【鋳造・鍛造業】債務超過でも外国人受入は可能|企業評価書の実務と通過ポイント

外国人がいなくなったら、現場が止まる

鋳造・鍛造業の経営者なら、誰もが感じている危機感ではないでしょうか。

鋳造(ちゅうぞう)とは、金属を高温で溶かして型に流し込み、部品をつくる製造方法です。鍛造(たんぞう)とは、金属を熱して叩き、強度の高い部品に成形する方法です。どちらも1,000℃を超える高温環境での作業が日常で、体力的にも精神的にも非常に過酷な仕事です。

当然、日本人の若手はなかなか定着しません。現場を支えているのは、ベトナム・インドネシア・フィリピンなどから来た外国人技能実習生や特定技能外国人です。

ところが、いまこの業界には3つの問題が同時に押し寄せています。

問題鋳造・鍛造業への影響
燃料費の高騰重油・電力・ガスの価格が上昇し、溶解炉や加熱炉のランニングコストが急増
受注単価の据え置き発注元(自動車メーカー・建機メーカーなど)への価格転嫁が困難
設備投資の重さ炉・プレス機など1台数千万円〜数億円の設備が必要で、固定費が高い

その結果、赤字が続き、債務超過(会社の負債が資産を上回っている状態)に転落する企業が後を絶ちません。

そして債務超過になると、外国人技能実習生・特定技能外国人の受入申請のときに、「企業評価書」という追加書類が求められます。

結論からお伝えします。

債務超過でも、外国人の受入は可能です。

ただし、そのためには中小企業診断士または公認会計士が作成した「企業評価書」が必要です。この書類がなければ、申請は通りません。外国人が来なければ、現場は止まります。

この記事では、鋳造・鍛造業の経営者に向けて、企業評価書とは何か、なぜ必要なのか、どうすれば審査を通過できるのかを、中小企業診断士の実務視点から具体的に解説します。

 

タップできる目次

鋳造・鍛造業で企業評価書が必要になる理由

企業評価書とは何か

企業評価書とは、外国人技能実習生や特定技能外国人を受け入れる企業の経営状況を、第三者の専門家が評価した書面です。

もう少しかみ砕いて言うと、「この会社は今は債務超過だけれど、今後ちゃんと経営が改善していく見通しがありますよ」ということを、国家資格を持った専門家が証明する書類です。

技能実習制度の運用要領(国が定めた制度の運用ルール)では、次のように定められています。

直近の事業年度で債務超過がある場合、中小企業診断士、公認会計士等の企業評価を行う能力を有すると認められる公的資格を有する第三者が、改善の見通しについて評価を行った書類の提出が必要

出典:技能実習制度運用要領 別紙2

つまり、税理士や行政書士ではこの書類は作成できません。中小企業診断士か公認会計士だけに認められた専門領域です。

技能実習と特定技能で少し異なる点

企業評価書を作成できる資格者は、制度によって若干の違いがあります。

制度作成できる資格者
技能実習中小企業診断士・公認会計士
特定技能中小企業診断士・公認会計士・税理士

どちらの制度であっても、直近の決算で債務超過になっていれば企業評価書の提出が必要です。提出がなければ、技能実習計画の認定や在留資格の申請が通りません。

財務審査で見られるポイント

外国人技能実習機構(OTIT)や出入国在留管理庁は、申請企業の決算書(貸借対照表と損益計算書)を直近2期分確認します。そこで純資産がマイナス(=資産より負債が多い状態)になっていれば、「この会社は本当に実習生の給与を払えるのか」「途中で倒産しないか」という観点から、追加の証明書類を求めるわけです。

なお、2027年4月からは現行の技能実習制度に代わり「育成就労制度」が施行されます。制度の名前は変わりますが、債務超過企業に企業評価書が求められる枠組み自体は引き継がれる見通しです。今のうちに準備を進めておくことが重要です。

