変化があります。

ひとつ目は、会議室の空気が変わることです。数字を根拠に語れる経営者の前では、幹部社員の報告も具体性を増し、現場からの提案が活性化します。場当たり的な議論が、未来志向の戦略会議へと質を変えていきます。

ふたつ目は、通帳残高と時間の使い方が変わることです。資金繰りの不安が消えることで、経営者の週末は数字と格闘する時間から解放されます。銀行との面談も、頭を下げる場から対等な情報交換の場へと変化します。

三つ目は、背中の力みが抜けることです。後継者候補の子息や幹部に、胸を張って数字を語れる。金融機関からの信頼が可視化され、取引先からの評価も静かに変わっていく。社員が「この会社で働いていてよかった」と感じる瞬間が増える——数字を読めることは、経営者としての品格を取り戻す行為でもあるのです。

この変化を、共に手に入れましょう。

自社だけで対応することの限界

ここまでお読みいただいた経営者の中には、「やはり自分で数字を勉強し直そう」と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし現実には、経営者の本業は数字の分析ではなく、意思決定と実行です。限られた時間を、会計知識の体系的な習得に割くよりも、実務経験が豊富な第三者に診断を依頼し、翻訳された結論だけを受け取る方が、意思決定のスピードと質の両方を引き上げます。

だからこそ、近年は中小企業診断士を経営パートナーに据える経営者が増えています。



KICKコンサルティング株式会社の支援内容

KICKコンサルティング株式会社(銀座本社)は、認定経営革新等支援機関(中小企業庁認定)として、中小企業の経営改善・財務戦略・事業承継を専門に支援しております。

  • 代表:松本昌史(MBA・中小企業診断士・事業承継士・1級FP技能士)
  • 法人支援実績:150社以上(製造・建設・介護・サービス業中心)
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試算表を読めるようになることは、経営者が自社の未来を自分の言葉で語れるようになることと同義です。

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