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なぜ鋳造・鍛造業は債務超過に陥りやすいのか

鋳造・鍛造業が赤字や債務超過になりやすい理由は、業界特有の5つの構造的な問題にあります。一つひとつ見ていきましょう。

1,000℃超の高温作業が日本人の若手を遠ざける

鋳造の現場では、鉄やアルミニウムなどの金属を1,200℃〜1,600℃で溶かします。鍛造でも1,000℃〜1,300℃に加熱した金属をプレス機で成形します。

作業場の温度は夏場には50℃近くになることもあり、粉じんや騒音もあります。こうした過酷な環境では、若い日本人の応募はほとんどありません。厚生労働省の「2025年版ものづくり白書」によると、製造業の15〜34歳の若年就業者数はこの20年で約4割減少しています。鋳造・鍛造業はそのなかでも特に厳しい状況です。

外国人への依存度が年々高まっている

日本人の若手が集まらない以上、現場を回すには外国人材に頼るしかないのが実情です。

経済産業省によると、2024年時点で製造業全体の外国人労働者数は約59.8万人に達し、増加傾向が続いています。鋳造業でも、技能実習を修了した外国人がそのまま特定技能に移行して働き続けるケースが増えています。

つまり、外国人が確保できなくなった瞬間に、生産ラインが止まる企業が多いということです。

燃料費の高騰がコストを押し上げている

鋳造で使う溶解炉は、重油・電力・都市ガスなどの大量のエネルギーを消費します。近年の国際情勢の影響で、これらの燃料費が大幅に上昇しました。

たとえば、電気料金の燃料費調整額は2021年と比較して大幅に上昇しており、月の電力使用量が大きい鋳造・鍛造工場では、月額で数十万円〜数百万円のコスト増になっている企業も珍しくありません。

受注単価が据え置かれ、価格転嫁が進まない

鋳造・鍛造業の多くは、自動車部品メーカーや建設機械メーカーの下請けです。発注元との力関係から、燃料費が上がっても簡単には単価を上げてもらえません。

経済産業省の調査では、製造業の事業環境に影響を与える変化として「原材料価格の高騰」「エネルギー価格の高騰」「労働力不足」を挙げる企業が上位を占めています。約9割の事業者が「価格転嫁」を実施したと回答していますが、鋳造・鍛造のような素形材(そけいざい)産業では、転嫁率が低いのが現実です。

売上は変わらないのにコストだけが増える。当然、利益は減ります。

設備投資が重く、固定費が高止まりする

鋳造の溶解炉は1基で数千万円、大型プレス機は数億円規模です。こうした設備は耐用年数が長くても劣化が早いため、数年ごとに補修や更新が必要になります。

借入金で設備を導入している企業が多く、その返済負担が利益を圧迫します。さらに、自動車産業や建設機械の需要は景気に大きく左右されるため、需要が落ちたときに固定費だけが残るという構造です。

これらの問題が重なった結果、数期連続の赤字 → 債務超過という流れに陥りやすいのが、鋳造・鍛造業の宿命的な構造なのです。

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債務超過でも外国人受入が許可される企業の共通点

「債務超過=受入不可」ではありません。実際に、債務超過の状態でも技能実習計画の認定や特定技能の在留資格が許可されている企業は存在します。

許可されている企業には、3つの共通点があります。

「改善の見通し」を数字で示している

審査で最も重視されるのは、「今後、債務超過が解消に向かう見通しがあるかどうか」です。

「なんとなく良くなると思います」という感覚的な説明では通りません。具体的な数値計画が必要です。

審査で求められる内容具体例
債務超過の解消時期「3年後の決算で純資産がプラスに転じる計画」
売上・利益の見込み「新規取引先からの年間受注額2,000万円を見込む」
コスト削減策「炉の省エネ改修で月間燃料費を15%削減する計画」
資金繰りの安定性「メインバンクからの融資継続が確認済み」

債務超過の原因が「合理的」であること

審査では、なぜ債務超過に陥ったのかという原因も確認されます。

たとえば、鋳造・鍛造業であれば次のような原因は「やむを得ない事情」として合理的に説明できます。

認められやすい原因の例

・大型設備(溶解炉・プレス機)の更新投資による一時的な赤字
・原材料費・燃料費の急騰に対して価格転嫁が間に合わなかった
・主要取引先(自動車メーカー等)の減産による受注減

逆に、経営者の私的な借入や不透明な資金使途がある場合は、審査が厳しくなります。

直近の決算で利益が出始めていること

債務超過の金額が大きくても、直近の決算で黒字化している、あるいは赤字幅が縮小している企業は、「改善傾向にある」と判断されやすくなります。

ある鋳造業の一般事例では、3期連続赤字で約2,000万円の債務超過でしたが、直近期は燃料費の見直しと価格転嫁の交渉が進み、経常利益が黒字に転換。中小企業診断士による企業評価書を提出した結果、技能実習計画の認定を受けることができました。

逆に、4期以上の債務超過が続いており改善傾向が見られないケースでは、企業評価書を提出しても却下された事例も報告されています。

早めに動くほど、許可の可能性は高まります。

 

企業評価書の書き方と審査通過のポイント

企業評価書は、ただ「債務超過です」と書くだけの書類ではありません。審査を通過するためには、決められた構成と、具体的なエビデンス(根拠資料)が必要です。

企業評価書に記載する3つの柱

企業評価書の記載内容は、大きく次の3つで構成されます。

構成要素記載する内容
①財務状況の分析債務超過の金額、借入先の内訳、返済状況、資金繰りの状態
②債務超過の原因いつ・なぜ債務超過になったのか。設備投資・燃料費高騰・受注減少など具体的な要因
③改善計画と見通し今後の売上見込み、コスト削減策、債務超過が解消される時期の数値シミュレーション

審査を通過する「OK例」と不備がある「NG例」

同じ債務超過でも、書き方によって結果は大きく変わります。

NG例(審査で差し戻されるパターン)

・「今後は売上が伸びる見込みです」→ 根拠がない
・改善計画の数字が決算書と整合していない
・債務超過の原因が「業績不振」だけで、具体的な分析がない
・役員借入金と金融機関借入の区別がされていない

OK例(審査を通過するパターン)

・「2025年度に新規取引先A社との契約が成立し、年間売上2,000万円の増加を見込む。見積書を添付」→ エビデンスがある
・「燃料費は月額○○万円だったが、炉の更新で月額○○万円に削減。年間で○○万円のコスト減」→ 数値が具体的
・役員借入金○○万円を資本に振り替えることで、実質的な債務超過額は○○万円に圧縮される → 財務改善策が明確

審査で特に見られるポイント

外国人技能実習機構や入管の審査官は、次の点を重点的にチェックしています。

・利益が改善傾向にあるか(赤字が年々縮小している、または黒字転換している)
・債務超過の解消時期が明示されているか(「○年後に純資産がプラスになる」という数値計画)
・計画に裏付けとなるエビデンスがあるか(受注見込み、契約書、見積書、銀行の融資証明など)
・資金繰りに問題がないか(実習生の給与を継続的に支払える余力があるか)

なお、債務超過の原因が役員借入金(社長が会社にお金を貸している状態)の場合、実質的には資産超過であることも多いです。この場合は、DES(デット・エクイティ・スワップ=借入金を資本に振り替える方法)を検討することで、債務超過を帳簿上解消できるケースもあります。ただし税務上の影響もあるため、顧問税理士と連携した対応が必要です。

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企業評価書を専門家に依頼すべき理由

国家資格者しか作成できない書類である

繰り返しになりますが、企業評価書を作成できるのは中小企業診断士または公認会計士(特定技能の場合は税理士も可)に限られています。行政書士や社会保険労務士では作成できません。

これは法律で定められた要件です。自社の経理担当者が作成しても、制度上は受理されません。

自社で無理に作成するリスク

「書式さえ合っていれば自分で書けるのでは?」と考える経営者もいますが、次のようなリスクがあります。

・改善計画の数字に客観性がなく、差し戻される
・決算書の読み方や分析方法を誤り、実態と乖離した内容になる
・入管や外国人技能実習機構からの問い合わせに対応できない
・提出期限に間に合わず、受入が中断する

実際の現場では、入管や機構から「短い提出期限」が急に設定されることがあります。監理団体(技能実習生の受入を管理する団体)が事前チェックで見落としていたケースや、決算後に初めて債務超過が判明するケースなど、時間に余裕がない状況は珍しくありません。

専門家に依頼する価値

中小企業診断士は、財務分析・経営改善計画の策定を本業とする国家資格者です。鋳造・鍛造業のような製造業の経営構造を理解したうえで、審査を通過するための企業評価書を作成できます。

企業評価書の作成費用の相場は5万円〜20万円程度(税抜)です。金額は、債務超過の規模や企業の状況によって異なります。

外国人1人が来なくなった場合の生産ラインへの影響を考えれば、この費用は「現場を止めないための投資」と考えるべきでしょう。

 

鋳造・鍛造業の企業評価書に関するよくある質問

Q. 赤字決算でも技能実習生の受入はできますか?

A. 赤字決算だけであれば、企業評価書は不要です。企業評価書が必要になるのは、「債務超過」(貸借対照表の純資産がマイナス)の場合です。赤字が続いて純資産がマイナスに転じた時点で、企業評価書の提出が求められます。

Q. どのくらいの債務超過額まで許可されますか?

A. 金額の上限は制度上定められていません。重要なのは金額の大小ではなく、「改善の見通しがあるか」「利益が出始めているか」という点です。ただし、実務的には4期以上連続で債務超過が拡大し続けているケースでは、審査が厳しくなる傾向があります。早めの対応が重要です。

Q. 企業評価書の作成にはどれくらい時間がかかりますか?

A. 依頼先や企業の状況によりますが、一般的にはヒアリングから納品まで2週間〜1か月程度です。決算書の内容が整理されていれば、より短期間での対応も可能です。急ぎの案件については、依頼時に「緊急対応が可能か」を確認することをおすすめします。

Q. 役員借入金が多くて債務超過になっています。どうすればよいですか?

A. 役員借入金(社長が会社にお金を貸している状態)は、実質的には「自己資金」に近いものです。この借入金を資本に振り替えるDES(デット・エクイティ・スワップ)を行えば、帳簿上の債務超過を解消できる場合があります。ただし、税金への影響がありますので、顧問税理士と相談のうえ進めてください。

Q. 2027年に育成就労制度に変わっても、企業評価書は必要ですか?

A. 2027年4月から技能実習制度は「育成就労制度」に移行します。新制度でも財務要件は引き継がれる見通しであり、債務超過企業に評価書面が求められる枠組みは基本的に変わらないと考えられています。制度が変わる前に準備を整えておくことが最善の策です。

 

まとめ|今動かなければ、外国人が来なくなり現場が止まる

鋳造・鍛造業の現場は、外国人技能実習生や特定技能外国人の力で支えられています。

しかし、燃料費の高騰、受注単価の据え置き、重い設備投資。この業界特有の構造によって、債務超過に転落する企業は今後も増えていくと考えられます。

債務超過になったとき、企業評価書がなければ外国人の受入申請は通りません。受入が止まれば、現場の人手が足りなくなり、生産ラインが回らなくなり、受注を断ざるを得なくなる。それは事業停止と同じ意味です。

大事なのは、「債務超過になってから慌てる」のではなく、「今のうちから備えておく」ことです。

KICKコンサルティングでは、中小企業診断士が鋳造・鍛造業の経営構造を理解したうえで、企業評価書の作成から経営改善計画の策定まで一貫してサポートしています。

「うちの会社は大丈夫だろうか」と少しでも不安を感じたら、まずはご相談ください。

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